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1.ロシアの港湾攻撃
7月19日、ウクライナ当局は南部の港湾都市オデーサでロシア軍のミサイル攻撃があり、貯蔵インフラが被害を受け、約6万トンの穀物が失われたと発表しました。
ミコラ・ソルスキー農業相は、「相当な量の」輸出インフラが稼動していないとしています。
ウクライナ産の穀物をめぐっては、ロシアは国際協定「黒海穀物イニシアチブ」に基づき、黒海に面するウクライナの支配地域にあるオデーサ、チョルノモルスク、ユージネ・ピヴデンニの港からの穀物出荷を認めていたのですけれども、協定の期限延長に応じず、18日午前0時に失効していました。
19日、ロシアのプーチン大統領は西側諸国が穀物取引を「政治的恐喝」に利用していると非難、「ロシアが協定に参加することに同意したすべての原則が完全に考慮され、履行された場合にのみ」、国際協定への再参加を検討するとしています。
ロシアは18日未明、穀物取引協定から離脱してから数時間後にウクライナの港を標的に攻撃を開始しています。
18日夜から19日にかけては、オデーサと黒海沿岸チョルノモルスクにある穀物ターミナルと港湾インフラを狙いました。これら三つの港のうち二つは、出荷拠点として穀物取引に含まれていました。
ウクライナ軍当局によると、9歳の少年を含む少なくとも12人の民間人が負傷した。複数の集合住宅も被害を受けたとしています。
そして20日には、ロシア軍がオデーサの港に対する集中空襲を行い、少なくとも27人の民間人が負傷、市内にある中国領事館の建物も被害を受けたようです。
オデーサ州のオレ・キペル知事は、オデーサ市内の中心部にある中国領事館の窓ガラスが割れた写真をソーシャルメディアにて公開。キペル知事は「侵略者たちが故意に港基盤施設を打撃しており、周辺の行政用の建物と住宅も被害を受けた」と説明し、中国外務省は爆風で「領事館建物の壁の一部と窓が壊れた」と明らかにしました。
オデーサ州と隣接したミコライウ州のミコライウ市も空襲に遭い、住居用建物1軒が炎に包まれ、周辺の住居用建物数軒も被害を受けたと現地当局が明らかにしています。
2.ウクライナの港に入る船舶も標的だ
7月20日、更にロシア軍は黒海湾岸の港への攻撃に止まらず、黒海のウクライナの港に入る船舶を潜在的な軍事物資輸送船とみなすと警告しました。ロシアの国防省は、「そのような船舶が籍を置く国は、キエフの政権側につき、ウクライナ紛争に関与しているとみなされる」としています。
これに対し、ウクライナ国防省は「21日0時から黒海のロシアの港とロシアが占領しているウクライナの港に向かうすべての船舶を軍事物資輸送船とみなすことを警告しておく……『モスクワ』の運命は、ウクライナ軍が海上でロシアの攻撃を撃退させるのに必要な手段を確保していることを証明する」とコメントしています。
ロシアの船舶攻撃宣言に関連し、前日の19日、アメリカ国家安全保障会議(NSC)のアダム・ホッジ報道官は「ロシアがウクライナ港に入る航路にさらに魚雷を設置したという情報を入手した……ロシア軍が民間船舶を攻撃する可能性がある……こうした動きは黒海で民間船舶に対する攻撃を正当化し、責任をウクライナに押し付けようとするもの」だと警告しました。
これに対してロシアのアナトリー・アントノフ米国大使は、「ロシアが民間船舶に対する攻撃を準備しているという主張は純粋なでっち上げ」だとし、「我々はアメリカのこのような主張を自分たちの破壊行為を隠そうとする試みと見なす」とソーシャルメディア上で反論しています。
いずれにしても、黒海海上で両軍が衝突する危険性が高まっていることは間違いありません。
3.上昇する小麦価格
ロシア政府は、ウクライナが黒海の穀物回廊を「戦闘目的」で利用していると批判し、オデーサへの攻撃について、先日のクリミヤ大橋への攻撃に対する「大規模報復攻撃」だとしていますけれども、ロシアがウクライナの港へ向かう船舶を軍事標的と見なす可能性があると表明したこともあり、世界市場で小麦の価格が上昇しています。
19日、欧州の株式市場では、小麦が前日比8.2%値上がりし、1トンあたり253.75ユーロ(約4万円)となり、トウモロコシの価格も5.4%上昇しました。アメリカの小麦先物価格も8.5%急騰、ロシアのウクライナ侵攻開始以降で最も高い伸び率を示しました。
これについて、マレックス・キャピタルのアナリスト、チャーリー・サーナティンガー氏は、ロシアが武力行使のエスカレーションを脅すことで、ロシア産とウクライナ産両方の、「黒海を経由する水上穀物輸送がすべて断たれることになり、ロシアのウクライナ侵攻当初と同じ状況につながると指摘しています。
ウクライナは世界有数のヒマワリ、トウモロコシ、小麦、大麦の輸出国ですけれども、ロシアによる昨年2月の侵攻開始前まで、多くの国がウクライナから穀物を輸入していました。
例えば、レバノンは国内で消費する穀物の75%近くを輸入していたほか、パキスタン、リビア、エチオピアなどもウクライナの農産品に大きく依存していました。
勿論、黒海からの海上輸送に代わる手段がないわけではなく、ドナウ川の水路からルーマニアを経由する輸送路もあります。ただし、陸路で運べる量は限られます。
また、東欧の欧州連合(EU)加盟国は自国の農家を守るためにウクライナの穀物の入国を阻止しているという事情もあります。
国連データによると、先日失効した「黒海穀物イニシアチブ」によってウクライナから輸出された穀物の半分以上はトウモロコシで、約3300万トンのうち800万トンは中国へ、続いて600万トンがスペイン、320万トンがトルコへそれぞれ運ばれたとしています。
4.ウクライナの防空能力は十分ではない
7月20日、ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオ演説で、ロシアが黒海沿岸の穀物積み出し港への攻撃を強めていることについて、防空システムの能力強化に向け、西側各国に追加支援を要請していると明らかにしました。
ゼレンスキー大統領は、ロシア軍が17日以降の4日間で様々な種類のミサイル約70発と自爆型無人機約90機を南部オデーサやミコライウなどに発射したと説明し、「ウクライナ空軍の防空能力は十分ではない。オデーサや全土に平和と安全がもたらされるように、我々のパートナーと協議している」と防空システム強化の必要性を訴えました。
ウクライナ空軍によると、ロシア軍が20日にミサイル19発と無人機19機で攻撃したのに対し、ウクライナ軍はミサイル5発と無人機13機を迎撃するにとどまったようです。
5.アイアン・ドームは提供しない
ゼレンスキー大統領は防空システムの提供を求めていますけれども、思い通りになるかは分かりません。
6月28日、在イスラエルのウクライナ大使館は、「ロシアは空爆し、我々の国民を殺害している。それなのに、イスラエルはウクライナに防衛装備品を売るのを依然として拒んでいる」とイスラエルを痛烈に批判する声明を出しています。
これは、前日の27日、ウクライナ東部ドネツク州の商業施設でロシア軍のミサイル攻撃により市民ら4人が死亡したことを受けた声明なのですけれども、地元では、世界で最も優れているとされる対空防衛システム「アイアン・ドーム」や武器を提供しないイスラエルに対する「苛立ち」だと受け止められているようです。
イスラエルは2011年に「アイアン・ドーム」を配備したのですけれども、それ以来、イスラム主義組織ハマスが実効支配するガザのほか、レバノンやシリアから発射されるロケット弾を迎撃しています。昨年8月には、ガザから撃ち込まれたロケット弾470発のうち実に97%を迎撃。その実力にウクライナが目を付けたのですね。
ウクライナは昨年10月、イスラエルに「アイアン・ドーム」などの防空システムの提供を正式に申し入れ、アメリカからも「アイアン・ドーム」をウクライナに提供するよう再三要求されていました。けれどもイスラエルは提供を拒み、ウクライナ支援も軍事物資を送らず、医療機器の提供など人道支援にとどめています。
イスラエルは、内戦が続くシリアの軍施設や武装勢力の拠点への空爆を散発的に続けているのですけれども、この空爆は、シリアの制空権を握るロシアの黙認なしには実行できないという事情があるなど、イスラエルは、ロシアを刺激しないために「アイアン・ドーム」の提供を拒んでいるのだと見られています。
イスラエル軍の前情報局長で国家安全保障研究所のタミール・ハイマン所長の話「アイアン・ドームは北のシリアや南のガザからのロケット攻撃にさらされるイスラエルにとって国民の命を守るために欠かせない装置だ。イスラエルが最も懸念しているのは、シリアでの動向に加え、ウクライナに供与した最先端の技術が奪われ、ロシア、さらにイランに流出することだ。そうなればこの装置の優位性を保てなくなる。イスラエルは今後もウクライナにアイアン・ドームを提供することはないだろう」と指摘しています。
ロシアがミサイルや自爆ドローンでウクライナの港を攻撃し、ウクライナ側がそれを十分に迎撃できないとなると、ウクライナは穀物輸出も出来ず、ジリ貧になることも考えられます。
ウクライナ発の食糧危機が起こらないことを祈ります。
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