

1.占領された地域の半分を取り戻した
7月23日、アメリカのブリンケン国務長官は、CNNテレビのインタビューで、ウクライナが「当初占領された地域の約50%を既に取り戻した」と語りました。
その一方、ブリンケン国務長官は「まだ反転攻勢は序盤の段階にある」と指摘。残る地域の奪回に向けては、ウクライナは「非常に激しい戦い」に直面しており、すぐに成果が得られることはないだろうとの見通しを示しました。
これまでウクライナは南部の幾つかの村と、東部ドネツク州バフムートの周辺地域を取り戻しているようなのですけれども、ロシアの強力な防衛線の大規模な突破は果たせていません。
ブリンケン国務長官は、ウクライナがアメリカ製のF16戦闘機を入手することになるかとの質問に、そうなると信じていると回答し、「大事なのは彼らへ実際に届けられた際に、適切な訓練や保守管理を行い、うまく使いこなせるようになることだ」と強調しています。
既に占領された地域の半分を取り返しているのに、反転攻勢が序盤の段階ということは、ちょっと反撃しただけで瞬く間に領土を奪還したということになります。にも関わらず残る地域の奪回については「非常に激しい戦い」に見舞われて直ぐに成果が得られることはない。ということはどういうことなのか。
もしロシア軍が弱ければ、残りの50%など直ぐに奪還できるはずですし、逆にロシア軍が強力なのであれば、領土奪還など覚束ない筈です。
先月、ゼレンスキー大統領は反転攻勢の進展スピードが期待よりも遅いと述べていますけれども、進撃が弱まるとすれば、押し込まれたロシア軍が急に猛烈な抵抗を始めたか、ウクライナ軍への武器弾薬の補給が滞っているか、あるいは何等かの理由で士気が上がらないか。色々な原因が考えられます。
2.ウクライナ戦争は膠着状態に向かう
7月22日、アメリカの「Foxニュース・ライブ」に出演したキース・ケロッグ退役陸軍中将は、ウクライナ戦争は「膠着状態に向かう」という分析を示しました。
その時のやり取りは次の通りです。
ケロッグ中将:ここ(ケルチ海峡の橋)は合法的な軍事標的だ。なぜなら、ケルチ橋は鉄道と道路交通を担っており、ロシアとウクライナの間で行われている戦闘の南部を支援するための兵站路だからだ。第2に象徴的な標的でもある。なぜなら、この橋を架けたのはプーチンだからだ。クリミア侵攻後に実際に橋を建設したのはプーチンなのだ。だからこれは正当な標的だ。このようにケロッグ中将は、西側諸国がウクライナに必要な装備を与えなかったために膠着状態に陥る危険が迫っている、と指摘しています。
グリフ・ジェンキンス(FoxNews): プーチンへのメッセージでしょう。ただ、この地図を見ていただきたい。我々は反攻作戦を見ています。あなたの素晴らしい洞察力によれば、作戦はどのように進んでいるのでしょうか。彼らは結果を期待できるでしょうか? 今週、「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙は、「西側の軍隊は、空を支配することなしに反攻に出ることはない」と指摘しています。
ケロッグ中将:その通りだ。第二次世界大戦以来、ヨーロッパで最大かつ最長の陸戦を目の当たりにしているわけだが、ウクライナ側は今、ちょっとした問題を抱えている。数十万人が死亡し、マリウポリのような大都市が破壊され、ウクライナ人口の3分の1が難民として避難している。攻勢がうまくいっていないのは、主に南部で、ここが彼らが本当に攻めようとしている場所なのだ。しかし、ここは塹壕線と地雷原が掘り込まれているロシアの要塞だ。一般的には、攻撃と防御で3対1のアドバンテージがないと突破できない。
だが、彼らが持っていない最大のものは近接航空支援だ。これは『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙だけでなく、他の記事でも触れられている。近接航空支援は必要だ。ベトナム戦争でも湾岸戦争でも、第二次世界大戦でもそうだった。近接航空支援がないことは、攻撃能力を妨げることになる。
なぜそれが重要なのか?消耗戦になれば、それはロシアのアドバンテージになるからだ。機動戦になれば、ウクライナが有利になる。秋になっても膠着状態が続くようなら、アメリカはどうするのか、休戦に向かう必要があるのか、話し合う必要があるのか、難しい問題が出てくるだろう。
我々は彼らにすべての手段を与えたとは思わない。我々はそれについて話し合ったが、彼らはそれを持っていない。砲兵と歩兵だけでは勝てない。第3の重要なスペースである航空支援は、F-16やA-10ウォーソグを与えるべきだった。私が懸念しているのは、このまま膠着状態に陥るのではないかということだ。
グリフ・ジェンキンズ:そしてそれは、私たちが1年以上前に始めたこととまったく同じような状況になるでしょう。あなたがおっしゃったように、基本的にこの航空支援を差し控えることで、政権が自ら問題を作り出しているのですが、同時に、キエフとゼレンスキーがここで前進していないことを嘆いているとお考えですか?
ケロッグ中将:私たち西側諸国は、彼らが戦闘を遂行するのに必要な装備を与えなかったために、その問題の一端を担ってきた。上院軍事委員会からは、戦いに勝つためには装備を与えなければならない、と言われている。それは600マイルの前線であり、重要なのはここだ。そのため、ロシア軍が要塞を維持し、ウクライナ軍を阻止し続けることができれば、10月、11月、次はどうするのか、と聞くことになるだろう。交渉に行くのか?休戦するのか?しかし、ウクライナの経済と人口を破壊する戦争を目の当たりにしているのだから、この状況を打開する方法を考えなければならない。
3.武器も訓練も不十分なウクライナ
このFoxニュースの解説で、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の話題が出ていましたけれども、7月23日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「武器も訓練も不十分なウクライナ、ロシアとの戦いで膠着状態に陥る危険性」という記事を掲載しています。
記事の概要は次の通りです。
・この春、ウクライナが大規模な反攻を開始したとき、西側の軍事関係者は、キエフがロシア軍を撃退するために必要な訓練や砲弾から戦闘機までの武器をすべて持っていないことを知っていた。記事によると、ウクライナの大規模反攻作戦開始時に、西側諸国軍事関係者は必要な訓練や武器を持ってないと分かっていたというのですね。にも拘らず「ウクライナの勇気と機知に期待」などと、精神論で突破しようとしていたとは。普通にかんがえればこれは「負け戦」と呼ぶべきものです。
・しかし、彼らはウクライナの勇気と機知に期待した。しかし、そうはならなかった。
・深く致命的な地雷原、広大な要塞、そしてロシアの航空戦力が組み合わさり、ウクライナ軍の大幅な前進はほぼ阻止された。
・それどころか、この作戦は膠着状態に陥る危険性があり、勢いを大きく変えることなく人命と装備を使い果たす可能性がある。
・ウクライナ軍が今年中に大規模な突破口を開く可能性が薄れるにつれ、ワシントンとその同盟国にとっては、戦争が長期化するという不安な見通しが浮上する。
・バイデン政権にとっての政治的計算は複雑だ。バイデン大統領は2024年秋に再選を控えており、ワシントンの多くの人々は、戦争が選挙戦に与える影響についてホワイトハウスが懸念していることが、キエフに提供する支援の量について慎重な姿勢を強めていると考えている。
更に、25日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「ウクライナの攻勢停滞でバイデン氏は不安な立場に」という記事で、「塹壕に侵入したロシアに対するウクライナの反撃のペースが遅いことで、戦闘終結に向けた交渉が年内に実現するという期待が薄れ、終わりのない紛争が続くのではないかとの懸念が高まっている……行き詰まりの可能性があれば、キエフが強い立場でロシアと交渉できるようにするため、ウクライナに数十億ドルの軍事援助を注ぎ込むというバイデン大統領の明言した戦略が試されることになるだろう。また、すでに不足している武器を供給する西側諸国の継続的な能力に挑戦し、米国の戦争支援に反対する人々に政治的材料を提供する可能性もある」と報じています。
4.百メートルごとに4~5人の兵士が必要
ウクライナの反攻がうまくいってないことについては、ウクライナのメディアも認めています。
7月22日、ウクライナの「キーウ・ポスト」は、「100メートルごとに4~5人の兵士が必要:ウクライナの前線戦闘員が血なまぐさい戦闘とボロボロの士気を報告」という記事を掲載しました。
件の記事の概要は次の通りです。
・前線のウクライナ兵士らはキーウ・ポストに対し、自軍部隊は継続的かつ累積的な損失、時には不十分な支援、そして強くて深く掘り下げられたロシアの敵に対する限られた夏の攻撃陣地の獲得のために、部隊の士気の低下に苦しんでいると語った。このキーウ・ポストの記事の通りであれば、前線は満足な補給もないかなり悲惨な状況であり、ウクライナ司令部の公式発表とは大分違っていることが窺えます。
・ウクライナ国軍(AFU)の徴兵兵士らは個別インタビューで、ウクライナ軍が現在使用しているゆっくりとした計画的な攻撃戦術により、各戦闘機は戦線突破が起こるずっと前に攻撃を受け、もしかしたら死亡するのではないかと強く疑っていると述べた。「状況は非常に厳しい。ロシア軍に、大々的に発表されたウクライナの反攻に備える時間を与え過ぎた。彼らにとって、ウクライナ攻撃の主な方向ではないにしても、その方向の一つがザポリージャであることは明らかだった」と戦闘衛生兵は語った。彼は キーウポストに 自分の名前を公表しないよう要求した。
・さらに彼はこう付け加えた。「そして彼らは非常によく準備をしていた…彼らは陣地への進入路に地雷を設置し、退却するときは地雷を爆破する。地形全体が掘られているとは誰も予想していなかったので、私たちはカタツムリのようなペースで地雷原に頭をぶつけ続けてきた」と彼は付け加えた。「私たちは本当に多くの工兵を失った。彼らは常に軍隊より先に行く」
・同兵士によると、AFUの最前線部隊は地雷原だけでなく、ブービートラップ、砲撃、遠くの丘の向こう側からの戦車の砲撃、無人機制御の砲撃、誘導・無誘導の航空爆弾などにより、徐々に死者や負傷者を失っているという。
・同氏は、部隊の兵士たちは依然として攻撃する意思があるが、戦死したり負傷した仲間の兵士に得られる食料がほとんどなかったことは士気を低下させたと語った。
・「1か月で、我々はわずか1キロ半しか進んでいない…我々は数インチずつ前進しているが、我々が費やしたすべての人的資源と物資に見合う価値があるとは思えない」と衛生兵は語った。
・前線での戦闘経験が豊富で、高レベルの幕僚経験を持つAFUの少佐が、キーウ・ポストに語ったところによると、AFUには空軍が全くなく、砲弾の備蓄も限られており、可能であれば自軍の兵士の命を守るべしとするドクトリンがあるため、ウクライナの指揮官には、準備されたロシア軍の陣地に対して短距離攻撃を仕掛け、血と人命の犠牲を受け入れる以外に、戦術的な選択肢がほとんどないという。
・ロシア軍はそれを阻止するために多大な損害を被っており、継続的な攻撃でロシア軍を空洞化させる戦略が功を奏している、と同氏は主張した。「この前線に沿って押し進め、主な予備兵力を使わないことで、わが軍がロシアの要塞の三重線を突破し始めると、彼らには何も機能させず、要塞に座っている人々だけを相手にするということだった」と少佐は語った。「これまでのところ、それはうまくいっているし、我々の部隊は前進している」
・ドンバス地域の中心都市であるロシア占領下のドネツク近郊で戦っている歩兵はキーウ・ポストに対し、AFUの極限状態にある彼の視点からは、成功には痛みが伴うだけだと語った。
・なぜなら、AFUの戦闘員たちは夏の攻勢開始前に、防衛要塞を占領する訓練は積んでいたが、反撃から要塞を守る訓練はしていなかったからだ。ロシアの要塞を占領するということは、必然的に標的になるということだ。
・彼は「攻撃が始まるとすぐに、ロシアの砲兵隊は全力で私たちを攻撃し始め、私たちの陣地を前から後ろから打ちのめす。100メートル進むごとに、4-5人の歩兵が隊列から離脱する。私たちが立って踏ん張っている間は、損失はないと言える。前進するや否や、大きな損害が発生する。1キロ進むごとに最大で1/2ユニットが失われ、この1キロを守りきれるかどうかはわからない」と語った。
・この兵士はキーウ・ポストに対し、部隊は継続的な損失の現実を「内面化」しており、自分と仲間たちは攻撃を続けるつもりだと語った。彼によれば、問題は、空軍力が優勢で、人口がウクライナの4倍で、大砲がウクライナ軍が占領しそうなあらゆる要塞を射程に置いて標的にしている相手に対してそれを行うことだという。最前線の部隊はいずれ攻撃を受けることを覚悟しつつあると彼は語った。
・「私はこのことについて次のように考える。墜落した飛行機の中にいた人々にはチャンスがない。統計によると、30パーセントが死亡し、40パーセントが負傷している。だからそれほど悪くはない。普段の生活でも、レンガが頭の上に落ちることはある」と彼は言った。
・AFUのウクライナ前線兵士への支援の弱さに対する不満は、クレムリンが支配するメディアでも繰り返されている。親ロシア派のテレグラム・プラットフォーム『U_G_M』が金曜日に公開したビデオでは、第10山岳突撃旅団の兵士と称する12人のウクライナ人兵士が、最近捕虜になったと語り、兵士の士気悪化の主な理由として、死傷者の蓄積を挙げている。
・第10旅団員だと名乗る、両手を縛られた男の一人はこう言った 「彼ら(旅団の指揮官)は我々を突撃させ、手榴弾を落とさせ、捕虜にした。武器も弾薬もなく、食料も水もなかった。雨が降れば、防水シートを巻いて水を汲んで飲んだ。私は指揮官たちに、"彼らはみんな(罵声を浴びせ)、人を肉のように前に放り出すだけだ "と言いに行った」。
・ビデオに映し出された兵士たちは全員、手を縛られていた。モスクワの支配下にあるプラットフォームで公開されたビデオでインタビューに答えた兵士たちは、ウクライナの攻撃戦術に関するクレムリンのプロパガンダでよく使われる「肉のように戦場に投げ出される」という言葉を繰り返した。
・キーウ・ポストはウクライナの陸軍参謀本部(AGS)に、前線のAFU部隊の士気が低下しているという疑惑についてコメントを求めた。即座の回答はなかった。コメントを求められたウクライナ国防省の報道官は、キーウ・ポストにAGSを紹介した。
・キーウ・ポストは、いくつかのAFU部隊の士気はまだ比較的健全であるように見えると判断した。AFUの傑出した編成の一つであるキーウで育成された第3突撃旅団の2人の隊員は、テキスト通信の中で、バフムート・セクターでの彼らの部隊の攻撃は一貫して成功しており、歩兵、戦車、ドローン操作員、砲兵の間の連携は改善されており、バフムート・セクターでの前進に関する公式報告は正確であると述べた。長年勤務している軍曹は、食料と弾薬の供給は素晴らしいと言っている。
・第3突撃隊司令官は、同部隊が直近の突撃で1.8キロ前進したことを確認し、先のAFUの発表と一致した。また、同部隊はAFUの突撃で死亡した40人以上のロシア兵の遺体を回収し、武器と6人の捕虜を捕獲し、損失はなかったと主張した。部隊の士気は非常に高かったという。キーウ・ポスト紙は、公に名前を明かさないという彼の要求を尊重した。
・金曜日、ウクライナ陸軍参謀本部(AGS)報道官のアンドリー・コバレフ氏は声明の中で、AFU部隊は戦線の3つのセクターで「成功を収め」、最近占領した陣地を前進または固めつつあると述べた。
・彼は、AFUの大砲がロシアの大砲を撃ち抜いていると主張した。戦争が始まって以来、ウクライナ軍の公式発表のほとんどがそうであったように、彼はウクライナ軍の損失や前線部隊の士気については言及しなかった。
ネットでは、こうした”ウクライナの反攻が上手くいっていない”状況について「膠着状態は西側MSM(メインストリームメディア)の新しい話題であり、国民を徐々に正常化させ、敗北を受け入れさせようとしている……すべての指標は、MSM(メインストリームメディア)がこの戦争が終わったことを知り、面子を保つモードに移行したことを示唆している。彼らはまず膠着状態だと言い、それから徐々にウクライナの敗北に向かって言葉を進めていくだろう」と分析したツイートもあるようですけれども、あるいはそうかもしれません。
今後メディアを含めた報道がどう変化していくのか、しないのか。要注目です。
2) “Stalemate”, is the new talking point for Western MSM, in an attempt to slowly normalize the public to accept their defeat.
— Clandestine (@WarClandestine) July 24, 2023
But you’ll notice, the only articles about the “stalemate” over the weekend were from @nytimes and @WSJ , both of which have a paywall.
They are… pic.twitter.com/JGZ3m9HKdT
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