

1.秦剛外相解任
7月25日、中国の全国人民代表大会の常務委員会は、秦剛外相の解任を決めるとともに、後任に前外相で外交を統括する王毅政治局委員を任命したと発表しました。
秦剛氏は去年12月に外相に任命されたばかりで、就任から半年余りで解任され、後任に前の外相が再び就くのは極めて異例のことです。秦剛氏の解任の理由は明らかにされていませんが、中国外務省のホームページでは、秦氏に関する情報が一斉に削除されていて、事実上の更迭とみられています。
秦剛氏は57歳。北京の大学で国際政治を学び、20歳のときに中国共産党に入党しました。大学を卒業後、中国外務省に入り、イギリスの大使館で長年勤務するなど、主にヨーロッパを担当。外務省の報道官を合わせて8年余り務めたあと、2018年に外務次官に昇格。そして、一昨年にはアメリカ駐在の大使に抜擢されました。
その後、党の政治局委員に昇格した王毅氏の後任として去年12月に外相に任命され、3ヶ月後には副首相級の国務委員にも選出されています。
秦剛氏は外務省の報道官などを務めた際に習近平国家主席の信頼を得て、近い関係にあるとみられ、前任の王毅氏が外相に就任してから5年後に国務委員に選出されたのと比べ、異例の早さで出世してきました。
4月には中国を訪問した林外務大臣と会談したほか、先月18日には、アメリカのブリンケン国務長官と会談するなど、活発に外交活動を続けていたのですけれども、先月25日に、北京でベトナムやスリランカの外相などと会談したのを最後に、1ヶ月にわたって動静が公表されていませんでした。
中国外務省は今月14日までインドネシアで開かれたASEAN関連の国際会議に秦氏が欠席すると明らかにした際、「健康上の理由だ」としていましたが、その後の記者会見では「提供できる情報はない」など、具体的な回答を避けていました。
インターネット上では秦氏が香港のテレビ局のキャスターの女性との関係を問題視され、調査を受けているという情報が出回り、台湾メディアが報じるなど臆測が広がっていました。
中国の秦剛外相の退任が決まったことについて、中国情勢に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は「中国外交に与える影響は限定的だ」とした上で、「閣僚である外相が突然消えて、いろいろな噂が飛び交い、長期間何の説明もされないまま最後には解任されたわけで、中国政治の不確実性に対する不安が募る結果となった」と指摘し、退任の理由について「中国外務省の中には内紛があり、秦氏がスピード出世したことへのやっかみやひがみがあったという情報もある。王毅氏と秦剛氏の間に確執があったのではないかとも言われている。今回の対応の背景には秦氏に対する不満があった可能性が高い」と分析しています。
2.習近平を裏切った秦剛
突然の秦剛氏の解任について、ジャーナリストの近藤大介氏は、昨年10月に習近平総書記が「異例の3期目」を決めてからというもの夥しい数の幹部たちが解職、しなわち、何らかの問題があって摘発されたと述べた上で、その理由をある中国人との一問一答という形で紹介しています。
件の一問一答は次の通りです。
――中国外交部の報道官は、秦剛外相について「病欠」と説明していたが、それは事実か?
「事実ではない。秦剛の健康状態は良好だ」
――それではなぜ突然、解任されたのか?
「秦剛は、香港フェニックステレビ(鳳凰衛視)の女性キャスター(40歳)を愛人にしていた。彼女は昨年秋、秦剛を父親とすると思われる男児を、アメリカで出産した。かつ彼女は、アメリカ側に通じているとの疑惑があった」
――つまり、中国外交の最高機密が、「敵国」アメリカに筒抜けになっているリスクがあったということか?
「その通りだ」
――それはどうして発覚したのか?
「彼女は3月19日、自らの『微博』(中国版ツイッター)に、生まれて間もない息子の父親の誕生日を祝福するかのようなメッセージをアップした。その日はまさに、秦剛外相の57歳の誕生日だった。また息子の名前も、秦剛を想起させるようなものだった。そこから疑惑が浮上したのだ」
――それで、どうやって調べたのか?
「王毅中央外交工作委員会弁公室主任(外交トップ)が、謝峰駐米大使に特別調査を命じた。その結果、秦剛前駐米大使と彼女との『ただならぬ仲』が明らかになったというわけだ」
――秦剛氏は昨年12月30日、史上最年少の56歳で、中国外相に就任した。それは、習近平主席の覚えがめでたかったからこその抜擢ではなかったのか?
「その通りだ。秦剛は2014年から2018年まで外交部礼賓司長(儀典長)を務め、習主席の数多くの首脳会談をそつなく成功させてきた。駐米大使としても、昨年11月の習近平主席とバイデン米大統領との初となる対面での首脳会談も成功させた。だからこそ、異例の外相抜擢となったのだ。しかも、本来なら今年3月の全国人民代表大会で外相に就くはずが、3カ月前倒しで昨年12月30日に発令した。これは、外相だけでなく副首相級の国務委員に3月に就かせて外相と兼務させようという習近平主席の『親心』だった。秦剛はそれを裏切ったのだ」
――秦剛はいまどこで何をしているのか?
「中国国内の某所で取り調べを受けていると聞く。愛人も同様だ」
――習近平主席は、この一件をどう知ったのか?
「王毅が報告に行った。習主席も『国家の安全を最優先させるように』と命じた。それで当分の間は、王毅が外相を兼務することとなった」
件の一問一答で、秦剛氏が更迭されたのは、愛人とされる香港フェニックステレビの女性キャスターがアメリカに通じているとの疑惑が上がったのが理由だとしていますけれども、近藤氏自身は「多分に権力闘争の側面がある」と指摘しています。
3.王毅との権力闘争
秦剛氏の更迭は権力闘争の結果だという見方は他の識者もしているようです。
中国に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「香港の元女性キャスターとの不倫問題が一部で騒がれたが、あり得ない。秦氏は、習国家主席のお気に入りだった。中国共産党では、女性問題によって失脚した政治家はいない……習政権の中で、何らかの『大きな政争』があったことがうかがえる。秦氏の消息が1カ月も途絶えているのは、何らかの理由で当局から取り調べを受けているということで間違いないだろう。習氏自ら任命した秦氏だが、庇いきれなくなった可能性がある」と述べています。
また、評論家の石平氏は「秦氏の解任は、王氏との権力闘争に敗れた結果だろう。2人とも、習氏のお気に入りだが不仲で、外交路線でも『対米強硬派』の王氏と、『対米融和派』の秦氏は対立していた。秦氏の外相就任後の今年1月、左遷された中国外務省の趙立堅副報道局長は王氏の一派だった。秦氏は今回、その報いを受けたのではないか。習氏が自ら任命した秦氏のクビを切った意味は重い。独裁体制の権威を失墜させかねない傷となった」と述べた上で「昨年11月の米中首脳会談の翌月、秦氏は外相に抜擢され、習氏から対米関係の改善を託されていた。対照的に、王氏は『親ロシア派』で知られている。10月にはロシアのウラジーミル・プーチン大統領の訪中が予定されており、中国の外交はこれまで以上に『親ロ』へ向かい、対米関係の悪化も予想される」と、秦氏の失脚で、中国外交がさらに「対米強硬路線」にかじを切る可能性もあると指摘しています。
この石平氏の「対米強硬路線」への転換の指摘を受け、嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、26日放送のニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演し、今回の秦剛氏の解任について、次のように解説しています。
飯田)報道では外相と書かれますが、外交部長のポジションです。秦剛氏は6月25日にベトナムやスリランカの外相らと会談したのを最後に、表に出ていません。このように権力闘争の結果、対米強硬派の王毅氏が勝利したのなら、やはり、今後中国が反米・反日路線になる可能性は高いと思われます。
高橋)中国に詳しい評論家の石平さんに聞いたら、秦剛さんは以前、アメリカの方の仕事をしていて……。
飯田)アメリカ大使でしたよね。
高橋)でも王毅さんはそうではないから、要するに「親米か反米か」の権力闘争だと言っていました。
飯田)なるほど。
高橋)結果的に王毅さんが勝ったということは、親米ではなくなり、反米傾向がより強くなるのではないかということでした。日本もそういうことを予測しながら、中国と付き合った方がいいですね。日本はアメリカと一緒だと思われているから。今後、日本に対しても厳しくなるでしょう。
飯田)何の外国語を専攻したかで「○○スクール」などと言いますが、王毅氏は日本語を専攻した「ジャパンスクール」で、一方の秦剛氏はアメリカとのパイプが強い。
高橋)でも、王毅氏は日本語を専攻していたけれど、安倍さんに「王毅さんはゴルフが好きなのですよ」と習近平さんの前で言われてしまった過去があるから、日本に対しては甘くできないのですよ。
飯田)そういう過去があるだけに。
高橋)習近平さんはゴルフが大嫌いなのに、目の前で言われてしまった。当時、王毅さんは必死に「やっていません」と否定したらしいです。だから日本に対して厳しい目で見るのです。
高橋)秦剛さんがいなくなったということは、対米の融和路線がなくなり、対立路線になった。日本に対してもそうだと思いますよ。
飯田)日本に対しても厳しくなる。
高橋)福島第一原発の処理水の話などでも、影響が出ているではないですか。露骨に「汚染水だ」と言って、日本の水産物の輸入を止めたりしているわけですよね。
飯田)水産物の輸入を。
高橋)ある意味では、既に強硬路線が始まっているような状況に見えます。すべて辻褄が合うではないですか。
飯田)昨日(25日)の林外務大臣の記者会見のなかで、「日中韓の首脳会議再開に向け事務レベルで検討を進める」という発言が出ました。14日、インドネシアで開かれたASEAN関連の会議で王毅氏と話したそうですが、いまになって表に出てきました。
高橋)今後、日本に対してはいろいろと、厳しめの話ばかりになっていくのではないでしょうか。各マスコミは「秦剛外相が解任されたのはなぜだ」というように書いていますが、もう少し取材するべきですよね。
飯田)コロナに感染したのではないか、というようなことも報道されていました。
高橋)それにしては長いし、それが理由なら言うでしょう。
飯田)5日か1週間ぐらいで出て来られますものね。あとは女性問題の話もあります。
高橋)女性問題の可能性はあるかも知れません。権力闘争だから相手の弱みを握ったり、貶めることはよくあるのではないでしょうか。中国は権力闘争の塊ではないですか。
飯田)王毅さんは24日、プーチン大統領の最側近であるパトルシェフ安全保障会議書記と会談しています。
高橋)王毅さんは反米路線なのでしょう。反米・反日で進めるのではないですか?
高橋)反米路線が続くと、台湾有事の話などはキナ臭い感じになりますね。
飯田)来年(2024年)の1月には、台湾総統選があります。
高橋)それまでは情報戦を仕掛ける。
飯田)あと半年ですよね。
高橋)情報戦を仕掛けるのだけれど、日本に対する水産物の輸入禁止も、その一環かも知れません。ある意味、日本はもう用意しておいた方がいいですよ。
飯田)そういう経済的威圧に対し、連合して対抗するというのが、まさにG7のメッセージだったわけですけれど、それに真っ向から喧嘩を売るような形ですものね。
高橋)そうでしょうね。
4.ハル・ブランズの予測
かつて、アメリカの「パンダハガー(親中派)」のひとりであり、その後、中国の軍事戦略研究の第一人者となった政治学者のマイケル・ピルズベリー氏は、中国は建国から100年に当たる2049年に世界に君臨する「覇」を目指していると喝破し、それを「100年マラソン」と名づけて有名になりましたけれども、最近、米中間の対立は100年間続くスーパーマラソンではなく、10年間のスプリント競走になると指摘する学者も出てきました。
2023年2月に日本語訳が発売された書籍『デンジャー・ゾーン 迫る中国との衝突』の共著者の一人であるジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究院・特別教授のハル・ブランズ氏は、中国への対応について、プレジデント紙のインタビューで次のように答えています。
――著書の中で「ピーク・チャイナ」という概念を提唱し、中国の国力はすでにピークに達しているとしています。中国の国力が衰退しているとみる理由は何でしょうか。このようにハル・ブランズ氏は、来年の台湾総統選で民進党が勝利すれば、それ自身が要因となり、今後10年の後半が非常に危険だと警鐘を鳴らしています。
中国は今、2つの大きな問題を抱えている。1つは経済の停滞で、長年にわたって急成長を遂げることができたメリットの多くが、今やデメリットに変わってしまった。中国の労働力は縮小へと向かい、人口の維持は大きな危機に直面している。耕地や使用可能な水などの主要資源の不足も深刻化している。さらに政治体制は閉鎖的で全体主義的なものになりつつあり、成長に必要な創造性を阻害している。
国外に目を転じれば、中国はもはや1990年代や2000年代の状況とは違って、自身の台頭を歓迎するパートナーを持っていない。これらを総合すれば、中国は2000年代や2010年代のような成長率、あるいはそれに近い成長率を維持するのに苦労し、アメリカを抜いて世界最大の経済大国になるのは難しいということがいえる。
同時に2点目として、中国は「戦略的包囲網」に直面している。地域内外のますます多くの国々が、中国の主張を押し返す方法を模索している。日米同盟を見てもそうだし、アメリカ・イギリス・オーストラリアの安全保障パートナーシップ「AUKUS(オーカス)」や中国による他国への経済的強要に対抗するためのG7のプログラムを見てもそうだ。つまり中国が容易に経済成長を果たし、国際的な影響力を及ぼしていた時期は過ぎ去っている。
問題は、このような事態に陥った場合、国家はより攻撃的になり、今のうちに利益を確保しようとすることだ。加えて中国は、この2020年代の後半に、軍事的に非常に魅力的な機会を得ることになる。中国は現在の軍事形態で競争を繰り広げ、西太平洋で有利なパワーバランスを持つことが予想される。
――中国が軍事行動に出た場合、台湾本島、沖縄とグアムの米軍基地、そして日本を拠点とする米空母打撃群に向けて、陸と空から数千発のミサイルが発射されると述べています。日本人は危険にさらされることを覚悟すべきでしょうか?
もし中国が台湾を攻撃することになれば、日本の領土や日本の港にある米軍基地や軍事資産を攻撃しない限り、アメリカに勝つことは難しいだろう。そして、このような戦争が始まった場合、日本が巻き込まれる可能性は高いと思う。
もう1つの側面は、台湾が中国に奪われれば、日本が依存する航路である南西諸島が深刻な脅威にさらされ、この地域が日本の安全と繁栄にとってより敵対的な環境に変わるということだ。日本には、自国の領土が攻撃されなくても、中国による台湾の乗っ取りを防ぐという、やむを得ない国益があると私は主張したい。
――一方で、習近平が権力を掌握し続けるならば、台湾有事をあえて起こす必要はないという見方があります。また、2024年1月の台湾総統選挙では、親米路線で中国と距離を置く民進党が勝利する可能性もあります。
これらは、2020年代後半が特に危険な時期であることを懸念させる要因だ。もし民進党が次の総統選挙で勝利すれば、台湾の政治に激震が走るだろう。台湾が民主化に向かって以来、3回連続で総統の座を獲得した政党はないからだ。
そしてそれは習近平と習近平の周囲に、平和的だが強制的な統一への道は閉ざされていると認識させるだろう。中国は、北京との対話に前向きな国民党や他の政治主体に力を付与する形で台湾政治の軌道を変えることができないことを理解する。それが危険な事態となる1つの要因だ。
第2の要因は、習近平は台湾の解放が世代から世代へと受け継がれてきた問題だと明言しているからだ。つまり習近平には、自分の代で台湾の統一を成し遂げたいという思いがある。このような政治的な問題と軍事的、経済的な問題を併せて考えると、私は今後10年の後半を非常に懸念している。
――中国が民主主義制度阻止への努力を世界で行っており、そうしたイデオロギー面での攻撃を最も深刻にしているのが、デジタル革命だと指摘しています。生成AI、量子コンピューター、半導体などの分野で、中国が今後勝利する可能性をどう見ていますか?
技術的優位性、あるいは少なくとも重要分野での技術的優位性は、習近平政権下の中国の政策の重要な部分である。中国は、量子力学やAI、合成生物学、そのほかの分野に国家主導で大規模な投資を行っている。
私が考える危険とは、中国がアメリカやその同盟国に対して全体的な技術的優位を確立することではない。危険なのは、中国が技術的な隘路を支配することである。アメリカが他国に目を向けている間に、中国が大規模な投資を行う特定の分野で飛躍的に優位に立つことができるかもしれず、それによって地政学的なライバル関係に大きな影響を与えることになるだろう。
そのため、アメリカとその同盟国はより積極的なアプローチを取る必要があり、技術的な対抗には、2022年10月に先端半導体や半導体製造装置に対して行われたような輸出規制が必要になると思う。
また、ファーウェイや中興通訊(ZTE)を通じた中国の5Gの世界展開を遅らせる工夫も必要になるだろう。中国の5Gに対抗するにはアメリカの投資や中国企業に対する規制も絡んでくる。米中間の技術的なデカップリングのようなものは必要ない。それは不可能だし、それが賢明であるとも思わない。しかし、アメリカとその同盟国は、経済力と軍事力が最も重要な分野で優位性を守るために、より積極的に動く必要があるだろう。
――デジタル技術が国家間競争の中核になりつつある中、アリババ・グループは事実上、政権に屈する形で6つの部門に分割されました。このようなデジタル専制主義が中国経済へもたらす影響をどうみていますか?
中国政府は基本的に、中国ハイテクセクターの主要部分に対する取り締まりを行っている。これは、経済ダイナミズムや経済成長をある程度犠牲にしてでも、経済に対する政治的統制を強める習政権の政策の一環である。
習近平は1990年代や2000年代の多くの指導者と比べ、急速な経済成長よりも国家安全保障を重視していることを明確にしている。また、イデオロギー的な支配を確保することにますます関心を寄せている。
これは、習近平とその政府が中国経済の主要部門に対してより大きな支配力を行使しようとする、より大きな動きの一部分である。
――2023年に習近平は正式に政権3期目へと突入した一方、足元では中国経済の減速が目立ってきています。2022年8月に著書を出版して以来、最近の中国情勢で懸念すべき大きな変化はありますか?
習近平は2022年10月の党大会で政権をしっかりと固めた。自分の忠実な人物をすべて要職に就かせることに成功し、党の中央軍事委員会を――ある日本人の同僚が私に「戦争評議会」と表現したように――1970年代後半の中国最後の大規模なベトナム軍事作戦の経験者や、台湾に対峙する軍管区の経験者を集めたものに作り変えた。経済の減速は顕著であり、習近平が何としてでも成長を追求する姿勢を後退させたとはいえ、中国政府は明らかに神経質になっている。
中国からますます悲惨で好戦的なレトリックが出てきていることも指摘しておきたい。習近平は、アメリカは中国を封じ込め、抑圧しようとしていると述べ、強風、大海原、さらには危険な暴風雨が待ち受けていると警告している。これらは一般的に、アメリカとの武力衝突のリスクを指すと解釈されるフレーズだ。
――米中が協調する動きもあります。2022年11月、バイデン・アメリカ大統領と中国の習近平国家主席がインドネシアのバリ島で会談。また、2023年6月中旬には、ブリンケン・アメリカ国務長官が北京を訪れ、外交を統括する王毅政治局委員と会談した後、習近平国家主席と会談しました。これらは現在の緊迫した状況に対して、どのような効果があるでしょうか?
こうした訪問は対話の機会を作り、議論のプロセスを作るのに役立つので、ある意味では非常に重要だ。しかし現実には、こうした話し合いのいずれもが、両国の基本的利益が対立しているという事実を意味あるものに変えることはできない。これらの会談から生まれるいかなる外交的平穏も、1月の気球撃墜事件で見られたように、混乱を招きやすい。両者による対話は、この大きな競争における一時的な休息にしかならないだろう。
――2023年5月に広島でG7サミットを主催した岸田文雄首相の役割については、どう評価しますか?
この1年間、日本や自由世界の対中政策の展開において、岸田首相は非常に重要な役割を果たしたと思う。ある知人が私に語ってくれたように、彼は、安倍晋三政権時代が提案した数々の政策を、多くの論争を伴うことなく推し進めた。
岸田政権は、日本の防衛費を大幅に増やし、南西諸島におけるアメリカとの協力関係を緊密にする計画を進めている。日本は中国との技術競争において、また中国の経済的威圧を鈍らせることにおいて、ますます重要な役割を果たしている。私は、日本は21世紀においてアメリカの最も重要な同盟国として浮上してきたと考えている。それは、日本における過去のさまざまな指導者についても言えたことだが、岸田首相のもとでそれがもっともはっきりしたということが言えるだろう。
もし、台湾有事が発生したら、日本が無関係でいられることはほぼありません。ハル・ブランズ氏が指摘するように、中国は、「日本の領土や日本の港にある米軍基地や軍事資産を攻撃」しない限りアメリカに勝てないからです。
台湾有事は日本有事。「やむを得ない国益」を守るため、政府には、やるべきことを粛々と進めていただきたいですね。
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