脱炭素に動き出した中東

今日はこの話題です。
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1.外交でいろいろ仕込んでいるから大丈夫


7月19日、岸田総理は7月11日から欧州歴訪と一日休みを挟んだ16日からの中東歴訪を終え、帰国しました。

欧州歴訪前は、NATO首脳会議に合わせてリトアニア入りするウクライナのゼレンスキー大統領と会談する予定だったのですけれども、見送られました。13日、リトアニアのカウナス国際空港で記者団の取材に応じた岸田総理は、ゼレンスキーとの首脳会談が開催できなかったと明かし、その理由を「NATOの会合が大幅に長引いたため」と説明。代わりに、ウクライナ支援に関するG7首脳の共同宣言発表式典の舞台裏で控えている時に短時間の”懇談”を行ったと述べています。

これまで、日本はウクライナに対し、総額約76億ドルの支援を表明し、今回も、NATOの信託基金に拠出した3000万ドルを活用して、対無人航空機検知システム等をウクライナへ供与することを新たに表明していたのですけれども、ゼレンスキー大統領との会談は実現しませんでした。

G7広島サミットにゼレンスキー大統領自ら乗り込んだことを考えると、今回岸田総理がNATO会合に出席した機会に会談するというのは相互主義の観点から別におかしいことではありません。それを袖にされたということは、ウクライナからみて、今の日本はそれほど気を遣う相手ではない、と見られているのかもしれません。

ある自民党のベテラン議員は「総理は外交が得意だと自負しているので、このところ内閣支持率が続落していることを周囲が心配しても、『夏の間に外交でいろいろ仕込んでいるから大丈夫』と自信を持っていました。外交の舞台で活躍する姿を見せれば支持率も持ち直すと考えているようですが、今回は空振りでしたね」と指摘されてしまっているようです。


2.サルマン皇太子との会談


岸田総理は欧州歴訪に続いて16日からサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールの3カ国を訪問する中東歴訪を行いました。

岸田総理は16日夜、サウジアラビアの西部ジッダで、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談しました。日本・サウジ首脳会談の要旨は次の通りです。
【外交・安全保障】
両首脳:政治、外交、安全保障分野における両国間の交流を一層活発化することで一致した。外相級「戦略対話」の設立を歓迎する。

【エネルギー】
岸田総理:サウジアラビアからの長年の原油の安定供給へ謝意を表明。国際原油市場の安定や石油・ガス、クリーンエネルギーなどの様々な分野で協力を一層進展させていきたい。

サルマン皇太子:消費国と産油国の双方の利益になるよう努めていきたい。

両首脳:重要鉱物の探査や精製、太陽光発電の整備、水素・アンモニアの製造や利用といった分野で連携を進める。

【国際・地域情勢】
岸田総理:インド太平洋を含む国際の平和と安全に関する諸課題への対応において、引き続きサウジと緊密に連携していきたい。

サルマン皇太子:日本と様々な分野で協働できることをうれしく思う。

両首脳:世界のどこであれ、力による一方的な現状変更の試みを決して許さないことで認識を共有した。

【貿易・投資】
両首脳:両国間の関係を更に強固なものとする上で、成長活力の取り込みは重要だ。投資・ビジネス交流を一層活性化させ、査証緩和などで交流を促進していくことの重要性を確認した。

岸田総理:半導体や電池などの分野でサウジからの対日投資を拡大したい。投資促進に向けて具体的な議論が進むことを期待する。

サルマン皇太子:今後も日本への投資を重視していきたい。
会談で両首脳は、脱炭素化やレアアースなどの重要鉱物を巡って協力を強化することで合意し、外相級の「戦略対話」の創設も決めています。

また、脱炭素化の推進に向けては、日本が水素やアンモニアの製造を含む先端技術を提供し、中東地域を次世代エネルギーの拠点にする新構想を進めし、重要鉱物の供給では、サウジ国内の探査や精製などで連携を深めるとしています。

岸田総理は会談後、「日本とサウジは産油国と消費国という関係から脱皮し、新たなグローバル・パートナーシップへと進化する」と記者団に強調しました。


3.脱炭素に動き出した中東


岸田総理は、今回、総理就任後初となる中東歴訪を行った訳ですけれども、岸田総理自身は手応えを感じているようです。

今回の中東歴訪は、産油国であるサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールと、いわゆる「エネルギー外交」だったのですけれども、岸田総理は、クリーンエネルギー分野などの日本企業数十社を引き連れるなど「トップセールス」を行いました。

というのも、現在、中東各国は「脱炭素化」に動き出しているからです。

2021年10月23日、サウジアラビアのサルマン皇太子は、サウジで開いた「サウジ・グリーン・イニシアチブ」会議で2060年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロとする目標を打ち上げ、そのために1870億ドル(約21兆円)を投じると発表しました。

また、COP26に合わせて見直した新しい削減努力目標(Nationally Determined Contribution,NDC)では、2030年までに温暖化ガス排出量を35%削減と、2015年に提出した削減努力目標に対し2倍に引き上げました。サルマン皇太子は「『炭素循環経済』を通して実質ゼロを実現する」と発言。排出する二酸化炭素(CO2)を回収して工業原料に再利用したり、地中に貯留したりする「二酸化炭素回収・貯留技術(CCUS:Carbon dioxide Capture and Storage)」や再生エネの導入、そして大規模な植林を進める計画を明らかにしました。

その一方、産油国は石油・ガス生産にも力を入れています。
サウジアラビアの国有石油会社サウジアラムコは、現在日量1200万バレルの原油生産能力を2027年を目途に日量1300万バレルに引き上げるとし、またUAE最大の石油会社であるアブダビ国営石油会社(ADNOC)も、現在日量400万バレルを2030年までに日量500万バレルに引き上げるとしています。

既に、サウジアラムコは2021年11月にサウジ東部のジャフラ天然ガス田の開発に着手しています。このプロジェクトで注目すべきは、サウジにとって初めての非在来型ガス田、すなわちシェールガス田であることです。

サウジがこれまで手をつけてこなかったシェールガスの開発に踏み出したのは、Co2排出ゼロの実現に深くかかわっています。

サウジは国内の発電燃料として日量50万バレル以上の原油や重油を使っています。冷房需要が増える夏場には日量100万バレル近くまで膨らんだこともあるそうなのですけれども、サウジはカーボンゼロ実現へ発電の5割を再生エネルギーで賄う目標を立てています。

残りは排出量が石油より少ない天然ガスに切り替え、CO2は二酸化炭素回収・貯留技術で回収し、地中に固定したり再利用します。サウジアラムコが石油の採掘や精製に使う電力も天然ガスに切り替えるそうで、そのためにもガスの生産拡大が必要になってきます。

また、国内の発電に使う原油を輸出に回せれば、サウジはその分の外貨も獲得できるようになります。


4.産油国と消費国の関係から脱皮する


更に、産油国は、脱炭素時代においても資源国として踏みとどまることを目論んでいます。

そのための手段となるのが水素と水素と窒素を化合させてできるアンモニアです。これらは燃焼させても温暖化の原因となる CO2を排出しないため、これらを次世代燃料として考えているようです。実際、サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は2021年10月にサウジで開いた環境関連の会議で「サウジは最大の水素生産国になる」と語っています。

では、水素をどうやって作ろうとしているのか。

水素の製造にはいくつかの方法があります。昨年4月30日のエントリー「脱ロシア依存に動き出した世界とピンクの水素」で取り上げましたけれども、大きく4つあります。それらで製造される水素は色分けした呼ばれたりするのですけれども、これらの中で、先述した「二酸化炭素回収・貯留技術」を使って作る「ブルー水素」と、太陽光や風力などの再生エネで生産した電気を用いて水を電気分解してつくる「グリーン水素」による生産を考えているようです。

「ブルー水素」生産には、Co2を地中に埋める地面が必要になるのですけれども、採掘を終えた油田やガス田はその候補地になるそうで、サウジアラムコのナセル社長兼 CEOは「サウジには豊かな資源があり、二酸化炭素回収・貯留技術CCSのコストも安い。水素・アンモニア生産で優位にある」とコメントしています。

また、「グリーン水素」生産に必要な電気についても、広大な敷地があり日射量が多い中東は世界の太陽光発電の最安値地帯であることから、「グリーン水素」生産でも高い競争力が見込まれています。

7月18日、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油会社(ADNOC)が、トヨタ、アルフタイム・モータースの両社と提携し、水素自動車を利用して水素高速充填ステーションの試験を実施することで合意したと表明し、地域初となる水素高速充填ステーションが年内に完成すると発表しています。

水素高速充填ステーションの試験は、トヨタが試験を支援し、水から「グリーン水素」をつくるとしています。

国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)の議長を務めるアブダビ国営石油会社(ADNOC)のスルタン・ジャベル最高経営責任者(CEO)は「水素はエネルギー移行に向けた重要な燃料となり、経済の大規模な脱炭素化に寄与する。当社の主力事業の自然な延長だ」と述べています。

その他にも、富山のアルハイテック社が開発した廃アルミからグリーン水素を生成する技術や、常温で液体水素を運べる液体有機水素キャリア(LOHC)技術なども、今回の中東歴訪で売り込んだようです。

なるほど、岸田総理が「産油国と消費国の関係から脱皮する」と謳うだけのことはあります。

世界が「水素社会」にシフトするのなら、中東各国の水素シフトと日本の水素技術が肩を組むことで、きたる未来社会をリードする余地も出てきます。岸田政権が中東に撒いた種が芽吹き、育っていくのか、期待したいですね。

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