加速する中国の反日キャンペーンは逆効果

今日はこの話題です。
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1.人民を煽る中国政府


東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を巡り、中国の「エコノミック・ステイトクラフト」が続いています。

8月25日、中国のSNS「微博(ウェイボー)」では、「日本化粧品」が話題の検索語1位となりました。「日本放射線被爆製品」として日本産スキンケアおよびビューティーブランド目録と共に不買運動を呼びかけるコメントが続いているようです。

これに対し、日本スキンケアブランドSK-IIは「福島原発から離れた滋賀県で生産され、製品から放射線の危険は検出されていない」と表明し、花王キュレルは「現在公式チャンネルで輸入される製品は放射性テストを経て中国税関を通過した……通関が可能であるだけに製品にいかなる異常もない」と強調。無印良品は「殆どの製品は日本で生産されていない。オンラインで詳細な原産地表示を提供する予定」と対応に動き出しています。

その他にも「微博(ウェイボー)」では、「日本は世界の悪性腫瘍」、「日本人は死ぬべきだ」と、日本を敵視する書き込みが相次いでいます。日本の電話番号を複数書き込んだ画像が投稿され「日本の番号を見つけて誰であろうと電話し、断固抗議しよう」と呼びかけたり、日本の参議院に重慶市の男性が電話し「なぜ核汚染水を海に排出したのか」とただす様子を写した動画には、8万件以上の賛意が寄せられたそうです。

更に、24日に中国海関総署が日本水産物の輸入全面停止を発表した後、北京、上海、広州などの有名和食店では日本産食材を使用しないという声明を発表。香港明報によると、上海市の監督官が和食店を奇襲点検し、日本産水産物であるにもかかわらず税関申告書を出さなかったとして一部の店を閉鎖したそうです。

また、中国メディア新京報による「日本の飲食品を食べることができるか」というオンラインアンケート調査では、9万2000人のうち8万1000人が「食べない。安全性が心配」と答えたとしています。

そして、中国国営CCTVは「歴史は日本政府の行為を記憶する」という論評と共に、韓国と日本国内の批判の声を報じ、中国人民解放軍はSNSで「日本は漁民の嘆きを聞かないふり、世界の怒りを見ないふりをして放射能汚染水を放出した。日本の顔に傷あとが刻まれた」という映像を掲載しました。

何かこう、中国は国を挙げて、人民を煽り、日本に圧を掛けようと必死な印象は拭えません。


2.拡大する嫌がらせ


中国からの「嫌がらせ電話」は日本国内でも拡大しています。

中国のSNSでは、Tシャツ姿の若者が「適当に東京に電話してみよう」、と中国のぶっかけご飯を片手でつつきながら、スマホの地図アプリで無作為に選んだ番号に電話をかけ、「なぜ核汚染水を海に流すんだ」と中国語で一方的にまくし立てるなんて動画が出回っているそうです。

実際、「汚染水を流している」などと一方的に批判したり、怒鳴ったりする電話が、多くの自治体で確認されています。

東京都中野区では25日〜28日午前、区役所の代表番号への電話が計1732件に達しました。英語や中国語、片言の日本語で「なぜあなたたちは海を汚染するのか」などと怒鳴る自動音声が流れ、一方的に電話が切られたそうです。千代田区でも同期間に批判や罵声、無言電話など1000件超を確認。いずれも25日が最も多かったとのことです。

都庁にも、保健医療局の番号宛に嫌がらせ電話が殺到。担当者によると、25日は昼休みだけで100件弱。多くが中国の国番号「86」で始まる国際電話で、自動音声で「日本は汚染水を流している。ひどい国だ。死ね」などと繰り返された後、電話主が中国語とみられる外国語で話して切る、という内容のようです。

江戸川区では区総合文化センターの代表番号に24日午後から着信が相次ぎ、電話がつながりにくくなるなど業務に支障が出たため25日に回線を遮断。着信履歴は27日夜まであり、上限の200件に達したそうです。自動音声で「なぜ汚水を排水するのか」「あなたたちはバカ」などと日本語で話すものや、中国語らしき言葉で一方的にまくし立てるものなど。こちらも、28日、国際電話の着信を一括で拒否する対応をとりました。

文京区では26日、区役所の代表電話に、言語が不明だったり、会話にならなかったりする着信が約30件あり、広報課によると、普段も外国人からの電話はあるが、まったく話が通じないケースは少ないため、他自治体と同様の嫌がらせの可能性が高いとみているとしています。

また、福島県では、旅館や飲食店、道の駅、更には病院や薬局などにも中国からとみられる迷惑電話が相次ぎ、業務に支障が出ているそうです。

それだけでなく、28日、東京電力は処理水の海洋放出を始めた24日からの4日間で、中国の国番号「86」が表示される番号から6000件以上の電話を受けていると明らかにしました。放出への抗議や苦情とみられますけれども、東電は「類似案件を喚起する可能性があるので、電話の内容の説明は差し控える」としています。


3.日本に文句をいうのは中朝だけ


こうした動きに政府は神経を尖らせています。

8月28日、松野官房長官は記者会見で、日本側への嫌がらせについて「極めて遺憾であり、憂慮している」と述、中国側には国民に冷静な行動を呼び掛けるよう求めていることも明らかにしました。

また、岸田総理も「多数の迷惑電話や日本大使館、日本人学校への投石などが行われています。これは遺憾なことであると言わざるを得ない……在留邦人の安全確保に万全を期す」と述べ、中国政府には「国民に冷静で責任ある行動を呼び掛けるべきだと申し入れている」と強調しました。

実際、28日に岡野正敬外務次官は、中国の呉江浩駐日大使を呼び、岡野次官は嫌がらせ行為などの発生について「極めて遺憾であり、憂慮している」と伝えたほか、中国政府には状況の深刻化を防止するため、国民に冷静な行動を呼びかけるなど適切な対応を早急に行うことなどを求めています。

一方、野党は煮え切りません。

24日、立憲民主党の泉健太代表は訪問先の兵庫県尼崎市で記者団に対し、「地元の声を無視しての放出に、国民が不安や疑念を持っている。国会で説明するのは当然だ」と語り、政府の説明不足や風評被害への対応を批判しました。ただ、立憲は「国際的な安全基準に合致」と評価した国際原子力機関(IAEA)の報告書で「一定の安全性は担保された」としており、放出はやむなしとの立場を取っています。

もっとも、立憲の若手議員は「有権者に『反対ばかりではなく現実路線だ』と示す狙いだろう」と指摘するものの、党内には放出自体に反対する声も根強く残り、一枚岩でないのが現状です。

また、共産党の小池晃書記局長は28日の記者会見で、中国の日本人学校に石や卵が投げつけられる嫌がらせなどが相次いでいることに触れ、「近隣諸国の理解を得る外交努力を怠ってきたと言わざるを得ない。海洋放出を中止して中国政府と事態の打開に向けた協議を行うべきだ」と処理水の海洋放出を中止するよう改めて要求しています。

ただ、どちらもIAEAのお墨付きを得た処理水の安全性を否定することは出来ず、手続きが気に入らないだの、中国様の許可を得てませんだの、こちらも「イチャモン」に近い批判ではないかと思います。

ただ、海外の反応をみると、特定の国を除いて、日本の対応に理解を示しています。

8月24日のNHKの「【詳細】原発の処理水 海への放出開始 国内外の反応は」という記事から、国外の反応についての見出しだけ拾うと次の通りです。
中国 日本の水産物輸入を全面的に停止
中国のSNSで反発の声 根拠のない投稿も拡散
中国 複数の原発から福島第一上回るトリチウム放出も
事故後の規制 一時55の国や地域に
香港の日本料理店 日本の食品離れを懸念
韓国首相「過度に心配の必要ない」
韓国 最大野党は強く非難 ソウルで抗議集会も
台湾外交部「国際的な基準に合致する放出を引き続き促す」
北朝鮮“人類に核の災難もたらすことためらわない犯罪行為”
ロシア外務省「完全な透明性を示し、すべての情報の提供を期待」
フィリピン外務省「IAEAの技術的専門性を認識」一定の理解示す
見出しだけでも明らかなように、処理水放出に文句を付けているのは、中国、北朝鮮に韓国野党というごく一部(いわゆる特亜3国)だけです。


4.被害者ムーブ


外務省の岡野正敬外務次官が、中国の嫌がらせ行為に抗議したことに対し、28日、中国の呉江浩駐日大使は「呉江浩大使、福島の核汚染水海洋放出問題で日本側に厳正な立場を一段と明確に説明」という文章を発表しました。

その内容は次の通りです。
8月28日、呉江浩駐日中国大使が求めに応じて日本の岡野正敬外務事務次官と会見し、福島の核汚染水の海洋放出問題について中国の厳正な立場を一段と明確に説明した。

呉氏は日本側のいわゆる申し入れに対し、次のように指摘した。日本は国内外の強い疑問と反対の声を顧みず、頑なに核汚染水の海洋放出を始め、全世界の海洋環境と全人類の健康・安全に極めて大きなリスクと隠れた危険および予測できない危害をもたらし、中国を含む国際社会の強い憤りを招いており、これが目下の局面をもたらした根源である。日本はまず現実を直視し、反躬自省して、直ちに海洋放出を停止しなければならない。

呉氏は次のように表明した。中国政府は海洋放出問題でいわゆる正しい情報を発表すべきだと日本側は言っているが、これは筋が通らない。中国が科学と事実の根拠を基に、自身の厳正な懸念と反対の立場を表明するのは、まったく正当で合理的なことだ。まさに日本の海洋放出には道義的、科学的および法的に重大な問題があり、日本は海洋放出行為の「ホワイトウォッシュ」をやめ、真に責任ある態度で周辺の隣国と誠実に意思疎通をはかり、国際社会の厳格な監督を受け入れ、確実に科学的、安全、透明な方法をとって核汚染水を処分すべきなのだ。中国の従来の懸念を踏まえ、このところの事態の進展と合わせて、日本はいくつかの問題に真剣に回答すべきである。

まず、なぜ日本はトリチウムは稀釈処理済みだとわざと強調し、他の放射性核種には言葉を濁しているのか。日本はこれらの核種は処理のすえ、海洋放出前すでに国の安全基準を満たしたと言い張っている。しかし世界が知っているように、福島の核汚染水には60種余りの放射性核種が含まれており、トリチウムのほか、多くの核種の有効な処理技術はまだない。しかもいわゆる「基準を満たす」とイコールではない、稀釈イコール除去ではなく、総量が変わるわけではない。日本がどう弁明しようとも、大量の有害な核種が海に放出され、海洋の環境と人類の健康に予測できない危害をもたらす事実は変えられない。

第二に、なぜ日本は全面的で系統な海洋環境モニタリングを行わないのか。現行のモニタリングプランは系統的、全面的でなく、放出されるすべての核種のモニタリングを行ってはおらず、モニタリングする媒体海洋生物の種類が少なく、海洋生態系への長期的影響評価の必要を満たせない。現在公表しているモニタリング方法とデータだけで、福島核汚染水の海洋放出は安全で無害だというのは科学的根拠がなく、人々を納得させるのは難しい。現在公表している大部分のデータは東京電力が自分で採取、検査、発表したものだ。東京電力にデータ改ざん、ごまかし、虚偽報告の数々の過去があることを考えれば、国際社会がそのデータの真実性と信頼度を疑うのはしごく当然のことである。

第三に、なぜ日本は他の利害関係者が共に参加して国際モニタリングの仕組みをつくることを拒否するのか。日本は国際原子力機関(IAEA)を前面に出して「盾」にし、他の国のモニタリング参加は必ずIAEA主導の枠組み下でなければならず、IAEAとの協議・合意がなければ加われないと言っている。そして実際には、現在IAEAのモニタリングの枠組みには他の国や国際機構は現地参加しておらず、これでは国際モニタリングとは言えず、透明性を著しく欠く。日本が安全性について十分自信があるのなら、他の国が独自に実施する第三者モニタリングを含めて、各利害関係者が十分かつ効果的に参加する長期的モニタリングの国際的アレンジメントを積極的に支持すべきである。

呉氏は中国駐日大使館・領事館が妨害行為に遭っていることについて厳重な申し入れを行い、次のように表明した。このところ中国の駐日大使館・領事館に日本国内から大量の迷惑電話がかかって、正常な運営が著しく妨げられている。日本側に法に基づいて処分し、中国大使館・領事館、在日機関、企業、公民および中国人観光客の身の安全を確実に保障するよう促したい。

呉氏は次のように表明した。中国は引き続き日本の大使館・領事館の安全と日本公民の合法的権益を法に基づいて保障していく。同時に日本は、世論を正しく導き、誇張・宣伝をやめるべきで、事柄の焦点をずらし、自身の海洋放出という誤った行為を覆い隠そうとしてはならない。

また次のように表明した。日本側は、海洋放出が中国民衆の大きな憤りを招いていることを認識すべきである。食品の安全性に対する中国消費者の憂慮は現実に存在するだけでなく、非常に強い。中国の海洋産業も経済的損失を被る大きなリスクに直面している。中国政府は一貫して人民中心を堅持しており、当然ながら人民大衆の強い懸念に応えなければならず、正当、合理的、必要な対応措置を取って海洋環境の安全を守り、中国民衆の健康を守る権利があり、責任がある。
IAEAが安全だと報告したことを無視して、情報を全部出してないだの、やり方が悪いだの、やっぱり「イチャモン」の域を出ていません。自分達の原発が福島の10倍のトリチウムを放出しておいて、どの口がいうのかと思います。

あまつさえ、中国側にも嫌がらせ電話が殺到していると被害者ムーブしていますけれども、焦りの表れのようにも見えます。


5.中国の言い分は偽善の極み


先のNHKの記事でも明らかなように、処理水放出を巡る中国の「キャンペーン」は上手くいっていません。それどころか中国の言い分は嘘っぱちだと糾弾するものさえあります。

8月24日、アメリカの保守系のニュースメディア「ワシントン・エグザミナー」は「福島の汚染水対策をめぐる中国の驚くべき環境偽善」を掲載しました。

記事の概要は次の通りです。
・2011年、大地震が日本を襲い、福島原子力発電所の冷却システムが故障し、メルトダウンが発生した。それ以来、日本は100万トン以上の汚染水を浄化してきた。

・木曜日、日本はその汚染水を太平洋に放出し始めた。このプロセスは今後30年間継続され、日本と国際的な規制当局の両方から安全であると認められている。国際原子力機関(IAEA)は、日本の計画は「関連する国際的な安全基準に合致している......管理された段階的な処理水の海洋放出は......人々と環境への放射線学的影響は無視できるだろう」と判断した。これらの結果は、ほとんどの国際的なオブザーバーを満足させた。さらに、日本には自国の沿岸海域とその漁業資源を汚染しないようにするあらゆる動機がある。

・しかし、福島の排水計画に大きな不満を抱いている国がある: 中国だ。中国は日本産の魚の輸入を禁止したのだ。

・木曜日、中国外務省の王文斌報道官は、日本の計画は「国際社会から強い批判と反対を受けている」と虚偽の主張をした。さらに、「日本は生態系を破壊し、海洋を汚染する破壊者に成り下がった」と付け加えた。北京のプロパガンダ紙『環球時報』もこの騒ぎに拍車をかけ、「中国が日本の廃水投棄に反対するのは、国際社会の公益のためだ」と騒ぎ立てた。そして、「日本が核汚染水を投棄した後、国際市場における中国本土産の水産物の価格は、他の地域と比べて相対的に上昇するだろう」という傲慢な希望を提示した。

・このことをはっきりさせておこう。第一に、民主的な法治国家である日本の環境基準よりも、中国共産党の環境基準を信用するのは愚か者だけである。第二に、福島の汚染水処理計画に対する中国の不満は、環境問題への懸念からではなく、むしろこの問題を利用して歴史的な宿敵であり、アメリカの太平洋における主要な同盟国を弱体化させることができるという北京の感覚からきている。第三に、中国が環境を破壊する行為に文句を言うのは偽善の極みである。

・漁船団の大群で世界の海を荒らしているのは、結局のところ中国なのだ。これらの漁船団は脆弱な漁業資源を壊滅させ、西アフリカ、太平洋、ラテンアメリカの地元漁業はすでに困窮している。もちろん中国はこれを否定している。その漁船団は、他国の排他的経済水域に侵入したり、ガラパゴス諸島のような生態系保護区を略奪したりできるように、位置情報発信器をオフにしている。

・中国の生態学的暴挙に関しては、これは氷山の一角にすぎない。

・中国はまた、毎年数千万立方トンのプラスチックを河川から海に流している。そして北京は、自国の利己的な利益のために、南の近隣諸国を犠牲にして、メコン川を組織的に堰き止めている。

・中国はまた、世界最大の二酸化炭素排出国であり、大気中に放出される二酸化炭素の量は、次に多いアメリカの2倍だ。北京が漁船団について嘘をつくように、気候変動政策についても嘘をつく。習近平は気候変動が最優先事項だと主張するかもしれないが、何百もの汚れた石炭火力発電所を新設している。習近平は「気候変動」という言葉を、西側諸国から他の譲歩を引き出すためのテコとして使っているだけなのだ。

・端的に言えば、日本の福島の汚染水対策は環境的に健全であると信用できる。自国の環境記録を考えれば、中国の不満は軽蔑の対象としてしか扱われないはずだ。実際、世界は環境問題に関して北京が言うことの反対の方が真実であるとみなすべきだ。
このように中国の主張は「偽善の極み」であり、北京のいうことの反対が真実なのだと糾弾されています。


6.中国が欲しいのは日本の譲歩


この激しい中国の反日キャンペーンについて、筆者は8月27日のエントリー「中国が外交カードにするALPS処理水」で、評論家の石平氏がその狙いとして人民の不平不満を逸らすためと外交カードとして使っていると指摘していることを紹介しましたけれども、他の識者も同じように見ているようです。

8月25日、外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦氏は、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演し、次のように述べています。
飯田)初回は17日間で7800トンあまりが放出されます。

宮家)コロナ禍の前に福島第一原発を見学する機会がありましたが、当時も既にタンクがたくさんあって、「そろそろ限界なのです」という話を伺いました。しかし、話を伺えば伺うほど、トリチウムは基本的に自然界にもあるものですから、取り除けないのは仕方ないことなのです。

宮家)ALPS処理水は、いずれ出さなければいけない。科学的根拠もあるし、各国みんなやっていることですから、科学的に反対できる人はいないと思います。

飯田)そうですね。

宮家)もちろん心配する人もいますし、風評被害が出るのは大変なことです。いくら「放水はどうですか?」と聞かれても、賛成できる人は少ないでしょう。特に漁業関係の方は心配ですからね。

飯田)風評被害が出た場合は。

宮家)いつかはやらなければいけないけれど、政治家が政治判断で行う必要がある。そして菅総理(当時)が決断され、岸田総理の時代にその時期がきたということです。

宮家)言い方が難しいのですが、私はこの処理水を飲めばいいのではないかと思っています。実際に「飲ませて欲しい」と頼んだのだけれど、いろいろな不純物があるからダメだと言われました。

飯田)不純物があるから。

宮家)問題は「トリチウムがいかに安全か」ということですから、「不純物を取り除き、トリチウムを含んだものを飲ませてください」と言ったのですが、これも難しくて未だに飲めていません。でも、私は飲んでも平気だと思っています。

飯田)自然界にあるものだから。

宮家)韓国ですら態度を変えたのですよ。尹大統領は定期的なモニタリングを行うべしと言っていますが、我々もそう思っているわけです。日本の方がはるかに影響は大きいわけですから。

宮家)しかし、そこで中国が言い掛かりをつけてくる。科学的に見れば、中国の原発から出ている処理水の方がトリチウム濃度は高いぐらいです。「それにも関わらず、なぜ中国は科学的根拠もなく、あのような言い掛かりをつけてくるのか」と誰かに聞かれました。

飯田)なぜ中国はあのようなことを言うのか。

宮家)日本もそうですけれど、日中関係は現在のままでいいわけがないので、対話しなければいけない。しかし、彼らは前提条件なしに対話する気はないわけです。いまは日米韓がタッグを組んでいるので、中国は日本にもう少し譲歩させたい。政治的譲歩が欲しいから言い掛かりをつけ、「日本が降りるのだったら少し黙っていてやろうか」と言っているのです。

飯田)政治的譲歩が欲しいために。

宮家)そういう状況にまでなってきている。しかし、こんなことをやっていたら逆効果になりますよ。

飯田)逆効果に。

宮家)中国の人から輸入禁止にするを言われたので、私は「よく考えてごらん。そんなことをやれば、日本はますますアメリカや韓国と一緒になるから逆効果だよ」と話しました。

飯田)中国人の方に。

宮家)そう言ったら黙っていましたけれど、黙っても、禁輸はやめられないでしょう。墓穴を掘ることをわかった上で中国は文句を言ってくる。科学的根拠に基づき、IAEAが「安全だ」と言っているわけです。我々も漁業関係者の方々が言うように、とにかく透明性を持って、しっかりとモニタリングを行い、常に濃度を公表していく。それに尽きると思います。

飯田)中国政府は日本産水産物を全面禁輸すると発表しました。それに対して、岸田総理は即時撤廃を求めています。漁家の方々にとっては大変なことですよね。

宮家)正当な抗議であれば私も「なるほど」と考えますけれど、中国の批判は言い掛かりに近いものです。処理水の問題を過度に政治化することが、本当に日中関係にとっていいことなのか、彼らには考えてもらいたいですね。

飯田)水産物を主要な産業にしている自治体はたくさんあります。「X」(旧ツイッター)などでも「いまこそ、ふるさと納税で日本が(福島を)支えましょう」と書かれています。

宮家)中国が政治的な動きとして何を狙っているかと言うと、日本国内に言い掛かりをつけ、日米韓を分断しようとしているのです。そうならないためにも、我々が自分たちで支えられる部分は支える必要があると思います。

飯田)かつて台湾がパイナップルを禁輸されて困ったときは、日本や世界が支えました。

宮家)泣き寝入りはいけません。理不尽なことを言ってくる人がいたら、戦えるときは戦わないといけないのです。
このように宮家氏も、中国は日本の政治的譲歩が欲しいため言い掛かりをつけているのだ。日米韓を分断しようとしているのだ、と指摘しています。


7.対中認識が悪化する先進国


宮家氏は、中国の嫌がらせについて、そうすればするほど、日米間は増々協力するから逆効果になる、と指摘していますけれども、中国の嫌がらせ、「エコノミック・ステイトクラフト」は他国の嫌悪感を逆に煽っている気があります。

笹川平和財団は2021年9月に「『先進民主主義国』の言論空間が見落としている『発展途上国』の対中認識」というレポートを発表しています。

それによると、2021年6月30日、Pew Research Centerが行った、欧州、北米、アジア太平洋地域における「先進国(advanced economies)」17ヶ国各国の対中認識に関する世論調査の国際比較に関する最新結果を紹介し、ギリシャとシンガポールを除く15ヶ国にて回答者の過半数以上が中国に対して否定的な見方を示していると述べています。

更に、レポートでは、Pew Research Centerの調査結果を分析した結果、数字の推移に関して興味深い点があるとして、次のように述べています。
第一に、2021年の回答を見ると、シンガポール以外全ての調査対象国において米国よりも中国に対して否定的な見方を示す割合が高かったことだ。オバマ政権時(2009-2016年)には全体的に米国を否定的に見る国々が少なく、トランプ政権時(2017-2020年)には全体的に対米認識が悪化したのが見て取れるが、2021年はバイデン政権の誕生の影響があってか各国の対米認識は前年に比べて数十ポイント改善している。

第二に、本調査が行われ始めた2002年から現在に至るまで、一貫して日本が中国に対して最も否定的な見方を持ち続けているという点だ。日本の否定的な対中認識が最も悪い93%まで悪化したのは、尖閣諸島国有化を巡り日中関係が緊張した2013年だ。その後も中国に対して否定的な見方を示す回答者は安定して8-9割の間を推移しており、2021年は88%となっている。

日本のこの数字は、ほんの数年前までは他国と比べて例外的であった。2-3年前までの数字を見ると、日本で中国に否定的な見方をする回答者の割合は他国と比べて数十ポイント以上高かった。これが2019年になり、初めて日本以外にスウェーデンの否定的な対中認識が70%を超え、2020年には11ヶ国が70%を超えている。ここ数年で他の「先進国」の対中認識が急速に日本と同レベルになってきたと言えるだろう。

第三に興味深いのは、日本に次いで否定的な対中認識を持つトップ三ヶ国(スウェーデン、オーストラリア、韓国)に見て取れる共通点だ。いずれもエコノミック・ステイトクラフトを含む中国の高圧的な外交政策により被害を受けた時期と対中認識の悪化の時期が重なっている。以下、これら3ヶ国について中国の外交政策と、各国の世論調査の推移について簡単に検討する。

【中略】

これ以外にも、否定的な対中認識が広まっている上位の国々を見ると、いずれも中国のエコノミック・ステイトクラフトを含む高圧的な外交政策を取られた時期と、世論調査結果が対中認識悪化に傾いた時期が重なっている。

ここまで見ると、中国のエコノミック・ステイトクラフトを含む高圧的な外交政策は対中認識悪化の一因であり、「中国外交の失敗」と論じることは何ら不自然でないように思える。

しかし、このPew Research Centerの調査は示唆に富むものである一方で、「先進国」しか見ていないという欠点がある。すなわち、これら17ヶ国はほぼ全てが経済的に裕福である「民主主義国」ばかりなのだ。経済的に発展した国であれば中国のエコノミック・ステイトクラフトに対して一定の抵抗ができると考えられるのに加え、民主主義国であれば強権主義的な政策や言説に対する反発がより強い、といった仮説が立てられる。すなわち、「発展途上国」や「権威主義国」に対しても、中国の高圧的な外交政策が対中認識の悪化につながっているとは必ずしも言えない可能性がある。例えば、2021年の調査結果で対中認識よりも対米認識の方が悪いのは、エコノミスト・インテリジェンス・ユニットが毎年出している各国の「民主主義指数」で第74位と、Pew Research Centerが調査対象とした他の国々に大きく後れをとっているシンガポールだけとなっている。

実際に、中国のエコノミック・ステイトクラフトを含む高圧的な外交政策が「成功している」と解釈しうる事例がいくつかある。例えば、これら「先進民主主義国」を中心とする39ヶ国が香港の国家安全維持法について中国政府を批判する声明に同調しているが、それ以外の「発展途上国」や「権威主義国」を中心とする54ヶ国が香港国家安全維持法を支持すると表明している。また、中国政府の新疆ウイグル自治区における政策に関しても、同じく「先進民主主義国」を中心とする39ヶ国が中国政府を批判したものの、それ以外の「発展途上国」や「権威主義国」を中心とする45ヶ国が支持を表明している。
レポートは、中国のエコノミック・ステイトクラフトを含む高圧的な外交政策は対中認識悪化の一因である一方、経済的に裕福である「民主主義国」が対象であり、「発展途上国」や「権威主義国」でもそう言えるとは限らないとしているのですね。

世界が豊かな民主主義国だけではない以上、この部分は留意すべきかと思いますけれども、逆にいえば、やはり、民主主義国が結束して中国のエコノミック・ステイトクラフト政策に対していかなければならないのではないかと思いますね。

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この記事へのコメント

  • みどりこ

    日中の対立感情をあおり、在日中国人をたきつけて暴動を起こさせ、戦争に持ち込ませる可能性はありませんか?
    日本を戦場にすればアメとDSは無傷な上、また戦争で稼げますから。
    2023年08月30日 15:33
  • 日比野

    みどりこさん

    こんばんは。コメントありがとうございます。

    状況としては、2008年の北京五輪直前の長野聖火リレーの時を思い出しますけれども、まだあそこまではいってない印象です。

    戦争は相手があって起こるものです。

    中国人民は「小日本」だのなんだのいってますけれども、日本国民は呆れこそすれ、相手にしない感じですので。

    長野聖火リレーのときでさえも数人の逮捕者で収まっていますし。纏まった数での暴動でも起こさない限り、反中感情爆発とか、そんなとこまでいかないと思います。
    2023年08月30日 19:35
  • 金 国鎮

    今の中国の反日キャンペーンは戦前の反日運動とそんなに大差はない。
    これは韓国の野党勢力も同様である。

    孫文・毛沢東は漢人の中国を目指し満州人の権力を中国から排除しようとした。
    旧日本軍は満州国を作り五族協和というスローガンを主張した。
    多くの日本人は果たして満州人を信じていたのだろうか。

    多くの日本人は今も中国や韓国に存在する根強い民族偏見に気がつかない。
    これは政治の問題ではない、中国が中央アジアのトルコ系民族を排除しようとするのも同様。
    韓国内で起こる他民族に対する思い上がりも同様。
    2023年08月31日 20:27