ハワイの山火事について

今日はこの話題です。
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1.ハワイの山火事被害


8月8日、アメリカのハワイ州マウイ島で起きた大規模な山火事の被害が大変なことになっています。

死亡が確認された人は、10日現在で、114人にのぼっていますけれども、身元の特定が難航していて、身元が分かったのは10人にとどまっています。このため、マウイ郡など地元の自治体は、18日から被災者が避難しているホテルの中に、DNAを採取できるセンターに新たに設置し、アクセスしやすくすることでサンプル数を増やして身元の確認作業を急いでいます。

センターでは行方が分からない人の髪や目の色など詳細な特徴の聞き取りのあと、DNAの採取を行うということでセンターの責任者は「身元の判明を長期にわたって待つのはとてもつらいことで、確認作業を速められるよう努力したい」と話しています。

地元の自治体は被災者が避難しているホテルでDNAサンプルの採取ができるようにするなど、確認作業を急いでいます。

また、人命以外にも、車が通れるようになった道路の両脇には、焼け焦げて基礎や骨組みだけになった住宅が多数、確認されているなど、相当な被害が出ているようです。

現地に集まったボランティアは、炊き出しの食事を作ったり、車でやってきた被災者に、必要なものを尋ねて、食料や飲料水、それに洋服やおむつなどの日用品を手渡したりしています。

自宅が焼けたという75歳の男性は「自分の身体以外、すべて燃えてしまった。この年になって自宅や車をすべて失い、とてもつらい」と話していたほか、母親が被災した男性は「母が必要な日用品などをもらいにきました。支援を受けられてありがたい」と述べています。


2.ポツンと一軒家


今回の山火事で、2700もの建物が焼失したと伝えられていますけれども、特に、海沿いの観光地ラハイナが特に壊滅的な被害を受けたようです。

被害の様子はネット等に上がっているのですけれども、その中で、1軒だけ無傷の赤い屋根の家が写った航空写真がネットで拡散されて話題になりました。画像では一面焼け野原となった街で火災を免れたと思われる1軒の家が写っています。被害を免れたのはこの家だけではないのですけれども、無傷な家がぽつんと一軒残っていることに、デジタル加工したのではないかと疑問視する声も上がっている程です。

マスコミ報道によると、この家を所有するミリキンさん夫婦は「これは現実」だと語り、「隣人を失い、隣人はすべてを失った」とする一方で、なぜ自分たちの家だけ生き残ったのかは思考中だとしています。

火災が起きた時、夫婦は本土マサチューセッツ州にいる家族を訪ねていて不在で、無事だったのですけれども、夫婦によると、最近家の改修工事を行ったばかりであるものの、「この家は築100年の建物で、100%木造」で、防火対策などはしていないと話している。

ただ、建物をオリジナルの状態に復元するための工事の過程でアスファルトの屋根を分厚い金属屋根に交換したことや、その際にシロアリ対策から家の周囲に茂った樹木を伐採したことなどが火災を免れた要因ではないかと推察しているそうです。

江戸時代の消火方法は、火を消すのではなく、周辺の建物を壊して延焼を防ぐのが主流でしたけれども、結果としてそれと同じ方法で何を逃れたのかもしれません。

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3.ラハイナは販売用ではない


8月15日、NBC放送などアメリカメディアは、不動産投資家がマウイ火災生存者に接近して土地や家を買うという提案の連絡をしていると報じました。

マウイ住民のティアレ・ローレンスさんはNBCに出演して「家主が不動産投資業者から土地を買うという連絡を受けている。吐き気がする……ラハイナは販売用ではない。人生で最も耐え難い時間を過ごしている人々を、どうかこれ以上利用しようとしないでほしい」と訴えました。

ハワイのグリーン州知事は14日、報道資料を出して「不動産業者を名乗る人々が悪い意図を持って住民たちに火災被害を受けた家を売るよう連絡をしている……破損した不動産の販売を猶予できる方案を模索するよう州法務長官に要請した」と述べ、ソーシャルメディアでも「悲しみに浸り再建する機会を持つ前に我々住民から土地を奪おうとするのは希望ではない。我々はこれを容認しない」と強調しました。

いくら観光地とはいえ、大火にあったばかりの土地に不動産業社が群がるのか。

元々、マウイ島は、ホテル、リゾート、コンドミニアムの増加でリゾート開発化が進んでいる場所でした。けれども、新しい住宅を建てるには規制が多く時間がかかることから、慢性的な住宅不足に陥っていました。なんでも、中古の家でも高額で取引され、マウイ島の平均的な住宅の価格は約100万ドル(約1億前後)だったのだそうです。

それに加え、コロナ以降は、アメリカ本土の金持ちたちが、別荘として住宅を買い占め現象が起き、住宅価格がさらに上昇。マウイ島には有名セレブの別荘地も多く存在します。

一方、長年マウイに住んでいる住人たちは、自分達の地域を大企業や富裕層が土地を買い占めて開発することを望んでおらず、「政府は開発は許可されていません。と言うべきだ」という声が多いのだそうです。

なるほど、先述したマウイ住民のティアレ・ローレンスさんが「吐き気がする、ラハイナは販売用ではない」という訳です。


4.後悔はない


一方、今回の山火事は人災ではないかという指摘もあります。

8月17日、ハワイ・マウイ島の山火事の対応に当たっていたマウイ郡緊急事態管理局のハーマン・アンダヤ局長が健康問題を理由に辞任しました。

アンダヤ局長は前日の記者会見で、山火事が発生した際住民に緊急事態を知らせるサイレンを鳴らさなかったことについて「後悔はない。サイレンを鳴らせば津波と勘違いして住民が山に向かったかもしれない」と正当化。住民や地元メディアから対応を疑問視する声があがっていました。

ただ、地元当局が3年前に制作したサイレンについての説明動画などでは、サイレンは津波だけでなくハリケーンや山火事、火山活動などの際にも使用できるとしていますから、この時だけ、サイレンを鳴らさなかったとすれば、それ相応の理由がある筈です。それを説明しないまま辞任というのは、逃げたと批判されても仕方ないかもしれません。

また、今回の山火事が起きた当時、マウイ島は強風に見舞われ電柱約30本が倒されたそうですけれども、一部には切れた送電線が出火原因と疑う声も出ています。12日にはこうした送電線が山火事につながったとして複数の法律事務所が電力会社側を相手取り集団訴訟に踏み切ったと伝えられています。

ワシントン・ポスト紙によると、山火事が多発する西部のカリフォルニア州やオレゴン州などでは、強風時の送電線切断に備え、電力会社は計画停電をするそうです。

この計画停電が火災に有効であることは、ハワイ州の電力会社も認識していたのですけれども、計画停電を行えば消防隊の消火活動に支障が出るほか、医療用機器を使用する患者への対応も必要となるため即応的な導入には後ろ向きで、今回も実施しなかったそうです。

ハワイ州のロペス司法長官は「山火事の発生前後における意思決定と政策の包括的な検証を実施する」と発表、結果を公表する考えを示していますから、サイレンの件のみならず、出火原因含めた検証がしっかり為されることを期待したいところです。


5.枯れ草という着火剤


更に、ハワイのマウイ島は元々山火事が拡がり易かった、という指摘もあります。

2016年、マウイ島にあったハワイ最後のサトウキビ農園が閉鎖されたのですけれども、遊休地となった3万6000エーカーの農地に極めて燃えやすい外来種の草が容赦なく広がるようになったのだそうです。

今や、ギニアキビ、モラセスグラス、クリノイガなど、家畜飼料としてハワイに持ち込まれたアフリカ原産のさまざまな植物が、ハワイの土地の4分の1近くを占めるまでに繁殖。雨が降れば急速に成長し、土地が干上がっても乾燥に強いこれらの草は、今回の山火事の燃料となりました。

祖母はフィリピンからハワイに移住した後、マウイ島のハワイアン・コマーシャル&シュガー社のプランテーションに住んでいたメリッサ・キメラ氏は「それらの草は非常に侵略的で、成長がとても速く、たいへん燃えやすい……より大規模で、より破壊的な火災を引き起こす組み合わせだ」と述べています。

実際、2020年にマウイ郡が作成した災害軽減計画書では、今回の山火事で壊滅的な被害を受けたラハイナがある西マウイ地域を、郡内で山火事が発生する年間確率が最も高い場所としています。

この計画書では西マウイを、山火事が発生する平均的な年間確率が「非常に高い」、つまり確率が90%を超える地域にリストアップしていました。そして、マウイ島のほかの6つほどの地域の山火事発生確率はそれよりも低く、10%〜90%未満でした。

2018年に西マウイが山火事に襲われ21軒の家屋を焼失した際、ハワイで最も有力な山火事専門家で原野火災の科学と管理を専門に研究するクレイ・トラウアニクト氏は、マウイ・ニュース紙への投稿で、「山火事のリスクを減らすために私たちが直接変えられることの1つは、燃料、つまり草だ」と、対処する余地はあると警告しました。

トラウアニクト氏は、今回の山火事について、本来なら管理可能だったかもしれない火災の規模が外来植物によって膨れ上がる可能性があることが、今回の件で明白に示されたとコメントしています。

2021年にマウイ郡は、自らの山火事予防報告書で「草が道路脇に急速に広がり、着火剤の役割を果たしている」と指摘し、「外来植物を減らすこと」を呼びかけていました。

更に、自然災害の軽減を専門とするマサチューセッツ州の企業、ジェイミー・キャプラン・コンサルティングが2020年にマウイ郡のために作成した災害軽減計画書では、着実に上昇する気温がハワイの脆弱性を高めているとも警告されていた。「気候変動によって干ばつ状態がより頻繁に起こり、より激しくなるにつれ、今後は山火事の発生頻度が一段と高くなる可能性がある」と指摘しています。

今回の山火事被害でも一軒だけ無傷だった一軒家は、アスファルトの屋根を分厚い金属屋根に交換し、家の周囲に茂った樹木を伐採したことなどを前述しましたけれども、その家の住人であるミリキンさんは、家を改装したとき、家に突き当たっていた木の葉を取り除いていたそうです。

ハワイの住宅地に、木の葉や枯れ草という”着火剤”がそこら中に転がっているのなら、ハワイの火災対策は、江戸の消火方法よろしく、燃えるものを住宅地に近づけない、延焼させないというやり方が有効なのかもしれませんね。


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