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1.家にテレビを置いていない
若者のテレビ離れが巷間の話題になるのも珍しくなくなりました。
5月8日から12日に掛けて、株式会社アップデイトが、テレビ離れについて、全国47都道府県在住の18~27歳男女を対象にインターネットでテレビの使用に関する実態調査を行いました。
実家暮らし以外のZ世代(1990年代中盤以降に生まれた世代)3153人を対象に「あなたの家にテレビはありますか?」という質問を行ったところ、『Z世代の4分の1以上が家にテレビを置いていない』という実態が明らかになりました。
若者の4分の1がテレビを持っていないという事実は、彼らにとってテレビの必要性が薄れていることを伺わせます。
調査では、家にテレビを置いている772人を対象に、「どのようなテレビを使用しているか」について質問を行ったところ、『地上波のみ映る』テレビを使用している人は半分にも満たず、また『地上波とVODサービスがどちらも映る』と『VODサービスのみ映る』の回答を合わせると、約50%の人がVODサービス(Netflixなど)の映るテレビを使用しているという実態も明らかになっています。
そして、「週にどれぐらいテレビを使用しますか?」という質問を行ったところ、Z世代の半分以上が『ほぼ毎日』テレビを使用していることが判明しました。続いて、「テレビを使用する中で1番利用時間が長いものはどれですか?」という質問を行ったところ、最も多かったのは『地上波放送(リアルタイム)』で次いで『録画の視聴』という結果となりました。
更に、「今期のドラマやアニメなど現在放送中の番組を視聴する際、Z世代はどのような方法で視聴するのか」を尋ねたところ、、『リアルタイム』で視聴する人が37%と最も多い結果になりました。尤も、『リアルタイム』と『録画』と『見逃し配信+VODサービス』の割合は殆ど同じで、必ずしもリアルタイム視聴という訳でもないようです。
最後に、Z世代がどのような理由でテレビを使用しているのかを質問すると、最も多かったのは『お気に入りの番組や動画を見たいから』であり、次いで『特定の見てみたい番組や動画があるから』となり、Z世代にとってテレビは「見たいものを見るために使用する」というのが主流であることが浮き彫りになりました。
2.テレビを観なくなった理由
ただ、いくら毎日テレビを見ているからいって、視聴時間にも変化がないとは限りません。昔と違って、今では動画媒体が沢山あるからです。
NHK放送文化研究所が、テレビとラジオのリアルタイム(放送と同時)視聴の実態を把握する目的で、2022年6月6日~12日に実施した「全国個人視聴率調査」では、テレビ全体の1日あたりの視聴時間量は3時間41分だったのですけれども、その時間は年代によって差があり、60代では4時間以上、70歳以上では6時間前後と、高年層では長時間にわたって視聴されている一方で、男女の20代以下ではわずか1時間半程度しかありません。
テレビ離れが進む原因として、ネットに投稿されている動画コンテンツとの違いを指摘する声もあります。
脚本家の大野裕之氏は「テレビがない」という一人暮らしの若い学生に理由を聞いたところ「テレビって動画が途中から始まりますやん」と言われたそうです。この返答について「メディアに携わるものとして考えさせられた」と投稿しています。
若い学生が一人暮らしの部屋にテレビがないとのこと。なんで?と聞いたら、「だって、テレビって動画が途中から始まりますやん」と言われて、メディアに携わるものとして考えさせられた。
— 大野裕之 ono hiroyuki (@ono_hiroyuki) January 31, 2016
このツイートに「見たい番組があるから早く帰らなきゃ!みたいに、人がテレビの都合に合わせて行動しないといけないというのが古いって事なんでしょうねぇ」とか「朝のニュースで新聞からばっか話題持ってくる時点で終わり感じます。要は後からみても問題ないメディアに自分からなりさがってますやん」などというリツイートがついていましたけれども、要はテレビは「リアルタイムで見るほどでもない」と捉えられているということなのだと思います。
実際、ある作家?のユーザーが、「テレビを観なくなった理由」を4コマ漫画で描いて投稿したところ、その内容が共感を集め、5.9万の「いいね」を集めました。
その漫画は、ある人物が朝起きてテレビをつけると、流れてくるのは「セクハラ」や「政治家の辞任」といった話題だったというところから始まります。しばらくすれば終わるかと思いきや長時間続いており、とうとう「もうテレビなくてもいい気がする」とテレビの電源を消してしまう...という内容でした。
この漫画に対し「直接的な理由はこれだけじゃないけど最近のテレビは本当にこればっかり 」「一言伝えてくれたら大丈夫な話題ばかり掘り下げてる気がする」と同意するツイートが寄せられています。
また、別のTwitterユーザーは、テレビ番組で紹介されるネタ元がインターネットの話題からである事例が増えたと指摘しています。「情報番組『ネットでいま話題のモノを紹介しまーす』バラエティ番組『世界で話題のYouTube動画をご覧ください』報道番組では『ネットアクセスが多かったニュースランキング』」...というように、あらゆるテレビ番組がネットの話題を取り上げていることを挙げています。
このように、テレビの視聴時間そのものが減っているのは、テレビ以外にも動画やネットニュースなどのコンテンツが増えたのみならず、情報源がネット頼りだったり、芸能人や政治家などといった著名人のスキャンダルを延々と扱っていたりといった、テレビのコンテンツそのものが魅力を無くしているのではないかと推定されます。
3.情報収集はSNS
冒頭で取り上げた株式会社アップデイトが行ったテレビの使用に関する実態調査によると、Z世代は、テレビには毎日触れていても、「見たいものを見るために使用する」ということを明らかにした訳ですけれども、更にNHK放送文化研究所の調査では、20代は視聴時間そのものが短いことが分かりました。
つまり、「高頻度でテレビを見てはいるものの長い時間は見ない」のがZ世代を中心とした若者の視聴態度だということです。
なぜそうなったのかというと、まずSNSの普及が挙げられます。
2021年12月に、NEO社がZ世代に対して行われた調査では「普段チェックする情報源」としてSNS(YouTube等動画共有サイトを含む)を選択した人が79.8%、テレビ番組/テレビCMを選択した人が65.0%でした。
また、「最もチェックする情報源」としてSNSを選択した人が55.8%、テレビ番組/テレビCMを選択した人が14.8%となっています。
一方以前SORENAが独自で行ったリサーチでは、TV/動画を見ながらSNSを利用している若年層が63.3%という結果が出ています。
つまり、情報収集という意味では、テレビは既にSNSの後塵を拝しているということです。情報収集だけであれば、ダラダラと長いだけのテレビを見る必要もなりですからね。
また、Z世代はテレビを「見たいものを見るために使用する」という実態も調査で明らかになった訳ですけれども、筆者は去年10月23日のエントリー「編集力が価値になる時代」で、敬和学園大学人文学部准教授の松本淳氏が「いまの若者は、テレビ放送を前提に制作されてきたドラマは緩慢に感じられ、かったるいものであるものの、実際に飛ばしてしまうと話についていけなくなるので、仕方なく見ているのが実態だとし、後者については、若者は時間もおカネもないので、飛ばして見るどころか、"何を観るか"を相当絞り込んだうえで"最低限のものを観て友だちと話をあわせる"しかない状況になっており、その根本的な問題はもっと深いところにある」との指摘を紹介したことがあります。
これに従えば、Z世代が「見たいもの」をどうやって選んでいるのかというと、「友達と話をあわせる」ためだということになります。
4.ネタと生
こうした若年層を中心とした視聴態度の変化を受けて、テレビ番組制作も変わってきたという指摘もあります。
最近のテレビ各局の番組制作の形はネタ番組と生放送を増やしていると言われているそうです。
というのも、13~49歳、あるいは13~59歳といった年齢層は、スポンサーのニーズが高く、この年齢層に向けた番組作りがファーストチョイスになるとされています。
この各局が狙いを定める年齢層が「お笑い番組を好き」であるにもかかわらず、「見たいのに番組がない」「YouTubeなら見られる」という状態が続いていたことから、「テレビ離れ」の一因になっていたのではないかと指摘されてきました。
また、数分間の短い芸を見せるネタ番組は、広告効果の高い若年層にとってネット動画と同様に「気軽に見られる」タイプのコンテンツであることから、これらネタ番組が増える理由となっていると見られています。
次に、このところ生放送が増えている理由は、やはりネットに対抗するためとされています。
テレビ番組は、「見たいときに、見たい場所で、見たいものを見られる」というユーザビリティではネットに完全に負けています。広告収入のためにリアルタイムで見てほしいテレビ局にとっては、天敵ともいえる存在です。
そんな中、番組をリアルタイムで見てもらうために、捻り出してきたのが、生放送のライブ感です。「何が起きるかわからない」というドキドキワクワク、「誰かとネット上でつながって楽しむ」という共有体験で視聴者を引きつけようとしている訳です。
テレビ番組の生放送はツイッターをはじめとするSNSとの親和性が高く、トレンドランキングを席巻することも少なくありません。そんな「SNSにつぶやきながらテレビを見る」という視聴スタイルが最も促進されるのが生放送だというのですね。
これまで各局のテレビマンは、「ためになる情報が入った番組でなければ世帯視聴率が獲れない」という観点からお笑い番組を激減させ、「長めに収録したものを編集して、面白さを凝縮しなければ世帯視聴率は獲れない」と、生放送を避けてきたそうなのですけれども、若者世代の視聴態度の変化から、テレビ局にも変化が求められているということなのでしょう。
5.情報なまはげ
ただ、こうした若年層の視聴態度の変化に合わせて、ネットは元より地上波テレビもその番組攻勢を変えるようになると、当然ながら、世間は「ネタ」と「生」の情報で溢れることになります。
それはそれで、その場のウケ、というか盛り上がりはあるかもしれませんけれども、その一方で失われるものも出てきます。たとえば、掘り下げです。
8月11日、フリーアナウンサーの古舘伊知郎氏は、自身のYouTubeチャンネルで、先日騒動になった「自民党女性局のフランス視察」への批判について、「海外視察をしても、ネットにあげてなかったら許しちゃうのか。ああいうものは、昔もいまも必ずやるんです」と語り、岸田総理の長男の翔太郎氏が、2022年末に首相公邸で親族らと「忘年会」を開き、記念撮影をしていたことが大いに批判を浴び、秘書官を辞職することになった問題についても「大きい、小さいでいうと、小さめのことで怒って、我々は”情報インパクト難民”になってる」と、叩きやすい炎上ネタの不祥事などに目を奪われすぎていると指摘しました。
古館氏は、更に「『悪い子はいねえか』と”情報なまはげ”になって、別のことがあるとケロッと忘れている……いちばん気にするべきは防衛費。GDP比おそよ500兆円のうち、1%という枠組みがあったのが、急に2%と倍になった。23年度からの5年間で総額43兆円になる……『うちのいろんな武器を買わなきゃいけないだろ』と、アメリカから言われたとか、言われていないとか……いいんですかね? おかしいと思っている!」と、急に2倍になった防衛費のほうが問題だと主張しました。
筆者は防衛費が2倍になって当然だし、遅いくらいだと思っていますけれども、その過程と中身の部分についての検証というか掘り下げがあまりされていないというのは、古舘氏の指摘どおりかもしれません。
古舘氏は、増税ありきで、どの税金を使うのかを言わない。それでズルズルやることにもっと怒っていい、と述べていますけれども、確かに、丁寧に説明、といいながら少しも説明しない岸田政権を突き上げるためにも、我々国民は、「情報なまはげ」にされることなく、じっくりと情報収集して分析・判断・評価していくという態度が大事になってくるのではないかと思いますね。
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