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1.カフホカダム決壊で流れだした地雷
6月7日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、南部ヘルソン(Kherson)州の水力発電所のダムが決壊し被害が出ていることに関連し、国連や赤十字からの援助がないことに遺憾の意を示しました。
独紙ビルトのインタビューに応じたゼレンスキー大統領は、両機関は現地に要員を派遣していないと指摘。「人命を救うため現場に駆け付けるべき組織のはずだ。ショックを受けている」と語っています。
人命を救うための組織が被災地に駆けつけないとは、なんとも無情な組織かと思いきや、そうでもない事情があります。地雷です。
6月8日、ウクライナ非常事態庁は、SNSでダム決壊による洪水で地雷や不発弾が浮かび上がり、ドニプロ川を漂っていると警告。自然に爆発する恐れもあるため、触れずに当局に通報するよう促しています。
南部オデーサ州の地元幹部は、ダムの決壊により多量の瓦礫がドニプロ川から黒海に流入していると報告。「沿岸域ではすでに地雷や未使用の弾薬が確認されている」として、住民に近づかないよう注意を呼びかけています。
国連のマーティン・グリフィス事務次長(人道問題担当)は、6日の国連安全保障理事会で「地雷や爆発物が安全とされていた場所に移動し、人々を予測不能な危険にさらす恐れがある」と警告しています。グリフィス氏によると、ウクライナの領土の30%は地雷が埋められている恐れがあり、ヘルソン州は最も危険とのことです。
6月9日、地雷除去を支援する赤十字国際委員会(ICRC)で武器汚染対策の責任者を務めるエリック・トレフセン氏は「いまは大地が地雷や不発弾で埋め尽くされたような状態だ。除去活動に何十年もかかる恐れがある……激流に流されたことで、地雷の場所の特定が困難になった。以前はどこに危険があるか分かっていたが、今は下流のどこかにあるとしか言えない」とコメント。更に、ウクライナにある地雷の正確な数は不明で「数が膨大であることしか分からない」とし、またウクライナのような農業国では特に、どこに仕掛けてあるかも重要と指摘しました。
トレフセン氏によると、2015年にデンマークで水中から見つかった第2次世界大戦中の地雷はまだ機能していたと指摘し、またウクライナ軍南部司令部のナタリヤ・フメニュク報道官はウクライナ・テレビに対し、「対歩兵用地雷の多くが浮き上がり、水に流されている」と述べた上で、こうした地雷が瓦礫などに当たると爆発する可能性が高いとし、「これは大きな危険となる」と指摘しています。
つまり、ダム下流地域は、いつどこでいきなり地雷が爆発するか分からない危険地帯になったということです。
2.ダム決壊前の攻撃
カフホカダムを破壊した犯人は誰なのかは依然として分からないのですけれども、決壊の数日前にはダムの一部が損傷していたことが衛星画像の分析で明らかになりました。
アメリカ宇宙企業マクサーの衛星画像を分析したところ、ダムを横切る道路橋が、5月28日には無傷だったのが、6月5日の画像では橋の一部が失われていることが判明。衛星画像から、橋の一部5が失われたのは6月1日から2日にかけてだったことがわかりました。
情報サービス「ハイドロウェブ」によれば、ダム後背の貯水池の水位は5月、過去最高を記録。ハイドロウェブのデータでは、今年の初めに水位が急落し、ウクライナ当局は2月、飲料水や農業用水が不足する恐れがあると警告していました。
また、9日、アメリカのニューヨーク・タイムズ紙はバイデン政権の高官の話として、ダムが決壊する直前に爆発があったことを米偵察衛星が検知していたと報じています。
それによると、ウクライナ南部ヘルソン州のダムの決壊直前、アメリカの偵察衛星に搭載された赤外線センサーが大規模な爆発の際に観測される高熱を検知していたそうです。
その上で、「アメリカの情報機関の分析官はロシアがダムの決壊に関与したと疑っているものの、確たる証拠は得られていない」と伝えています。
更に、ヨーロッパの地震を監視しているノルウェーの研究所も、決壊が起きたとされる時間に爆発があったことを示す揺れを観測したと発表していますから、ダムの決壊は何等かの爆発を伴う破壊工作であった可能性は高いと思われます。
3.この措置は最後の手段である
ダムの破壊による洪水は、ウクライナ、ロシア双方にとって何も得することはないと思うのですけれども、昨年12月29日、ワシントンポスト紙は「プーチンに衝撃を与え、戦争を再編成したウクライナの反攻の内幕」という記事を掲載しています。
この記事は、ハリコフとヘルソンでの反転攻勢について、ウクライナの司令官、キエフの当局者、戦闘部隊、さらにアメリカと欧州の軍および政治の高官を含む35人以上へのインタビューに基づいて記されたもので、「NATO大国、特にアメリカとの協力を深めることで、武器、情報、助言に支えられたウクライナ軍がどのようにして戦場で主導権を握り、プーチン大統領の併合主張が幻想であることを暴き、ウクライナに対する信頼を築くことができたかという物語だ」としています。
この中にハリコフ反攻作戦について語られているのですけれども、ヘルソン地域におけるウクライナ反攻の初期指揮官であるアンドリー・コヴァルチュク少将へのインタビューをもとにした箇所があります。それは次の通りです。
ハリコフはウクライナに開かれた扉を押すチャンスを与えた。ケルソンは強固な壁を築いた。なんと、ウクライナは、ドニエプル川西側のロシア占領地域を二分し、ロシア軍を殲滅するために、補給路であった、アントノフスキー橋、アントノフスキー鉄道橋、ノヴァ・カホフカ・ダムの破壊を計画したというのですね。二つの橋については、ハイマースによる攻撃で直ぐに通行不能になったそうですけれども、それだけでなく、コバルチュク少将は、川の氾濫を考えたとしています。
数カ月にわたる占領で、ロシア軍は塹壕を掘り、大規模な防御を構築していた。草原の農地は攻撃軍にとって自然な隠れ家はほとんどなく、迷路のような用水路が障害物となっていた。モスクワは最高の軍隊を投入していた。
「地雷原がいくつあるのか、自分たちでもわからないほどだった。ケルソン反攻作戦の指揮を執ったアンドレイ・コヴァルチュク空軍大将は、こう語る。「急速に前進する選択肢はなかった」。
作戦の進め方を決めるため、ウクライナの指揮官は昨年7月にドイツに到着し、アメリカやイギリスの指揮官と戦争ゲームのセッションを行った。
当時、ウクライナ側は南部戦線全体にわたるはるかに広範な反攻作戦を考えていた。ザポリツィア地方の海岸まで攻め込んで、ロシア本土と2014年に不法に併合されたクリミアを結ぶモスクワの切望する「陸橋」を切断することも含めて。
地図や表計算ソフトでいっぱいの部屋で、ウクライナ側は独自の「机上演習」を行い、戦闘順序(どのような陣形を使うか、部隊はどこに行き、どのような順序で戦うか)、そして想定されるロシアの反応について説明しました。
米英のウォーゲーマーは、同じ入力内容で、異なるソフトウェアと分析結果を用いて、独自のシミュレーションを行った。しかし、この作戦を成功させることはできなかった。
ウクライナ軍の兵力と弾薬の備蓄を考慮すると、作戦の目的を達成する前にウクライナ軍の戦闘力が尽きてしまうという結論に達したのである。
アメリカ国防省の高官は、この記事の他の人物と同様、機密の軍事計画について話すために匿名を条件に、「これは彼らが我々の助言を求めたものだ」と語った。そして、我々のアドバイスは、『おい、お前たち、噛み切れないほど噛むことになるぞ』というものだった。これはうまくいかないぞ "というものでした」。
ザポリージャの攻勢は、ウクライナ軍がクリミアとロシアの2軸から送られてくる援軍で包囲できるポケットに押し込まれる可能性があったのだ。
「私たちの司令官は、ウクライナ軍がとにかく全部やるつもりだとかなり決心して出発したと考えていた-ただ、全部やるという大きな圧力があったというだけだ」と防衛当局者は語った。
ホワイトハウスは、ゼレンスキー氏の事務所との会談でアメリカ軍の分析を繰り返した。
話し合いに詳しい関係者によると、ジェイク・サリバン国家安全保障顧問は、ウクライナ大統領のアンドリー・ヤーマク参謀長に、広範な南部反攻の計画について話したという。
ウクライナ側はこの助言を受け入れ、ドニエプル川の西側に位置し、東側のロシア領から切り離されたケルソン市に焦点を当てた狭い作戦を実施しました。
「私はウクライナ軍を高く評価する」と国防省の高官は言う。「彼らは、現実がケルソンでより限定された目標に向かって自分たちを動かすことを許した。そして、北部の好機を逃すことなく、機敏に動いた。それは、とても重要なことだ」。
コバルチュクは、ドニエプル川西側のロシア占領地域を二分し、ロシア軍を罠にかけることに着手した。"私の任務は、領土を解放することだけではなかった。"私の任務は、最初から戦力を閉塞し、破壊することだった。つまり、彼らを撤退させない、存在させないことである。"
それが失敗した場合は、強制的に逃亡させることが目的だった。ケルソンのその部分にいた2万5千人のロシア軍は、広い川によって物資から切り離され、非常に露出度の高い立場に置かれていたのである。もし、十分な軍事的圧力がかかったら、モスクワは撤退せざるを得ないだろう」とコヴァルチュク氏は言った。
ロシアは、アントノフスキー橋、アントノフスキー鉄道橋、ノヴァ・カホフカ・ダム(水力発電施設の一部で、その上に道路が走っている)という3つの横断路を使って、軍備と補給をしなければならなかった。
この2つの橋は、アメリカから供与されたM142高機動砲ロケットシステム(HIMARSランチャー、射程距離50マイル)の標的となり、すぐに通行不能になった。
「私たちが彼らの補給線を完全に遮断したとき、彼らはまだ横断歩道を作ることができた瞬間があった」とコバルチュクは言った。「弾薬の補給もできた。...非常に困難だった」
コバルチュク氏は、川の氾濫を考えた。ウクライナ側は、ノヴァ・カホフカ・ダムの水門のひとつにHIMARSランチャーで試射を行い、金属に3つの穴を開けて、ドニエプル川の水位を十分に上げて、ロシアの横断を妨げつつ、近くの村を浸水させないかどうかを確かめたという。
テストは成功したが、この措置は最後の手段である。
そこでウクライナは、カホフカ・ダムの水門のひとつにHIMARSランチャーで試射を行い、金属に3つの穴を開けて、ドニエプル川の水位を十分に上げて、ロシアの横断を妨げつつ、近くの村を浸水させないかどうかを確かめたというのですね。
コバルチュク少将は、テストは成功したと述べていますけれども、もし、ダム破壊がウクライナ側の仕業だったとしたら、下流流域の村々が浸水した以上、本番は見事に失敗したということになります。
また、川の氾濫は最後の手段だということでしたけれども、ウクライナは最後の手段を使わざるをえない程追い詰められていることになります。
ダム破壊にとる川の氾濫とそれに伴う地雷の流出で、この地域は、両軍ともに渡河できない、半ば強制的な停戦地帯となりました。今後どういう展開を見せるのか。注目していきたいと思います。
この記事へのコメント
ス内パー
例のダムに関してはその上流ウクライナ支配下のダム
ドニプロHDDが決壊「後」も全力放流中であること
ウクライナ情報機関長官ブダノフ直々にクリミア住民殲滅を宣言したことと
2014年時点でダム破壊からの殲滅を計画していたことから
ウクライナ軍としてはクリミア住人の安否を無視ないし軽視している可能性があり
軍としての唯一のデメリットである春の大侵攻が遅れるとの推測を無視するように
3方面で春の大侵攻を始めたとのことで
ウクライナ軍にはメリットしかないことが明るみになり状況証拠は軍が不利に
同時にロシア軍がダムの爆破を自白したとされる出所不明の音声という物的証拠も出ており
状況証拠と物的証拠が食い違う状況となっています
状況証拠と物的証拠 どちらが正しくどちらが捏造なのか、ですかね
https://twitter.com/MikaelValterss1/status/1666510530444402708
ノヴァ・カホフカ・ダム破壊の責任者が誰なのかは分かりませんが、状況を悪化させてダムの残骸を破壊するためにできる限りのことをするのであれば、あなたは被害者ではなく第一容疑者になります。
https://twitter.com/DonbassSegodnya/status/1659885501673885696
「彼らは精神が変質した人々であり、裁かれるべきです。私たちの理解では、特定の人々に対する公正な責任とは、物理的な排除のみです。
https://twitter.com/GeoConfirmed/status/1667309514654195714
3夜連続で、ロシア人の会話は、ザポリージャ地域で夜間にウクライナ人による攻撃作戦が再開されたことに関するものである。
ス内パー
ロシアの破壊工作グループがダム爆破、証拠通話を傍受=ウクライナ ロイター
ウクライナ保安局が発表
https://jp.reuters.com/article/ukraine-russia-dam-idJPKBN2XT03T
焦点:ダム決壊、ウクライナの反転攻勢に混乱か、長期的環境汚染も
国際戦略研究所(IISS)のベン・ベリー上席研究員は
「ロシアが戦略的守勢、ウクライナが戦略的攻勢という今の図式を念頭に置くと、
短期的にロシアにとって有利な状況であるのは間違いない。
水が引くまではロシア側にプラスとなる。
なぜなら、ウクライナが渡河攻撃するのは困難になるからだ」
と指摘した。