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1.日大アメフト部員逮捕
8月5日、日本大学の寮に住む男子学生が、覚醒剤取締法違反と大麻取締法違反の容疑で逮捕されました。
決め手となった切っ掛けは、7月10日に関係各所に送付された「告発文書」でした。
「告発文書」はA4用紙1枚で、筆者は日本大学スポーツ科学部に所属する学生の保護者と名乗る人物からでした。その概要は次の通りです。
〈息子はアメリカンフットボール部の推薦で入学し、スポーツ科学部に通いながら寮生活をしています。その寮は中野区南台にあるアメリカンフットボール部の寮で60名ほど住んでいます〉告発文によると、昨年10月、大麻を吸っている学生がいるということで、父母会で問題となり保護者会が行われ、日大の調査で上級生たちが大麻を吸っていたことまで認めさせたものの、厳罰に処することもなく、隠蔽したと訴えています。
〈昨年、寮で大麻を吸っている上級生のチームメイトがいるとのことで、同じ部屋の子が親に相談しました。それが父母会で問題になり、保護者会が開かれました。大学の調査で上級生たちは大麻を吸ったことを認めましたが、コーチ陣の方針で退部退学させず、犯罪を犯しているのに大学の懲戒委員会にもかけませんでした。隠蔽です〉
〈何もなかったように秋にはリーグ戦に出ていました。息子やその他チームメイトはこの異常な状況の中、何の説明もされずに今日まで過ごしています。中村(俊英)監督やコーチに何かを言ったら推薦入学なので大学も辞めなければいけないという考えもあります。私たち保護者もどうしてよいかわからず、ただひたすら自分の息子たちを応援するしかない状態です〉
〈先週、息子から聞いた話では、7月上旬に日大本部職員が数名アメリカンフットボール部寮に立ち入り、いきなり学生達のベッドや鍵付きの金庫まで全てひっくり返し、持ち物検査をしたとのことです。そのようなプライベートも何もない行為を行った中にはアメフト部の中村監督、Aコーチもいたとのことです〉
〈その選手の言い訳はOBから預かっていたとのことです〉
〈そのパケを本部職員は本部へ持ち帰りました。当該学生にはまたもや何の処分もなく、警察にも通報していません。このまま、隠蔽するつもりでしょうか。林真理子理事長はご存知でしょうか〉
〈これは、完全な日大職員の犯罪隠蔽行為ではないでしょうか。農大ボクシング部も大麻事件が最近ありました。日大野球部は未成年の喫煙で選手を処分しています。日大アメフト部は隠蔽ですか。学生ファーストの動き方でしょうか…調査をお願いします〉
その後、警察が本格的に調査を開始し、薬物とみられるものを発見。寮に家宅捜索が入り、該当生徒は覚醒剤取締法違反と大麻取締法違反の容疑で逮捕されたという訳です。
2.日大の謝罪会見
8月8日、該当生徒の逮捕を受け、日大の林真理子理事長らが、東京都千代田区の大学本部で記者会見を開き、一連の問題について説明しました。
林理事長は冒頭の謝罪後、違法薬物の発見は一切ないと、2日に発言したことについて、警察から成分確認の連絡がまだ来ていなかったとし「言葉足らずだった」と釈明。記者から「言葉を生業にしている理事長の発言に違和感」と突っ込まれると、「ギリギリまで学生の潔白を信じたいという気持ちでいっぱいだった」と話しました、
情報共有のあり方が疑問視されていることについても「学長に情報が上がり、精査され私に上がってくる……”お飾り理事長”との報道があった。とても残念だ」と語気を強め、「隠蔽」との疑念が広がっていることについても「非常に遺憾」と反論しています。
2時間17分に及んだ会見の終盤、林理事長は「一番重たい問題だったのは、スポーツの分野だったと皆さまの質問で認識しました……運動部の分野は沢田副学長に任せていた……スポーツには遠慮があった。組織、監督、コーチも知らないし、グラウンドに行く機会もない。そちらに手が付けられなかった。もっと積極的に行くべきだった」と零しました。
「お飾り理事長」と呼ばれることに不服を申し立てる割には、体育会系は分からないと距離を置き、それが一番問題を抱えていたことを、皆様からの質問で認識した、というのでは少しお粗末ではないかと思います。
また、この会見では、林理事長のほか、学長と副学長も参加して行ったにも関わらず、事態を把握してからの「空白の12日間」などについて納得できる説明がなされなかったこともありメディアから批判が上がっています。また、世間では元検事の澤田康広副学長が、会見で「ブツ」だとか「パケ」と捜査機関が使う用語を用いたことでも批判を受けているようです。
3.棒読みしたのはまずかった
8月13日、フリーアナウンサーの古舘伊知郎氏が、フジテレビ放送の「ワイドナショー」に出演し、林真理子理事長の会見について、「あの会見はひどいですよ」と切り出し、「だけど、僕はまた違う感覚があるんですよ。ひどいっていうのは、林真理子さん、そんな1年でマンモス校日大の学校改革、独裁政権の田中理事長のあと、1年できるわけないんですよ。5年10年見なきゃいけないレベルだと思います。だからかわいそうだと思いますよ」と指摘する一方で、「ただ、林さんはやっぱりあれだけ弁が立って書くだけじゃなくてしゃべれるんだから、棒読みしたのはまずかったですよ。やっぱり作家さんなんだから自分の言葉で、とつとつとでもいいからしゃべってもらいたかった」と注文しました。
また、澤田康広副学長についても、「副学長、ブツだとかパケだとか言われても、あんた学校の人なのか検察側なのかわからないよ。キャラが揃ってるんですよ。そうすると5年前の日大の不祥事、今回の大麻及び覚醒剤の錠剤、こういうことで日大ならいけるぞってメディアが思い立つ」。会見への強い批判は日大の上層部が自ら招いていると述べました。
今回の会見が批判を浴びていることについて、PR戦略コンサルタントの下矢一良氏は次のように述べています。
【前略】下矢氏によると、「非常時の対応」であるべき謝罪会見で、「メディア慣れした平時の対応」をしたから失敗したのだ、というのですね。確かにそうかもしれません。
「林理事長は長年、数えきれないほどの取材を受けてきた人物だが、結局『自分を気持ちよくさせてくれるメディア』の取材しか受けてこなかったのだな」。私はそう感じた。
「林真理子」といえば数々のベストセラーを生み出し、直木賞選考委員でもあり、大河ドラマの原作も執筆するなど、日本を代表する人気作家だ。これまで取材を受けてきた出版社系の週刊誌は「日本屈指の人気作家」に最大限の敬意を払ってきただろう。テレビのバラエティ番組や情報番組にしても、同様だ。
だが、今回の謝罪会見は「人気作家」に対するものではなく、あくまで「不祥事を繰り返す大学の理事長」として挑むこととなった。メディアの質問の内容や態度が普段とは正反対だったはずだ。それゆえ、ちょっとした追及に苛立つ感情を隠しきれなかったのだろう。
ただ厳しい言い方をすれば、この程度の追及は上場企業の経営者にとっては「日常茶飯事」だ。決算会見、新商品発表会など、上場企業の経営者がメディアの前に立つべき機会は多い。
その際、記者が「太鼓持ち」のような質問をすることはまずない。どんなに好業績、あるいは画期的な新製品であったとしても、「意地の悪い質問」が必ず出るものだ。こうした「難癖のような質問」に対しても、広報の巧みな経営者は余裕の表情でいなしている。たとえ内心は煮えくり返っていたとしても、だ。
こうした「追及慣れ」した上場企業の経営者たちと比べると、今回の林理事長の会見での振る舞いは、あまりにも「ナイーブ」だった。
とはいえ、会見では「さすがは林真理子氏」と思った瞬間もあった。それは、会見開始から2時間ほど経った頃だった。
「一番重たい問題だったのは、スポーツの分野だったと皆さまの質問で認識しました」と前置きしたうえで「運動部の分野は沢田副学長に任せていた」こと、さらに「スポーツには遠慮があった。組織、監督、コーチも知らないし、グラウンドに行く機会もない。そちらに手が付けられなかった。もっと積極的に行くべきだった」と吐露したのだ。
会見冒頭から2時間近くにわたって「大学の対応に問題はない」と強弁し続けてきたのだが、事実上の軌道修正だ。記者たちの「納得し難い」という雰囲気を肌で感じとったのだろう。凡庸な登壇者は会見前に決めたシナリオから会見中に外れることはない。だがシナリオの不備を感じ取り、林理事長が即興で軌道修正をしたのは「さすが」というほかない。
さて、今回の日大の会見で林理事長と並んで主役に躍り出たのが副学長の沢田康広氏だ。林理事長と比べると無名だったが、今回の会見で一気に注目を集めることになった。注目をその集めた理由は謝罪会見であるにもかかわらず、自信満々、かつ妙に「偉そうな雰囲気」を漂わせていたからだ。
沢田副学長の受け答えを見て、私は「元検事ならではのメディア対応」だと感じた。というのも、検察はメディアに対して、とにかく「偉い」のだ。
マスコミは企業や店舗などへの取材時の自己中心的な振る舞いで、ときにネットでは「マス『ゴ』ミ」と揶揄されることも多い。だが検察取材に際しては、記者はとにかく「礼儀正しい」ものなのだ。
理由はシンプルで、取材先としては「検察の替わり」が存在しないからだ。トヨタのような極めて注目度の高い巨大企業を除けば、メディアにとって、取材対象となる企業や個人、店の替わりは「いくらでもある」。
だが、重要事件の捜査情報は検察「しか」持っていない。検察担当記者は検事に嫌われたら、仕事にならないのだ。その結果、自ずと検察官のメディアに対する振る舞いは「偉そう」になるのだ。
沢田副学長は恐らく検事時代と同様に、メディアの質問に答えたつもりなのだろう。だが、今回はあくまで謝罪会見である。検察時代の流儀ではなく、「謙虚すぎるほど、謙虚な姿勢」であるべきだった。
そして日大会見の3人目の注目人物は「広報課長」という女性司会者だった。「会見者が入場します!」という言葉で始まり、終始明るいトーンの司会ぶりだったのだ。実際、ネットの評判を見ても「結婚式みたい」「不自然すぎる明るさ」など、違和感を抱いた人々が多かったようだ。
私はこの「広報課長」の司会ぶりを見て、「イベント司会などを多く手がけたフリーアナウンサー出身ではないか」と直感した。発声法や司会進行の仕方が場慣れしていて、とても素人のものとは思えなかったからだ。
だが、今回はあくまで謝罪会見だ。明るいトーンはむしろ邪魔なのだ。「イベント慣れした、明るい司会者」よりも「神妙に進行する実直な職員」のほうが、はるかに好感度は高かったはずだ。
さて、今回の日大謝罪会見の3人の登場人物はいずれも立場は違えど「メディア慣れ」している人々であった。だが、全員が「普段通りのメディア対応」で「非常時の対応」に切り替えられなかったことで、酷評を浴びることとなったのだ。
【後略】
4.アメフト部の無期限活動停止処分解除
日大は、この日の会見の評判が芳しくないことを知っているのかどうか分かりませんけれども、8月10日、問題を起こした学生の逮捕を受けて、学生の所属するアメフト部へ5日に科していた無期限活動停止処分を、逮捕された部員1人を除き解除したと発表しました。
日大の発表は次の通りです。
本学は8月5日に本学アメリカンフットボール部員1名が、覚醒剤取締法違反及び大麻取締法違反の疑いで警視庁に逮捕されましたことを受け、同日、同部を無期限活動停止処分としましたが、本日(8月10日)、同部の処分について本学で再度協議し、同部に課した無期限活動停止処分を解除し、逮捕された部員1名のみを無期限活動停止処分とすることといたしました。このように日大は、部員1名による個人犯罪として、部全体への連帯責任は負わせないとしたのですけれども、処分を下してから僅か5日後の解除に、ネットでは「廃部でしょ」などと批難の嵐となっています。
この度の問題は部員1名による薬物単純所持という個人犯罪であり、個人の問題を部全体に連帯責任として負わせることは、競技に真剣に取り組んできた多くの学生の努力を無に帰することになり、学生の成長を第一に願う教育機関として最善の措置ではないと判断したためです。
今回の事件を受け、本学アメリカンフットボール部フェニックスが、本学の教育理念「自主創造」に従って、部の規律を自ら再考し、これまで以上に素晴らしいチームになることを本学は強く望むと共に、そのための協力・支援を続けて参ります。
薬物使用の有害性・危険性・反社会性は明らかであり、本学は今回の問題に対する原因究明と再発防止対策、啓発活動を全学挙げて取り組んでいく所存です。
その一方、アメフトの現場からは逆の意見も出ているようです。あるアメフト関係者は日大アメフト部について「経済力のない学生が、特待生で入る場合がある。授業料が免除になり、文理学部のキャンパスでご飯も無料で食べられる」と、競技面以外でのメリットも大きいとし、「廃部となればまず寮から追い出される。実家から大学に通うとしても定期代がかかるし、東京に1人で住んで家賃を払うお金もない学生もいるだろう……そうした学生が、大学を辞める状況は阻止しなければならない」と廃部反対を訴えています。
5.連帯責任は無責任
また、識者の中には「連帯責任」という考え方に異を唱える人もいます。
8月13日、元大阪市長の橋下徹氏は、フジテレビ系「日曜報道THE PRIME」に出演。自身も高校時代にラグビー部に所属していたと語った上で「一部の部員が何かやったことによって、連帯責任を負わされるっていうことは嫌で嫌でしょうがなかった……日本は近代国家で、戦後は個人の尊重ということでね、ルール違反を犯した場合の制裁もやっぱり個人が原則なんです」と強調しました。
橋下氏は「スポーツの世界とかグループの世界になると連帯責任ということがずーっと戦後もはびこってる。甲子園なんかでもそうだけど、一部の部員の不祥事によって、3年間、いや6年間、汗水ながしてがんばってた最後の大会、出場停止なんて『とんでもない』と思ってた」と胸の内を吐露。日大がアメフト部の処分を解除したことに「ルールを犯した部員は厳正に罰を受けなければいけませんが、チーム連帯責任ではないよっていう考え方が出てきたのはぼくは賛成なんです」と理解を示しました。
日大はアメフト部の無期限活動停止処分を解除する前日の8月9日、関東学生アメリカンフットボール連盟に対し、9月2日から開幕する1部リーグTOP8のリーグ戦に参加したいという意思を伝えています。つまりこの問題はあくまでも部員個人の問題であり、チーム連帯責任ではないというスタンスでいる訳です。
これを付け、翌10日、関東学生連盟はオンラインで臨時理事会を開催。当面の間、日大アメフト部の出場資格を停止とすることを決定しました。
連盟はその理由として「日大アメフト部側から、逮捕された部員以外の部関係者全員が違法薬物に潔白であると保証できない旨が示されたこと」「逮捕された部員以外の部の関係者に違法薬物を使用した者が存在している疑いが払拭できないこと」「再発防止策の提示ならびにその実施がなされていないこと」「部関係者(指導者、学生を含む)の責任の所在が明らかでないこと」を指摘しています。
これについてネットでは「関東学生アメリカンフットボール連盟は日大の対応を見て、連帯責任以前の問題だと言ってる。日大の対応が悪いと見てますね」、「日大がわずか5日で『部員の個人犯罪で他の部員に罪はない』としてアメフト部の無期限活動停止処分の解除を発表した瞬間に、関東学生アメリカンフットボール連盟が出した声明が正論過ぎててww」などと関東連盟を支持する声が広がっているようです。
要するに、世間は、日大アメフト部は、部として咎を受けるべきだとしている訳です。
ただ、連盟の指摘をよく読むと、別に連帯責任を迫っている訳ではないことが分かります。
連盟が出場資格を停止した理由は、逮捕された学生以外に違法薬物を使用したものがいるかいないか分からない。グレーな部分がある。というものです。
確かに、逮捕された学生一人だけの個人犯罪であり、部全体に罪を負わせるべきではない、といえるためには、犯罪を犯した部員以外の部員が潔白である、と証明されていなければなりません。個人とそれ以外と線引きをしなければ、個人犯罪にできないということです。言われてみれば当たり前です。
連盟の指摘の通りだとすると、日大はその線引きが出来ないとしたまま、個人の犯罪だとして連帯責任を適用せず、そのままリーグ戦に参加したいと申し入れしたのですね。
「連帯責任は無責任」という言葉がありますけれども、「連帯責任」というものは、責任の所在を有耶無耶にするものであって、責任を誤魔化してしまう側面があるのではないかと思います。むしろ「連帯責任」という考え方は、皆に責任を負わせるというのではなく、周囲に互いを監視させることで、罪を犯させないようにさせる予防的効果を狙っているのではないかと思います。
仲間が何かをやらかしたら、自分達も巻き添えを食らうとなったら、変なことをするなよ、という圧力を互いに掛けることになりますし、本人も周りに迷惑をかけてはいけないと自重することになりますからね。
この「連帯責任」という名の相互監視制度は、橋下氏がいうように、これまでスポーツ界やグループの世界で蔓延っていたやり方かもしれません。ただ、それを壊して、連帯責任は用いないとするのであれば、それ以外の部員は100%無実であることを証明し、罪を犯したものは厳罰に処するという具合に責任の所在を明確にして、曖昧を許さないという風潮というか文化というか、そうしたものを作り出していく必要があるのではないかと思いますね。
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