クリミア橋爆発

今日はこの話題です。
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1.クリミア橋爆発


7月17日、ウクライナ南部クリミア半島とロシア本土を結ぶクリミア大橋が爆発破損したとロシア当局者が明らかにしました。

爆発が報告されたのは現地時間夜明け前のことで、現地からの映像では、2本の道路のうち、片方の橋桁が損壊して斜めになっているほか、もう一方の橋桁にも段差ができている様子が映っています。一方、並行して走る鉄道橋には目立った損傷は見られないようです。

この日、ロシアの治安機関などでつくる「国家反テロ委員会」は、「午前3時5分、ウクライナの2つの無人艇により、橋への攻撃が行われた。テロ行為の結果、道路部分が損壊し、男女2人が死亡、子ども1人が巻き込まれた」と発表し、ウクライナ側による攻撃だとして、連邦捜査委員会が捜査を開始したと明らかにしました。

ロシア西部ベルゴロド州の知事は、死傷したのは、州内に住む夫婦とその娘だとSNSに投稿しています。

一方、イギリスの公共放送BBCやウクライナの一部メディアは、ウクライナ保安庁関係者の話として、ウクライナ軍や保安庁が関与したとする見方を伝え、ウクライナ治安局(SBU)の関係者はCNNに対し、今回の攻撃はSBUとウクライナ海軍の共同作戦だと語り、ウクライナのデジタル変革担当大臣は後に、橋は「海軍の無人機」によって攻撃されたと述べています。


2.ウクライナ政府の仕業だ


全長19キロあるこのクリミア橋は、2014年のロシアによるクリミア「併合」後にプーチン大統領の命令で建設。ロシアにとって、戦略的に最も重要なインフラの1つとされます。去年10月には、爆発により橋桁が落下していて、ロシア側は、ウクライナ側によるテロ行為だと主張し、報復としてウクライナ国内の発電所など、エネルギー関連施設に対するミサイル攻撃を繰り返しました。

クリミヤ橋の損壊について、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「ウクライナ政府の仕業だ……こうした悲劇が繰り返されないよう、みなが取り組んでいる……プーチン大統領はフスヌリン副首相に橋の修復作業を指示した。副首相は現地の視察に向かい、今夜、プーチン大統領に報告する」と、政府として状況の確認や復旧を急いでいることを強調しました。

プーチン大統領は当局者らとの会合で「クリミア橋へのテロ攻撃に対してロシアは反応するだろう。国防省は関連提案を準備している……起きたことは政権による新たなテロ行為であることを繰り返したい」と批判。橋を攻撃することに軍事的な意味はないと主張しました。

ロシア運輸省はテレグラムで「クリミア橋の橋梁で道路に損傷がある」と述べ、マラト・フスヌリン副首相は、橋の交通が再開されるのは2ヶ月近くかかるだろうとし、「民間輸送と商業輸送に利用できるフェリー」があり、鉄道橋はまだ稼働していると付け加えました。

更にフスヌリン副首相はプーチン大統領を含む当局者らとの遠隔会議で、「双方向交通は9月15日までに1車線のみ開放される。その後、11月1日に両車線の双方向交通が開放される……鉄道橋の一方通行の被害は軽微で、列車の運行には影響はない」とコメントしました。


3.ロシアの物流とロシア軍への影響


このクリミア橋は、民間向けの燃料や物資に加えて、クリミアへの生活必需品と軍用物資の両方を供給するための重要な動脈なのですけれども、ロシアの支援を受けるクリミア半島当局者のエレナ・エレ​​クチャン氏は、クリミアには燃料、食料、工業製品が十分に供給されているとコメントしています。

それでも、クリミア橋が攻撃を受けた影響は大きく、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は17日のレポートで次のように述べています。
・7月17日のケルチ海峡橋攻撃は、ウクライナ南部のロシアの物流に引き続き影響を与える可能性が高い。 ロシア当局は、7月17日朝、ロシアと占領下のクリミアの間のケルチ海峡橋に対して無人水上車両攻撃を行ったとして、ウクライナの特殊部隊を非難した。

・余波の映像には、ケルチ海峡橋の道路スパンの1つが崩壊し、別のスパンが崩壊したことが示されている 。ダメージを受けたが無傷のままだ。

・ロシア運輸省は、空爆によって鉄道橋や道路橋の支柱に損傷はなく、ケルチ海峡橋を渡る鉄道交通は空爆から数時間後に再開されたと主張した。

・ロシア占領当局は、占領下のクリミアから占領下のウクライナ南部を経由してロシアに大量の民間交通のルートを変更し、ロシア情報筋は、クリミアのジャンキョイ・ライオンと占領下のヘルソン州でメリトポリに向かう大規模な交通渋滞を報告した。

・占領下のクリミアから逃れるロシア人観光客は交通を悪化させ、クリミアからザポリージャ州とヘルソン州の後方地域へのロシアの物流を妨げた可能性が高い。占領当局は民間人に対し、当面の交通問題を軽減するための代替避難経路を検討するよう要請した。

・ウクライナ主要軍事情報局(GUR)報道官のアンドリー・ユソフ報道官は、この事件へのウクライナの関与についてコメントを控えた。

・ISWとウクライナ当局者が以前に報告したように、ケルチ海峡橋と占領下のクリミアの軍事地域は、ロシアの本格的なウクライナ侵攻と占領に対する防衛におけるウクライナ軍の正当な軍事目標である。

・ロシア政府がロシア社会を戦時体制に整えることに失敗し続けていることは、ロシアの物流に大きな影響を与えるだろう。南部で進行中のウクライナの反攻のさなか、占領下のクリミアへのロシア観光客からの交通がウクライナ南部へのロシアの物流を渋滞させているからだ。 ケルチ海峡橋はロシアの南軍部隊を支援する2本の地上通信線(GLOC)のうちの1本に沿っており、もう1本のルートは占領下のドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州を通る。この唯一残された兵站ルートは現在、ウクライナの反撃に抵抗するために必要なウクライナ南部の多数の機械化ロシア軍への補給にとって単一障害点となっている。それにも関わらず、ロシアと占領当局は占領下のクリミアを観光地として宣伝し続け、責任ある政府として避けるべきとアドバイスするのではなく、ロシア民間人に戦闘地域を車で通り抜けてそこに行くよう促している。

・ISWが以前報じたように、ロシア占領当局は最近、ケルチ海峡橋を渡るロシア人観光客の増加による交通問題の軽減に苦心している。

・ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、ケルチ海峡を渡って観光客を運ぶためにロシアの軍事資産を使用するよう命じさえした。

・一部のロシアのミルブロガーは、ケルチ海峡橋への攻撃によって観光客の流れが減り続けるべきではないと示唆した。
このように戦争研究所はクリミア橋の損傷はロシアの物流に引き続き影響を与える可能性が高いとしています。

その一方、アメリカ政府は、クリミア橋の爆発について、ロシア軍に劇的な影響ないと見ています。

17日、アメリカ国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官はホワイトハウスでの記者会見で、ウクライナ国内で展開するロシア軍の補給経路はクリミア橋以外にも多数あると指摘。爆発について「クリミアやウクライナ南部でのロシアの防御態勢や軍事能力への影響はまだ見られない。橋への攻撃が、ロシアが戦い続ける能力に重大な軍事的影響を及ぼすかどうかを知るには時期尚早だと思う」と語っています。


4.ウクライナの大反攻は大持久戦となるか


今回のクリミヤ橋損傷に関する報道で、チラチラと指摘されているのが、「黒海イニシアティブ」の履行停止との関連です。

「黒海イニシアティブ」とは、ロシアのウクライナ侵攻で悪化した世界的な食料危機に対処する措置で、国連とトルコが仲介して昨年7月にまとまった合意です。ウクライナ産穀物の海上輸送再開を可能にするものですけれども、ロシアの農産物や肥料の輸出を支援する期間3年の協定も同時に締結されています。

けれども、ロシアはこの合意が守られていないと主張しています。

7月13日、ロシアのプーチン大統領はロシアの戦場記者や軍事ブロガーとの会合で、西側諸国はロシアの農産物を世界市場に供給するという約束を何一つ履行していないと指摘し、「残念ながら、また騙された」と述べ、合意離脱を検討していることを明らかにしました。

その後合意は、何度か期間の延長がされており、直近では5月に2ヶ月延長されていたのですけれども、その期限がクリミア橋が損傷した日付と同じ17日でした。

こうしたことから、「黒海イニシアティブ」からのロシアの離脱と今回のクリミア橋損傷とが何か関係あるのではないかという疑念が生まれていたのですね。

これについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「一切関係のない出来事だ。ロシアの立場はプーチン大統領が以前から示していた」と一蹴しました。

西側諸国が「黒海イニシアティブ」を履行していないとロシアが主張していることについて、アメリカのカービー戦略広報担当調整官は、「それはロシアのプロパガンダだ。我々の制裁はロシアの農業を標的にしておらず、協定下でもロシアは穀物や食料品を輸出できたし、肥料に対する制裁もない……変更を検討する理由はない」と断言しました。

また、クリミア橋の爆発がロシアの協定延長反対を引き起こしたとする可能性について問われると「因果関係を証明するものは何もない……現時点で、橋への攻撃が特定の団体によるものと断定する立場にはない」とした上で、橋への攻撃の合法性については「ウクライナは自国のために戦っている。クリミアはウクライナだ。何が合法的な標的で、何が合法的でないかを我々が指示することはない。彼らは自分たちで標的を決める」とコメントしています。

「黒海イニシアティブ」とクリミア橋損傷が関連しているかどうかは分かりませんけれども、ロシアとクリミアを繋ぐ重要なインフラが損傷を受けたことは間違いありません。

仮に、クリミア橋に対する攻撃がウクライナ軍だったとすれば、ウクライナの大反攻は、前線で直接ロシア軍を押し返すのではなく、後方の兵站を潰すことで中長期的にロシア軍を引かせる戦術に変った可能性も出てきます。

ウクライナの大反攻が大持久戦になるのかどうか。注目したいと思います。




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この記事へのコメント

  • yoshi

    大持久戦であろうとなかろうとウクライナが勝てばそれで良いです。
    2023年07月20日 11:06