ドローン戦争

今日はこの話題です。
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1.三菱重工の高出力レーザー


三菱重工業は、3月15日に開幕した日本最大の防衛装備品の見本市「DSEI JAPAN」でドローンを迎撃できる高出力レーザー装置の実物を初めて公開しました。

三菱重工業の担当者によると、この高出力レーザー装置は車両搭載型で社内で研究が重ねられ、過去2年ほど鹿児島県の種子島で実証試験を繰り返してきたそうです。10kW(キロワット)の出力で1.2キロ先のドローンを撃ち落とすシーンが映像に収められています。

レーザーのようなエネルギーを目標に照射して破壊する「指向性エネルギー兵器(DEW)」は軍事防衛上、コスト面で大きなメリットがあるとされています。例えば、イージス艦に搭載する迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」は1発あたり約40億円かかりますけれども、レーザー兵器が1回照射するのには電気代の数百円程度と桁違いに安く、電力が続く限りミサイルや弾薬の心配もありません。

三菱重工業は社内研究を踏まえ、2021年11月に防衛装備庁と「車両搭載高出力レーザ実証装置の研究試作」を受注し、8億2500万円で契約していますけれども、防衛省は、令和2年度の事業として「車両搭載型レーザ装置(近距離UAV対処用)の研究」を挙げています。

その政策評価書に記された事業概要は次の通りです
3 事業の概要等
⑴ 事業の概要
機動展開能力を有する車両搭載型レーザ装置を試作し、近年脅威が増大している複数の連携する小型UAV※1を用いた攻撃等への対処を可能とする技術を確立するものである。
※1 UAV:Unmanned Aerial Vehicle(無人航空機)

⑵ 総事業費(予定)
約33億円(研究試作総経費)

⑶ 実施期間
令和3年度から令和5年度まで研究試作を実施する。また、本事業成果と合わせて、令和5年度から令和6年度まで所内試験を実施し、その成果を検証する。(所内試験のための試験研究費は別途計上する。)

⑷ 達成すべき目標
ア 車両搭載技術
レーザ装置、捜索標定装置、電源・冷却装置等の構成品を陸上自衛隊の現有車両に搭載する技術を確立する。
イ 運用環境適用技術
展開時の車両移動による振動の影響や、レーザの連続照射による温度変化のレーザ装置への影響を局限し、自動的に光学系を最適な状態に調整して、レーザを安定的かつ連続的に発射する技術を確立する。
このように、陸自の車両にレーザ装置を搭載し、複数の連携する無人航空機を撃ち落とす技術を開発する、としています。

そして、この事業の総合的評価として次のように評価しています。
6 総合的評価
複数の連携する小型UAVによる攻撃等が現実的になりつつある中、即時対処性に優れた高出力レーザを機動性のある車両に搭載する実証研究は、それら攻撃等に対する対処能力の着実な構築に資するものであり、実用化へ向け、各装置を小型・軽量化して現有車両に搭載する技術及びレーザを安定的かつ連続的に発射する技術について研究を行うことは理解できる。

また、これまでの高出力レーザシステムに関する研究成果を最大限取り込み、確実かつ早期に車両搭載型レーザ装置として実現するという取り組みは評価できることから、本事業に着手することは妥当であると判断する。
防衛省は2021年度予算で、車載レーザーシステムの実証費用として28億円を計上、「将来の経空脅威への効率的な対処が見込まれる高出力レーザーについて、現在継続中の高出力レーザーシステムの研究の成果を活用し、レーザーシステムの車載化を実証」すると説明しています。




2.機械対機械の戦場


今や、戦場でのドローンの価値は大きく変わりました。ウクライナ戦争は、双方がドローンを広く使用した初めての大規模な紛争となっています。

ロシアのウクライナへの侵攻が始まった当初、ドローンは監視ツールとして主に使われていました。けれども、ウクライナがトルコの防衛会社であるバイカルのドローン「バイラクタル TB2」を採用してから、ドローンに対する認識は一変します。

「バイラクタル TB2」はロシアの防空網の穴を突き、戦車やトラックの車列を攻撃するために使われる一方で、強力なプロパガンダの道具としても活用されました。

一方、ロシアは22年9月からウクライナのエネルギー関連のインフラを破壊するためにイラン製の自爆ドローン「HESA Shahed 136(シャヘド136)」を投入し、2022年12月には、100万人都市であるオデーサのほぼ全域を停電に至らしめました。

いまや前線にいる両軍の兵士は、敵方の塹壕の監視に大型で高価な軍用ドローンではなく、低価格な商用モデルに武器を搭載できるよう改造して使用しています。

これについて、武器を使った暴力をなくそうと活動するオランダの団体「PAX」で人道的軍縮のプロジェクトリーダーを務めるウィム・ツウィネンバーグ氏は「手榴弾を投下できるように製品を即席で改造するところから、通常の商用ドローンを武器に変える部品を3Dプリントする段階に移行したのだ」と指摘しています。

無論、防衛産業もこれに対する対抗策を進めています。

モナコに拠点を置く防衛企業MARSS社は「シャヘド136」のような自爆型ドローンを標的にする自律型ドローンの防衛システムを開発しているのですけれども、MARSSの創業者で、最高経営責任者(CEO)のヨハネス・ピンル氏は、「機械対機械の戦場という新しい時代に突入しています」と述べ、「ウクライナはMARSSが開発しているような自律システムで反撃する必要がある……人間なら決断に数分かかるが、機械はミリ秒単位しかかからない」と指摘しています。

自爆型ドローンを自立型ドローンで迎撃する。まさに「機械対機械」の戦場です。


3.DARPAのグレムリン


今後、戦場が「機械対機械」となり、無人のドローンが航空機の主体となるのだとすると、当然ながら、航空戦術の在り方も変わってくることになります。

今から8年程前の2015年、アメリカ国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)が無人航空機(UAV)を空中発進・空中回収するという「グレムリン計画」を発表しました。

これは、C-130輸送機を母機として、無人機の空中発進・空中回収を実施する計画です。

この計画は現在も進行中で、2020年10月28日から第3次の飛行試験を実施。発進・回収の対象となる実験用の無人機「X-61A GAV(Gremlins Air Vehicle)」で2時間を超えるフライトを行い、自律編隊飛行の全ケースや安全性に関する検証を終えています。

また、母機となるC-130とのドッキングについても、2020年に行われた合計9回の接続試験は全て失敗したものの、翌21年10月29日の試験で回収に成功しています。

最後の試験では回収した機体の再整備を実施して、24時間以内に再飛行を可能としたそうで、当局は20回の再利用を想定しているとのことです。




4.ドローン搭載空中空母


或いは、回収・再利用など考えず「シャヘド136」のような自爆型ドローンをメインとすると、また違った使い方も考えられます。

2015年3月のエントリー「均衡の平和を形作る意思と飛行する母艦」で、筆者は、小型リモコン無人機を搭載した、飛行船を「空中空母」として考えてみるのもどうか、と述べたことがありますけれども、AIを搭載した自律型使い捨てドローンを飛行船に乗せて「空中空母」にするというのも、今なら荒唐無稽な話ではなくなります。

今年2月に、中国のスパイ気球がアメリカに侵入して撃ち落された事件がありましたけれども、大型の気球を撃ち落とすのは、それほど簡単なことではなく、戦闘機の機銃程度では無理で、高価な空対空ミサイルを使用するしか、今のところ有効な方法がないとされています。

それらを考えると自律型使い捨てドローンを多数搭載した、飛行船を1万メートル以上の高高度で運用することができれば、それだけでもある程度以上の抑止力になるように思います。

既に今の技術で十分可能なのですから、政府も真剣に検討してもよいのではないかと思いますね。


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