ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。
1.C-2輸送機用誘導弾等発射システムの開発
8月6日、防衛省が航空自衛隊のC-2輸送機に長射程ミサイルを搭載する検討に入ったと複数の政府関係者が明らかにしました。
C-2輸送機は、従来のC-1輸送機の後継として2000年に「第二次C-X」として計画され、防衛省技術研究本部と川崎重工業によって開発が進められました。ターボファンエンジン双発の大型戦術輸送機で、2010年に初飛行しました。
当初の計画では2014年度末に美保基地に配備する予定だったのですけれども、開発途上で機体の強度不足が発覚したことなどにより配備が予定より遅れ2017年3月27日に開発完了し、C-2として正式採用、部隊使用承認されました。
C-2は文字通りの輸送機ですけれども、これを改造して、長射程ミサイルを搭載するというのですね。要するに、「輸送機の攻撃機化」です。
2022年12月、政府は、国家安全保障戦略として、敵の防空システムなどがカバーする範囲の外側、それも可能な限り遠方から攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」の強化を打ち出し、その一環として航空自衛隊の輸送機に搭載する長射程ミサイルの発射システムの開発を盛り込みました。当時はその対象の航空機については「航空自衛隊の輸送機」としか書かれていませんでした。
2023年8月現在、航空自衛隊はC-2、C-1、C-130Hの3種類の輸送機を運用していますけれども、C-1は、2020年代半ばの退役が予想され、C-130Hも、最も新しいものでも製造から25年と古く、これを改造云々といっても現実的ではありません。
2023年2月27日、防衛装備庁は「C-2輸送機用誘導弾等発射システムの開発に係るデータ取得の検討」という業務の契約希望者を募集しているところからほぼC-2で間違いないだろうと目されていました。
実際、この公募および結果について防衛装備庁は次のように説明しています。
本件は、航空自衛隊で保有するC-2輸送機からの誘導弾等の発射システムの開発に資するデータ取得役務等の調査研究である。業態調査の実施時点において、当該調査研究に必要な航空機製造事業法に基づく事業許可を受けているのは、川崎重工業㈱である。このように、三菱重工が契約を手にしたようです。
また、令和5年度「C-2輸送機用誘導弾等発射システムの開発に係るデータ取得役務」の契約希望者募集要領(防衛装備庁公示第167号 令和5年2月27日)により公募を行ったところ、応募があったのは川崎重工業㈱1社のみであった。該社から提出された資料に基づき、必要な許可及びデータ取得計画書を審査した結果、審査基準を満足しているものであった。
上記の結果、当該調査研究の履行能力を有し、かつ、契約締結の意思を表した川崎重工業㈱と随意契約をするものである。
2.ラピッド・ドラゴン
輸送機から巡航ミサイルを発射するというアイデアは、アメリカでも研究開発が進められています。その名も「ラピッド・ドラゴン」です。
「ラピッド・ドラゴン」は、C-17、C-130の両輸送機が貨物の空中投下に使用するパレットに、長射程巡航ミサイル「JASSM-ER」を搭載するシステムです。パレットから標準の空中投下の手順で投下された「JASSM-ER」は、パラシュートで安定を得た後に翼を展開して、あらかじめ設定された目標に向かって突入する仕組みとなっています。
C-130輸送機であれば6発、C-17輸送機であれば9発の「JASSM-ER」をそれぞれひとつのパレットに搭載することが可能で、戦闘機などに比べて大量の「JASSM-ER」を一度に発射することを目指しているようです。
搭載する輸送機には目標情報の入力や変更に使用する戦闘管理システムの追加装備が必要となるものの、機体そのものの改修は必要としないことから、非常に安上がりに輸送機を爆撃機への改造することができます。
従って、今回、C-2に搭載されるミサイルの発射装置も、この「ラピッド・ドラゴン」のようなものになるのではないかとされています。
3.アウトレンジ戦法
今回のC-2輸送機改造の目的として、政府が掲げている「スタンド・オフ防衛」とは、相手が届かない距離から自身が攻撃する、というものですけれども、この考えそのものは太平洋戦争初期、日本海軍が採用していました。アウトレンジ戦法です。
アウトレンジ戦法とは、敵の火砲や航空機の航続距離など相手の射程外から一方的に攻撃を仕掛ける戦術ですけれども、日米開戦以前、日本海軍は数で勝るアメリカ海軍を艦隊決戦で打ち砕くため、アウトレンジ戦法の採用を決定。その実現のため、主砲の有効射程で勝る大和型戦艦を建造しました。
戦艦「大和」が建造された当時、英米の戦艦は40センチ砲を装備し砲撃距離は3万メートルであるのに対し、「大和」は46センチ砲を装備し砲撃距離は4万メートルと1万メートルもアウトレンジしていました。
けれども、いくらアウトレンジできても、撃った砲弾が命中しなければ意味がありません。
1942年2月27日から3月1日にかけて行われた「スラバヤ沖海戦」では、第2水雷戦隊旗艦の軽巡『神通』が敵米英蘭豪艦隊(ABDA艦隊)を発見。距離16800mから『神通』が砲撃を開始、続いて後続の第5戦隊・重巡『那智』『羽黒』も距離26000mで砲撃を開始しました。
敵米英蘭豪艦隊(ABDA艦隊)が応戦する中、第5戦隊は重巡の有効射撃距離ギリギリである20000m以上を保ったまま砲撃を継続したのですけれども、訓練時には3~5%あった命中率も、この実戦では命中率0.25%程度に落ちたとされています。
当時は、水平線以遠の目標に対しては、艦に搭載した観測機を飛ばして着弾観測を行なって照準の修正を行っていましたけれども、現代はレーダーによる誘導がそれに代わり、また、それらの妨害(ジャミング)という、いわゆる電子戦が行われています。現在のアウトレンジ攻撃である、スタンドオフ攻撃には、それ用の電子戦システムも大事になってくるわけです。
4.スタンド・オフ電子戦機
無論、自衛隊も、その対策として「スタンドオフ攻撃用の電子戦機」の開発を進めています。それも、先程のC-2輸送機の改造で。
2020年10月1日、航空自衛隊は、入間基地に電波情報収集機RC-2配備記念式典を行いました。
RC-2は現有のYS-11EBの後継機として、電磁波に関する情報収集・分析能力の強化及び情報共有態勢の構築を推進することを目的として開発された機体です。
RC-2は『高度に自動化したシステムを搭載し、敵が発するあらゆる情報とデータを収集・処理・伝送する。また、機首、胴体上面と側面、垂直尾翼頂部のフェアリング内に各種アンテナを配置し、遠距離から広周波帯信号を捕捉・遮断し、敵目標の方位を探知する能力を持つ』とされ、「電磁気信号の収集 (collection of electromagnetic signals)」機能だけでなく、電子信号を妨害する「ジャミング(jamming)」機能も備えています。
政府は、このRC-2を2026年完成を目指して「スタンド・オフ電子戦機」への性能向上をすべく、更なる開発を始めています。
防衛装備庁の「スタンド・オフ電子戦機」開発事業に関わる「令和2年度政策評価書(事前の事業評価)」には、次のように記されています。
「領域横断作戦」に必要な優先事項として電磁波に関する情報収集、分析能力、情報共有態勢、が必要とし、そのために現用機(海自が運用中のEP-3、UP-3D)の能力向上、と「スタンド・オフ電子戦機」、高出力の電子戦装備、高出力マイクロ波装置、などの研究開発を迅速化する。
ここで「領域横断作戦」という文言がありますけれども、これは令和元年の防衛白書で次のように解説されています。
<解説>領域横断作戦についてこのように、現代の戦闘は、陸・海・空だけでなく、宇宙・サイバー・電磁波という領域でも行われているため、それに対応する装備が必要だということです。
現在の戦闘様相は、技術の進展を背景に、陸・海・空という従来の領域のみならず、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を組み合わせたものとなっています。
例えば、現代の軍事活動は、宇宙空間の利用に依存しており、人工衛星を用いた部隊間の通信や測位が、陸・海・空における戦力の円滑な機能発揮に不可欠です。また、こうした軍事活動は、サイバー空間を利用した情報通信ネットワークにも極めて高度に依存しています。
このような状況において、脅威に対する実効的な抑止及び対処を可能とするためには、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を活用して攻撃を阻止・排除することが不可欠であり、このような新たな領域における能力と陸・海・空という従来の領域の能力を有機的に融合した「領域横断作戦」を行うことが死活的に重要となっています。
こうした「領域横断作戦」は、その相乗効果により全体としての能力を増幅させるものであり、個別の領域における能力が劣勢である場合にもこれを克服し、全体としては優位に立ち、わが国の防衛を全うすることが可能となります。
現代の戦闘領域は、どんどん広がっていくのですけれども、それに対応した装備を一から開発していたら、予算がいくらあっても足りません。その意味では、C-2輸送機という既存の機体をベースに「魔改造」することで対応するというのはコスト削減にも繋がるよい考えだと思います。
おそらく、冒頭で述べたC-2の爆撃機化とC-2のスタンド・オフ電子戦機化は並行して開発されるのではないかと思いますけれども、広がり続ける戦闘領域に対応するべく、開発を続けていただきたいと思いますね。
この記事へのコメント