

1.次の解散は秋
今国会での衆院解散を見送る宣言をした岸田総理ですけれども、ではいつ解散するのかが注目されています。
党内では、年末に防衛力強化や少子化対策の財源論議が本格化することや、自民党総裁としての再選戦略を考慮して、解散の時期として「今秋」予想されているようです。
現在の衆院議員の任期は2025年10月30日で、自民党総裁任期は24年9月30日までですから、総裁選前に衆院選をやって勝てば、総裁選に弾みがつくことになります。
ただ、仮に今秋に解散総選挙となると、次期的に今年末の24年度予算案が絡むことになります。当然、防衛力強化や少子化対策の財源確保のための増税開始時期や財源の在り方が議論されることになるのですけれども、増税や社会保険料の上乗せなどの負担増が明確になれば、それがそのまま総選挙の争点になることが考えられます。
党内では、「負担増を掲げて選挙に勝ったことがない」という意見もある一方、「若手や女性の登用など思い切った人事で支持率を再浮揚させて選挙に臨めばいい」と夏以降に内閣改造や党役員人事を行って、秋の臨時国会の後に解散する案も検討されているようです。
2.今年度税収が過去最高
6月1日、財務省は、2022年度の一般会計税収が4月末時点で61兆5325億円だったと発表しました。2021年度の同時期に比べ8.1%上回り、過去最高となっています。
財務省は、2022年度税収は、3年連続で過去最高を更新すると見込んでいて、実際にはさらに上振れし、初の70兆円超えも視野に入っているとしています。
税目別にみると消費税・法人税・所得税のいずれもが増加。特に、消費税収の伸びが著しく、22年度累計額は15.9兆円(前年同期:14.8兆円)と1兆円強増加しています。
その理由の一つは足元の物価上昇です。課税ベースに相当する名目消費額が押し上げられ、消費税の増加につながっていると見られています。
また、法人税は8.9兆円と、前年同期の7.2兆円から明確に増加。武漢ウイルス正常化に伴う経済の回復や、円安も相俟って所得税も18.1兆円と前年同期16.8兆円から増加しています。
もっとも、ある政治記者は「国の税収はコロナ禍でも伸び続け、2020年度の一般会計税収はマイナス成長にもかかわらず60兆8217億円で過去最高。2021年度は67兆378億円と、再び過去最高を更新しました。この30年余りの間、歴代政権は広く薄く課す消費税を導入して、それを増税する一方、所得税や法人税の税率を引き下げてきました。消費税は法人税や所得税に比べて景気に左右されにくく、安定財源としての側面を持つ一方、所得にかかわらず同じ税率が課されるため、低所得者ほど負担感が重くなります。2020~2022年はまさにコロナ禍で不景気だった時期にあたります。物価高、円安による資源高で生活が苦しいなか、消費税収が増えているということは、国民の負担感が増していることを意味します」とコメントしています。
3.税収増をもっと活用すべき
少し前からネットなどで国民の負担感の増加を表す「五公五民」という言葉が流行ったりしていますけれども、やはりそれだけ税負担に耐えかねているということなのだと思います。
にも関わらず、岸田政権からは、増税の話ばかり。2023年度から5ヶ年の防衛費総額43兆円程度の対応に1兆円強を増税するとか、法人税、たばこ税の引き上げ、さらに復興特別所得税の一部を防衛財源への転用や、「異次元の少子化対策」に社会保険料の月500円の負担増、16歳~18歳の扶養控除38万円の縮小が検討されるなど、負担増ばかりです。
ネットでは、「で、なんで増税?無駄を省いてちゃんとした使い方すればむしろ減税できない?」とか「まってまって。過去最高なのに子供のための財源ないの??その税収どこに消えてるの??」とか「このまま税金チューチューされて良いのか?」など、3年連続で税収が過去最高を更新するのに、減税ではなく負担増なんだと、怒りの声で溢れています。
嘉悦大学の高橋洋一教授は、6月8日付の夕刊フジへの寄稿記事で、税収増をもっと活用すべきだと説いています。引用すると次の通りです。
【前略】このように高橋教授は、今の税収増をそのまま反映させると、政府の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の黒字化目標は達成され、各種の負担増の措置は不要になると指摘しています。
税収増は、法人企業統計の経常収益の増加からも予想できたことであるが、その背景は同じで、主たる要因は円安だ。1年以上前、「悪い円安」という報道も多かったが、筆者は、円安は国内総生産(GDP)の増加要因なので、悪いはずはないと主張した。最近、「悪い円安が消えた」という報道もみられるが、そもそも悪い円安自体なかったのだ。
安倍晋三・菅義偉政権時の大型コロナ対策のおかげで雇用が壊れず、賃金が回復しているのも大きな影響がある。もちろん、消費税収の増加傾向からみると、最近のデフレ脱却・インフレ傾向も税収増には寄与している。これらはアベノミクスで求めてきたことで、ようやく実を結びつつある。
こうした足下の経済環境をもっと政策決定に反映させてもいいはずだ。筆者は、政府の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の黒字化目標に必ずしも賛成ではない。PBは統合政府のものを算出すべきで、その場合、黒字化目標は不要だが、政府の算出しているものはその一部で殊更に赤字を強調するものになっているからだ。
政府のPBでは、25年度は1・5兆円の赤字だ。不正確なものであることを前提としても、今の税収増をそのまま反映させると黒字化目標達成になる。そうなると、防衛増税や少子化対策の各種の負担増の措置は不要になるはずだ。
増税は、税収をも増加させるような良好な経済環境を破壊する。防衛や少子化対策のような将来に向けた歳出増の財源は将来投資として国債でいい。ただし、少子化対策に付随した扶養控除の見直しや環境森林税などの増税措置は行う必要がなく、それらは増収で手当てすればいい。増税でなく増収だ。
4.先輩方は現実が全く分かっていない
6月15日、週刊現代は「財務省はもはや「最強官庁」ではなくなった!?…」という記事を掲載し、財務省は岸田総理に押されっぱなしになっていると報じています。
件の記事を引用すると次のとおりです。
「茶谷(栄治事務次官)や新川(浩嗣主計局長)は何をやっているのか。堂々と消費増税の必要性を国民に訴えるべきだ」岸田総理が財務省のいうことを聞かなくなったとは、俄かに信じられないですし、世間は岸田政権のことを増税政権と見做しています。
岸田文雄政権が掲げる「次元の異なる少子化対策」の財源を巡り、次官OBらから、官邸・与党に押されっぱなしの財務省の体たらくを嘆く声が噴出している。
財務省の大勢は当初、岸田首相を「容易く操れる駒」(中堅幹部)と見ていた。だが、日韓関係改善や広島サミット成功による支持率改善を背景に、官邸と財務省の関係は一変。首相は財務省の言うことを聞かなくなり、耳の痛い国民負担の論議をことごとく退けている。
6月1日に公表された少子化対策素案は、児童手当拡充など今後3年間で年3兆円台半ばの給付増をぶち上げる半面、財源は「'28年度までに安定財源を確保する」としただけ。「つなぎ国債(こども特例公債)」を発行して借金で賄うことまで飲まされる始末だった。
財務省主計局や主税局は、この「つなぎ国債」容認が「防衛増税」に波及するのを警戒している。税制改正大綱には、防衛財源を法人税や所得税、たばこ税引き上げで賄う方針が盛り込まれたが、与党の反発で時期を確定できなかった。今後「防衛財源も国債で賄えるはずだ」との異論が噴出し、防衛増税までご破算にされる事態も起きかねない。
OBから「お叱り」を受ける現役財務官僚からは「『最強官庁』として時の政権を自由に操れるような時代はとっくに終わった。先輩方は現実が全く分かっていない」とのぼやきが漏れる。
仮に岸田政権が”財務省のポチ”から脱するときがあるとすれば、高橋教授の指摘するとおり、増税を辞め、税収を国民に還元してからの話ですし、それでなければ支持率下落トレンドを食い止めることも難しいのではないかと思います。現実を分かってないのは財務省OBだけではないかもしれませんね。
この記事へのコメント
HY
アメリカでは大統領選以降分断が加速しているといいますが、日本においてもこうした認識ギャップによる分断が加速しているといえるかもしれません。しかし、それが時代の変わり目を意味するものならば悪いことばかりではない気がします。