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1.五分の一になった中国への直接投資
中国国家外貨管理局(SAFE)が8月4日に発表した統計によると、中国の海外直接投資は第2・四半期、対内投資が49億ドル弱に減少した一方、対外投資が増え、純流出が過去最高の341億ドルに達したことが分かりました。
これは前年同期比で87%の減少で、1998年以降のデータではどの四半期でも最低となったとのことです。ソシエテ・ジェネラルSAの中華圏エコノミスト、ミシェル・ラム氏は「FDI措置の急落は憂慮すべきことだ……これは、まだ新たな投資が入ってきていることを意味する可能性があるが、一部の企業は既存利益の再投資を減らしている」と付け加えています。
中国は1978年に当時の最高指導者、鄧小平氏の改革解放政策で海外直接投資(FDI)が始まりました。以来、外国企業は市場へのアクセスと安価な労働力を求め、中国で事業買収や工場建設を進めるなど投資を行ってきました。
その後、中国への直接投資は緩やかに減っていったものの、今年第2四半期にそのペースが急速に加速、25年前の統計開始以来の水準に落ち込んだことから、長年の基調が変化しつつあるとの観測も広がっているようです。
投資家やアナリストによると、対内直接投資が落ち込んだのは、中国と西側諸国の間の競争や政治的摩擦が影響しているとされています。
ウォールストリートジャーナル紙によると、中国への外国直接投資は、昨年の第1四半期が1000億ドルだったのが、今年の第1四半期には200億ドルに5分の1に減少したとのことですけれども、それが第2四半期で更に5分の1になった訳です。
調査会社ロジウム・グループの中国市場調査部長、ローガン・ライト氏は、「FDIは長年、為替レートを大きく変動させる要因ではなかった。年500億ないし1000億ドルの流入超過が普通だったからだ……しかしそれが今のように流出超過に転じると、かなり大きな調整だ」とコメントしています。
2.何一つ成果の無かった成都の欧州投資依頼行脚
こうした中、中国政府は各国からの投資を呼び込もうと躍起になっています。
3月28日、中国商務省が「投資中国年」という名称で投資促進活動の立ち上げ式を南部の広東省広州市で開きました。これは、外資系企業に投資環境をアピールしたり交流の場を設けたりするもので、立ち上げ式には中国の政府関係者や中国に進出した外資系企業の幹部など300人以上が出席しました。
立ち上げ式では何立峰副首相が挨拶し、「多くの外国企業の友人とのコミュニケーションを強化していく。外資系企業が中国で投資し事業を起こすため、より良い条件と環境を整備する」と説明。広東省トップの黄坤明・省党委書記も「多くの外資系企業が自身の強みと広東省の質の高い発展の需要を結びつけ、共に長期的に発展することを望んでいる」と訴えました。
中国政府は「ゼロコロナ」政策で傷んだ地域経済のテコ入れに向け、日本企業の誘致にも動いており、上海市や遼寧省大連市が日本に訪問団を派遣したほか、四川省成都市では日本企業と連携を促進する施設「中日会客庁」を開業させています。
経済評論家の朝香豊氏によると、四川省成都市の貿易関係者が最近ヨーロッパに対して、中国への投資を促す説明行脚をしたそうなのですけれども、何の成果もあげられなかったようです。何でも、投資覚書の署名一つさえできなかったという、ここ20年で初めてのことだったのだそうです。
また、広東省南部のある軍の高官は、今後5年間で3000億ドルの投資を誘致するという目標を設定し、アメリカの貿易グループに対し、投資を約束してくれれば、その価格の10%を投資の決定権者に報酬としてキャッシュバックするという条件を出したそうですけれども、断られたのだそうです。
3.新たな中国への投資規制
まあ、既に中国企業向けの先端半導体製造装置に関しては、アメリカを初めとして、日本と欧州は輸出を制限し、中国が報復として希少鉱物の輸出を制限していますからね。
そんな中、8月9日、アメリカ政府は、アメリカの企業・個人による中国への投資を規制する新制度を導入すると発表しました。M&A(合併・買収)やプライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、合弁事業などによる中国への新規投資を対象とし、アメリカ国内だけでなく、全世界のアメリカ人に適用するとしています。
市場への混乱を抑えるため、上場投資信託(ETF)や公募証券、アメリカの親会社から子会社への資金移動などは除外する方向で検討しているようです。
また、半導体はスーパーコンピューターなどの高度技術の開発につながる先端分野は投資を禁じ、比較的、先端ではない分野でも届け出を義務付けるとしています。
量子技術は原則認めない見通しで、AIは軍事技術やスパイ活動に使用されうる技術を届け出の対象とし、投資禁止も検討しています。
新制度はアメリカ財務省がアメリカ商務省と協議しながら運営。財務省は調査権限を持ち、違反した企業・個人に罰則を科すとのことです。
バイデン大統領は連邦議会に書簡を出し、中国について「無形の利益を含む米国からの対外投資を悪用している……軍事的優位性を獲得する目的で、世界の最先端技術を取得・転用し、民間部門と軍事部門の壁をなくしている」と指摘しました。
更に、アメリカは主要7ヶ国(G7)などの同盟国に同様の措置を創設するよう求める見込みで、欧州連合(EU)は対中国を念頭に、先端技術に関する域内企業の対外投資規制を検討しているとのことです。
4.アメリカは世界の不安定要因か
こうした背景を考えれば、四川省成都市の貿易関係者が、ヨーロッパに中国への投資を促す説明行脚をしても、何の成果もあげられなかったというのも理解できますし、第2四半期の対中投資が激減しているのも、それらを先取りした動きなのかもしれません。
アメリカの新規投資規制について、駐米中国大使館の報道官は「繰り返し深い懸念を表明しているにもかかわらず、米国は新たな投資規制に踏み切った。中国は非常に失望している……中国は情勢を注視し、我々の権利と利益をしっかりと守っていく」と強調していますけれども、直ちに報復すると言えないあたり、立場の弱さが透けて見えるようです。
もっとも、8月10日から4日間の日程で東南アジアを訪問している中国の王毅外相は11日、シンガポールのリー・シェンロン首相と会談し、その中でアメリカについて「『台湾独立』勢力を容認し、中国の越えてはならない一線まで来ているうえ、中国に対する一方的な保護主義を他国に強制している……時代に逆行する行為は自身の信用を損なうだけでありアメリカが現在の世界で最大の不安定要因になったことを証明している」と、強く非難しました。
王毅外相の「中国に対する一方的な保護主義を他国に強制している」という発言は、アメリカの新たな投資規制のことを指していると思われますけれども、先述した朝香氏が紹介した、広東省南部の軍高官がアメリカの投資グループに投資しれくれれば1割キャッシュバックすると持ち掛けていたことを考えると、中国は表で強く抗議する裏で下手にでて交渉を持ち掛けてくることも考えられます。
ただ、アメリカは今のところ、中国と交渉する気はないのではないかと思います。
8月10日、バイデン大統領は、訪問先のアメリカ・ユタ州で開かれた政治資金集めのイベントで、中国は経済成長が鈍化し、高い失業率や高齢化といった問題を抱えていると指摘した上で「中国は時限爆弾だ……悪い人々が問題を抱えると悪いことをする、これは良くないことだ」と述べる一方で、中国に害を与えることは望んでおらず、理性的な関係を望んでいるとも述べました。
「悪い人々が問題を抱えると悪いことをする」とは随分と挑発的な物言いですけれども、その口で「中国に害を与えることは望んでいない」とは白々しい。
おそらく、中国の面子を潰すことで交渉はしないというメッセージを送ったのではないかと思います。
前述したように、もし、今後アメリカがG7に同様な投資規制を要請し、G7がそうしたら、中国経済は増々追い込まれることになります。その意味では、バイデン大統領の「時限爆弾」発言は、中国を経済崩壊させるぞ、と通告したような気がしないでもありません。
このまま中国が封じ込まれたまま沈没していくのか。突然の暴発に備えながら、注視する必要があると思いますね。
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