ASEAN+3首脳会談と罠に嵌まった中国

今日はこの話題です。
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1.ASEAN+3首脳会談


9月6日、岸田総理はインドネシアのジャカルタにて行われた第26回ASEAN+3(日中韓)首脳会議に出席しました。

外務省のサイトからその概要を引用すると次の通りです。
1 開会挨拶
 岸田総理大臣から、インド太平洋地域が成長の中心(Epicentrum of Growth)であり続けるためには、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化することが不可欠である旨強調した上で、次の取組を紹介するとともに、日本は、ASEAN中心性・一体性及び「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」の主流化を一貫して支持している旨述べました。

チェンマイ・イニシアティブを一層強化すべく、緊急融資の仕組みの迅速な創設等の議論を積極的に主導。
ASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)を通じた支援を実施。
新型コロナからの回復を支援するため、日本は33億ドル相当の緊急支援円借款等を供与。

2 ASEAN+3協力
岸田総理大臣から概要以下を発言しました。
 日本は、引き続きAOIPの4つの優先分野における具体的協力を推進していく。
海洋協力:船舶の通航を支援する管制官の育成や、海洋プラスチックごみ対策の実施などを引き続き支援。
連結性:ハード・ソフト両面で連結性を一層強化すべく、本日、「日ASEAN包括的連結性イニシアティブ」を新たに発表。
SDGs:達成に向けて直面している様々な困難を乗り越えるべく、以下を発言。  
APTERRへの支援、ASEAN食料安全保障情報システム(AFSIS)の組織強化への貢献、強靭で持続可能な農業及び食料システムの構築に向けた 「日ASEANみどり協力プラン」の打ち出し。
ASEAN感染症対策センター早期稼働に向けた支援。
経済・金融:自然災害リスクに対する財務強靱性の強化、アジア債券市場の育成や金融デジタル化の域内への影響の議論にも貢献。
これに対し、他の参加国から、それぞれの取組や、パンデミック後の経済回復、保健、食料安全保障、金融協力、デジタル経済等を始めとする、優先すべき協力分野について発言がありました。

3 地域・国際情勢
岸田総理大臣から、北朝鮮による核・ミサイル活動の活発化を深刻に懸念し、北朝鮮の全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルのCVIDの実現に向けて、国際社会が一体となり、安保理決議を完全に履行することが不可欠である旨を強調しました。また、拉致問題の即時解決に向け、引き続き理解と協力を求めました。加えて、ミャンマー情勢について深刻に懸念し、国軍に対し安全で阻害されない人道アクセスを認めるよう改めて求め、事態の打開に向けたASEANの取組を引き続き後押ししていく旨述べました。
これに対し、他の参加国からは、ミャンマー情勢への言及や、朝鮮半島の非核化の重要性等の指摘がありました。
岸田総理大臣から、ALPS処理水の海洋放出は、国際基準及び国際慣行に則り、安全性に万全を期した上で実施されており、IAEA包括報告書においても人及び環境に対する放射線影響は無視できる程度とされていること、先月の放出後もモニタリングしたデータを迅速かつ透明性高く公表しており、科学的観点から何ら問題は生じていないこと、今後も、IAEAや第三国分析機関の関与を得て、データの信頼性を客観的に確認していくことを説明しました。その上で、これらの点については、国際社会において広く理解が得られているが、中国は、今回の海洋放出を受けて日本産水産物の輸入を全面的に一時停止するなど突出した行動をとっているとし、日本としては、今後とも、科学的根拠に基づく行動や正確な情報発信を求めていく旨述べました。また、日本は引き続きIAEAとも緊密に連携し、科学的根拠に基づき、高い透明性を持って国際社会に丁寧に説明していく旨述べました。

4 結語
 岸田総理大臣から、ASEANが中心となり、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けた取組が進むよう、ASEAN+3の下での協力を強化していく決意を述べました。
岸田総理は、中国が難癖をつけている、福島第一からの処理水放出について、その安全性について説明したようです。


2.日本の対応は国際社会の多くの国から理解されている


この会議で岸田総理は、処理水をめぐる日本の立場を丁寧に説明したとしたうえで「日本の対応は国際社会の多くの国から理解されている。中国による水産物の全面的な輸入の一時停止は突出した対応であり、科学的な見地に基づいた行動や正確な情報提供の重要性を改めて指摘した」と説明しました。

一方、中国から出席した李強首相は、会談冒頭の首脳発言で、処理水の問題には言及しなかったのですけれども、「国家のあいだでの意見の隔たりやもめごとは、外部によるあってはならない干渉などが要因で起こる。意見の隔たりをコントロールするために重要なのは、グループどうしの対立や新冷戦に反対することだ……意思疎通を強化することこそ誤解を取り除く最も有効な手段だ」などと牽制したのですけれども、岸田総理が指摘するように処理水を巡る日本の立場が世界で理解されていることに対する焦りを感じなくもありません。

また、李強首相は、会議の中で、世界の海洋生態環境と人々の健康に関わると懸念を示し、日本に対して責任ある対応を要請するとともに、近隣諸国と十分な協議を行うよう求めたそうですけれども、インドネシアもオーストラリアも韓国も理解を示しています。マレーシアもタイもそうです。李強首相のいう近隣諸国とはかなり限定された国ではないかと思います。

因みに、インドネシアは8月30日、処理水放出について、「日本の福島第1電子力発電所からの処理水放出に関するBAPETENの声明」という声明を出していますけれども、その要旨は次のとおりです。
・インドネシアの原子力利用監視機関の原子力規制庁(BAPETEN)は、国際原子力機関(IAEA)の加盟機関として、日本がALPS処理水の海洋放出を決定したことにかかる動向を注視している。
・7月4日にIAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長が岸田文雄首相に提出した公式報告書で、IAEAは処理水の放出は人体や環境に放射線学的影響を与えないと発表した。この報告書は11カ国の原子力専門家で構成するIAEAタスクフォースによる2年近い作業の結果だ。
・日本は、放出する処理水中のトリチウム濃度上限を世界保健機関(WHO)が定めた飲料水の基準値(10,000Bq/L)の7分の1に相当する1,500Bq/Lに定めている。福島第1原子力発電所の管理者が定期的に実施するサンプリングの結果、処理水中のトリチウム濃度は上記基準値を下回っている。
・日本は年間のトリチウム放出量の上限を年間22兆Bqと定めている。これは、世界の原子力発電所の運転時におけるトリチウムの年間平均放出量よりも低い。
・BAPETENのインドラ・グナワン法律・協力・広報局長は同庁の代表として、福島第1原子力発電所の管理者が、放出する処理水中のトリチウム含有量が所定の値以下であることを保証できる限り、人間や環境に悪影響を与えることはないとの見解を示した。

インドネシアはIAEAの報告書で問題ないとされたのを根拠に支持を表しています。やはり、IAEAからお墨付きを得たのは大きいですね。


3.科学的議論から逃げる中国


岸田総理は中国の李強首相と短時間の立ち話もしているのですけれども、これについて、「処理水のわが国の基本的な立場を説明した。会議前の待合の場であいさつをする中で会話が始まった。私から声をかけたと言っても間違いではない……これからも国際会議や2国間の首脳会合などの機会を捉えて、透明性を持ってIAEA=国際原子力機関の関与を得ながら対応しているという立場や方針を丁寧に説明し続けていきたい」と述べていますけれども、日本は科学的見地をベースに説明を続けるスタンスのようです。

IAEAは、福島第一からの処理水放出について、福島沖で採取した海水の放射性物質のモニタリング結果を日本を除いた形で客観的に分析・評価する国際的枠組みを設置しています。

日本政府は今年に入ってから複数回にわたり外交ルートで中国側に対しこの国際枠組みへの参加を促したのですけれども、中国側は「分析・評価の独立性が担保されていない」などと実効性を疑問視し、拒否したそうです。要するに中国は処理水問題で、科学的見地に基づいた議論などする積りはない、ということです。


4.中国は典型的な罠に嵌まった


処理水問題で中国は、難癖・嫌がらせ・エコノミック・ステイトクラフトを駆使して、日本を屈服させようと頑張ってはいるのですけれども、逆に日本の世論は中国に呆れ、団結していっています。

これについて、現代中国政治が専門の小嶋華津子・慶応大学教授は、「日本政府が2021年4月に処理水の放出計画を発表して以降、中国政府は処理水を「核汚染水」と呼んで放出に反対してきました。中国社会で近年、食の安全や環境問題への関心が高まっていることを背景に、日本で想像されている以上に中国では大きな問題になっていきました。まず、そのことを認識したほうがいい。中国政府は強い姿勢で対応しないわけにはいかなかったと言えます。その一方で、処理水が危険だという世論を喚起してきたことで、外交の選択肢が狭められるという、これまでにもたびたび見られた典型的な罠に陥りました」と指摘しています。

筆者は、9月5日のエントリー「お気持ち批判は続かない」で、人民レベルでの反日は鎮火していくのではないか、と述べましたけれども、中国当局は徐々に抑え込みを始めたようです。

過日、中国・遼寧省大連市の焼肉店が店の窓ガラスに外から見えるように「日本人の入店はお断りしております。純粋に個人的なコンプレックスです」と中国語と日本語で書かれた横断幕を掲げました。

店主は「個人的な感情です。自分でうっぷんを晴らすだけなので良いでしょう。ニュースで水の問題が報じられたので掲示した。以前は日本人もうちの店に来ていた。商売に影響が出るが、1卓や2卓程度の売り上げは気にしない」としていたのですけれども、政府当局の関係部門が連絡してきて『許可しない』と言われ、撤去するよう指示されたと語っています。

これに対し、中国のネットユーザーからは、店を支持する声や撤去を命じた当局を批判する声が殺到。あるユーザーは「中国人へ 当店の食材は全て福島県産です」と書かれたボードを掲げた日本の飲食店に言及し、「日本の店は差別じゃないなどと言うやつもいたが、そいつらはまた手のひらを返してこの店を差別だと批判するのではないか?」と投稿し、共感を集めているそうです。

また、その一方で、「当局は正しいことをしている。こんなことが外に知れたら恥だ」、「市民レベルにまで問題をエスカレートさせるべきではない」、「これは間違いなく差別。気骨があるないの問題ではなく、民族的な素養の問題だ」との声や、「日本語だけで書けばいい。中国語で書いているのは誰に見せるためなのか」、「注目を集めたいだけ」との声も少数ながらあったようです。

ただ、まだ、こういった声まで封殺していないところを見ると、本格的な抑え込みまでにはいっていないのかもしれませんけれども、人民を反日で騒がせたところで、日本の世論が動揺するどころか逆に団結していくのを見て、政治での対日圧力でいこうと切り替えつつあるのかもしれません。

ただ、世論戦がやりにくくなったという意味では前述の小嶋教授が指摘するとおり、国内を煽ったのが逆ネジとなって、外交的選択を狭めるという「罠」に嵌まったといえるのではないかと思います。

筆者はぼちぼち、中国も対日嫌がらせを止める方向になるのかと思っていたのですけれども、まだまだ政治レベルでは続けそうな勢いです。

日本はこれを奇貨として、対中デカップリングを粛々と進めていくべきではないかと思いますね。


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