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1.中国のプロジェクト141
6月20日、アメリカのウォールストリート・ジャーナル紙はアメリカ政府関係者らの話として、中国とキューバが共同軍事訓練施設を建設するために交渉していると報じました。
それによると新たな軍事施設は中国軍が世界的に基地や後方支援ネットワークを拡大する構想「プロジェクト141」の一部で、フロリダ州の海岸からわずか160マイル離れた場所になるようです。軍事施設が出来ると、中国軍が駐留したり情報活動を行ったりする恐れがあり、バイデン政権は警戒を強めています。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、この中国とキューバの協議は終盤にあるもののまだ結論が出ていないようで、バイデン政権は協定を締結するのを阻止しようとしていると報じています。
こうした中国の動きについて、アメリカ民主党のマーク・ワーナー上院議員と、共和党のマルコ・ルビオ上院議員は、「フロリダと米国から100マイル以内、また主要な軍事施設や広範囲の海上交通が密集する地域に中国が諜報施設を設立することは容認できないことを明確にしなければならない。我々はバイデン政権に対し、我が国の国家安全保障と主権に対するこの深刻な脅威を阻止するための措置を講じるよう要請する」と声明で述べています。
2.キューバ危機
キューバに基地と聞いて、思い浮かぶのは「キューバ危機」です。
これは1962年10月、キューバへのソ連のミサイル配備に抗議したアメリカがキューバを封鎖し、米ソの対立が核戦争の危機となった事件です。
1959年、カストロによるキューバ革命が成功した後、キューバで社会主義国家建設が進行、アメリカ資本が追放されていきました。これに対し、アメリカのアイゼンハウアー大統領は1961年1月3日、キューバとの国交断絶に踏み切りました。
さらに、アメリカ政府はキューバ革命政権の転覆を謀り、亡命キューバ人のキューバ侵攻を支援しました。次のケネディ大統領もそれを継続し、1961年4月に亡命キューバ人による革命政府の転覆を謀るも失敗。これに対し、カストロは反米姿勢を強めてソ連に近づき、ソ連もフルシチョフが第三世界への支援と核戦力の強化によって対米優位を得ようとしてキューバに核ミサイルを配備しました。
1962年10月14日、アメリカ空軍の偵察機がキューバ上空を撮影。それによりソ連によるミサイル基地が建設進行中であることが判明しました。これを受け、ケネディ大統領は10月22日夜、テレビ演説を行い、攻撃的兵器が運び込まれるのを防ぐため、キューバ周囲を海と空から海上封鎖することを宣言しました。
ソ連はすでに機材と武器を積んだ艦船をキューバに向かわせており、アメリカの海上封鎖を突破しようとすれば米ソ間の直接衝突となり、核戦争の危機となりました。そんな中、米ソ首脳は水面下での交渉を重ね、アメリカがキューバに侵攻しないことと引き替えならば、ミサイル基地を撤去するとソ連のフルシチョフ首相がケネディ大統領に伝え、10月27日に合意が成立。危機は回避されました。
もし、今回、中国とキューバが共同軍事訓練施設建設が合意されたとしたら、中国はどんどんと武器や設備を運び込んでくるでしょう。それは、南シナ海での中国の人工島建設をみれば明らかです。
3.ブリンケンに冷たい対応をした中国
一部では、ブリンケン国務長官が中国訪問した最大の理由は、この中国のキューバ基地建設阻止にあったのではないかという指摘もされていますけれども、ブリンケン国務長官は12日の記者会見で、中国がキューバに情報収集施設を置き、2019年に増強したと指摘。中国が世界各地でスパイ活動を拡大しているとの見方を示していました。
今回の共同軍事訓練施設建設交渉は、ブリンケン国務長官が2日間の北京訪問を終え、習近平国家主席と会談した翌日に発表されています。
ブリンケン国務長官は中国訪問中に「キューバにおける中国の諜報活動や軍事活動に深い懸念を抱くことを明確にした」とのことで、「これは我々が非常に注意深く監視するものであることを明確にしている。我々は祖国とその利益を守る」と述べていますけれども、訪中を終えた直後に発表し、さらにその中身が建設交渉が行われているに留まったということは、おそらく現時点で協定締結を阻止できないでいるものと思われます。
今回、中国は、ブリンケン国務長官に冷たい仕打ちをし、尊大な態度を取ったことが話題になっていますけれども、評論家の石平氏は、現代ビジネスへの論考でそれは表向きであり、実際は対米腰砕けだったと指摘しています。
石平氏は、件の記事で次のように述べています。
【前略】石平氏によると、アメリカは「名より実」を取っただけであり、習近平主席の発言をみれば、中国にとって「核心中の核心利益」であるはずの台湾問題には一切触れておらず、米中激突を避けたい「対米腰砕け」の姿が見えるというのですね。
米中関係がどん底に陥っている中、長官の訪中が関係改善の契機となるどうかは当初から米国国内と国際社会の関心の的となっていたが、2日間の訪中において、内外の大いなる注目を集めたのは一連の会談の中身や成果よりも、中国側のブリンケン長官に対する無礼な待遇である。
長官が専用機から降りた時、中国側がそれまでの慣例に反して歓迎の赤絨毯を敷かなかった。中国語ではそれは「当頭棒」と言い、手怖い交渉相手がやってきたところ、何らの形で不意打ちを食わせることで相手の勢いを削ぐという手口である。
そして習主席との会談の際、習主席とブリンケン長官が一対一の形で対等に座って会談するのではなく、主席自身が議長席のような上座に座り、ブリンケン長官と習主席の部下である王毅政治局員をその両側の下座に座らせる方式をとった。
中国ではこれは、「トップが部下たちの報告を聞く」場合の典型的なセッテイングであるが、習主席はこれで、「天下一君」の中華皇帝的な尊大ぶりを演じて見せ、ブリンケン長官のことをあたかも中華皇帝に朝貢してきた属国の使節であるかのように扱い、長官自身と米国に対する「優位」を内外に示したつもりである。
ブリンケン長官がこのような待遇を「甘受」したことに対し、米国国内一部で批判の声が上がり、日本の一部識者からも「中国に圧倒された米国の腰抜け外交」だとする酷評が出ているが、このような批判は必ずしも当たらない。
米中首脳会談となると、座り方などの形式に対する双方の事前チェックが当然あるが、ブリンケン長官の場合、会談するのは相手国の国家元首であるから、呼ばれたままの場所へ行って言われたままの席に座るのは普通であって、相手国の国家元首の前で「座り方の争い」するのはむしろ考えにくい。
ブリンケン長官はその場で大人の対応をして見せたが、その場合、面子を何よりも大事にする中国人とは違って、米国人が形式よりも会談の実を重んじるものである。
習近平・ブリンケン会談の中身に関しては、中国側の公式発表からすれば、座り方の無礼さとは裏腹に、「習近平皇帝」がブリンケン長官との会談で語ったことの中身はむしろ尊大さと挑発性の全くない温和的であり、卑屈的な、弱腰的な部分さえある。
習主席発言を拾って見れば、それは下記の3つのポイントでまとまっている。
1)「広大なる地球は米中両国の各自の発展と共同繁栄を許容しているはず」。
2)「大国間の競争は時代の潮流に沿わない。中国は米国の利益を尊重している。中国は米国に挑戦したり米国にとって代わったりするつもりはない。同様、米国も中国の利益を尊重すべきであり、中国の正当なる利益を損なうようなことはしない(でほしい)」。
3)「米中両国が万難を排して互いに尊重しながら平和共存できるような関わり方を見つかることを信じたい」と。
こうしてみると、習主席発言の基調はむしろ、中国としては米国に「挑戦するつもりなく取って代わるつもりはない」と明言することで、米国の世界的リーダーとしての優位性を認める態度を明確に示した一方、それとの引き換えに、米国も中国の利益を尊重・配慮するよう「懇願」していることである。
そして習主席はこの会談においては、中国にとって「核心中の核心利益」であるはずの台湾問題には一切触れずにして、米国と一番対立していることの問題での激突を避けようとしている。捉えようによってはそれは、習主席自身の「対米腰砕け」にも見えてくるのである。
結局、ブリンケン長官の訪中の受け入れから始まった中国側の一連の対応ぶりと習近平・ブリンケン会談における習主席の言動を見ていると、習政権はとしてはこの一連の外交行動を通して何かとして米中関係のさらなる悪化を食い止めて関係改善を持っていきたいのが本音であって、そのためには最終場面に出てきた習主席は会談の中身においては、終始低い腰で対米融和の姿勢を明確にしている。
しかしその一方、会談の中身ではなく会談際の座り方のセッティングなどで小細工を弄して習主席自身と中国の「優位性」を演じて見せたのだが、それこそは習近平流の「大国外交スタイル」、「中身」で負けている場合は、せめて「見た目」で勝利を演出してこれを内外に誇示するのである。
逆に言えば、ブリンケン長官を北京に呼んできて展開した習政権の対米外交は、座り方のセッティング程度の小細工で「勝利と優位」を演じる以外に誇示するものは何もなく、まさに「外強中乾」ということである。
それに対し、訪中の米国側は「屈辱待遇」に耐えながらも一定の外交成果を手に入れた。19日、ブリンケン長官は北京での記者会見で、中国がウクライナ侵攻を続けるロシアに武器供与を検討しているとの疑惑に関し「中国から現在も今後も提供することはないとの約束を得た」と述べた。実際に供与の証拠も確認できていないとして中国に謝意を表明した。
「約束を得た」というブリンケン発言に対して中国側は一切否定も反論もしていないから、習政権は米国からの要請に応じて、あるいは米国からの圧力に屈して実際に「約束」したと見て良い。
その一方、中国側が強く希望した台湾問題への米国側の譲歩に関し、ブリンケン長官がそれに応じた痕跡はない。19日の記者会見で長官が「台湾独立は支持しない」と語ったことで、一部では「米国は台湾問題で譲歩した」と騒ぐがそれは全く当たらない。
「台湾独立支持しない」のは米国政府の一貫とした言い回しであって、昨年6月にブリンケン長官は対中政策演説でも全く同じ表現を使った。「台湾独立は支持しないが、中国による一方的な現状変更(台湾併合)も許さない」のは米国の基本的立場であって、今回の訪中で変わったわけではない。
【後略】
4.中国外交は対米腰砕け
そして、石平氏は、バイデン大統領は、ブリンケン国務長官が中国に辱められたことを看過せず、やり返したというのですね。
記事から該当部分を引用すると次の通りです。
【前略】石平氏は、バイデン大統領の「独裁者」発言に強く反発してみせる中国もその反発の仕方をみれば、バイデン大統領を直接批判せず、発言の撤回も求めてないことに着目し、結果として、中国の対米外交は劣勢に立っているというのですね。
ブリンケン訪中である程度の実を取った一方、バイデン大統領はどうやら、自分の部下が北京で受けた屈辱を看過するつもりはなかった。
20日、バイデン大統領は国内の選挙イベントで、米軍が2月に米領空に侵入した中国の偵察気球を撃墜したことを巡り、習氏が偵察気球の状況を把握できていなかったとして「独裁者にとって何が起きたか知らなかったのは大きな恥だ」と発言した。習主席のことを「独裁者」と呼ばわりしたと同時に、「状況を把握できなかった」と、まさに「裸の王様」扱いで習主席のことを露骨に嘲笑ったのである。
後日、インド首相との記者会見でバイデン氏はこの発言を否定もせずにして「真実と思う」と発言したことから、「独裁者発言」は決してバイデン氏の「失言」ではなくむしろ確信犯的な発言であろう。そしてタイミング的に見れば、それは明らかに、部下のブリンケン長官に屈辱を与えた習主席への意趣返しか、あるいは反撃であると思う。
この「独裁者発言」に対し、中国側は直ちに猛反発。中国外務省の毛寧副報道局長は21日の記者会見で、「極めてばかげており、無責任だ。基本的事実にも外交上の礼儀にも反しており、中国の政治的尊厳に対する重大な侵害だ」と批判。同じ21日、中国の謝鋒・駐ワシントン大使も、この「独裁者発言」について、ホワイトハウスと米国務省の高官に対し「深刻な陳情と強い抗議を行った」と、中国大使館が発表した。
しかし中国側の反応の仕方には注目すべき2つのポイントがある。
1)バイデン大統領の発言は習主席のことを明確に口にして愚弄しているのに対し、中国側はその反発と抗議の中では一切バイデン大統領のことに触れずにして「米国側」云々と言い、バイデン大統領への直接批判を極力避けている。
2)中国側は反発と抗議はしたものの、発言の撤回を一切求めていない。つまりそれは、猛反発するふうにしながらの事実上の「弱腰対応」なのである。むしろ中国側の方が米中関係改善の流れはこれで途切れることを心配していることは分かる。
さらに興味深いことに、バイデン発言とそれに対する中国側の反発に関し、中国国内では一切報じられていない。前述の毛寧副報道局長反発発言はまた、中国外務省の記者会見の公式発表から抜けている。
国家元首・最高指導者が米国大統領に嘲弄されたことに対し、習近平政権は結局隠忍してそれをなかったことにするしかない。現時点ではむしろ、対米外交においては中国の方は劣勢に立ち、腰砕けとなっているのである。
ただ、石平氏は、アメリカはブリンケン長官の訪中で「ある程度の実」を取ったと述べていますけれども、その”実”とは、ロシアへの武器供与をさせないことくらいしか表に出ておらず、アメリカにとって脅威となりかねないキューバへの共同軍事訓練施設阻止については、分かっていません。
むしろ、内外の発言を追っていく限り、アメリカは共同軍事訓練施設阻止という”実”は手にできなかった可能性が高いと思うのですね。
それを考えると、中国の「対米外交腰砕け」がどの程度のものなのかは、あるいはキューバとの共同軍事訓練施設交渉がまとまるのかどうか、その中身がどうなるのかである程度分かってくるのかもしれませんね。
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