

1.去年の税金が2.6兆円も余っていた
7月3日、財務省が発表した昨年度の一般会計の決算で、税収は71兆1374億円と前年度よりも4兆995億円増えて、3年連続で過去最高を更新。初めて70兆円を超えました。このうち法人税収は、好調な企業業績を背景に前年度より1兆2970億円増えたほか、所得税収も1兆1395億円増えています。
また、消費税収は個人消費が堅調だったことに加えて、物価の上昇も反映して1兆1907億円の増収となり、税収が増えたことで、新規の国債発行額は昨年度の第2次補正予算の段階での見込みよりも、12兆円抑えられる結果となりました。
一方歳出は、武漢ウイルス対策や物価対応の予備費などで支出の必要がない「不用」が11兆3084億円と過去最大となり、その結果、決算剰余金は過去2番目に大きい2兆6294億円となりました。
剰余金の少なくとも半分は、法律の規定に基づいて国債の償還にあてられた上で、残りは防衛力強化のための財源として活用される見込みです。
ただ、この規定について自民党の特命委員会は防衛費増額の財源を上積みして増税の実施時期を先送りするため、期限を区切って例外とすることも検討するよう求めているようです。
2.わが国税制の現状と課題
6月30日、政府税制調査会は、「わが国税制の現状と課題―令和時代の構造変化と税制のあり方―」と題した中期答申を岸田総理に提出しました。
この中で、給与所得控除について、給与収入総額の3割程度が控除されているとして「相当手厚い仕組み」と指摘。具体的には会社に長く勤めるほど優遇される「退職金増税」のほか、配偶者控除、扶養控除、年末調整でおなじみの生命保険控除などの見直しが盛り込まれました。
控除についてはほかにも、地震保険料控除について、「検討を加えることが必要」と指摘。さらには電気自動車(EV)や燃料電池車についても課税強化を提言。EVは揮発油税や軽油引取税などの燃料課税がなく、税収減となるため、課税強化は「一定の合理性がある」と強調しています。
答申では「非課税所得」についても、触れられており(第2部 個別税目の現状と課題/1.個人所得課税の概要/(3)非課税所得等、次のように説明しています。
(3)非課税所得等「他の所得との公平性や中立性の観点から妥当であるかについて、政策的配慮の必要性も踏まえつつ注意深く検討する必要があります」と記述するあたり、見直しして、課税する気なのではと疑ってしまいます。
先述のとおり、個人所得課税の課税対象となる「所得金額」は包括的に捉えることが原則ですが、例えば、給与所得者に支給される旅費などの実費弁償としての性格を有するものや、一定の社会保障給付など生活保障的性格を有するもののように、その性質や政策的要請により非課税や免税とされて、課税対象から除かれている所得が存在します。
これらの非課税所得等については、それぞれ制度の設けられた趣旨がありますが、本来、所得は漏れなく、包括的に捉えられるべきであることを踏まえ、経済社会の構造変化の中で非課税等とされる意義が薄れてきていると見られるものがある場合には、そのあり方について検討を加えることが必要です。特に、政策的要請により非課税等とされている制度については、長寿命化により、そうした所得がこれまで以上に蓄積していく可能性等に鑑みれば、他の所得との公平性や中立性の観点から妥当であるかについて、政策的配慮の必要性も踏まえつつ注意深く検討する必要があります。
また、所得には、金銭による収入のみならず、現物給付、すなわち物や権利その他の経済的利益による収入も含まれますが、被用者に対する社宅の貸与、食事の支給、従業員割引など、一定の条件を満たす少額の現物給与など一定のものについては、税務執行上追求しないなどの趣旨から課税しない取扱いがされています。
3.NISA税
そんな中、7月20日午後、ツイッターのトレンドワードに「NISA税」なるものが急浮上しました。
これには、「ゆるさん岸田!」「本末転倒」「NISAの意味知ってる?」などと、猛烈な勢いでツイートされたそうなのですけれども、一方で「ソースがない」とか「NISA税はさすがにギャグやろ」と信憑性を疑う投稿も見られたようです。
デイリースポーツは、「増税案が批判された岸田首相が『報復』としてNISA税などを検討している、などとする真偽不明のネット情報が拡散した可能性が高い」とし、「ネタであることを祈る」「本当にやりかねない」と不安視する投稿も相次いでいる、と報じていますけれども、件の税調の中期答申では「金融所得課税」についても、触れられており(第2部 個別税目の現状と課題/1.個人所得課税の概要/(4)金融所得課税の一体化等)、その中にNISAが登場しています。
該当部分は次の通りです。
(4)金融所得課税の一体化等これだけ読むと、NISAについては単にその説明だけで、NISA課税を匂わせるような記述はありません。ただ、この項目は「第2部 個別税目の現状と課題/1.個人所得課税の概要」の一部であり、その前項は、制度見直しを匂わせる「(3)非課税所得等」です。金融所得課税から除外され非課税となったNISAは当然ながら、「非課税所得」になります。
金融所得課税については、金融商品間の垣根が低くなる中、税負担に左右されずに金融商品を選択することを可能とするとともに、投資リスクの軽減を図る観点から、金融商品間の税率等の課税方式を均衡化するとともに、利益と損失の損益通算も可能とするため、金融所得課税の一体化が進められてきました。
具体的には、平成 15(2003)年からは、上場株式等の譲渡所得の申告分離課税への一本化が行われたほか、特定口座制度も導入され、上場株式等の譲渡所得の申告不要制度も導入されました。平成 21(2009)年からは、上場株式等の配当所得につき、大口株主の場合を除き、分離課税や申告不要が適用できることとなり、上場株式等の譲渡損失と配当等との損益通算も可能となりました。
「貯蓄から投資へ」との観点から、金融所得課税の一体化の取組みの中で、平成 25 年度税制改正において、国・地方を合わせた 10%の軽減税率適用を廃止し、本則の 20%に戻すこととあわせて、非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税制度(NISA)の創設や、金融所得課税の一体化の拡充(特定公社債等の譲渡所得等への 20%の申告分離課税又は申告不要の適用及び損益通算範囲の拡大)が行われました。NISA制度については、平成 29 年度税制改正において、従来の「一般NISA」に加えて、積立・分散投資に適した一定の公募等株式投資信託を投資対象とする「つみたてNISA」が創設されました。令和5年度税制改正においては、「一般NISA」及び「つみたてNISA」を一本化するとともに、非課税保有期間の無期限化や投資上限額の大幅引上げなど抜本的な拡充を行った上で、制度が恒久化されました。
従って、合わせ技一本ではないですけれども、「(3)非課税所得等」と「(4)金融所得課税」の一体化等を合わせると、NISAも非課税所得等のうちとして見直し、つまり課税される可能性が出てきます。
そう考えていくと、NISA税なるものも、まるっきりネタだとは言い切れないと思います。
4.支持率はいずれ上がる
もうすっかり「増税」のイメージがついた岸田内閣ですけれども、各種世論調査でも、内閣支持率は「順調」に下落しています。
朝日新聞が17日に報じた世論調査では前回6月調査から5ポイント下落の37%となり、4月調査以来の30%台に落ち込みました。下落は2ヶ月連続で不支持率は4ポイント上昇の50%になっています。
共同通信が14日から3日間実施した全国電話世論調査でも内閣支持率は6月調査から6.5ポイント下落して34.3%となり、不支持率は7.0ポイント増の48.6%となっています。
また、産経新聞とFNNが15~16日に実施した合同世論調査でも内閣支持率は3ヶ月連続で下落し、6月の前回調査比4.8ポイント減の41.3%。不支持率は5.2ポイント増の54.4%と、2ヶ月連続で支持率を上回っています。
この事態に岸田総理が焦っているのかというとそうでもないようです。
7月20日、岸田総理は自民党の遠藤利明総務会長と官邸で会い、報道各社世論調査で続落する内閣支持率について「上がったり下がったりするものだ。いずれ上がる」と述べたようです。
強がりなのか鈍感なのかよく分かりませんけれども、自民党内の事情について、フジテレビ上席解説委員の平井文夫氏は次のように解説しています。
【前略】筆者が偏っているのかもしれませんけれども、岸田総理に来年9月まで総理を続けて欲しいと思っているのが6割もいる感じはしません。来年になれば、増税の足音も、もっとはっきり聞こえてくるでしょうし、正直、支持率が上がる要素が見えてきません。外交で何を仕込んでいるのか分かりませんけれども、生活に直結した内容でないと中々聞かないのではないかという気もします。
不思議なのは内閣支持率も政党支持率も下がり続け、マイナカードや少子化対策などの政策の評判が悪いにもかかわらず、党内に「岸田降ろし」の声が上がらないことだ。
岸田首相の周辺も、側近の木原誠二官房副長官についてのすごい記事が週刊文春に載ったが、意外にのんびりムードで、最近はNATO(北大西洋条約機構)首脳会議出席や中東歴訪など、割と「ゆるい」外遊を続けている。
世論調査で、岸田首相に「どのくらい首相を続けてほしいか」と聞いたところ、「自民党総裁の任期が切れる来年9月ごろまで」が最も多く60%。「できるだけ長く」も14%で、「すぐに交代してほしい」は24%だけだった。
どうやら、国民は岸田首相のやっていることに文句をつけながらも、しばらくは首相を続けてもいいと思っている。ということは支持率があまり高くないのに無理して解散などせず、コツコツとやるべきことをやった方がいいような気がする。
マイナカードについては、コロナパンデミックのときと同じで、一部の「ノイジー・マイノリティー」が大騒ぎし、それに一部野党やメディアが乗っかって騒ぎが拡大するというパターンに陥っているようにも見える。「サイレント・マジョリティー」は冷静に見ているので、適切に対応すればいずれ沈静化すると思う。
来年9月に自民党総裁選が行われても、今のところ岸田首相の脅威になりそうな人は見当たらないので、再選も十分に視野に入る。岸田さんはあまり慌てずにどっしり構えた方がいい。本人はむしろそういうスタイルの方が好きなのではないか。
過去最大の税収がありながら増税する、この感覚が如何に庶民のそれと掛け離れているか、岸田総理に伝わる日がくるのでしょうか。
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