鋼鉄の壁に阻まれるウクライナの反転攻勢

今日はこの話題です。
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1.ウクライナ軍が三集落を奪還


ウクライナ軍の反転攻勢が始まっているようです。

6月11日、ウクライナ軍は、東部ドネツク州にあるブラホダトネとネスクチネ、マカリフカの3つの集落を奪還したと発表しました。軍の報道官は、「反転攻勢の最初の結果だとみている」と成果を強調しています。

このうち、マカリフカは前線だった場所から5キロメートルほどの地点で、ウクライナの前進は小幅なものとみられています。複数のロシアの著名軍事ブロガーは、マカリフカでの戦闘はまだ続いているものの、ブラホダトネとネスクフネはウクライナ軍による占領が確認されたと指摘しているようです。

更に翌12日、前日奪還を発表した集落ブラホダトネとネスクチネの間に位置する集落一つを新たにロシア軍から奪還したと発表しました。

この日、ウクライナ軍参謀本部は、東部や南部の前線で激しい戦闘を繰り広げていると発表。東部のバフムト、ドネツク州のアブデーフカとマリンカ、ルガンスク州ビロホリフカの周辺で過去24時間に約25回の戦闘が行われたとのことです。

ウクライナ軍東部方面部隊のチェレバティ報道官はウクライナ軍がハフムトの側面で反撃を続け、ロシア軍を最大700メートル後退させたと述べています。

ただ、事前のマスコミ報道では、一気に領土を奪還するかのような、何か物凄い大規模反転攻勢をするかのような報じ方をしていた割に、5キロ前身だとか700メートル後退させたとか、ちょっと拍子抜けの印象がなくもありません。


2.鋼鉄の壁


ウクライナ軍は昨年秋の反転攻勢では電撃的に広大な占領地域を奪還していった記憶があるのですけれども、それと比べると今回のはそれほどの勢いがありません。なぜそうなったのか。

これについて、アメリカのウォールストリートジャーナル紙は6月10日付の記事「”鋼鉄の壁”: ウクライナ軍、攻勢開始から数日で苦境に立たされる」で、ロシア軍はウクライナの反攻に備えていたと解説しています。

件の記事の概要は次の通りです。
・木曜日の夜、約100人の部隊とドイツ製のレオパルドII戦車2台、アメリカ製の装甲兵員輸送車数台で攻撃は始まった。

・作戦に参加した兵士によれば、作戦は、ロシアが占領しているザポリツィア地方南部のトクマクという町に向かって南下する計画だった。他の2つの部隊も、異なる軸からトクマクに向かって突き進む。
28歳の兵士によると、連隊がマラ・トクマクの町外れの道路を横切ったとたん、ロシア軍はグラッドロケットで攻撃し始めたという。ロシアのヘリコプターやジェット戦闘機が頭上を飛び交った。

・兵士によると、攻撃は2マイルも進まなかった。レオパルドの1機が被弾し、戦闘不能になった。

・「彼らは私たちを待ち構えていた...至る所に準備された陣地があった」と彼は言った。「鋼鉄の壁だった。恐ろしいことだ」。

・ロシアに占領された土地の奪還を目指すウクライナの待望の反攻が始まって数日、ウクライナ軍が直面する課題の大きさはすでに明らかになっている。

・ロシア軍は何か月もかけて同国の南部占領地域での攻撃の準備を進めてきたが、ウクライナ軍はロシアと2014年にロシアが制圧したクリミアを結ぶ陸橋を突破して切断したいと考えている。

・ソーシャルメディアに投稿された動画では、南部のザポリツィア地方で、数台のレオパルド戦車と数台のアメリカ製ブラッドレー戦闘車が失われた様子が映し出されている。この地方では、平坦で開けた畑がひろがり、攻撃部隊にとっての遮蔽物がほとんどない。

・2週間の雨の後、彼の部隊のアメリカ製MaxxPro装甲車には、湿地帯を走行できる十分なスペースがいつもあるとは限らない。 「市街地や砂漠のために作られた車両だ」と彼は言う。「実際のところ、通過することはできなくもないが、苦労している」と彼は言った。

・ウクライナの新旅団は、一部の将校の短すぎる訓練と戦闘経験の不足にも悩まされている。「彼らはストレスの多い状況で混乱している」と彼は言う。

・ウクライナのすべての部隊に十分な西側の兵器があるわけではない。砲兵監視員のタクシストとススは、自腹で買ったボロボロの青いラーダ(ロシアの自動車ブランド)のセダンが唯一の移動手段で、前線から帰ってきたばかりだった。ラーダが行けないところは、歩いて移動しなければならない。

・南部戦線のウクライナ軍は、ウクライナが北東部ハリコフ地方と南部ケルソン地方の数千平方マイルを奪還した昨年の攻勢よりも厳しいものになると予想している。

・ドネツク州の南部、ザポリツィア州との国境付近で戦闘に参加しているベテラン兵士は、「非常に要塞化されている」と語った。「彼らは私たちを待っている」

・トクマクへの進撃の前に、彼の指揮官は「今回は違う」と警告した。彼はハンヴィーの上で機銃手として出発したが、結局、レオパルドがロシアの戦車と撃ち合う間、一晩中、地下室で過ごすことになった。

・「大変なのは分かっていた。しかし、レオパルドがやられたと聞いても、皆の士気は高かった」

・彼の分隊は、ロシア軍がレオパルドを奪取できないことを確認するため、金曜日の午前6時ごろにレオパルドを回収するために派遣された。戦車に到着したとき、彼はビープ音を聞き、その周りを歩いて、機関銃を設置し、援護する位置を探した。戦車から50ヤードほど離れたところで地雷を踏み、足の大部分を吹き飛ばされた。

・彼は「これも仕事のうちだ」と言い、「義足を手に入れたら、また戦場に戻るつもりだ」と付け加えた。
日本のメディアは、このような戦場の事実を少しも伝えないので、それだけを聞いていると、単純にウクライナが反撃しているんだ、くらいにしか思わないかもしれませんけれども、これを見る限り、今回の大規模反攻作戦は簡単にいきそうにないように思えます。


3.それは自殺行為だ


ただ、ウクライナにしても、あれほど西側諸国から武器をかき集め、訓練し、準備を進めていた筈なのに、もう少しどうにかならなかったのかという気もします。

これについて、アジアタイムズが6月10日付の記事「ウクライナは英国の助言で”軽旅団”を演じる」で解説しています。

件の記事の概要は次の通りです。
・ウクライナに滞在しているアメリカやヨーロッパの軍事オブザーバーは、過去2日間のウクライナ軍の取り組みを、軍事戦術の基本的なルールに違反する「自殺行為」と表現した。「攻勢をかけたいときに、12個旅団と数十台の戦車があれば、それらを集中させて突破口を開こうとするものだ。ウクライナ軍は5つの方向に走り回っていた」と欧州のある上級将校は不満を漏らす。

・「我々は、このような断片的な戦術をやめ、適切な歩兵の支援を受けて主力を定め、それからできることをするようにと伝えようとした」とその将校は述べた。

・この将校は、1854年のバラクラヴァの戦いで、誤った命令によって英国騎兵隊が一斉砲撃に巻き込まれた大惨事を指して、「彼らはイギリスに訓練されて、軽旅団(ライトブリゲード)をやっている」とも付け加えた。

・ウクライナの戦車は、地雷除去車を配備せずに地雷原に直接突撃したため、6月8日の夜には、新しく納入されたLeopard II戦車の多くを含む38台の戦車が失われた。

・「ウクライナ人の何人かがグデーリアンのようなことをしようとした」と別の軍関係者は言う。これは、1940年のフランスの戦いでドイツのハインツ・グデーリアン将軍がセダンで突破口を開いたことを指している。「しかし、グデーリアンは3000台の戦車を持っていたのに、このバカどもは30台しかない戦車を捨ててしまった」

・そして、航空優勢がなければ、「それは自殺行為だ」と情報筋は付け加えた。

・ロシアのKA-50とKA-52攻撃ヘリコプターは、それぞれ戦車20両を殺せるだけのミサイルを搭載しており、10kmの睨み合い距離でそれを行うことができる。ウクライナの防空は、安価なドローンによる度重なる攻撃で劣化しており、ウクライナ側は限られた在庫のS-300やパトリオットミサイルを消費せざるを得ない。ドイツがウクライナに供与した14台のレオパルド戦車のうち、3台が破壊され、ポーランドが供与したレオパルドも数台破壊されている。

・ウクライナ上層部は、キエフの司令部に駐在するイギリス人将校から、主に軍事的な助言を得ている。

・ザポロシュエでは、これまで欧米で訓練された3個旅団、あるいは4個旅団しか使用されていないため、ウクライナの戦力集中の可能性は残されている。そのためには、政治的自暴自棄に駆られた決定ではなく、有能な軍事的決定が必要である。
驚きの証言です。筆者は最初、ドイツが供与したレオポルドⅡ戦車が破壊されるなんて、ロシアには旧式の”ポンコツ”戦車しか出してないのにどうやって、と思ったのですけれども、地雷除去車を配備せずに地雷原に突撃。しかも航空支援もない。無茶もいいところです。

また、イギリス紙「ガーディアン」は、ウクライナ軍第3突撃旅団第1大隊のピョートル・ゴルバテンコ司令官の話として、ロシア軍が高いレベルの専門職的な構造を持っており、非常によく準備された防御、戦闘継続に十分な大量の軍事装備があると伝えています。

ゴルバテンコ司令官は、「ロシア人はプロだ。彼らは防衛線を構築し、塹壕を掘る方法を知っている。それを完璧にやってのける」と述べ、ロシア軍の戦闘システムが非常に複雑であり、ウクライナ軍の攻撃開始を見逃さず、すぐに反撃できるよう、ウクライナ軍の動きを注意深く監視していると指摘しています。

ゴルバテンコ司令官によると、欧州諸国でウクライナ兵を対象にして行われた訓練は、ロシアを相手にした戦闘の現実にはそぐわず、前線の目と鼻の先でもう一度訓練しなおす必要があるのだそうです。なんでも、欧州各国で行われた戦闘訓練は、タリバンのようなテロ組織を念頭においたものとなっており、ロシア軍のような専門性の高い常備軍を想定したものではないのだそうです。

前述のウォールストリートジャーナルの記事でも、アメリカが供与した装甲車は市街地や砂漠のために作られた車両であって、ウクライナの湿地帯を走行することは想定していなかった点に触れられていますけれども、欧州各国がウクライナ兵に行った戦闘訓練は対テロ戦闘用だったり、と、これが本当であれば、装備も訓練もミスマッチしていることになります。

アジアタイムズの記事は、「政治的自暴自棄に駆られた決定ではなく、有能な軍事的決定が必要だ」と締め括っていますけれども、ウクライナの反転攻勢の現実がこの通りであり、今後もこれを続けるとするのなら、今回の反転攻勢が成功する見込みはかなり低いのではないかと思いますね。


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この記事へのコメント

  • 金 国鎮

    ドニエプル川からの撤退以後はロシア軍はプーチンの指示ではなくてロシア軍参謀が指揮していると思う。ロシア軍が軍事的に敗北するというのはあり得ないが、徐々にではあるがロシアはこの戦争をどこに持っていこうとするのだろうかという疑問が出てきている。

    北の人民軍兵士がこの戦争に参加するという話が浮上した。
    ロシア軍が通訳をつけるという。
    参加すればこの戦争の位置づけは変わる。
    これはヨーロッパとアジアの戦いになる。

    アジアの多くの国々はウクライナの主張に同意していないが、ロシアの主張を支持している訳でもない。プーチンはロシアのユーラシア大陸の立場を明にしなければ彼の政治力は徐々に落ちていくであろう。
    プーチンが言うロシアは多民族国家である、ユーラシア大陸の政治統合を求めるに異論はない。
    プーチンはこれをユーラシア大陸で明らかにする政治的責任がある。
    であればウクライナの戦いに決着をつけなければならない。

    トルコのエルドアンは中央アジアのトルコ系民族の取り扱いについて中国の習近平に初めて釘をさした。プーチンにはクリミアのタタール人の取り扱いに釘を刺した。
    彼は首尾一貫してトルコ系民族を主張している、プーチンはロシア系民族だ。
    プーチンが考えなければいけないのはウクライナ東部のロシア系住民だけではない。
    ゼレンスキーの寝言を無視するのはいいがユーラシア大陸の多くん民族の話を無視してはいけない。プーチンがその方向で動けば多くの人たちがいずれはプーチンに協力する。

    2023年06月15日 22:09