

1.プーチンは既に戦争に負けた
7月13日、フィンランドのヘルシンキで開催された米・北欧首脳会議に出席したアメリカのバイデン大統領は記者会見で、ロシアによるウクライナ侵略について、「大きな問題を抱えている。ウクライナでの戦争に勝つ可能性はない……戦争が何年も続くとは思わない……いずれプーチン大統領が、戦争を続けることは経済的にも政治的にも、それ以外の面でもロシアの利益にならないと判断する状況になるだろう」と述べ、「ウクライナの反転攻勢が大きく前進し、どこかで交渉による解決を生み出す」との見通しを語りました。
バイデン大統領は、その一方で、ウクライナのNATO加盟について、戦争状態にある国はNATOに加盟できないとし、ウクライナが加盟することは「第三次世界大戦」を意味すると指摘。その上で「加盟すべきか否かではない。いつ加盟できるかということであり、彼らはNATOに加盟するだろう」と、ウクライナのゼレンスキー大統領のNATO加盟要請を拒否する姿勢を明らかにしました。
2.ウクライナに停戦を強要
バイデン大統領は、ロシアは勝てないといいつつ、「交渉による解決」になると述べています。これは裏で停戦への動きがあることを匂わせます。
7月27日、自民党の青山繁晴参院議員は自身の動画で、アメリカは既にウクライナのゼレンスキー大統領に対し「停戦を強要している」と述べています。
動画からその概要を抽出すると次の通りです。
・ゼレンスキー大統領がアメリカに停戦を強要されてると考えているCIAのバーンズ長官がウクライナにいって停戦について話し合ったことについては、7月5日のエントリー「ウクライナの戦争終結計画」で取り上げましたけれども、冒頭のバイデン大統領のコメントと合わせて考えてみても、やはり、その動きはあるのではないかと思います。
・反転攻勢について、アメリカのブリンケン国務長官がロシアに奪われた領土のうちウクライナの固有の領土のうち半分ぐらいは回復できたと。ただしまだまだこの反転構成は続くと言っている。
・これはすぐに解決できるような進展の仕方じゃないと、ずいぶんはっきりとアメリカがものを言ったりしている
・実際のこの水面下でアメリカがウクライナに停戦、はっきりとクリミア半島まで取り戻すのはやめてもうこの辺で停戦しろということを強要してると考えている
・強要はCIAがやっている。
・CIAのバーンズ長官がウクライナに行った。
・CIA長官がウクライナ入りすることが極秘の筈だが、バーンズ長官はアメリカに戻ってから、停戦に必要なことはこれこれだって話をずいぶんしちゃってる
・本来ゼレンスキー大統領とバーンズCIA長官やCIAを通じたバイデン政権の意志がかみ合ってゼレンスキー大統領もそれでOKですといってればこんなことになるはずがない
・内緒にするはずの約束を破ってバーンズCIA長官が発言するのは、アメリカの本当の部分、表に出てこない下の水面下の部分は停戦に向かって動いてるんだってことを、世界の公然の事実に強制的にしてしまった。
・その中にアメリカが具体的に条件示したとは僕は思ってないんですけど、実態としてはクリミアまで回復するのは無理っていうことがやっぱり含まれてると見るべき。
・だからテロ行為って言われても、プーチン大統領が自らが通したクリミア大橋をまたもう一度破壊して見せたりするのは、ウクライナがクリミア半島も含めての領土の回復だということを示そうとしてやっている。
・でもアメリカはとにかくもう早く戦争を終わらせないと、ウクライナ戦争の影響でこのスウェーデンとフィンランドがNATOに実質加盟する。
・そうするとこの数百キロの長い国境線をロシアはNATOと直面することになってしまって、プーチン大統領は、もう興奮して追い詰められて何するかわかんない状態になっている。アメリカそれは一番懸念している
・ロシアの内紛でプリゴジンの乱があった後、要するにプリゴジンを抹殺できなくて。結局できなかったようです。はっきりしませんが。
・プーチンがそこまで力を衰えてて、プリゴジンはベラルーシで今生きてる。
・そのベラルーシからなんとポーランドに入り込もうとする動きがあってポーランドはNATOの加盟国ですからでポーランド軍は今ものすごい緊張状態に入っていて、そこから米軍もいるんです。
・そうすると間違いなく世界大戦になるから、実際に核兵器も含めた第3次世界対戦になりかねないっていうのが本当はバイデンさん個人の考えじゃなくてアメリカ全体の実は考えなのでとにかく早く止めさせようとして、クラスター爆弾の供与したんです、
・ウクライナで米英が協力してきたのに英国は、クラスター爆弾の供与にはっきり反対なんですよ
・なのにどうしてバイデンさんがこれ苦渋の決断したかというと、要するにこういう東部から南部にかけてロシアが塹壕を築いているおかげで反転攻勢がなかなか進まないのでクラスター爆弾を投下するとその塹壕の中にまんべんなく小爆弾が行き渡ってほとんど全部死んでしまうから。
・早く終わらせろと停戦させるためにしょうがないという決断。
・本当は停戦はすでに強要してて、CIAのおかげで今までやってきたんだろうと、そのCIAの長官自体が乗り込んでもう停戦しろって言ってんだからということなんです。
けれども、青山氏によると、そんなアメリカの"身勝手な"強要に対し、ゼレンスキー大統領がは承服できない、クリミアを奪還するのだ、としてクリミア大橋を爆破したというのですね。
まぁ、ウクライナの立場からみれば、当然の反発だと理解できますけれども、アメリカが世界大戦を危惧するという、世界規模でウクライナ戦争を見ているのに対し、ウクライナはウクライナしか見ていないという視点の違いは感じざるをえません。
ただ、それをいえば、アメリカの視点とて、良しとは言い難いものがあります。
青山氏は、ウクライナ戦争の影響で、スウェーデンとフィンランドがNATOに加盟すると、長い国境線を接するロシアはNATOと直面することになり、プーチン大統領が暴発するかもしれず、アメリカはそれを心配している、と指摘していますけれども、もともとプーチン大統領はNATOの東方拡大にはずっと反対と警告を発していました。それを無視して、NATOの東方拡大をした結果が今なのだとすると、アメリカとて、こうなることすら分からなかったのか、という見方も出来るのではないかと思います。
3.停戦の実現が必要だ
7月28日、ロシアのサンクトペテルブルクで、アフリカの40カ国以上が参加したロシア・アフリカ首脳会議は協力拡大を盛り込んだ宣言などを採択して閉幕しました。
プーチン大統領と、今年のアフリカ連合(AU)の議長国であるインド洋の島国コモロのアザリ・アスマニ大統領は閉幕後それぞれ声明を発表しました。
ロシアは今月、黒海を通じたウクライナからの食料輸出協定から実質的に離脱し、アフリカで食料問題への懸念が強まっているのですけれども、プーチン大統領は、「我が国はアフリカの友人に契約ベースでも無償でも供給を続ける」と強調。前日にアフリカ6ヶ国に2万5千~5万トンの穀物を無償で提供する考えを表明していました。
これに対し、アザリ大統領は「現在の状況を打開する動きがある」と評価する一方で、「重要なことだが、十分でないかも知れない。停戦の実現が必要だ。戦争が長引けばより予測不能になるからだ」との懸念を表明。早期にウクライナ側と停戦協議を始めるよう呼びかけました。
プーチン大統領は、アフリカ首脳との会談で、「我々が交渉を拒否したことはない」とし、ウクライナ侵攻の原因について、「長年、我が国へのハイブリッド戦争を準備し、ウクライナをロシアの安全保障の基盤を破壊する道具に変えるために何でもした米欧の勢力が引き起こした……憲法違反の流血の軍事クーデターが起こり、米欧が支援した」と、米欧に責任があると批判しました。
そして、アフリカ首脳については、「バランスの取れた手法と反ロシアの言論を支持しないことを高く評価する」として、アフリカ各国が6月にプーチン大統領に示した独自の和平案について「慎重に検討した」と答えています。
ウクライナ侵攻はロシアの安全保障のためだ、というプーチン大統領の主張は首尾一貫していますけれども、プーチン大統領の主張通りだとすると、今の事態はやはりNATOの東方拡大に遠因があるといえるのではないかと思います。
4.トランプのディール
7月16日、アメリカのトランプ前大統領はフォックスニュースの番組「サンデーモーニング・フューチャーズ」で司会のマリア・バルティロモ氏とのインタビューで、ホワイトハウスを奪還してから24時間以内にウクライナの平和を確保する計画を説明しました。
バーティロモ氏 :あなたはウクライナ戦争を24時間以内に終わらせることができると言いました。どうやって終わらせますか?このようにトランプ前大統領は、停戦の取引材料として、アメリカの支援の有無を出しています。つまり、アメリカの支援がなければウクライナは戦争を続けられないと認識しているということです。
トランプ前大統領:私はゼレンスキーのことをよく知っている。私がかけた電話での交渉について聞かれたとき、彼は確かにそうだと答えた。彼はとても立派な人だと感じた。彼は相手が何を言っているのかさえ知らなかった。大見得を切ることもできたのに……
バーティロモ氏 :プーチンが空爆を止めるには、それだけでは不十分です。
トランプ前大統領:私はゼレンスキーのことをよく知っているし、プーチンのこともよく知っている。私は二人とも良好な関係を築いていた。私はゼレンスキーに言いたい。取引をしてくれ。私はプーチンにも言う。 「もし取引しないなら、我々は彼(ゼレンスキー)にたくさんのものを与えるつもりだ。もし必要なら、彼らがこれまでに得た以上のものをウクライナに与えるつもりだ」。私は一日で交渉を終わらせる。一日だ。
プーチン大統領の「我々が交渉を拒否したことはない」とのロシア・アフリカ首脳会議での発言が本当であれば、あとはゼレンスキー大統領が了解すれば交渉がスタートすることになります。
交渉するということはロシアとウクライナの双方に妥協の余地があるということですけれども、現状、両者の要求の隔たりが大きく、そう簡単に交渉できる状態にあるとは思えません。
ただ、去年10月のエントリー「ウクライナのNATO加盟申請とエスカレーション・ラダー」で述べたように、それでも停戦を「強制的な仲裁」できる力を持っているのはアメリカしかありません。
果たして、バイデン政権の「停戦強要」かトランプ前大統領の「取引(ディール)」のどちらが実を結ぶのか分かりませんけれども、一日も早い停戦を望みます。
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