プリゴジンの死亡とワグネルのこれから

今日はこの話題です。
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1.プリゴジン死亡


8月23日、ロシア民間空港庁など当局は、民間軍事会社ワグネルの創設者、エフゲニー・プリゴジン氏と同氏の右腕であるドミトリー・ウトキン氏を含む乗客7人(エフゲニー・プリゴジン、ドミトリー・ウトキン、セルゲイ・プロプースチン、エフゲニー・マカリアン、アレクサンドル・トットミン、ワレリー・チェカロフ、ニコライ・マチュセーエフ)が乗った自家用ジェット機「EBM-135J」が、モスクワからサンクトペテルブルクに向かって飛行中に、モスクワ北西160キロメートルのトベリ地域のクジェンキノ村近くの野原で墜落し、乗組員3人を含む10人全員が死亡したことを確認したと明らかにしました。

当局は何が起きたのか明らかにするため刑事捜査を開始したと発表。ロシアメディアによる未確認の報道によると、プリゴジン氏らはロシア国防省当局者との会合に出席していたそうです。

また、SNSに投稿された未確認の動画には、自家用ジェット機のような機体が上空から地上に落下する様子が映っていて、別の動画では、地上の機体がまだ燃えており、少なくとも1人の遺体が写っています。タス通信は救助隊が現場から7人の遺体を回収したと伝えました。

世界の航空機を追跡している「フライトレーダー24」によると、プリゴジン氏が搭乗していたジェット機は現地時間午後6時11分に追跡不能となり、墜落の直後、同じくサンクトペテルブルクに向かっていたとみられるもう1機のプリゴジン氏関連のジェット機がモスクワに引き返し、その後着陸したとしています。

翌24日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部ドネツク州の親ロシア派の代表、プシリン氏との会談のなかで、今回の墜落について「犠牲者の家族に哀悼の意を表したい。ワグネルのメンバーが搭乗していたことを示している。ウクライナのネオナチ政権と戦うという共通の大義に多大な貢献をしてくれた……プリゴジン氏のことは1990年代初めからよく知っている。複雑な運命を背負った男だ。人生で重大な過ちを犯したが、私の求めには必要な結果も達成した。才能のある人物だった。彼はきのう、アフリカから戻ったばかりでここで何人かの関係者と会っていた」などと述べ、プリゴジン氏の死亡を事実上、認めました。

そして機体が墜落した原因について調査が行われているとしたうえで「時間がかかるだろう」と述べています。




2.政権によって暗殺された


今回の墜落について、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」はことし6月に武装反乱を起こしたプリゴジン氏が政権側によって暗殺された可能性があるという見方を示しています。

その概要は次の通りです。
・ロシア国防省(MoD)とクレムリンは、反乱以来、ワーグナー民間軍事会社(PMC)を破壊し、プリゴジンの権威を弱体化させてきた。そしてワーグナー最高指導部の暗殺は、独立した組織としてのワーグナーを排除するための最終段階であった可能性が高い。
・プリゴジンはロシア国防省とクレムリンによるワーグナー破壊に対抗しようとしていた可能性が高く、ワーグナーの将来は依然として不透明である。
・プーチン大統領はほぼ確実にロシア軍司令部にプリゴジン機を撃墜するよう命令した。
・プーチン大統領がロシア国防省にプリゴジン機を撃墜するようほぼ確実に命令したのは、おそらくプーチン大統領の優位性を再確認し、6月24日のワグナー・グループの武装反乱がプーチン大統領とロシア国防省にもたらした屈辱に対する正確な復讐を公にしようとする試みである可能性が高い。
・プーチン、クレムリン、または国防省に反対することを計画していた可能性のある特定の人物は、プリゴジンの最終的な運命や、ロシア軍上級指導部に対するクレムリンの支持を再確認するためのその他の最近の措置に注目している可能性が高い。
・クレムリンは、プリゴジン暗殺に対する明白な責任をプーチン大統領とロシア軍から遠ざけるための条件を設けているようだ。
また、24日、アメリカ国防総省のライダー報道官は、初期段階の分析だとしたうえで、プリゴジン氏は墜落した航空機に搭乗しており、死亡したとの見方を示し、一部のメディアが対空ミサイルで機体が撃墜された可能性を指摘していることについて「その情報は不正確だと考えている」と墜落の原因は別にあるとの見方を示しました。

更に、同じく24日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、記者団に対し「誰が関係したかは、皆がわかっていることだ」と述べ、プーチン政権側が関与したものだという見方を示しました。

そして、モスクワ市民も、墜落の原因には政治的な背景があるのではないかとする意見が多いようで「事故ではない可能性は十分ある。『公式路線』に逆らったのではないか」とか「プリゴジン氏は政治的な発言などもっと控えるべきだった。内部の破壊工作があったようだ」とか、「彼が許されないのは明らかだった。モスクワに向かったことだ」と、2ヶ月前の「プリゴジンの乱」が背景にあるという見方を示しています。

まぁ誰しも考えることは同じです。




3.プーチンの血の粛清


今回の墜落で、創設者を失ったワグネルに近いテレグラムチャンネルの「グレーゾーン」は、ロシアの防空網がプリゴジン氏の専用機を撃墜したと主張。現場にいた人達が撮影した動画ではミサイルに似た軌跡を示す物体と、翼を一つを失い空から墜落する航空機の姿が映し出されています。「グレーゾーン」は、こうした動画資料を根拠に、プリゴジン氏が「ロシアに対する反逆者の行動の結果」で死亡したと非難しています。

8月22日、ロシア国営の「RIAノーボスチ」通信は22日、現在進行中のウクライナ戦争を担当する副司令官を兼任していたセルゲイ・スロビキン宇宙航空軍司令官が解任されたと報じました。「RIAノーボスチ」は国防省の消息筋の話として、スロビキン氏は新たな職責に任命されて解任され、現在は短い休暇を取っているとし、後任の宇宙航空軍司令官には空軍参謀総長のビクトル・アフザロフ将軍が着任すると報じました。

シリア内戦などで「アルマゲドン将軍」という別名を得たスロビキン氏は、ウクライナ戦争でロシア軍が守勢に追い込まれた昨年10月、ウクライナ戦争を担当する司令官に任命されていました。以後、昨年8~9月にウクライナ軍の大反撃に押されて後退した東部・南部戦線の防衛線を再構築し、戦列を整備しています。

当時プリゴジン氏は、ロシアとウクライナ双方が大きな犠牲を出した東部戦線最大の激戦地バフムトの攻防戦を主導していたのですけれども、プリゴジン氏は、ロシア軍指導部を激しく非難しながらも、スロビキン氏については高く評価し、良好な関係を維持していました。けれども、スロビキン氏はその3ヶ月後にワレリー・ゲラシモフ参謀総長に戦争の指揮権を渡しています。

6月23~24日に発生した「プリゴジンの乱」の後、スロビキン氏は「反乱軍は基地に復帰せよ」という内容の動画を発表し、反乱に反対する立場を示したのですけれども、スロビキン氏は、その後外部に姿を現しませんでした。そのためスロビキン氏の去就はプリゴジン氏の反乱に関与した者たちが粛清されたかどうかを見極める重要な尺度として注目されていたようです。

このスロビキン氏の解任直後に、プリゴジン氏が墜落死したことから、一部には、プーチン大統領の「血の粛清」が始まったという分析も出ているようです。


4.ワグネルは草刈り場となるか


今回の墜落がプーチン大統領による粛清だったとすれば、それは、プリゴジン氏の忠実な支持者たち、そして武力抵抗を検討していたかもしれないロシア国内の人物に対して、2つの明確なメッセージを発したとBBCは伝えています。

それは「抵抗などしようとするな」と「実際に抵抗した者がどうなったか、見てみろ」という2つのメッセージです。

では、今後、プリゴジン氏を失ったワグネルはどうなっていくのか。

プリゴジン氏の死亡について、前述したワグネル系テレグラム・チャンネル「グレイゾーン」は、「ロシアの裏切り者」のせいだと非難しています。

けれども、この裏切り者が誰を指すのか、そしてワグネルがどのような対応を取るつもりなのかは、明らかにしていません。

ただ、ベラルーシに滞在しているワグネル戦闘員は反発しています。プリゴジン氏死亡発表の数時間後、SNSに、「ワグネル」の戦闘員とみられる男達の投稿がされています。

その動画では、「ワグネルのトップ、エフゲニー・プリゴジンの死に関する噂がある。プーチン率いるクレムリン当局が。彼を殺そうとした疑いがある。プリゴジンの死に関する情報が確認されれば、我々はモスクワで2度目の『正義の行進』を行うだろう。ワグネル・グループが何をするかについては、今、いろいろと議論がある。1つだけ言えることがある。『我々は動き出している、我々に備えよ』と」とプーチン政権に「報復」するため、モスクワへの「正義の行進」を呼びかけています。

また、プリゴジン氏の出身地であるサンクトペテルブルク(旧レニングラード)でも、彼の偉業をたたえる動きが出始めているようです。

また、ウクライナ側で戦うロシア義勇団(RVC)の司令官、デニス・カプスチン氏はワグネルの兵士ら向けに動画を投稿し、ワグネル幹部の死に関与したロシア国防省の「番犬」として働くか、あるいは報復するのかを「真剣に選ぶ時がきた」と強調。「報復するにはウクライナ側に寝返る必要がある」と寝返りを呼び掛けています。

トップを失った組織は他組織の草刈り場になる、というのはよくあることですけれども、ワグネル戦闘員の檄に呼応し「正義の行進」が行われなければ、やがて散り散りバラバラになっていくことが予想されます。

勿論、本当にどうなるかは、しばらく様子を見なければ分かりませんけれども、ウクライナ戦争の最中にこんなことをしている余裕がロシアにあるのか。

今のところ、プーチン大統領はセルゲイ・ショイグ国防相とワレリー・ゲラシモフ参謀総長を両軸とするこれまでのロシア軍部体制に対する信任を維持し、彼らが主導してきた戦争の路線を継続するものとみられています。

ただ、プリゴジン氏が高く評価し、ロシア軍部で実力と人望を持つスロビキン氏も解任したことはロシア軍にとって少なからぬ損失になる筈だ、という指摘もあります。というのも、ロシア軍が6月初めに始まったウクライナの反転攻勢を阻止しているのは、スロビキン氏が昨年、兵力を後退させて防衛線を構築し、戦力を再整備したためだとされているからです。

あるいは、ロシア軍はもうウクライナ軍に防衛線を突破されることはない、と判断しているのかもしれませんけれども、下手をすれば、これが「蟻の一穴」になってしまうかもしれませんね。


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