中国を名指し批判したNATO首脳声明

今日はこの話題です。
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1.他国を侵略したこともなければ内政干渉したこともない


7月12日、中国外務省の汪文斌副報道局長は12日の定例記者会見でNATO首脳会議の共同声明について激しく批判しました。

汪報道官は「NATO首脳会議の共同声明の当該文言は是非を混淆し、白黒を逆さまにし、冷戦思考とイデオロギー的偏見に満ちており、中国は断固として反対する。中国はこれまで他国に対する侵略も代理戦争も行ったことはなく、世界中で軍事活動を展開しておらず、他国を武力で威嚇せず、イデオロギーを『輸出』せず、他国の内政に干渉したこともない。我々は軍事ブロックの構築や参加を行わず、国際関係における武力の使用または武力による威嚇に反対している。どうして中国がNATOにとって『体制上の挑戦』になると言うのか」と反発。

そして「NATOのアジア太平洋への東進は、緊張した地域情勢を撹乱し、陣営対立、さらには『新冷戦』を引き起こすことにしかならない。我々はNATOに対し、直ちに中国に対する事実の歪曲とイメージ毀損、嘘の捏造を止め、冷戦思考やゼロサムゲームという時代後れの考えを捨て去り、欧州を混乱させ、アジア太平洋に惨禍と動乱をもたらす危険な行為を止めるよう促す。自らの持続的拡大のための口実探しをすべきではない」と警告しました。

更に、NATOが警戒を強める中露の連携強化については「中露は非同盟で第三者を標的としない原則の上に成り立ち、大国関係のモデルを確立した。NATOのような陣営間対抗の枠組みとは本質的に異なる」と反論し、中国が核戦力を拡大しているという指摘についても「中国は自衛防御の核戦略を堅持し、最低限の核戦力にとどめている。核の先制不使用の政策を順守している唯一の核保有国だ。NATOの核共有こそ、国際社会が懸念を抱く理由がある」と主張しました。

「中国は他国を侵略したこともなければ、内政干渉したこともない」とは、呆れてものも言えませんけれども、外交の場では嘘でも、これくらいいえなければならないのではないかとさえ思ってしまいます。


2.中国を名指ししたNATO首脳声明


中国がここまで反発したNATOの共同声明から、中国に言及している部分を拾うと次の6節ありました。全90節中6節、約6.7%。これを多いとみるか少ないとみるかは脇に置くにしても、ヨーロッパのNATOにして、中国の存在・脅威が無視できなくなったことを示唆しています。

件の節は次の通りです。
6. 戦略的競争、蔓延する不安定性、および度重なるショックが、我が国のより広範な安全保障環境を定義づけている。アフリカと中東における紛争、脆弱性、不安定性は、我が国とパートナーの安全に直接影響を与える。中華人民共和国 (PRC) が表明した野心と強制的な政策は、我々の利益、安全保障、価値観に挑戦している。我々は、同盟の安全保障上の利益を守るという観点から、相互の透明性の構築を含め、中国との建設的な関与に引き続き前向きである。我々はサイバー、宇宙、ハイブリッド、その他の非対称の脅威、そして新興テクノロジーや破壊的テクノロジーの悪意のある利用に引き続き直面している。

23. 中華人民共和国が表明した野心と強制的な政策は、我々の利益、安全保障、価値観に挑戦しています。中国は、その戦略、意図、軍事力の増強については不透明なままでありながら、世界的な拠点と計画力を増大させるために幅広い政治的、経済的、軍事的手段を採用している。中国の悪意のあるハイブリッドおよびサイバー作戦とその対立的なレトリックと偽情報は同盟国を標的にしており、同盟の安全に損害を与えている。中国は、主要な技術分野と産業分野、重要なインフラ、戦略的資材とサプライチェーンを管理しようとしている。経済的レバレッジを利用して戦略的依存関係を築き、影響力を高めている。宇宙、サイバー、海洋の分野を含め、ルールに基づく国際秩序を破壊しようと努めている。

24. 我々は、同盟の安全保障上の利益を保護する観点から、相互の透明性の構築を含め、中国との建設的な関与に引き続き前向きである。我々は同盟国として責任を持って協力し、欧州大西洋の安全保障に対して中国が提起する組織的課題に対処し、同盟国の防衛と安全を保証するNATOの永続的な能力を確保している。我々は共通認識を高め、回復力と備えを強化し、中国の強圧的な戦術や同盟を分断しようとする取り組みから身を守っている。我々は、共通の価値観と、航行の自由を含むルールに基づく国際秩序を守る。

25. 中国とロシアの戦略的パートナーシップの深化と、ルールに基づく国際秩序を弱体化させようとする両国の相互強化の試みは、我が国の価値観と利益に反する。我々は中国に対し、国連安全保障理事会の常任理事国として建設的な役割を果たすこと、ロシアのウクライナ侵略戦争を非難すること、ロシアの戦争遂行をいかなる形でも支援しないこと、ウクライナを非難するロシアの虚偽の話を拡大することをやめることを求める。NATOはロシアのウクライナに対する侵略戦争と国連憲章の目的と原則の遵守を支持した。我々は特に中国に対し、責任ある行動をとり、ロシアへのいかなる致命的な援助も控えるよう求める。

55. 中国は、核軍備管理やリスク削減を達成するための有意義な透明性や誠意ある努力を怠りながら、より多くの弾頭とより多くの洗練された運搬システムを確立するために核兵器の急速な拡大と多様化を進めている。我々は、NPTの目的を損なう、民間計画を装った軍事計画のためのプルトニウムの生産または生産を支援するいかなる試みにも反対する。我々は、中国に対し、戦略的リスク削減の議論に参加し、核兵器の政策、計画及び能力に関する透明性の向上を通じて安定を促進することを求める。

74. ロシアのウクライナ侵略戦争の文脈において、NATO-EU協力はより重要になっている。我々は、補完的で一貫性があり、相互に強化する役割を活用する上で、目的の統一と共通の決意を明確に示してきました。NATOとEUはウクライナを支援し続ける。この点で、我々は、ウクライナに関する専任のNATO・EUスタッフ調整局の設立を歓迎する。我々はまた、偽情報との戦い、ハイブリッド脅威やサイバー脅威への対抗、演習、作戦協力、防衛能力、防衛産業と研究、テロ対策、防衛・安全保障能力構築などの戦略的コミュニケーションにおいて目に見える成果を上げてきた。我々は、レジリエンス、重要なインフラの保護、新興技術や破壊的技術に関する協力をさらに拡大しています。宇宙、気候変動による安全保障への影響、地政学的競争。我々はまた、中国がユーロ・大西洋の安全保障にもたらす体系的な課題にも引き続き取り組んでいく。NATOとEUの協力を前進させるためには、NATOとEUの間の政治対話が引き続き不可欠である。
かなり、具体的に、中国のやり口を分析、警戒しています。中国が「サイバー、宇宙、ハイブリッド、その他の非対称の脅威、そして新興テクノロジーや破壊的テクノロジーの悪意のある利用をしてくる」と名指ししている点は注目してよいのではないかと思います。

ここまできっちり批判している声明を見ると、中国汪文斌副報道局長の「NATO首脳会議の共同声明の当該文言は是非を混淆し、白黒を逆さまにし、冷戦思考とイデオロギー的偏見に満ちている」とか「他国を侵略したこともなく内政干渉したこともない」という反論は、いわゆる「あなたの感想ですよね」レベルのものに聞こえてしまいます。


3.中国問題はローカルかワールドワイドか


7月12日、中国「環球時報」の英語版「GlobalTimes」は、今回のNATO共同声明について、「中国、NATOにアジア太平洋の不安定化を警告」という論説を掲載しました。

一部引用すると次の通りです。
【前略】

今年のNATOコミュニケは、「中国が表明した野心と強圧的な政策は、我が国の利益、安全保障、価値観に挑戦している」と主張する一方、「我々は中国との建設的な関与に引き続き前向きである」とも述べた。

中国国際問題研究院欧州研究部長の崔洪健氏は水曜日、環球時報に対し、2022年のマドリード首脳会議では中国について宣言文の一文でしか言及されなかったのに比べ、ビリニュスのコミュニケでは中国への言及が多くなったと語った。さらに頻繁に。政治、安全保障、科学技術、貿易、経済の分野でNATOを包括的に「脅かす」中国のイメージを示している。

中国代表部はNATOの主張を強く拒否し、コミュニケには冷戦時代の考え方とイデオロギーの偏見を反映する反復的なレトリックが含まれていると述べた。基本的な事実を無視し、中国の立場や政策を意図的に歪め、中国のイメージを傷つけるものだと声明を発表した。

冷戦の産物として、NATOは歴史上悪い実績を持っている。国際安全保障情勢の悪化を背景に、NATOは自らの責任を反省するどころか、地域軍事ブロックとして根拠のない非難を繰り返し、国境を越えて問題に干渉し、対立を生み出している。これはNATOの偽善と拡大と覇権を求める野心を完全に暴露していると中国代表部は述べた。

中国代表部の声明は、中国が自国の主権、安全保障、開発利益を断固として守り、NATOのアジア太平洋地域への東進に断固として反対し、中国の正当な権利と利益を危険にさらすいかなる行動にも報復することを厳しく警告している。

中国とロシアの関係が「ルールに基づく国際秩序」を損なっていると非難するNATO首脳会議の宣言に対し、中国外務省は水曜日、中露関係は非同盟・非対立の原則に基づいていると述べた。

【中略】

中国外交大学の李海東教授は水曜日、環球時報に対し、NATOと中国の関係は中米関係の状況によって決まるだろうと語った。なぜならNATO同盟は米国政府によって主導され、深く管理されているからである。将来的に中国は、アジアにおけるNATOの存在感の増大に備え、米国主導の同盟が中国の国益と主権に対してもたらす潜在的な脅威に備える必要がある。

しかし、アジア太平洋地域で中国と対峙するという負担を欧州の同盟国に共有させようとする米国の試みは、フランスなどEU主要国から強い反発を受けている。日本のメディア、日経アジアによると、最新の証拠は、NATOが日本に連絡事務所を設立する計画を共同声明から削除したことだ。

NATOが東京に連絡事務所を開設することに向けて日本政府と協議を続けると記した一文は、数回の協議を経て残っていたが、最後の協議で削除されたと関係者が日経アジアに語った。

中国のアナリストらは、米国が同盟国にアジア太平洋地域への拡大を推進すればするほど、同盟内でより多くの相違が生じるだろうと述べた。

フランスのような欧州諸国は、米国の指示に盲目的に従うよりも、アジア太平洋に関して独自の戦略を追求することを好み、アジア太平洋におけるNATOの軍事プレゼンスは自国の戦略を侵害し、欧州の戦略的自主性を損なうとみなしている。この地域では米国に従うことを余儀なくされた、と崔氏は語った。

さらに、もしNATOが日本に事務所を設立すれば、それは東方への拡大の具体的な兆候とみなされるだろう。こうした動きは中国を刺激するのは確実で、欧州各国は欧州の大混乱が未解決のまま、欧州の安全保障とは何の関係もないアジアでの新たなトラブルに巻き込まれることを望んでいない、と専門家らは指摘する。

非常に機密性の高い「台湾」という言葉は、NATOのコミュニケでは言及されていなかった。アジアの一部の米国同盟国、特に日本が中国に「脅威」を感じている主な理由は、彼らが米国に従って中国の核心的利益と内政問題、つまり台湾問題に介入しようとしているからだ。フランスなどのNATO加盟国の多くは、米国や日本に追随することは不必要な危険にさらされるため非常に賢明ではないと考えているが、これらのEU加盟国も中国と安定したWin-Winの関係を築こうと懸命に努力している。専門家らは指摘した。

日本の岸田文雄首相と韓国の尹錫悦大統領は今年のNATO首脳会議に出席した。

岸田外相は水曜日の首脳会談で、日本とNATOの協力は伝統的な安全保障分野を超え、サイバー、新興技術、破壊的技術、戦略的コミュニケーションにまで及ぶと述べ、最近合意されたNATOとの協定「個別にカスタマイズされたパートナーシッププログラム(ITPP)」について述べた。

聯合ニュースによると、尹氏はまた、韓国はNATOとの軍事情報共有を強化し、ウクライナ支援のためのNATO信託基金に参加すると述べた。
「GlobalTimes」は去年まで一文でしか触れられていなかった中国への言及が今回激増したことに警戒感を示しつつも、NATOはアメリカに主導・管理されているから、米中関係によって決まっていくだろうとし、アメリカはNATOにも中国と対峙させようと目論んでいるが、フランスが裏切りつつあるとも指摘しています。

このあたりが今の中国共産党指導部の見方ではないかと思います。

今回のNATO首脳会談後、イェンス・ストルテンベルグNATO事務総長は、記者会見で中国について「中国政府の世界的な自己主張とロシア政府の対ウクライナ戦争には、NATO、EU、インド太平洋パートナー間の一層の緊密な連携が必要だ」と述べています。

また、共同声明でも25節で「中国とロシアの戦略的パートナーシップ」に言及するなど、中国をロシアとウクライナ戦争にリンクさせて考えているのではないかと思わせる節もあります。

NATOの動きは米中関係だけでなく、中国問題をアジアのローカルな問題と考えるか、それとも世界的な問題と考えるのかでまた違ってくるのではないかと思いますね。


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