戦う覚悟が戦争を抑止する

今日はこの話題です。
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1.戦う覚悟発言の余波


麻生副総裁の台湾での「戦う覚悟」発言がじわじわと波紋を呼んでいます。

当然ながら、中国は猛反発です。

8月9日、中国外交部の報道官は、麻生発言について、記者の質問に答えました。そのやり取りは次の通りです。
記者:報道によると、日本の自民党副総裁で元首相の麻生太郎氏がこのほど台湾を訪問し、蔡英文、頼清徳らと会った。現地で行った講演では、台湾海峡と地域で戦争は起きてはならないとし、強い抑止力を機能させる覚悟と戦う覚悟が必要だと主張した。中国はこれにどうコメントするか。

報道官:日本の一部の政治家は中国の断固たる反対を顧みず、中国台湾地区をかたくなに訪問して勝手な議論をした。台湾海峡情勢の緊張を誇張し、対立と対抗をあおり、中国の内政に乱暴に干渉した。この行いは「一つの中国」原則と中日間の四つの政治文書の精神に重大に違反し、国際関係の基本準則を甚だしく踏みにじるものである。中国は既に日本に厳正な申し入れを行い、強烈に非難した。

台湾は中国領土の不可分の一部である。台湾問題は純粋に中国の内政に属し、外部の勢力の干渉は許されない。日本はかつて、台湾で半世紀にわたる植民統治を行い、台湾人民の抵抗を残酷に鎮圧し、書き尽くすことのできない罪を犯した。中国に対して重大な罪科を負っており、一番にしなければならないのは我が身を顧みて反省することであり、言行を慎むことである。日本の政治家が台湾で口を開けば戦争に言及し、台湾海峡の平穏を恐れる姿勢を示すのは、台湾の民衆を奈落の底に突き落とそうと考えているからである。中国は1895年に馬関条約(下関条約)を締結した清国政府とはすでに異なる。日本の一部の政治家のどこに台湾問題であれこれ言う資格と余裕があるのか。

祖国の完全統一実現は中華の子女全体の共通の願いであり、妨げることのできない歴史の大勢であることを強調しておく。いかなる者であれ、国家主権と領土保全を守る中国人民の強固な決意とゆるぎない意志、強大な能力を過小評価してはならない。われわれは日本に対し、侵略の歴史を深く反省し、「一つの中国」原則と台湾問題におけるこれまでの約束を厳守し、いかなる形であれ中国の内政に干渉せず、いかなる形であれ「台湾独立」分裂勢力を後押ししないよう厳粛に促す。われわれは台湾当局に対しても、「台湾独立」は完全な袋小路で、日本にへつらい、台湾を売り渡すことは台湾の民衆に災いをもたらすだけであり、外部勢力と結託して独立を図るいかなる挑発的行為も失敗する定めにあると警告する。
日中間の「四つの政治文書」を持ち出しての抗議ですから、抗議レベルとしては、相当に高いと見てよいかと思います。

また、8月10日には、駐日中国大使館報道官も同様の記者質問を受け、次のように受け答えしています。
問:自民党副総裁の麻生太郎元首相は先ごろ台湾を訪問した際、「戦う覚悟で、抑止力を強化すべきだ」と主張したが、これに対するコメントは。

答:これは身の程知らずのでたらめな発言だ。しかも、こうした発言は中国の内政に干渉し、台湾海峡の安定を破壊するものであり、すでに日本側に厳重な申し入れを行った。台湾は中国の台湾であり、台湾問題の解決は完全に中国の内政である。日本の一握りの者が、中国の内政問題と日本の安全保障をかたくなに関連付けようとするならば、再び日本を誤った道に引き込むことになるだろう。
こちらも激しい言葉で批判しています。

ただ、外交部報道官も駐日中国大使館報道官も、「日本の一部の政治家」だとか「日本の一握りの者」と枕詞を付けての批判です。要するに日本全部を敵視はしない、というメッセージであり、多少なりとも気を使っている部分も無しとはしません。


2.綿密に調整された発言


今回の麻生副総裁の訪台と「戦う決意」発言について、ある自民党関係者は「麻生氏は、台湾へのこだわりが昔から強い。本当は、もっと早い段階に行きたかったくらいだ」とコメントしています。

1972年の日中国交正常化に伴い、台湾は日本との国交を断つことになりましたけれども、それ以来、制限されることとなった政府間交流の代わりに、自民党青年局が日台外交の主軸となってきました。麻生副総裁は、青年局長の経験があり、長期的に台湾との人脈を築いてきました。麻生副総裁は、副総裁になってからも訪台を模索していたそうです。

また、麻生副総裁に近い別の関係者は、訪台を前に「麻生氏が台湾に行くこと自体が、『抑止力』として中国に対するメッセージとなる」と述べています。

冒頭で取り上げたように、今回の麻生発言に中国は反発していますけれども、今回の訪台に同行した鈴木馨祐元外務副大臣は、8月9日放送のBSフジの番組で「今回、実は麻生太郎衆議院議員個人の発言ということではなくて、自民党副総裁という立場での講演。当然、これは政府の内部も含めて、調整をした結果のことですから。少なくともこのラインというのは『日本政府としてのライン』……岸田総理と極めて密に連携をした。今回もいろいろ訪問前にやっている」とも明らかにしました。

麻生副総裁は「戦う覚悟」という言葉を使うことを、事前に周辺に伝えていたそうで、麻生副総裁周辺は「岸田総理の口から言えないからこそ、麻生氏自身の思い入れが強い言葉だった」と明かしています。

また、麻生副総裁周辺は「今回の麻生さんの発言で、台湾での戦争リスクは下がる。中国という国は、弱い国を徹底的に攻めるからね」とコメントしています。

更に、この「戦う覚悟」発言の日、蔡英文総統と会談した麻生副総裁は、記者団に対し「来年の1月に行われる選挙の結果は、日本にとっても極めて大きな影響が出ますから、そういった意味で『次の人を育ててもらいたい』と蔡英文総統に申し上げました」と話していますけれども、会談の出席者によると、麻生副総裁は「来年5月に迫る蔡英文総統の任期中は、台湾有事が起こる可能性が低い」と見ていて、次の総統が台湾有事を起こさせないためには重要であると訴えたそうです。

更に、来年の総統選に立候補する与党民進党の頼清徳副総統との昼食会の冒頭、麻生副総裁は「選挙で選ばれて台湾の総統となる方の、この種の問題に対する見識、いざとなった時に“台湾政府が持っている力”を台湾の自主防衛のために、きっちり使うという決意・覚悟というものが、我々の最大の関心です」と切り出し、昼食会の中で、麻生副総裁と頼氏は、台湾有事が起きた際の対応について認識をすり合わせたとのことです。

このように、麻生副総裁の「戦う覚悟」発言は、政府内で綿密に調整されて上での発言であり、中国を抑止する効果を発揮していると見ているようです。


3.麻生ガーな人達


一方国内の特定野党とマスコミは、麻生発言を批判しています。

8月8日、立憲民主党の岡田克也幹事長は記者会見で、朝日の記者から「戦う覚悟という言葉を使い、日本や台湾、アメリカの抑止力の必要性を強調された。台湾の防衛のためには防衛力を使うという明確な意思を相手に伝えることが抑止力になるというような発言だったが、これについての受け止めをお願いしたい」と問われ、次のように答えました。
岡田幹事長:まず、外交的にそういった台湾有事にならないようにどうするかということが求められますよね。そういうことに言及せずに、そして、台湾有事になったとしても、例えばアメリカははっきりとそういう場合に軍事介入するということは言っていないわけです。そこに含みを持たせている。それが外交だと私は思うのですね。そういう意味で、非常に軽率な、そして、最終的にはこれは国民の命と暮らしを預かっているのは私たち政治家なので、軽々にそういったことを言う話ではないと思います。
また、共産党の小池晃書記局長は8日の記者会見で、麻生発言について、「台湾海峡で万が一、軍事的衝突が起こった場合に、日本も軍事で関与するという、まさに挑発的な発言だ……われわれは、『抑止力』というのは、恐怖によって相手を思いとどまらせる、相手に恐怖を与えるものであり、軍事対軍事の悪循環を引き起こすものだと厳しく批判してきた……この発言は、『抑止』という考え方の危険性を赤裸々に語ったものだ」と述べ、更に「麻生氏が『台湾防衛に防衛力を使う』と述べたことは、専守防衛に明らかに反する……日本に必要なのは『たたかう覚悟』ではなく、憲法9条に基づいて絶対に戦争を起こさせない覚悟だ。それが政治に求められている」と批判しました。

立憲にしても、共産にしても、「戦う覚悟」を示すことが抑止力になるとは、微塵も思っていないようです。

麻生副総裁の「戦う覚悟」発言についてネットでも賛否意見が分かれているようですけれども、「勝手なリップサービスは迷惑」だとか「他人を巻き込まないでほしい」というような、否定的な意見は、「武力行使の放棄は決して約束しない」と覚悟どころか武力侵攻を示唆する側にいうべきだと思います。



4.ビビる北朝鮮


ただ、麻生発言に対する批判で、おやっと思ったのは、北朝鮮も批判していることです。

8月13日、朝鮮中央通信は13日、国際問題評論家名義の論評を公開しました。記事では、麻生副総裁の「戦う覚悟」発言について、「中国の神聖な内政に対する露骨な干渉」と批判した上で、日本の防衛費増額などにも言及し、「『台湾脅威説』を名分に軍事大国化の野望を実現しようとしている」と主張しました。

マスコミは、18日にアメリカで日米韓首脳会談が開かれるのを前に改めて中国への支持を強調する狙いだと報じているようですけれども、筆者は、中国と同じく、麻生発言の抑止効果が表れているのではないかと考えています。

というのも、麻生副総理が「戦う覚悟」発言をしたのは今回が初めてではないからです。

2009年6月のエントリー「戦うべき時は戦う(総選挙の争点 その1)」と取り上げましたけれども、当時総理だった麻生副総裁は、2009年6月7日の街頭演説で、北朝鮮の核・ミサイル問題について「戦うべき時は戦う、という覚悟だけは持たなければ、国の安全を守れるはずがない」と発言しているのですね。

当時は北朝鮮の核・ミサイル開発が問題になっていたのですけれども、麻生総理は、戦う覚悟を持たないといけない、と街頭演説で聴衆に訴えていました。

北朝鮮は、この時の麻生総理の発言を記憶しているが故に、今回の麻生発言にも反応したのではないか、とも思います。そうだとすれば、今回の麻生発言は、対中国だけでなく、対北朝鮮に対しても抑止効果を発揮したことになります。

何かと発言で物議を醸す麻生副総裁ですけれども、自身はそれを楽しんでいる節すらあります。

安倍元総理は、自身の回顧録で、麻生副総裁について、次のように語っています。
麻生さんとは、人間的に肌が合うんですよ。お互い政治の世界で育ったという環境も影響しているのでしょう。首相時代は、漢字が読めないとかさんざん批判されましたが、ものすごい教養人です。歴史に造詣が深く、読んでいるのも漫画だけではないのだけど、自分を悪い人間のように見せようとするのです。あれは、もったいないですよ。自然に振る舞えばいいのに。彼は毛筆で手紙を書くじゃないですか。あんな政治家ってもう最後ですよね。
安倍元総理によると、麻生副総裁は「自分をワルのように見せている」のだそうです。ただ中国や北朝鮮のような国と外交で渡り合うには、「ワル」な政治家も少しはいないと、睨みが効かない気もしますし、ワルに見せても、選挙でずっと勝ってきていることを見ても、まだまだ日本に必要な政治家ではないかと思いますね。



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