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1.北京を襲った集中豪雨
中国が酷い水害に見舞われています。
8月2日、中国当局は、北京を襲った豪雨は、過去140年間で最多の降水量を記録したと発表しました。北京気象局によると、中国の首都の降水量は7月29日以降に累計744.8ミリを記録。気象局はこの雨が、記録を取り始めた1883年7月依頼、最大の降水量をもたらしたとしています。
この豪雨は、先週、中国の南東部を襲った台風5号(トクスリ)の影響で引き起こされたものですけれども、台風5号は7月28日に福建省に上陸、その後北上し熱帯低気圧に変わったのちに、北京、天津、河北地域で連日の豪雨災害をもたらしました。特に北京市西部山間地域の門頭溝区の集中豪雨により永定河の水位が急上し氾濫、川沿いの道路は濁流と化し、沿道の店舗が水没しました。
SNS上では数十台の自動車が濁流に流される様子や、永定河大橋が水流で破壊される様子、おぼれた少年の蘇生を試みるも間に合わなかった様子などが映された動画が拡散。北京郊外の門頭溝賈溝村では洪水で流れてきた土砂や樹木、自動車などで埋もれてしまい村民全員が村を脱出して緊急避難しました。
北京、天津、河北地域の豪雨は7月29日から始まって、8月1日午前にようやくやんだのですけれども、北京市だけで4.4万人が被災し、12万人以上が避難。災害救急隊員2人の殉職を含めて11人が死亡し、27人が行方不明とのことです。台風5号は福建省ですでに被災者266万人以上、直接経済損失147.5億元以上の大被害を出しているとされ、中国全土で被災者は300万人を超えると見られています。
2.海綿都市プロジェクト
北京市では今から13年前の2012年7月21日に、集中豪雨が発生し、70人以上が死亡。政府に対する批判の声があがりました。これに対し、政府は「海綿都市(スポンジシティー)」建設を提唱、洪水対策に本腰をあげると宣言しました。
海綿都市というコンセプトは、雨水の管理システムとして、2003年に北京大学の余孔堅教授が「海綿」という用語を提案。雨水ではなく河川に焦点を当て「河川の両側の自然湿地は海綿のようなものだ」と指摘したことに端を発するようです。
つまり、海綿が水を吸うように、雨が降ったときはその雨水を吸収し、渇水の時は、吸収して蓄えた雨水を排出して利用する、そういう都市です。
北京大学景観学科教授の兪孔堅氏は、アジア諸国の近代的なインフラについて、それらはヨーロッパから輸入されたものが主流で、「モンスーンに左右されるアジア大陸の気候には適さない」と指摘。近年、アジアの都市で洪水による甚大な被害が多発していることも、こうした建築的なミスマッチが原因であるとしています。
兪教授は、天然資源を利用した「グリーンインフラ」による水に強い都市建設を提案。都心に公園や池といった大規模な貯水スペースを作ることで雨水を貯蔵し、洪水を防ぐことを目指しました。
2014年、中国政府は、2020年までに都市部の20%、2030年までに都市部の80%で雨水流出量の70%を再利用するとぶち上げ、海綿都市実現に向け、2015年には16、2016年にはさらに14、計30の都市がパイロット事業として選定され、国家特別支援制度のもと各都市で海綿都市の建設を行いました。
また、地方においても関連事業の展開が推進され、一部の地域では省レベルのパイロット事業を実施し、省レベルの重点都市を指定し、2017年までに中国13省の90都市で、省レベルの海綿都市パイロット事業が行われています。
新華社の報道によると、2017年4月までに全国海綿都市の総建設面積は420km2に達し、投資額は544億元に上りました。また、財政部、住建部、水利部は30都市に対する海綿都市建設状況を考察した結果、江西省萍郷市、広東省深セン市、山東省青島市などの都市が優れた実績を上げたとしています。
実際、深セン市は、2018年までに海綿都市関連の竣工済プロジェクトが1361件に達し、海綿都市総面積が104km2に増加。青島市は、2018年5月までに海綿都市総面積が110平km2、建設中の面積が54km2に達しました。また、萍郷市は雨水収集・利用率が1%から8%まで上がり、2017年の大雨による冠水被害の防止に役立ったと評価されています。
3.想定外と人災
では、今回の豪雨で、海綿都市はどうだったのか。
北京郊外にある主要空港の一角である大興国際空港は、貯水槽や排水システムなどを備え、五輪サイズのスイミングプールの約1300個分に相当する雨水を吸収できるとし、中国初の「スポンジ空港」と考えられていたのですけれども、今回記録的な豪雨で滑走路の一部がまだ水浸しとなりました。
また、北京に隣接し、2016年からスポンジ都市の取り組みを進めていた河北省の邢台市も豪雨の被害を受け、2日間で2年分となる39.5インチ(約1000ミリメートル)の雨量を記録し、洪水が発生しました。
流石に、2年分の雨が2日で降るなんて、海綿都市の設計段階で想定していなかったと思われます。海綿が吸収できる以上の水は溢れる。残念ながら、なるべくしてなったという他ありません。
ただ、その一方で、SNSなどでは被害を嘆く声だけでなく、「人災ではないか」といった厳しい声も上がっています。
今回の水害で、当局は、北京市を守ろうと、北京市・天津市を取り囲むように位置する河北省に対し、予告なしで永定河などの水を放出し、結果南部にある70万人が暮らす河北省涿州市を水没させています。いくら北京を守るためとはいえ(守れてませんが)、予告なし放水で川下を水没させてしまうのは人災ではないかと思います。
更に間の悪いことに、7月19日、当局は「習近平の治水に関する重要論術についての学習と貫徹」という本を出版したのですけれども、当局の水利部、メディアは「習近平がこの10年自ら計画し、配置し、推進し、全国の海綿都市の治水事業を完成させた」と大々的に喧伝していたのだそうです。更に水利部機関紙「中国水利報」も「長期間解決しがたかった治水問題を解決した」と報じていたのですね。
ところが、その1週間後に、今回の豪雨で、福建から上海、江蘇、河北、北京、天津の至るところが水没。面子丸つぶれとなりました。
こうした実態に、中国のSNSでは、「これほどの大都市なのにインフラ整備が遅れているのは政府の責任だ」、「排水システムの問題だけでなく、排水溝をきちんと掃除していないので、そこにゴミが溜まっていて、いざというときに排水溝の役割が果たせていないからだ」、「ふだんの小雨でも、道路の水はけが悪いじゃないか」となどと厳しい意見が飛んでいるそうです。
まぁ、治水問題を解決した、と豪語した途端、これですからね。おそらく想定外の大雨にスポンジから溢れてしまったということだと思いますけれども、中国においても、政府のプロパガンダを自然が覆した分かり易い事例だと捉えることもできるかもしれませんね。
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