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1.日本語を大きな声で話さない
8月25日、中国・北京の在中国日本大使館は在留邦人に対し「外出する際には不必要に日本語を大きな声で話さないなど慎重な言動を心がける」といった注意を呼び掛け、「大使館を訪問する必要がある場合は、大使館周囲の様子に細心の注意を払う」よう求めるメールを送ったことが明らかになりました。
これは、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を受けてのもので、前日24日にも「不測の事態が発生する可能性は排除できない」とのメールを送っています。
過去には、2012年に尖閣諸島の国有化を受けて、大規模な反日デモが中国各地で起きたことがあることから、在中国日本大使館は現地での反日デモの可能性について警戒を強めています。当初土曜日に日本大使館で開催される予定だったピアノ発表会は、北京に在住する日本人が多いため、安全上の懸念を考慮し延期されたようです。
また、山東省青島市の日本総領事館は、福島原発の下水が放出された初日の24日、青島日本人学校に石が投げ込まれたと発表。施設への被害や負傷者は出なかったとしていますけれども、警察は事件に関与した男を逮捕したとのことです。
2.我が身わきまえぬ国
中国の嫌がらせは、在中邦人だけに対してではありません。
8月26日、島県でも飲食店や市役所などに中国の発信とみられる迷惑電話が相次いでいることが明らかになっています。
福島県内で複数の飲食店を経営する男性によると、処理水放出初日の翌25日に中国の国際電話の国番号「86」から迷惑電話が多発。多い時には1分ごとにあったそうです。
また、同じく26日、福島市の木幡浩市長は26日、自身のフェイスブックで、「役所では、確認できているものだけで、2日間で約200件。小中学校にもかなり来ているようです。飲食店やホテル・旅館も多く、多いところは1事業所だけで100件以上も。多くは+86(中国)発信で、中国語。我が身の所業をわきまえぬ困った国です。福島は、原発事故の被害に加え、事後処理の負担も負わされている立場。政府には、この状況を早々に伝え、対応を求めます」と市役所に「嫌がらせ電話」がかかってきたと明かしています。
木幡市長は続く投稿で「朝の投稿後、被害はそれ以上に酷いことが伝わってきました。<その後の経過>要所に連絡を入れ、対応を求めました。政府からは外交ルートを通じ中国に申入れがなされました。在中国日本大使館は、大使館snsで中国国内に向け次のように発信しています。
翻訳ソフトによる日本語訳はコメント欄に掲載します。県警も、被害防止の方策を検討され、当面の対応策を写真の通り県警ニュースとして発信してます。これは、市の公式LINEでもお知らせしました。本日の一連の動きは、県関係国会議員から官房長官に連絡され、政府全体としての対応にも繋がっていたようです」と述べていますから、既に国レベルで対応する案件となっているとみてよいのではないかと思います。
3.日本産とは比べ物にならない
日本に嫌がらせを続ける中国ですけれども、当然というか無傷ではいられません。
中国政府は7月に福島を含む10都県からの水産物の輸入を禁止し、処理水放出開始に対し、日本産水産物の輸入を全面停止しましたけれども、北京最大級の水産市場の店で店長を務めるワン・ジンロン氏は、「以前は新鮮な日本産の魚が手に入ったが、税関で止められたため、2か月前から手に入らなくなった……以前とは売り上げに大きな差がある。新型コロナウイルスの流行時でも毎週3~5匹のマグロをさばいていた」と述べました。
ワン・ジンロン氏によると、今捌いているマグロはごくわずかで、しかも日本産ではなくオーストラリア産、ニュージーランド産、スペイン産だそうですけれども、品質が「非常に悪く、日本産とは比べ物にならない」と零しています。
また、別のある業者もいつもマグロは日本から仕入れているが、理由は単純で、他の産地のマグロは日本産ほどおいしくないからだと語っているそうです。
ワン・ジンロン氏は、それでも、日本産の水産物に対する中国国民の「大きな抵抗」を前に、選択の余地は殆どなく、「この汚染の話題は注視されている」と指摘しています。
この市場の他の店からも、放出計画の影響は大きいとの声があり、多くの業者が日本産水産物の販売を中止しているとのことです。
要するに、中国政府の「核汚染水キャンペーン」による被害を受けている訳です。けれども、中国当局は、それが「風評」であることがバレることを恐れています。
香港紙の明報などによると、8月24日、中国の短文投稿サイト、微博(ウェイボ)で欧州在住の中国人原子力専門家のものとみられるアカウントが日本の処理水放出について具体的なデータを使って解説。中国当局が国内の原発で定めるトリチウムの放出上限は福島第1原発の8倍であり、今回の処理水放出は「心配するに値しない」との考えを示したそうです
けれども、間もなく投稿は削除され、アカウントも封鎖されたようです。
また、中国の通信アプリ「微信(ウィーチャット)」でも、国連機関のレビューや科学者の意見などを引用した文章が削除されたと伝えられており、中国政府は、処理水放出について、「データの真実性や正確性、海洋環境や人類の健康への安全性、無害性を証明していない」という自身の公式見解にそぐわないSNS投稿に神経をとがらせているとみられています。
4.エコノミック・ステイトクラフト
半導体素材の輸出規制や、日本産水産物輸入の全面停止など、経済を使った嫌がらせをして、相手国にいうことを聞かせることを中国はよくやりますけれども、このように、「政治的目的を達成するため、軍事的手段ではなく経済的手段によって他国に影響力を行使すること」は「エコノミック・ステイトクラフト」と呼ばれています。
エコノミックとは「経済的」の意味で、ステイトクラフトは「政治的手腕、外交術」といった意味がありますけれども、より広義には「人を巧みに欺く策略」というニュアンスがあり、「他国へ経済的な手法を用いて自国の地政学的な利益を確保する」とも言いかえることができます。
中国は過去にも豪州産ワイン、台湾産パイナップル、ノルウェー産サーモンなどをターゲットにしました。気に入らない国に対して、「お前の国の○○は買わない」と脅す手口です。
近年、日本でもようやく「経済安全保障」という概念が少しずつ広まってきたように思いますけれども、エコノミック・ステイトクラフトと経済安全保障とでは微妙なニュアンスの違いがあります。
それは「攻撃的」と「防御的」の違いです。
エコノミック・ステイトクラフトが、政治的目的を達成するため、軍事的手段ではなく経済的手段によって他国に影響力を行使することであるのに対し、経済安全保障とは「経済的手段によって安全保障の実現を目指すこと」を指し、国益を守るため、対立国との貿易を一部カットしたり、友好国・同盟国と重要な材料・物資の安定的確保などで協力、シェアしようという方法です。
要するに、経済を使って、相手国を変えさせようとするのが、エコノミック・ステイトクラフトであり、相手国からの攻撃から自分の身を護るのが経済安全保障だという訳です。
5.オーストラリアに学べ
では、中国からのエコノミック・ステイトクラフトを受けたとき、どうやってそれに対抗していくのか。
それにはオーストラリアの例に学ぶことができます。
2020年、オーストラリア政府は香港やウイグル、チベット等における人権侵害について国際的な場で声を上げ、WHOでも、武漢ウイルスに関する国際的な独立調査を求める決議をEUと共に進めてきました。これに対し、中国は2020年11月にオーストラリアに対し「14の不満」を列挙したリストを公開。「中国を敵として扱うならば、中国は敵となるだろう」と警告しました。
そして、中国は、オーストラリアに対し、牛肉、麦、石炭、砂糖、シーフード、銅、木材、綿、ワインなどの輸入に対し禁輸や追加関税を課しました。
たとえば、大麦を例にすると、2020年5月、中国政府はオーストラリアから輸入される大麦に対してアンチダンピング関税73.6%及び補助金相殺措置関税6.9%の計80.5%を以後5年間課したのですね。
2012年から2019年まで、中国はオーストラリアの最大の大麦輸出先で、2014年以降は輸出量の過半が中国向けでありましたから、こんな8割ものアンチダンピング関税を掛けられたら、大打撃になる筈です。けれども、オーストラリアはこれに見事に対応しました。
中国は近年10年以上にわたって、オーストラリアが最大の大麦の輸入先でした。従って、中国とて、オーストラリア産大麦が入ってこなくなった分、どこかから輸入しなければなりません。
そこで中国は、オーストラリアから買わない分をカナダ、フランス、ウクライナといった国々から買うこととしました。その煽りを受けて、それまでこの3ヶ国から買っていた他の国々の大麦が足りなくなってしまった訳です。オーストラリアはその国々にアプローチしたのですね。
つまり、「カナダ、フランス、ウクライナの3ヶ国は、大麦を中国に売ってしまって、貴方の国に売ってくれないでしょう。お困りですよね。ならば、我がオーストラリアの大麦を買いませんか」、とこう持ち掛けた訳です。
これが当たりました。結局、オーストラリアは中国向けだった大麦を他国への輸出に振り返ることに成功し、貿易収支で10億オーストラリアドルの損失。オーストラリア
の輸出の0.25%の損で済んだのだそうです。
これと同じことが日本でも出来る筈です。少なくとも水産物については。
前述したように、日本産水産物の品質が他国と比べ物にならないのであれば、中国が買わなくとも、他に買ってくれる国は沢山ある筈です。
2022年の中国向け水産物輸出品目上位は、ホタテ貝467億円、なまこ79億円、かつお・まぐろ類で40億円だそうですけれども、なまこは兎も角、ホタテとかつお・まぐろであれば、いくらでも中国以外の国に売れそうです。
実際、北海道のある水産関係者は、ホタテ貝について「かつてはホタテの輸出先トップといえばアメリカでした。中国がトップになったのは2015年以降です。中国国内のホタテ需要に加え、中国の業者が日本産を輸入して、それを加工してアメリカに輸出するようになったからです。つまり、アメリカにおける日本産のホタテ需要はいまだに大きなものがあり、今後、中国向け輸出がストップすれば、自然とアメリカ向けにシフトしていく動きが出てくるはずです」と述べていますし、政府も漁業関係者の追加支援に乗り出し、ホタテ貝については国内加工や別の販路開拓を支援するとしています。
それ以前に、魚なら、他国に買ってもらう前に自国で消費できてしまうかもしれません。
それよりも、中国の嫌がらせが、水産物以外の何に拡がっていくのかの方が注意すべきかもしれません。けれども、中国が「エコノミック・ステイトクラフト」をやればやるほど、かの国の実態がどんどん知られていくようになるだけではないかと思いますね。
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