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1.七月も鈍化する中国経済
7月31日、中国の国家統計局は、景況感を示す製造業購買担当者指数(PMI)を発表しました。7月のPMIは、49.3と6月の49からやや改善したものの活動拡大・縮小の境目である50を4ヶ月連続で割り込みました。
建設業とサービス業を対象とする非製造業PMIは51.5と6月の53.2から下落。サービス業の指数も51.5と、前月の52.8から低下しています。
こうしたことから、中国の景気回復を巡る懸念は広がっていて、ブルームバーグ調査のエコノミスト予想では、2023年の国内総生産(GDP)成長率見通しが5.2%へと下方修正され、政府が設定した成長率目標の5%前後に近づいています。
オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の大中華圏担当チーフエコノミスト、楊宇霆氏は「雇用指数がなお50を割り込み、持ち直しの兆しが見られないことが懸念材料だ」と指摘。労働市場に数百万人の新卒者が流入する中、短期的には雇用は圧迫されると見込んでいると述べています。
2.中国の景気刺激策
中国物流購買連合会の張立群アナリストは発表文で、「需要不足の問題がなお顕著だ」と指摘。「このため、企業は生産に関して二の足を踏む状態が続いている」と分析した上で、政府投資の加速など景気対策の強化を提案していますけれども、中国当局は既に消費喚起策を講じる方針を示しています。
当局が7月に発表した景気刺激策は次の通りです。
7月28日:家庭用品・食品支援このように、ここ1ヶ月ほどの間に出された声明には、家庭用品や自動車などの個人消費を喚起し、民間企業を支援するという大まかな方向性が示されているものの、具体的な内容に乏しく、投資家は、もっと踏み込んだ提案と直接的な景気刺激策を求めているようです。
家庭用品や食品、プラスチック製品、皮革などセクターを含む業種を支援する措置を発表。
7月24日:企業投資
国家発展改革委員会(発改委)は運輸や水の保全、クリーンエネルギー、新規インフラ、先端製造業、現代的な農業施設などを対象に主要産業への投資を民間企業に奨励する計画を発表。
7月21日:建設
李強首相が主宰した国務院常務会議で、大都市の再開発が促された。不動産セクターへの支援を強化する。また、内需拡大や都市開発を進めるプロジェクトに民間資本をより多く導入するよう要求。
7月21日:自動車
発改委は新エネルギー車(NEV)を中心に自動車購入の喚起を狙い、電気自動車(EV)充電コストの引き下げや税優遇措置の延長など10の措置を発表した。商務省は自動車購入を促進し、農村部でEV普及を促進するため、半年間のキャンペーンを6月に開始。
7月20日:通貨
中国人民銀行(中央銀行)は、企業が海外からより多くの借り入れを行えるよう幾つかの規定を調整し、外国資本の流入拡大への扉を開いた。人民銀はこの日、人民元の中心レートを市場予想より元高水準に設定。
7月19日:民間企業
共産党と政府は、民間企業を国有企業と同等に扱い、政策立案について企業側との協議を増やし、企業の市場参入障壁を減らすことなどを含む31の施策の概要を発表。
7月18日:家計支出
13の政府部門が、家電や家具など家計支出を促進する計画の概要を公表した。地方政府は住宅改修を支援するよう促す。
7月13日:テクノロジー
国家インターネット情報弁公室が米オープンAIの「ChatGPT(チャットGPT)」のような生成人工知能(AI)サービスに関する規定を最終決定したとし、8月15日に施行される指針を声明で発表。中国当局はアント・グループとテンセント・ホールディングス(騰訊)に総額約2000億円の罰金を科すと先に発表し、テクノロジー業界締め付けの幕引きを示唆。
7月10日:不動産
人民銀と国家金融監督管理総局の共同声明によると、金融機関は不動産企業の未返済ローンに関して延長の交渉に応じるよう促しました。これは、建設中の物件を完成させ、引き渡しが確実に行われるようにする狙いがあるとされる。
けれども、中国政府は、今後開かれる共産党中央政治局会議で、より具体的な指針が提示される公算は大きいものの、大規模な景気刺激策は予定されていないとようです。
3.伸びない個人消費
中国当局の景気刺激策は多分に個人消費や民間企業に頼った施策なのですけれども、肝心のその個人に消費する余裕が意欲がなければ始まりません。
今年、中国当局は汚職撲滅のためm金融セクターにおける「欧米流の享楽主義」を排除すると宣言したのですけれども、これを受けた金融企業とその規制当局は給与とボーナスを削減し始めました。
負債を抱える地方政府の中には、公務員の給与をカットしたところも出始め、一部の病院や学校、売上減少に直面している一部民間企業も給与カットに踏み切りました。
今年に入って給与が下がった中国国民の数は不明なのですけれども、オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のシニア・チャイナ・ストラテジスト、ザオペン・シン氏は「賃下げはデフレリスクを強め、消費意欲を減退させるだろう」と顕著な賃下げの事例が、ただでさえ脆弱な消費者心理をさらに圧迫し、デフレスパイラルが発生するリスクを高めていると警告しています。
中国国民の今年上半期の平均所得は、前年同期より6.8%多い月1万1300元(約22万円)だったのですけれども、このペースを維持できるという楽観的な見方はほとんどありません。
イギリス・エコノミスト誌の調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」のシュー・ティアンチェン氏は、この所得増加は武漢ウイルスに伴うロックダウンが解除され、農村部の出稼ぎ労働者が工場に戻ったことが主因だとし、これがホワイトカラーの賃金の低い伸びを補っていると指摘しています。
また、人材紹介会社、智聯招聘の調査によると、主要38都市の新規求人で提示された平均賃金は、第1・四半期は前年同期比0.9%の伸びにとどまり、第2・四半期には0.7%減に転じています。
家計の総可処分所得は1~6月に5.8%増と、経済成長率の5.5%をトントンの状態です。
中国は国内総生産(GDP)に対する個人消費の寄与度が他国よりはるかに低いという特徴があり、アナリストは、これをカバーする為には、可処分所得が経済成長率をはるかに上回るスピードで増加する必要がある、と指摘しています。つまり、今の可処分所得では、中国のGDPにはなんら影響を与えないということです。
1~6月の家計の新規銀行預金は15%増の12兆元で、この期間の小売売上高の50%以上と、個人は消費せず、貯蓄しているのですけれども、アナリストはこれを、消費者の間で金銭的な不安が広がっている兆候だと見ているようです。
4.三道紅線が呼んだ不動産不況
現在、中国国民が、消費を抑えているとして、では、資産はどうかというと、こちらも明るくありません。不動産市況が悪化しているからです。
多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏は、今の中国の不動産市況について次のように述べています。
中国で不動産市況の悪化になかなか歯止めがかからない。2020年8月、共産党政権は不動産融資規制である“3つのレッドライン”を実施した。それをきっかけに、急速に大手不動産デベロッパーの資金繰りは悪化した。大手デベロッパーである中国恒大集団(エバーグランデ・グループ)、碧桂園控股(カントリー・ガーデン)、佳兆業集団(カイサ・グループ)の業況が軒並み悪化した。この中で、触れられている不動産融資規制である「3つのレッドライン」について、筆者も2021年9月のエントリー「恒大集団ショック」で取り上げたことがありますけれども、真壁氏はこの3つのレッドライン(三道紅線)が、今の不動産不況の原因になっているというのですね。
最近では、かつて“アジア一の富豪”と注目された、王健林氏の率いる大連万達集団(ワンダ・グループ)が苦境に陥った。米ドルなどで発行された債券の利息、元本の支払いが難しくなる不動産企業は、中国全体に広がる恐れも高まっている。
中国政府の政策にもかかわらず、短期的に中国の不動産市況が持ち直すことは難しいだろう。マンション建設は落ち込み、土地や資材などの需要は減少せざるを得ない。地方政府の歳入も細る。これまでのように、景気刺激のため、大規模なインフラ投資などの経済対策を打ちだすことも難しくなる。中国の景気が本格的に持ち直すには時間がかかるとみるべきだろう。
【中略】
リーマンショック後、中国経済は不動産やインフラなどの投資を増やし、経済成長率を人為的に押し上げた。それを支えたのが、共産党政権が不動産投資を強化し続け、マンションなどの価格は上昇し続けるという強い期待だ。人口の増加も、住宅需要の増加期待を高めた。過度な期待に支えられ、買うから上がる、上がるから買うという強気心理は膨張した。
それに頼って、地方政府は土地の利用権をデベロッパーに売却し、歳入は増加した。地方政府は、景気刺激のため大規模な景気対策を打ちやすかった。地方政府の共産党幹部は、全国人民代表大会(全人代)で示される経済成長の目標を達成し、出世を目指すこともできた。
しかし、2020年8月の3つのレッドラインは、不動産神話の価格上昇の期待を打ち砕いた。売るから下がる、下がるから売るという負の連鎖は強まり、エバーグランデもワンダも、他の民間デベロッパーも、業況は悪化した。習近平政権は不動産関連規制を緩和したが、効果は出ていない。
共産党政権の政策運営によって、不動産市況が上向き、景気が安定することは難しいのではないか。そう考える人は増えているだろう。4~6月期の実質GDP成長率が前期比1.8%にとどまったのは、経済政策などへの不安上昇に影響され、個人消費が減少したことが大きい。
また、2022年、中国の人口は減少に転じた。今後、住宅の実需も減少する。そうした要素に影響され、グリーンランドは債務不履行に陥った。6月に中国人民銀行は追加の利下げを実施したが、大きな効果は出ていない。共産党政権の政策運営によって中国経済の成長率が向上する展開は予想しづらいとの見方は増えているだろう。
【中略】
一方、中国では共産党政権が民間企業に対する影響力を強めた。その気になれば、習政権は公的資金注入、不良債権処理などを迅速に進められるだろう。しかし、そうなっていない。過度にリスクをとり事業運営が行き詰まった民間企業を公的資金で救済すれば民衆の不満は高まる。土地の譲渡益減少によって、地方政府の財政が悪化し、思い切った対策も打ち出しづらい。
不良債権処理の実施に伴い、若年層を中心に雇用、所得環境の悪化は鮮明化するだろう。民衆だけでなく党内からも、習政権に対する批判は増える恐れが高い。習政権は、そうしたリスクを回避するために、不良債権の温存を目指し、金融、財政政策に頼らざるを得ない。
結果として、不動産などの企業、地方政府の債務問題の深刻化は避けられないだろう。景気下支えのための金融緩和によって米中の金利差は拡大し、海外への資金流出も加速するだろう。オーストラリアなどで不動産を購入し、財産を守ろうとする人も増える可能性が高い。
資金流出を食い止めるために共産党政権はこれまで以上に経済、社会への統制を強めるはずだ。党に対する人々の反発心理は高まり、政策の効果が表れづらくなる恐れも高まる。当面、中国の不動産市況の下落は鮮明化し、景気の停滞懸念も高まりそうだ。
真壁氏は、「中国政府が、民間企業を公的資金で救済すれば民衆の不満は高まり、経済、社会への統制を強めれば、党に対する人々の反発心理は高まり政策の効果が表れづらくなる」と指摘しています。
真鍋氏の指摘が本当であれば、これから中国は失われた○○年、なんてどこかの国が陥った状況にならないとも限りません。各企業も中国経済に対する見方を変える時なのかもしれませんね。
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