

1.立憲民主を超えた日本維新の会
日本維新の会が勢いづいています。
7月15、16日に産経新聞社とFNNが実施した合同世論調査で、「どの政党を支持するか」と聞いたところ、立憲は5.5%(前回6.4%)だったのに対し、維新は8.7%(前回9.3%)と、立民を上回り野党で最も高い支持を集めました。
この結果について、18日、立憲の岡田克也幹事長は18日の記者会見で、「どういう調査をしているか説明を受けていない。いろいろ加工しておられると思う。その辺がわからないのでコメントのしようがない。各社の調査にコメントする気はない」と述べました。
まるで維新の支持が立民を上回ったのは、「加工」したせいだといわんばかりのコメントですけれども、今回を含め、立憲の支持率は4ヶ月連続で維新を下回っています。しかも、そのポイント差は4月が1.6、5月が2.2、6月が2.9、7月には3.2と徐々に広がっているのですね。
更に、次期衆院選の比例代表投票先については、維新の11.4%に対し、立憲は7.5%にとどまっています。
こうした情勢も見据え、立憲の泉健太代表は16日、訪問先の奈良市内で記者団に、維新について「憲法改正などかなり国民の現実から離れた政策を表に掲げている。これでは国民の生活、命、暮らしは守れない」と批判しました。
一方、維新の馬場伸幸代表は今回の調査結果について、産経新聞の取材に「支持率は下がるときは下がる。一喜一憂せず、やるべきことを一歩ずつ前に進めたい」と余裕の受け答えをしています。
維新関係者は、立憲について、憲法などを念頭に「内部のイデオロギー対立で議論の入り口にも立てず、国民の役に立たない。一日も早く野党第一党の座を奪いたい」と述べています。
2.第2自民党
その維新の馬場代表は、7月23日、インターネット番組『ABEMA的ニュースショー』に出演しました。
馬場代表は6月7日の党会合で、立憲民主党の憲法論議に関する姿勢や、国会での日程闘争路線について「最近発刊の月刊誌のインタビューでも申し上げたが、立憲民主党をまず、叩き潰す。今日の議論を聴いても、全く国会議員としての責務が分かっていない。国会でとにかく遅延工作をする先祖返りを起こしている。本当に国家国民のために、この方々は必要なのか」と批判していたのですけれども、番組では、この「叩き潰す」発言について、立憲幹部が「あくまで第2自民党、自民党の補完勢力でしかない。立憲を潰すって言っているのは、結局、自民を利するだけ。あくまで自民党と組みたいという本音が出ているのではないか」と発言したことを紹介しました。
これについて見解を問われた馬場代表は「我々が目指しているのはアメリカのような二大政党制だ。立憲民主党はカラスを白と言う人と黒と言う人が一緒にひとかたまりになるという主張だが、われわれは黒と言う人だけで集まり、自民党と対決していく……第1自民党と第2自民党でいい。その第1自民党と第2自民党が改革合戦をして、国家・国民のために競い合う。それが政治をよくしていくことにつながる。立憲がいてもなにもよくならない」とバッサリ。
そして、立憲民主党と連携する可能性については「未来永劫ない。やるか、やられるかの戦いだ」と真っ向否定しました。
この発言について、立憲の泉代表は、高知市内で記者団に対し「日本維新の会は、党名を『第2自民党』に変えるとよりわかりやすいのではないか。どんどん『第2自民党』を名乗り、頑張ってもらえればと思う」と述べ、日本維新の会との連携について「未来永劫ないだろう」とこちらも否定。次の衆議院選挙に向けた候補者調整については「相手があってのことで、相手に全くやる気がなく自民党をサポートし、自民党と戦う気がないということであれば協力のしようがない」と述べています。
3.日本から無くなったらいい政党
そして、番組で、馬場代表は返す刀で他党についても言及しています。
公明党については、「大阪では過去4回、候補者を立ててこなかった。大阪都構想はいま凍結しているので、公明党にお願いすることはいまはない。野党第1党の目標を達成するためには1議席もムダにできない。関西の6選挙区すべてに候補者を出して、公明党とも戦う」と宣言。共産党に至っては「日本から無くなったらいい政党で、言っていることが世の中ではありえない。空想の世界をつくることを真剣に真面目に考えている人たちだ」と批判しました。
一方、国民民主党については「考え、政策は非常に似通っている。国民はバックに連合という組合の連合体の組織がついている。われわれのバックにはなんの組織も企業も団体もついていない。そこが違う」と論評しました。
何か、こう自分達が既に与党であるかのようにも感じられる発言ですけれども、馬場代表の「第1自民党と第2自民党が改革を競い合うべき」発言に対し、SNSでは「維新のこと、党首が自ら「第2自民党」って呼んじゃうんだ…」「自民党は二つもいらん。不要だ。二大政党制をめざすなら自民党に対抗するのが自民党ではない政党でなくてはいかんだろう。維新に存在意義なし」「自民党が2つでは二大政党制は成立しない。二大政党制も理解できず、自ら第2自民党を名乗る維新」「さっさと「自民党馬場派」なり「自民党2軍」と改称するがいい。自民は最低の選択肢で維新は最悪の選択肢だ」「憲法改悪、大政翼賛まっしぐらな未来しか見えない」など、批判の声が沸き上がったようです。
4.政権奪取への道
6月6日、維新の馬場代表は、週刊「FLASH」のインタビューに応じ、「政権奪取への道」について語っています。
件のインタビュー記事から、一部引用すると次の通りです。
【前略】このように馬場代表は、自民党と連立を組んだ政党は、最後はみんな自民党に吸収された過去を挙げて、維新は単独政権を目指すとしながらも、もし自民が割れるようなことがあれば、菅前総理か、萩生田政調会長と組む可能性ならあると漏らしています。
「まず我々の最終目標は、日本を大改革することです。そのために『中期経営計画』を策定しているんです。ひとつめは、2022年の参院選で改選議席数の倍増と『比例票』で野党第1党になるという目標。これはクリアしました。2つめが今回の統一地方選。これもありがたいことに、目標の600人を超えました。そして残るは、次の衆院選で野党第1党の議席を勝ち取ることです」
馬場代表は、これまで計画どおりに進んできた要因を、維新が“非自民“の受け皿になったからだと分析する。
「そもそも、自民党を支持する理由の1位が『ほかに適当な政党がないから』ですからね。しかも岸田政権は、すぐに増税と国債発行という名の借金で、国民に負担を押しつけてくるでしょう。国民負担率はもう50%近く。給料の半分が、税金と社会保険料で持っていかれているんですよ。春闘で、そこそこ給料が上がったとしても、負担が増えて手取りは変わらない。全国を歩くと『いまの自民党ではアカン』という国民の声は、確実に増えていると感じます」
だが、野党第1党たる立憲民主党は、政権の”粗探し”に終始しているとする。
「あの政党は、自民党のスキャンダルが出たら『キター!』という感じで、そればかり国会で追及するでしょう。本来、国会は、政府のA案に野党がB案を提示するという、生産的な場であるはずなのに。彼らは、野党第1党というポジションを守ろうとしているようにしか見えへん。僕らは、本気で自民党を引きずり降ろそうと思っていますからね」
【中略】
「自慢話になりますが、維新は『有言実行』ですからね。僕らが大阪でずっとやってきたのが『身を切る改革』。たとえば、大阪府議会では12年かけて109議席を79議席に減らしました。そして議員報酬も3割カット。改革を進めたことで財源が生まれ、幼稚園、保育園の無償化はどんどん拡がっているし、小中学校の給食費の無償化も、多くの自治体がやっています。こうした改革が『奈良でも和歌山でも兵庫でもやってほしい』と、関西一円で拡がっています。タイムラグはあれど、全国にも拡がるはずです」
一方、維新の勢いを受けて、「自公維」「自公維国」などといった”連立方程式”が取り沙汰されている。与党になることで、”改革”を実現する方法もあるはずだが……。
「そこは慎重に考えなアカンと思います。新自由クラブ、新党さきがけ、日本新党など『第三極』と言われ、自民党と連立を組んだ政党は、最後はみんな自民党に吸収されましたから。私や松井一郎前代表ほか、維新の中心にいるメンバーは、ほとんどが元自民。自民を割って出た人間が、また自民党に飲み込まれていくなら、なんのために出たんやということになる。それに”検討使”の岸田さんはアカン。我々は、あくまで単独政権を目指すつもりです」
だが、自民党が分裂するとなれば話は変わってくる。
「ダメな議員が増えてくると、やがて”青雲の志”を持っている人間は『つき合うてられん』と考えます。そのときに政権を担える政党があれば『ほな、そっち入ってやろか』と考える。これが、大阪で維新が生まれた歴史です。この歴史が、再び国政という場で起きることも、視野に入れながらやっていくことになります。自民党に限らず、改革マインドを持った政治家が結集できるような『核』を、僕らは作ろうとしているんです」
では、自民党が割れたときに具体的に誰と組むのか。馬場代表はその名を明言した。
「組むとしたら、筆頭は菅義偉前首相でしょうね。政治家は、コメンテーターとは違う。結果を出さなアカンのです。それを実行してきたのが菅さんだと思います。菅さんはよけいなことをおっしゃらないから、こんな話はしたことはありませんけどね。菅さんが総理になり、初めてお会いしたときの言葉を思い出します。開口一番『なっちゃったんだよ!』とおっしゃった。やはり政局ではなく、政策の人なのだと感服しました」
ほかに有力な”改革保守”として挙がったのが、萩生田光一政調会長の名だ。
「萩生田さんは安倍政権の中枢におられて、僕らの目標になる人でした。当時、雑談中に『萩生田さんやったら、これから総理になれるんちゃいます?』と聞いたことがある。あのときはあっさり否定されたけど、尊敬できる人です」
一部では、国政に野心を抱く小池百合子都知事と、関東圏の地盤が弱い維新が、タッグを組むという噂も出ている。
「小池さんとは、そういう微妙な話をしたことはありません。ただ小池さんには、僕らが持ってるような改革への強い理念をあまり感じません。自分が総理になりたいだけというふうに、私には見えますけどね」
維新政権の現実味が増せば、気になるのは橋下徹氏や松井氏など、かつて”維新の顔”だった元政治家たちだ。
「かつての橋下さんは”真剣勝負”やった。なんでもスパッと切っていたのに、いまは木刀や竹刀を振りまわしているような感じがします。本人も、日々、おもしろくないんじゃないかな……。松井さんは10年以上、先頭に立ってきたわけで、疲れを癒やしたいでしょう。辞め際に『自分を動かすのは怒り』と言うてたけど、その怒りが今後、出てくるかどうか」
【後略】
5.日本維新の会は自民党の受け皿になるか
馬場代表は、自民党と連立を組んだ政党は、最後はみんな自民党に吸収されたと警戒心を隠していませんけれども、嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、ZAKZAKの7月25日付の記事「日本維新の会は自民党の受け皿になるか 国政の第三極政党は挫折の歴史だが…改革路線と行政実績が強みに」で次のように述べています。
大阪府の吉村洋文知事は、日本維新の会が政権に就けば、国会議員定数の3割カットを実行すると日経電子版のインタビューで発言した。それに対し、維新は大阪・兵庫で公明とガチンコなので、公明に依存することをよしとしない自民支持層の受け皿になりうるのではないか。
日本維新の会は、もともと大阪府の地域政党・大阪維新の会を母体とする。大阪維新の会の結成は2010年4月。当時の橋下徹大阪府知事と自民党を離党した大阪府議、大阪市議、堺市議らで構成されていた。
大阪維新の会は国政進出を決め、12年9月に日本維新の会が結成された。代表は橋下氏で、国会議員ではなかったが、当初の所属議員は自民党、民主党、みんなの党から離党した国会議員だった。その後、太陽の党、結いの党など離合集散をへて、現在に至っている。
維新は国政において、いわゆる第三極だ。国政の第三極政党は挫折の歴史だ。理念先行で新党の勢いがなくなれば政策実現に限界が生じ、党内の路線対立などを繰り返し、消えていった政党は多い。
政党史を振り返ると、1976年結成の新自由クラブ、92年の日本新党、93年の新党さきがけ、2009年のみんなの党などだ。いずれも5年以上続かず、自民党に吸収されるか、党内路線対立で崩壊している。
一方、日本維新の会は11年も継続中だ。その理由は、大阪という地域で首長をしっかり確保し、地方行政経験があるのが大きい。
大阪でのキャッチフレーズは、議員の「身を切る改革」と規制改革だ。大阪での路線がこれまで成功しているので、国政でも自分の持ち味を出そうとしているのが、今回、吉村知事が発言している国会議員定数の3割カットだ。
議員の「身を切る改革」は、一般有権者に分かりやすく支持を得やすいが、実は選挙戦略としても秀逸だ。まず、ほとんどの議員は御身大切で、議員定数カットには反対なので、差別化をしやすい。しかも、定数を削減すると、例えば中選挙区の場合、上位しか当選しなくなり、上位当選が期待できる党は相対的に優位になる。これは大阪での維新にとっては有利だった。
国政選挙の場合も、政権与党の自民党や公明党と差別化はできるし、比例に依存する立憲民主党などの野党との差別化もできるのは間違いない。
特に、今の岸田文雄政権では、政府税制調査会の答申からも分かるように増税指向があるが、「増税の前に議員の身を切る改革を」と主張すれば、国民には分かりやすい政治的なメッセージとなるだろう。
人口当たりの国会議員数を20カ国・地域(G20)のうち欧州連合(EU)を除く19カ国でみると、日本は少ない方から見て9位であるが、3割カットしても6位。庶民感覚でも少なすぎることはない。
さらに、自民は公明に依存しなければいけないので、各種の政策について不満を持つ自民支持層も存在する。
このように高橋教授は、維新が11年も続いており、地方行政経験を積んでいるとした上で、維新が掲げる「国会議員定数の3割カット」という政策が自公との差別化を図り、かつ、比例に頼る立憲との差別化も図れる秀逸なものだと評価しています。
確かに4月の統一地方選をみても、維新は都内で70人の候補を擁立し、67人が当選。さらに、朝日新聞の集計では、都内の当選者のうち49人が上位3分の1以内の得票順。議員選があった都内41市区のうち、新宿区や世田谷区、武蔵野市など11市区で1位当選し、江戸川区では維新の新顔が1位と2位を占めるなど上位当選の多さが目立っています。
高橋教授が指摘するように議員定数が削減されると、上位しか当選しなくなりますから、上位当選が期待できる維新は相対的に優位になります。なるほど、馬場代表が「まず立憲民主を叩き潰す」と豪語する訳です。
維新の勢いは、立憲を叩き潰すのか、それのみならず、自民をも分裂させるのか。次期衆院選に注目ですね。
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