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1.中国のレアメタル輸出規制
7月3日、中国の商務部および税関総署は、「輸出管理法」「対外貿易法」「税関法」の規定に基づき、国家の安全および利益を守るため、ガリウムおよびゲルマニウムの関連品目に対して輸出管理を実施する旨の公告発表しました。
公告では、ガリウムおよびゲルマニウムの関連品目について無許可での輸出を禁止するとし、輸出事業者はこれらの品目を輸出するにあたって、省レベルの商務主管部門を通じて商務部に申請を行い、エンドユーザーや最終用途の証明などを提出しなければならないとしています。特に国家の安全保障に重大な影響を与える品目の輸出については、商務部は関連部門と共同して国務院の認可を得るものと規定しました。
また、輸出事業者が無許可で当該品目を輸出した場合や輸出許可の範囲を超えた場合、またはその他の違法な状況があった場合には、商務部あるいは税関などの部門が関連法規の規定に基づいて行政処罰を行い、犯罪に該当する場合は刑事責任を問うとしています。
対象となった関連品目は次の通りで、8月1日から実施されます。
(1)ガリウム関連品目見て分かるとおり、関連品目といいながら、ほぼほぼ原材料です。
金属ガリウム(単体)
窒化ガリウム(ウエハー、粉末、破砕状物質等の形態を含むが、これらに限定されない)
酸化ガリウム(多結晶、単結晶、ウエハー、エピタキシャルウエハー、粉末、破砕状物質等の形態を含むが、これらに限定されない)
リン化ガリウム(多結晶、単結晶、ウエハー、エピタキシャルウエハー等の形態を含むが、これらに限定されない)
ヒ化ガリウム(多結晶、単結晶、ウエハー、エピタキシャルウエハー、粉末、破砕状物質等の形態を含むが、これらに限定されない)
ヒ化インジウムガリウム
セレン化ガリウム(多結晶、単結晶、ウエハー、エピタキシャルウエハー、粉末、破砕状物質等の形態を含むがこれらに限定されない)
アンチモン化ガリウム(多結晶、単結晶、ウエハー、エピタキシャルウエハー、粉末、破砕状物質等の形態を含むが、これらに限定されない)
(2)ゲルマニウム関連品目
金属ゲルマニウム(単体、結晶体、粉末、破砕状物質等の形態を含むがこれらに限定されない)
亜鉛ゲルマニウムのインゴット
リン酸ゲルマニウム亜鉛(結晶体、粉末、破砕状物質等の形態を含むが、これらに限定されない)
地金ゲルマニウム圧延
二酸化ゲルマニウム
四塩化ゲルマニウム
2.中国が世界最大の供給源
今回の措置について、中国商務部国際貿易経済合作研究院の白明氏は「デュアルユース品目に対する輸出管理強化は特に新しい方法ではない。いかにして国家の安全を最大限守りつつ民間貿易に対する影響を抑えるかが重要だ」と指摘しています。
また、中国現代国際関係研究院世界経済研究所の陳鳳英研究員は「今回の措置は一種の対等な対抗措置であり、国家の安全と利益を守る手段でもある」と述べているように、この動きは、アメリカなどの対中半導体輸出規制に対する報復と見られる可能性が高いと思われます。
現在、ガリウムとゲルマニウムはいずれも、中国が世界最大の供給源となっている素材です。例えば、「Critical Raw Materials Alliance」によれば、中国は世界のゲルマニウムの約60%を供給しており、残りはカナダ、フィンランド、ロシア、アメリカから供給されています。そして、ガリウムに至っては、その80%は中国から供給されているのだそうです。
ゲルマニウムの用途には、光ファイバーシステム、赤外線光学、太陽電池、発光ダイオード(LED)などがあり、ハイテク産業には欠かせないもので、化合物半導体の製造に使われています。
また、処理されたヒ化ガリウム、窒化ガリウム、リン化ガリウム、銅インジウムガリウムセレンは、半導体材料、半導体発光コンポーネント、集積回路、トランジスタ、5Gおよび国防通信無線周波数デバイス、CIGS薄膜太陽電池などの製造に必要な原料であり、2023年のアメリカの地質調査局のガリウムに関するリポートでは、半導体チップや軍事産業などのハイテク分野製品において、ヒ化ガリウムの代替品は今のところ見つかっていないとのことです。
そして、窒化ガリウムはパトリオット国防ミサイルシステムやアクティブフェーズドアレイレーダー(APAR)の製造にも利用されていて、2016年にフィリップス子会社が自動車用LED部品事業を中国系ファンドに売却する計画をアメリカが阻止したのは、LEDが窒化ガリウムを原料としており、窒化ガリウムが軍民両用製品であることを懸念したからだとも言われています。
これらの金属は中国によって安価に維持されており、他の国で採掘すると比較的高価になります。
これについて、投資銀行であるホールガーテン&カンパニー社主席兼採掘ストラテジストのクリストファー・エクレストン氏は「彼らが価格抑制をやめれば、西側でこれらの金属を採掘することが突然可能になる。アンチモン、タングステン、レアアースなど、以前にも同じようなことがあった」と語っています。
筆者も13年以上前のエントリー「レアアース戦争」で、中国がレアアースの輸出停止措置を行ったことを取り上げましたけれども、今度はガリウムとゲルマニウムで同じことを始めたということです。
3.中国がガリウム・ゲルマニウム輸出を全面的に規制するのはなぜか
今回の輸出規制について、中国政府機関紙である人民日報は7月6日「中国がガリウム・ゲルマニウム輸出を全面的に規制するのはなぜか?」という記事を掲載しました。
件の記事の内容は次の通りです。
中国の商務部(省)と税関総署は3日に公告を発表し、国家の安全と利益を守るため、国務院の承認を受けて、ガリウム・ゲルマニウム関連製品に対する輸出規制の実施を決定したことを明らかにした。公告は2023年8月1日から正式に実施する。「どこか特定の国を標的にしたものではない」といいつつ「この規制は中国に外圧に対抗する能力があることにより、中国の関連産業チェーンの発展のために十分な成長の時間と空間を獲得する能力があることを示しているからだ」と宣うあたり、明らかにアメリカその他の半導体製造装置輸出規制に対する報復だと自分で白状してしまっています。
外交部(外務省)の汪文斌報道官は5日、「ガリウム・ゲルマニウム関連製品には明確な軍民両用の属性が備わり、ガリウム・ゲルマニウム関連製品に対する輸出規制は国際的な慣行だ。欧州連合(EU)加盟国も一部の品目について輸出規制を実施している。中国政府は法律に基づいてガリウム・ゲルマニウム関連品目に対する輸出規制を実施して、これらが合法的な用途に用いられるよう保証するもので、どこか特定の国を標的にしたものではない」と述べた。
中国はガリウムとゲルマニウムの2種類の鉱物の世界最大の生産国だ。ガリウム・ゲルマニウムは半導体の製造で中核となる原材料で、特にガリウムは中国が世界の生産量の95%を占める。
商務部国際経済貿易協力研究院の梅新育研究員は、「中国はガリウム・ゲルマニウムの世界一の輸出大国であり、正常で安定したグローバル貿易秩序は中国の国家利益に合致し、また中国も信頼できるサプライヤーと販売市場のイメージ構築と維持を図りたいとしている。このたびの輸出規制措置は、まずガリウム・ゲルマニウムの生産に関わる企業にとって好材料となる。なぜなら中国のガリウム・ゲルマニウム資源の供給量は世界の中で非常に高い割合を占めており、予見可能な今後数年間において、各側が代替可能な供給源を見つけることは不可能だからだ。そのため規制は中国のガリウム・ゲルマニウムの輸出価格を引き上げ、関連企業の輸出による収益を高めることになる」と述べた。
梅研究員は「次に、米国から輸入した半導体、クラウドコンピューティングなどの製品・サービスを利用する必要のある中国企業にとっても好材料だ。なぜならこの規制は米国の中国への半導体の輸出規制とクラウドコンピューティングサービスの使用制限に対して、中国がこれらをある程度抑止できることを示しているからだ」と続けた。
梅研究員は、「さらに、この規制は中国の独自開発した半導体とその他の情報技術(IT)産業の関連企業にとっても好材料だ。なぜならこの規制は中国に外圧に対抗する能力があることにより、中国の関連産業チェーンの発展のために十分な成長の時間と空間を獲得する能力があることを示しているからだ」と述べた。
昨年10月、米商務省は半導体製造や先進的コンピューティング技術などの分野で対中輸出規制措置を強化した。対外経済貿易大学中国世界貿易機関(WTO)研究院の屠新泉院長はこのほど発表した論文の中で、「米国は確かな証拠がない状況の中で、中国に対する不合理な輸出規制を実施した。これはWTOルールに明らかに違反しており、国際法を公然と踏みにじることにほかならない。米国が不合理な輸出規制を実施し続けるなら、半導体産業の正常な市場秩序をさらに混乱させるだけで、半導体産業チェーンにある各国・地域がいずれも敗者になるだけだ」との見方を示した。
アナリストは、「中国の輸出規制の実施は、米国と本質的に異なるものだ」と指摘した。
4.中国の輸出規制に断固反対するアメリカ
当然ながら、この措置にアメリカは反発。
7月5日、アメリカ商務省の報道官は「断固反対する」と表明。同盟国やパートナーと協力してこの問題に取り組んでいく、と述べました。
日本も西村康稔経産相が4日の閣議後の会見で、「仮にわが国に対し、WTOなどの国際ルールに照らして不当な措置が講じられているということであれば、ルールに基づいて適切に対応していきたい」と、中国側に意図や運用方針を確認する考えを明らかにする一方、中国の規制について、日本の措置に「関連して講じられたものとは承知していない」と語っています。
まぁ、WTOがどこまでアテになるのか分かりませんけれども、1年や2年で片付く問題とも思えません。第一、中国商務省の魏建国元次官はアメリカの抗議に対し、「輸出規制は中国による対抗措置の始まりに過ぎない……中国が利用できる制裁の手段や種類はほかにもたくさんある。中国に対する制裁がエスカレートすれば、中国の対抗手段もさらにエスカレートするだろう……中国企業への弾圧など、覇権主義を利用したデカップリングの試みは、結局自らの足を砕くことになる」と、アメリカなどの対中輸出規制を厳しく批判していますから、この通りであれば、ガリウムやゲルマニウムの供給は一時的にせよ、減ることになります。
5.レアメタルも脱中国へ
今回の中国の輸出規制の影響は既に出始めているようで、中国にヒ化ガリウムなどの製造拠点を持つアメリカ企業のAXTは慌てて輸出許可申請を出し、中国の関連企業に対しては、アメリカ、日本、EUのバイヤーからの問い合わせが殺到し、製品価格の見積もりが高騰し続けているのだそうです。
中国がアメリカなどから半導体関連の輸出規制という制裁を受け続けた場合、中国は、今回のように、ゲルマニウムやガリウムの輸出規制で対抗しようとするのは、ある意味想定されていたことだと思われます。その意味では、今回の中国の輸出規制は脱中国依存のためのコストだと見ることもできるかもしれません。
ロイターによると、2022年の中国産ガリウム製品の主要輸入国は日本、ドイツ、オランダだそうで、ゲルマニウム製品の主要輸入国は日本、フランス、ドイツ、アメリカだとのことですから、今回の措置で一番影響を受けるのは日本だと見られているようです。
そもそも、なぜ、ここまでガリウムやゲルマニウムを中国に依存していたかというと、身も蓋もない言い方をすれば「安い」からです。
ガリウムは単体の鉱床があるわけではなく、多くはアルミニウムの原料であるボーキサイトや亜鉛鉱の採掘の副産物として採掘されます。つまり、ガリウムを生産しようとすれば、アルミ生産などとセットで行うことになるのですけれども、アルミニウムの溶解・鋳造工程で生じた煙には、大気汚染の原因となる粉塵が含まれるなど問題になっています。
また、ゲルマニウムも、主にゲルマニウム含有スラグや煤煙、石炭などから抽出されていることから、こちらも環境汚染問題を孕んでいます。
中国では主に、雲南、広東、江蘇、湖南がゲルマニウム生産の集中地区だそうで、雲南のレアアース、レアメタルによる地質水質汚染は10年前の時点で大きな社会問題となっていたそうです。
けれども、そこはそれ、中国は、経済発展のために環境を犠牲にすることを厭わず、世界シェアを奪い取ったという訳です。
今後、対抗策として、日米などが協力して新たな鉱山開発投資や代替技術研究を行うことになると思われますけれども、中国の地質化学院鉱物資源研究所の高天明研究員は「日米は中国のレアアース・レアメタルに依存しないサプライチェーンを確立しようとするだろう」と予測しているようです。
果たして、日米が今回の輸出規制を奇貨として、新たな技術革新を行っていくのか。注目したいと思います。
この記事へのコメント
yoshi
私も同感です。
簑島
いい名前だなあ。