殿様商売の政府には商いは出来ない

今日はこの話題です。
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1.マイナカード普及率連動交付金


7月28日、総務省は2023年度の地方交付税について、総額約17兆円のうち500億円は、マイナンバーカードが普及している市町村を優遇する形で配分したと明らかにしました。カードを使った住民サービスの充実を後押しするためと説明しています。

これは、昨年12月21日に、鈴木俊一財務相と松本剛明総務相が、2023年度予算案をめぐる閣僚折衝を行った結果、マイナンバーカードの普及拡大に向け、23年度から地方自治体ごとのカード交付率を地方交付税の算定に反映させることで合意したことを受けてのものです。

令和23、24年度は500億円のカード利活用特別分を財源に加え、交付率の高い自治体ほど交付税額を積み増すとしていました。

松本総務相は折衝後の記者会見で次のように説明しています。
先ほど、財務大臣と地方財政対策について折衝し、合意したところです。

まず、一般財源総額については、交付団体ベースで、前年度を0.2兆円上回る62.2兆円を確保しました。その中で、地方交付税総額については、前年度を0.3兆円上回る18.4兆円を確保することができました。

また、特例的な地方債である臨時財政対策債については、発行額を前年度から0.8兆円抑制した1.0兆円とし、その残高を2.9兆円縮減することができました。主な歳出項目については、地域デジタル社会推進費について、事業期間を3年間延長することとし、令和5年度及び令和6年度は、マイナンバーカード利活用特別分として、500億円増額することができました。

また、地方団体が、地域脱炭素の取組を計画的に実施できるよう、新たに脱炭素化推進事業費を1,000億円計上することとしました。さらに、学校、福祉施設、図書館、文化施設など地方自治体の施設の光熱費の高騰を踏まえ、一般行政経費を700億円増額することとしました。

あわせて、地方財政対策以外の予算重要項目についても、折衝を行い、量子インターネットの実現に向けた要素技術の研究開発のために、25.8億円を確保しました。なお、現段階においては、予算の編成作業にあわせて計数整理中であり、詳細については、政府予算案の閣議決定後に、事務方から説明させます。

私からは以上です。
そして、質疑応答で、マイナカードに絡んだ交付率を交付税に反映させる件について、次のようなやり取りがありました。
問:交付税の算定にマイナンバーカードの交付率を反映させるという件があったと思いますが、この点に関して、地方からは交付税の減額につながるのではないか懸念の声もあったが、この算定方法も含めて、今回の地方財政対策でどのような措置を講じたのかお願いします。

答:これまでも拡充するにあたりというかたちで申し上げてきたところでございますが、今回、地域が抱える課題のデジタル実装を通じた解決の取組等を一層推進するため、地方財政計画の地域デジタル社会推進費2,000億円について、事業期間を令和7年度まで延長することとしたところに加えて、マイナンバーカードを利活用した住民サービス向上のための取組に係る事業費として、地域デジタル社会推進費を500億円増額したところでございます。

その上で、今回増額したこの500億円について、マイナンバーカードの交付率も活用して、マイナンバーカードを利活用した取組に係る財政需要を的確に普通交付税の算定に反映することとしております。

具体的には、今回の500億円について、すべての市町村において基準財政需要額を増額するように算定しております。その上で、マイナンバーカードの交付率が高い、上位3分の1の市町村が達している交付率以上の市町村については、当該市町村のマイナンバーカードの交付率に応じた割増し率によって算定すると考えているところでございます。
このように、マイナカードの交付率が上がるほど、地方交付税を手厚くするとし、今回の割り増しはこのときの取り決めに従ったものです。

地方交付税は一定水準の行政サービスを提供できるよう地方税収などでまかないきれない自治体に、国が資金を配る仕組みですけれども、これをマイナカードの交付率と連動させることで、普及を促そうという訳です。


2.市場調査という発想がない政府


政府は地方交付税交付金を調整すれば、地方自治体はマイナカード普及に精を出すだろうなんて考えているかもしれませんけれども、ここには一番肝心なことが見えていません。それは顧客、即ち、住民です。

企業が新製品を開発し、それを販売するにあたってまず行うことは「市場調査」です。

市場調査とは、アンケートなどにより市場の動向やトレンド、自社の商品やサービスの認知度や顧客のニーズを調べることですけれども、この調査結果をもとに企業はマーケティング対策を適宜変更し、顧客に少しでも満足のいく商品を届けられるようにします。サービス業のみならず、物を売るには当然の活動です。

勿論、マイナカードは値札が付いた商品ではありませんけれども、サービスを提供するという意味では、立派に商品といえます。

政府は健康保険証を廃止してマイナカードに一本化するとし、マイナカードを普及させた自治体には交付金を弾むぞ、と尻を叩いていますけれども、そこにあるのは売り手の理屈だけであって、買い手の姿はありません。要するに殿様商売だということです。

政府が、マイナカード普及に関する「市場調査」をしているのか分かりませんけれども、それに類するものは、マスコミが世論調査という形で行っています。

7月22~23日、毎日新聞は全国世論調査を実施し、マイナンバーカードについてメリットを感じるか尋ねました。

その結果、「あまりメリットを感じない」が34%と「全くメリットを感じない」の17%と合わせて51%と、「大いにメリットを感じる(12%)」と「ある程度メリットを感じる(29%)を合わせた41%を上回りました。また「マイナンバーカードを持っていない」は8%でした。

また、「マイナンバー制度に不安を感じるか」との質問には、63%が「不安を感じる」と回答し、「不安は感じない」は25%にとどまりました。「どちらともいえない」は11%で、6割が不安を感じています。こんな結果がでたら、商品開発は企画から見直すのが普通ではないかと思います。


3.ここでしか聞けない経済の裏事情


7月1日、東京国際フォーラムで、嘉悦大学教授の髙橋洋一氏が「ここでしか聞けない経済の裏事情」という題目で講演を行いましたけれども、講演の最後で、マイナカード普及の方策について次のアイデアを披露しています。
・相続税がある国は少ないです
・相続税がなぜあるかっていうとずーっと所得税がきちんと取れないからっていうのが前提です。
・きちんと取れないから最後で取るよって話なんです。
・でもきちんとずーっと所得税が取れる。マイナンバーだとかなり取れるんですけどね。
・取れたら実は相続税はゼロで実はいい。もうちょっと、言った方がいいと思いますけどね
・マイナンバーやれば相続税がゼロになると運動したらですね。ぜひですね。お近くの人の国会議員がいたそういう運動したら面白いと思いますけどね。
・ちょっとはいるんです 本当にマイナンバー使って所得税がかなり取れると、昔は964(クロヨン)とか言って、9はサラリーマン、普通の事業主6割に、4は農業ていう風に言われてて。
・所得補足ができなかったから相続税って話。
・でもマイナンバーをどんどんどんどん入れていくとですね、所得補足はすごくできますから。
・そうなるといろんな国々もそうなんですけど、マイナンバーで所得が補足できるから相続税いりませんっていうのはロジックとして完璧です。
・でやればいいんですよね。そういう風になったらみんないいかなと思いますよというのが、ちょっと今日はテレビで言えないマイナンバー話ですけどね。
このように、マイナンバーをやれば相続税をゼロにする施策を提言しています。

このアイデアについては、1月8日のエントリー「衰退した中間層と異次元の少子化対策」で、筆者も全く同じアイデアを出していました。

まぁ、一種の抱き合わせ販売に違いながらも、こちらの方がずっと「顧客」を向いたサービスだと思います。




4.相続税・贈与税見直しの嘘


高橋洋一氏は、昨年11月9日放送のニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」で、政府税制調査会がまとめた相続税や贈与税の見直しについて解説しています。

政府税制調査会は専門家による会合で、相続税や贈与税の見直しに向けた議論の結果をまとめたのですけれども、高齢者から若い世代への資産の移転を促すため、手続きの簡素化など制度の使い勝手を向上させることなどを提言しています。

これについての高橋洋一氏の解説は次の通りです。
飯田)使い勝手の向上とともに、贈与税の非課税措置については廃止の方向で検討するのが適当だということですが。

高橋)きつい言い方をすると、「本当に専門家か」という感じですね。「使い勝手の向上」というのは、税率は関係なく手続き面の話だから、そこで少しプラス的なことを言って、下の方は「増税」と言っているのです。

飯田)贈与税の非課税措置を廃止と。

高橋)骨太の議論をするのであれば、税金としては、相続税と贈与税は実は同じなのです。同じというのは、「死んだときの相続」と「死ぬ前の贈与」という意味です。そこは同じ税法で規定されていて、補完するから基本的には同じ法律です。

飯田)金銭の流れとしては、確かに上の世代から下の世代へ動くことは一緒で、それが生前なのか死後なのかという。

高橋)似ているのです。だからみんな相続税と贈与税を議論するときに、1つの考え方として、相続税も贈与税も矛盾なく規定するのが普通です。

飯田)相続税も贈与税も。

高橋)その1つの考え方が何かと言うと、「所得税で全部取れなかったら、最後に相続税で取る」というのが基本になってしまうのです。しかし、以前は所得税で取れなかったものが、マイナンバーが導入されたことで変わってきています。マイナンバーによって、所得税の捕捉がかなりできるようになってきているのです。

飯田)マイナンバーによって。

高橋)理論的には、「相続税全体の税金は安くなる」という理論です。そこを基本にしないと、専門家ということにはならないですよね。他の国もそうですけれども、みんな生前の所得税は捕捉できて、資産も捕捉できるようになっているから、そこでほとんど完結して「相続税ゼロ」という理論です。

飯田)なるほど。

高橋)生前に所得税を全部取るのだから、それでいいではないかということです。「取りそこなうから最後に相続税で清算する」というのが相続税の存在理由なのです。

飯田)所得税を取れない部分があるから。

高橋)そういう骨太の議論をすると、実は相続税は下がる方向なのです。所得税できちんと取れているのだから。

飯田)確かにそうですよね。

高橋)それを議論せず、小手先の話でプラスマイナスを言っているのは、私からすると税制の専門家ではないですね。実務家のなかで「今年は取りやすいからどうだろうか」という、それくらいの議論です。

飯田)「相続税・贈与税が何のためにあるのか」ということから語り起こさなくてはいけない。

高橋)そうです。なるべく簡素な税金にするから、所得税を全部取れるのであれば、そこで完結してしまうのです。

飯田)昔は相続税などが大変で、3代続いたら資産家はほとんどお金がなくなってしまうというようなことも言われました。

高橋)以前はマイナンバーもなく、「所得税を全部取れなかったから」という理屈です。

飯田)国民の経済活動をやめさせるために税金があるわけではないから。

高橋)こういうときに世界を見ると、「相続税ゼロ」の国はかなりあるのだけれども、理屈としては「生前に全部取るからそこでおしまい」なのです。

飯田)なるほど。

高橋)所得税をきちんと取ると、最終的には法人税も理論的にはゼロになるのです。すべての法人所得は、全部個人に帰着できるでしょう。配当所得もそうですし、すべて帰着できます。全部そこで所得税を取ると、法人税はゼロになるのです。

飯田)個人の所得をすべて把握できるという前提があれば。

高橋)頭のなかの理論の話ですけれども、徐々にそこに近付いていっているから、相続税と法人税は下げていく。その代わり、所得税のところで「漏れなくきちんと取る」というのが筋になるのですよ。

飯田)「法人税の国際比較」などがありますけれども。

高橋)他の国がなぜ下げるかと言うと、所得税を捕捉できるから下げているだけなのです。

飯田)シンガポールなどが下げられるのは、IT化が進んで全部捕捉できるからという。

高橋)個人段階で全部把握できてしまったら、そこで全部税金は終わってしまうのですよ。もちろん消費税は少し違うのだけれども、所得課税の形だと、そこで全部完結してしまうから法人税はゼロになり、相続税もゼロになるという理屈です。

飯田)個別の税目で議論されると、そこがつながっているかどうかは、素人にはわかりませんからね。何だかいろいろなものを取られているなという。

高橋)「税理論」を言っているだけですけれどもね。

飯田)政府税調のなかで、「将来的には消費税も上げるべきだ」と言われていますが。

高橋)わけがわからないですよ。

飯田)2022年は特にそうですけれども、税収見通しは相当、景気がいいですよね。

高橋)景気対策をしたから底が堅いし、雇用調整助成金を出したから失業も少ないでしょう。そうすると所得税が増えるのです。少し円安の話も入っています。そういうものの組み合わせですから、予測は簡単にできます。2022年度も税収は増えると思います。

飯田)2022年度は、いまのところの予測だと68兆円と言われていますけれども、「70兆円を超えるのではないか」とも言われます。

高橋)これだけ円安になっていれば超えると思いますよ。法人企業収益はすごいのですから。

飯田)企業収益がすごい。

高橋)法人税収だけでも上がってしまうし、それが上がると所得税も上がる。物価も少し高いから、消費税も少し上がります。

飯田)売価が上がれば消費税も上がる。

高橋)上がります。所得、法人と消費税がみんな上がるから、それは上がりますよ。

飯田)税収が上がる。

高橋)上がります。

飯田)少しは還元したらどうなのですかね。

高橋)埋蔵金を40兆円も持っているのです。なぜ出さないのかと思いますけれどもね。政府税調や財政審議会では、そういう議論はしません。だから選択的にやっているというように思ってしまうわけです。

飯田)減税はしたくないということですね。

高橋)減税しないから、対策の消化ができないなど、悪循環に陥っているのです。埋蔵金で50兆円くらいは出せますから、この際、消費税を「2年間ゼロ」にしたらよろしいと思います。

飯田)それは助かりますね。

高橋)そうでしょう。いちばん簡単な対策です。

飯田)可処分所得が1割上がることになります。

高橋)なぜそういう話をしないのでしょうか。
このように、高橋洋一氏は、マイナンバーで所得を補足できれば、相続税など不要だと言い切っています。そもそも、高齢者から若い世代への資産の移転を促すという目的は良しとしても、その手段が「手続きの簡素化」とは、果たして顧客がメリットを感じるのか甚だ疑問です。

高橋洋一氏は専門家会合について「本当に専門家か」と厳しく批判していますけれども、議論の前に民の声を聞いて見れば、また別の結論が出るのではないかと思います。

政府はもっと殿様商売ではなく、「お客の声」を聞くという商いの基本を学ぶ必要があるのではないかと思いますね。


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