ガソリン補助金という無駄遣い

今日はこの話題です。
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1.ガソリン補助金期限延長の検討指示


8月22日、岸田総理は、9月末が期限となっているガソリンへの補助金について、期限を延長し10月以降も継続することも視野に、緊急対策を検討するよう、自民党の萩生田政調会長に指示したことを明らかにしました。

政府はガソリン価格の高騰対策として、2022年1月から石油元売り会社に補助金を支給してきましたけれども、原油高が落ち着いてきた2023年6月からは補助金の額を段階的に縮小し、9月末を期限としたのを延長するという訳です。

岸田総理は、記者団に「燃料油価格対策について、月内に与党として一定の方向性を提案するよう指示した……価格高騰で困っている方々の声を直接うかがってきた。緊急に取り組む必要があると判断した。ガソリン等の激変緩和措置については今月中、先出しでしっかり検討を行う……それ以外のさまざまな物価の状況も見ながら、経済対策を9月には考えていきたい」と述べました。

政府関係者によると、補助金を延長するための財源は燃料油激変緩和措置として既に計上している予算の未執行分を充てるとしています。

また、自民党の萩生田政調会長は「総理からは現下の物価高に伴う国民の暮らしへの強い危機感を持っておられ、まずは家計や中小企業を直撃しているガソリンなど、燃料油価格の対策をですね、特に緊急に取り組む必要があるという考えが示されました」と語り、今後、具体的な検討に入るとしています。

また、自民党の遠藤総務会長は自身が代表世話人を務めている谷垣グループの研修会で「まだまだ物価高、ガソリンは180円を超えた。そう考えると9月まででいったん切れる対策について、国として財源を確保しなければなりませんが、こうした施策を引き続き継続して頂いて、まずは生活が安定し政治が安定することにしっかり取り組んでいくべきではないかと思っています」と述べ、来月から順次終了するガソリンの補助金だけでなく、電気やガスについても継続する必要があるとの考えを示しています。


2.ガソリン価格を決める要因


もともと政府は原油高が落ち着いてきたから、補助金を段階的に減らしていったのに、ガソリン価格は高止まりを続けているのは何故なのか。

ガソリン価格は様々な要因に左右されるのですけれども、一般財団法人「日本エネルギー経済研究所」は、2018年7月のレポート「原油価格のガソリン価格への転嫁率」で、ガソリン価格を決める要因の代表的なものとして、原油コスト、精製・流通マージン、税制を挙げています。

それによると、「原油コスト」は、原油価格と為替、「精製・流通マージン」は需給と価格体系等、「税制」は石油関連諸税などで、決まるとしています。

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まず、「原油コスト」ですけれども、確かに直近の原油価格は下がっています。下左図は原油価格。下右図はドル/円為替のチャートですけれども、2022年年末を起点として見た場合、原油価格は120ドルから80ドルへと約33%下がっています。一方、円も1ドル131円から145円へと10%下がっています。

原油はドルで買い付けますから、原油価格が下がっても、円安になった分割高になり、差し引きで2割分くらいしか恩恵にあずかれません。

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次に「精製・流通マージン」ですけれども、ガソリンの需要は年々減ってきています。経産省の「石油製品需要想定検討会 燃料油ワーキンググループ」が昨年3月に出した「2022~2026年度石油製品需要見通し(案)」によると、2021年~2026年まで年平均で2.0%減、トータルで9.8%減少するとしています。

その理由は、車の燃費改善や、EV・PHV等の次世代乗用車の販売によるガソリン需要の減少があると報告しています。

このようなガソリン需要の減少は、石油会社の経営状況の悪化を招き、石油業界の再編・統合を促すことにもなります。

かつて石油業界は様々な企業が存在し、1980年代は15社ほど存在していました。ところが、「ENEOS」で知られるJXTGホールディングスは、日本石油や三菱石油、ゼネラル石油、エッソ石油、モービル石油など計9社が経営統合し、出光・昭和シェルも出光興産、昭和石油、シェル石油の3社が合併しました。そして、コスモエネルギーホールディングスも同様に3社が経営統合するなど、再編・統合が進み、いまや石油元売り業者は、太陽石油とキグナス石油を含め5社しかありません。

また、石油業界再編はガソリンスタンドの減少も生み出しました。1994年には全国で6万件を超えていたガソリンスタンドも現在は3万件を割っています。こうしたことから、ガソリンの価格競争はなりを潜め、ガソリンスタンドはどこも同じ価格で横並びになっているとも指摘されています。

更に、人件費の上昇もあります。

8月18日、厚生労働省は、都道府県労働局に設置されている地方最低賃金審議会が答申した令和5年度の地域別最低賃金の改定額を取りまとめ、47都道府県で、39円~47円の引上げ、改定額の全国加重平均額は1004円としていますけれども、2000年からの最低賃金の全国平均は、2000年から2006年頃までは660~670円程度で横這いだったものの、その後は加速度的に上昇しています。これも、ガソリン価格を下げにくくする要因となっています。

最後の「税制」については、8月9日のエントリー「引き下げられる補助金と値上げのガソリン」で示したとおり、二重課税が指摘されています。

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3.窮状を訴える国民


流石に、このガソリン価格の高騰に国民からは窮状を訴える声が続出。SNSでは〈夏休み、毎日のようにいろんなとこに出かけてるけど、ガソリン代に白目むいてる〉〈ガソリン代高すぎて夏休みも最低限の移動しかせず…〉といったコメントが続出しています。

更に、SNSでは「トリガー条項」がトレンド入りしたようです。

トリガー条項とは、ガソリンの平均小売価格が3カ月連続で1リットル=160円を超えた場合に、現在「特例」で上乗せされている25円を減免する制度のことで、トリガー条項が発動されれば、自動的に1リットル25円安くなります。けれども、現在は、東日本大震災の復興財源確保の名目で凍結されています。

この事態に、官邸は真っ青になっているそうです。

ある自民党関係者は「自民党にとってガソリン価格の高騰は、致命傷になる恐れがある。クルマ社会の地方では一家で3、4台所有している世帯も多い。夏休みで選挙区に戻っている議員は『ガソリンが高すぎる』『何とかならないのか』と訴えられている。このまま放っておけば、さらに批判が上がるでしょう。内閣支持率も下がるんじゃないですかね」と述べています。

また、官邸事情通は「岸田官邸は9月中旬に内閣改造を行えば、少しは支持率も回復するだろうと皮算用している。しかし、ガソリンや電気、ガスの価格がこれ以上、高くなったら、それどころではなくなるでしょう。『トリガー条項』の発動を迫られることになるのではないか。でなければ、支持率回復などとても無理でしょう……トリガー条項の凍結解除には法改正が必要で、国会審議を経なければなりません。そうなれば、審議する中でガソリン税そのものに国民の意識が向く恐れがある。ガソリンには、ガソリン税と石油石炭税が課せられ、さらに消費税がかけられている。『二重課税』と批判されています。税の『撤廃論』が高まれば、税収がガタ減りするため、財務省は徹底抗戦するでしょう。財務省に言いなりの岸田首相は立ち往生してしまいかねません」と指摘しています。


4.補助金は非効率


流石に、岸田政権も、このガソリン価格高騰を抑えなければと認識したようですけれども、その対策は、冒頭で取り上げた「補助金」制度の継続であって、トリガー条項発動ではありません。

トリガー条項発動については「引き下げられる補助金と値上げのガソリン」のエントリーでも取り上げましたけれども、その条件は十分に整っています。トリガー条項を発動すれば税収が減る云々という意見もあるかもしれませんけれども、その額は年間1.6兆円です。

けれども、昨年度の国の税収は初めて70兆円を超えて3年連続で過去最高を更新。決算剰余金も2兆6000億円あまりあります。これで十分カバーできるはずです。

一般財団法人「日本エネルギー経済研究所」のレポートから、ガソリン価格を決める要因の代表的なものとして、「原油コスト」、「精製・流通マージン」、「税制」の3つを挙げましたけれども、補助金はこのうちの「精製・流通マージン」に投じられるもので、トリガー条項のように「税制」に投じられるものではありません。

ガソリンの値段が下がるのなら、補助金でもトリガー条項でもどちらでもよいではないかという意見もあるかもしれませんけれども、両者では、その効率が異なります。

原油価格が下がっても、ガソリン価格も連動して下がる訳ではないことは前述しましたけれども、件の「日本エネルギー経済研究所」のレポートでは、原油価格の転嫁率は、原油価格上昇時には50%、下落時では27%と報告されています。

ここで、上昇時の転嫁率より下落率の転嫁率が低いのは、原油価格上昇局面では、多少損を被っても丸々価格に転嫁しない代わりに、下落時にガソリン価格の値下げ幅を圧縮して、上昇時の損を回収しようとしているのだろうと推察しています。

つまり、ガソリン価格は、石油関連企業の「精製・流通マージン」によって、構造的に下がりにくい性質を持っていることになります。

けれども、政府の補助金が投入されるのは、この「精製・流通マージン」です。つまり、値下げに繋がりにくい「精製・流通マージン」に補助金を突っ込んで無理矢理さげさせようとしている訳です。それに対しトリガー条項は、税制に直接作用して一律値下げさせるものです。どちらが効率がよいかなどいうまでもありません。

それに、「精製・流通マージン」は各企業まちまちであろうことを考えると、補助金を投じて値下げさせる政策は不公平だともいえると思います。

政府は増税するときは「公平な負担」という癖に、減税や補助金を出すときは「公平な補助」とはいいません。

たしか、NHK党の浜田参院議員が指摘していたような気がするのですけれども、「補助金や給付金をバラまくときは財源は存在し、減税を行うときだけ財源が無くなります」というのは、ダブルスタンダードだと思います。

仮に、ガソリン補助金制度が継続したとしても、国民はよかったと喜ぶのではなく、無駄遣いするな、とガンガン政府を突きあげるくらいでなければいけないのではないかと思いますね。




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この記事へのコメント

  • みどりこ

    補助金よりガソリン税を減らしたほうが……
    2023年08月24日 14:36