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1.プーチンの威光は失墜した
6月24日、アメリカのバイデン大統領は 「ワグネル」の反乱について、ジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官らから情勢の報告を受け、米軍のマーク・ミリー統合参謀本部議長は予定していた中東訪問を中止しました。
バイデン大統領はこの日、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相、英国のスナク首相と電話会談をしていますけれども、各国は、ワグネルの反乱がプーチン政権に動揺を与えたとみているようです。
イギリス国防省は「ロシアの治安部隊、特に国家親衛隊の忠誠が試される。最近のロシアにおいて、最大の試練となる」と分析。イタリアのアントニオ・タイヤーニ外相はマスコミインタビューで、「反乱はプーチンへの結束神話を終わらせた。ロシアの前線が昨日より弱体化したのは確かだ」と述べています。
また、イギリスのフィナンシャル・タイムズ紙は「露内外の反プーチン勢力に希望を与え、ウクライナ軍にとって歴史的な好機となる」と指摘。ドイツ公共放送ARDは、ワグネル創設者であるプリゴジン氏らの処罰をしなかったことがプーチン大統領への深刻な打撃になるとの見方を示しています。
更に、ウクライナ人民代議員のエゴール・チェルネフ氏はフェイスブックで次のように述べました。
・ワグネルの反乱による叙事詩がどのように終わったとしても、ロシア全土は今日、プーチンが囚人たちによっていかに『屈服』されたかを目の当たりにしたこのように、チェルネフ氏は、今回のワグネルの反乱によって、プーチン大統領の神聖化が終わったと指摘しています。
・すべてのロシア人は、怯えた指導者がパニックに陥り、助けを求めるためにあらゆる人に電話をかけるのを目撃した。
・プーチン大統領の屈辱と神聖化の解除は、すでに起こったことの主な結果だ。ロシアの指導者たちはこの後長くは生きられない。
・だから、まだ何も終わっていない。すべては始まったばかりだ。そして、結末はすぐにやってくる。
ネットでも、以下のような意見が散見されています。
・『逃げずに首都に留まり指揮を続けたゼレンスキー』との対比による士気と民衆の支持への致命的ダメージ少なからずプーチン大統領の威光は失墜したとの見方が多いようです。
・戦力前線に出し過ぎて他はスカッスカなのが露呈
・すわクーデターかという反乱を起こされ仲裁をルカシェンコにしてもらうという元首としてメンツ丸潰れの事態
・1日で首都まで侵攻され反乱軍の要求を呑み閣僚更迭
2.消息を絶ったプリゴジン
ワグネルの反乱を首謀した当のプリゴジン氏はどうかというと、24日以降、消息を絶ち、どこにいるのか分かっていません。
プリゴジン氏はこれまで、定期的に戦況や自身の動向を通信アプリに投稿してきたのですけれども、24日午後8時半ごろの進軍停止を表明した音声メッセージを最後に止まっています。
一時制圧した南部ロストフナドヌーの軍司令部を車で出発する様子の動画も報じられたのですけれども、それっきり。イギリスのBBCは「ワグネル」のプリゴジン氏の行方について現地24日夜にロシアのロストフ州を出発して以降、どこにいるのか分かっていないと伝え、プリゴジン氏の広報担当は現地メディアに「プリゴジン氏は普段はすぐに連絡が付き、質問にもすぐ答えていた」などと答え、スタッフも連絡が付いていないことが判明しています。
ロシア大統領府のぺスコフ報道官は24日、プリゴジン氏について、武装蜂起を呼び掛けた容疑の捜査が取り下げられ、隣国のベラルーシに移動すると明らかにしていますけれども、アメリカCNN放送の元モスクワ支局長は「裏切り者であることに変わりはなく、プーチン大統領は決して許さないと思う」と指摘。ベラルーシで生命を脅かされる可能性があるとの見方を示しています。
ワグネル創始者のプリゴジン氏の消息不明によって、ワグネルの指揮系統が揺らぐ可能性や、戦闘員の処遇についても反乱に加わったかどうかで差をつけられ、組織が分断するリスクもあるとも指摘されており、今後、ワグネルの存続にも不透明感が漂い始めました。
更には、ロシアの独立系オンラインメディアが、ロシア軍の将校クラスから聞いた話だとして、プーチン大統領は、ワグネルの兵士に対しては反乱を不問に付すが、プリゴジン氏に対しては暗殺指令を出したと報じているなど、情報が錯綜しています。
もし、本当に暗殺指令が出ているとするなら、プリゴジン氏が行方をくらます十分な理由になります。
3.ロシアがアカデミー最優秀クーデター賞を受賞
筆者は6月25日のエントリー「プーチンの深謀とワーグナーの野望」で、プーチン大統領が全ての黒幕なのか、それとも本当のクーデターなのか分からないと述べましたけれども、芝居だった説もあります。
アメリカの元CIA分析官でブロガーのラリー・ジョンソン氏は24日に「ロシア、アカデミー賞最優秀クーデター賞を受賞 プリゴジンが最優秀男優賞を受賞」という興味深い記事をアメリカ議会公認の非営利法人「A Son of The American Revolution」に寄稿しています。
その記事の概要は次の通りです。
・もしプリゴジンの「クーデター」がマスキロフカ(ロシア語で情報偽装工作の意)だったら?その可能性を探ってみたい。ラリー・ジョンソン氏によれば、今回のワグネルのクーデターはプリゴジン氏がプーチン大統領と示し合わせた芝居であり、その狙いはNATOの監視網に警戒されることなく、ロシア軍をベルゴロド北方に移動させるためだったというのですね。
・今日(アメリカ東海岸では土曜日)、私は "PRIGOZHIN - PUTSCH OR PLOY? "というキャッチーなタイトルの作品をスケッチしていた。
・モスクワに進軍し、ロシアのショイグ国防相を個人的に絞め殺すというプリゴジンの計画に関するシナリオがナディア・コマネチばりのバックフリップ(縦後方一回転)になったとき、その素晴らしいアイデアはカホフカ・ダムのように吹き飛んでしまった。
・プリゴジンは「自分の」軍隊を基地に戻すよう命じ、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領と協定を結び、亡命することにした。
・なんだって?流血はないのか?何マイルも燃えさかる戦車もない?ウラジーミル・プーチンに絞首刑はないのか?一体何なんだ?
・あなたは、ワシントンのエスタブリッシュメントから発せられる失望とフラストレーションを感じ取った。
・政治的には早漏に等しい。昨夜(金曜日)、シャンパンのコルクとポップコーンが弾ける音が聞こえ、メディアと諜報機関関係者がコンピューター画面の周りに身を寄せ合い、取り乱したプーチンがクレムリンから裸で逃げ去る映像を待っていた。
・バイデンと彼のチームは、プーチンを捕らえようとする彼らの奇想天外な計画が頓挫し、燃え尽きるのを見る絶望感という点で、ワイリー・コヨーテ(注:1949年から半世紀以上、ロード・ランナーを付け狙い続けているコヨーテ。超駿足のロード・ランナーにはどう頑張っても追いつけないため、あらゆる手段や策略を張り巡らせてロード・ランナーの生け捕りを企む)を思い起こさせる。
・プリゴジンが単独で(あるいは外部の支援者の後押しで)このクーデターを企てたという可能性も捨てきれないが、私はマスキロフカ(情報偽装工作)のシナリオを提示したい。
・まずこれらの事実から始めよう。
・ワグナー・グループはロシアの情報機関によって設立され、ロシア政府から資金提供を受けていた。西側諸国の多くは、プリゴジンが私腹を肥やし、ワグナーのツケを払い、軍事経験ゼロにもかかわらず、この組織の司令官になっていると誤解している。ロシア人が言うように、NYET(ニェット:Noの意)だ!
・ロシアはアメリカや他のNATO諸国から独裁国家とみなされている。プリゴジンは数ヶ月間、ロシア軍や間接的にプーチンに対する脅しを口にしてきたが、逮捕や制裁は受けていない。ロシアは独裁国家ではないということか?
・プリゴジンが表向きクーデターを起こしたのは、金曜日の彼自身の言葉によれば、ロシア国防省がミサイル、砲弾、ロケット弾で戦争の訓練をしているワグネル軍の野営地を攻撃したからだという。
・しかし、その時のビデオには死傷者は出ていない。今日、プリゴジンはその主張を撤回し、今はワグネル・グループをロシア軍に引き入れるという国防省の動きに抗議しただけだと主張している。
・ロシア政府は、サンクトペテルブルクのワグナー・グループ本部に警察・軍隊を派遣するまでに約12時間待った。危機意識は乏しかった。
・プリゴジンは、ショイグとおそらくゲラシモフ将軍を失脚させるために、ドン河畔のロストフからモスクワに向かうワグナー部隊の隊列を命じたと伝えられている。地図を見てほしい。距離にして1200キロ近くある。トラックや戦車の隊列が、20時間足らずでどうやって燃料を補給し、その距離をカバーするつもりだったのか?
・こう説明するのはどうだろう?クーデターのシナリオはすべて、NATOの計画者たちに警戒心を抱かせることなく、ロシア軍をヴォロネジの北と西の地域に移動させるために作られた。
・ロシアは、新たな攻撃軸のための軍備増強とは対照的に、クーデター計画者を阻止するために軍を移動させたのだ。
・プリゴジンがロシアを裏切るという物語のルーツは2022年に始まるようだ。西側の諜報機関とつながりのある人物がプリゴジンと関係を持ち、西側との協力について彼に根回しを始めた。
・プリゴジンはロシアの諜報機関のボスにそのことを知らせると、ロシアは、プリゴジンがロシアの指導者たちの無能さに怒りを爆発させ、不満だらけの愛国者として見せかける作戦を立てることにした。
・ロシア側は、プリゴジンにショイグとゲラシモフへの悪質な口撃をさせ、ジャック・テイシェイラの情報リークを信じるなら、彼のハンドラーにロシア軍の位置に関する情報まで渡すことで、これを煽った。
・この仮説の興味深いところは、プリゴジンを出動させる決断をしたのは誰なのかということだ。
・プリゴジンの西側のハンドラーが、金曜日がその日だと判断し、出動を命じたというのは、信憑性のある議論である。
・しかし、私はこれはクレムリン内部で仕組まれたことだと考えている。プーチンと彼の諜報部長は、西側諸国がロシアで何を煽ろうとしているのか知っていたし、ウクライナとNATOが無益な反攻とそれに伴う人的・物的損失で動揺していることも理解していた。
・なぜクーデター未遂を、モスクワとドン河沿いのロストフを結ぶ沿線全域に軍隊を大量に移動させるための格好の隠れ蓑にしなかったのか?
・これは、NATOの監視システムに警戒されることなく、ロシア軍をベルゴロド北方の地域に移動させる方法だ。部隊を国境に近づけ、そして分散させる。つまりロシアは、NATOのプランナーにとって悪夢となる新たな潜在的攻撃軸に、兵力を増強する方法を見つけたということだ。
・クーデターは、野原を走るウサギのようなものだと考えてほしい。森に隠れているハングリーな肉食動物は、ウサギをさらうために身をさらしたくなるかもしれない。
・クーデター疑惑のニュースに対するロシア国内の反応の一部は、ロシアのカウンターインテリジェンスが、これまで静かにウクライナを応援していたロシア国内の権威ある立場の人々を特定するのに役立ったのだろうか?そうかもしれない。
・さらに、面白い可能性も考えてみたい。プリゴジンは西側のハンドラーから数百万ドルをだまし取ったのだろうか?エフゲニーには犯罪歴があり、しつこいことで知られている。彼はその犯罪の過去を利用して、イギリスやアメリカから金をだまし取ったのだろうか?すごい話になりそうだ。
・いずれにせよ、24時間弱のドラマの後、私たちはペギー・リーの哀愁を帯びた、しかし美しい歌声に包まれることになる。
4.バイデンはワイリー・コヨーテになったのか
ジョンソン氏がロシア軍を移動させたというベルゴロドは、ドネツ川流域にあるロシアの都市でベルゴロド州の州都です。人口は約33万人で、モスクワから約580km南、ウクライナの大都市ハルキウから約70km北北東に位置しています。ウクライナとロシアとの国境線からの距離は約30kmで、ここにロシア軍が展開されるとなると、ウクライナにとって、新たな脅威となる可能性は十分にあります。
もっとも、ワグネルの反乱が目下の戦況に影響したのかというと、あまり変わっていないようです。
25日、ウクライナ軍東部方面部隊のチェレバティ報道官は、東部ドネツク州バフムト周辺でウクライナ軍が最大1キロ前進し、露軍に約400人の損害を与えたと発表しました。チェレバティ氏はワグネルの武装反乱は前線の戦況に影響を与えていないとも説明しています。
ウクライナ軍は現在、南部ザポロジエ州方面とバフムト方面で反攻を展開。ザポロジエ州方面では露軍の支配下にある重要都市メリトポリやベルジャンスクの奪還を目指しているとみられているのですけれども、南部ザポロジエ、東部バフムトで反攻を展開している中、ワグネルの武装反乱を隠れ蓑にしてベルゴロドに展開したロシア軍が東北部ハルキウに攻め込んだとしたら、反攻作戦中のウクライナ軍は側面を突かれることにもなりかねません。
ジョンソン氏が指摘するように、もし、ブリゴジン氏が西側の工作に乗ったふりをして、西側から数百万ドルをだまし取ったという「面白い可能性」が事実だったとしたら、こちらも、ブリゴジン氏が行方をくらませる理由にもなり得ます。西側のエージェントが必死になってブリゴジン氏に「どういうことだ」と問い詰めるべく探し回っているでしょうから。
果たして、威光失墜したプーチン大統領がプリゴジン氏を暗殺しようとしているのか、それともバイデン政権が「ワイリー・コヨーテ」になってしまったのか。注視していきたいと思います。
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