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1.水産業を守る政策パッケージ
9月4日、岸田総理は中国による日本産水産物の輸入全面停止を受けての水産業への緊急支援策として、新たに207億円を支援に充て、中国以外への輸出の拡大などを後押しすることを表明しました。
岸田総理は「水産業を守り抜くということで、政府、東電がしっかりとそれぞれの責任を果たしていきたい」と述べ、近く予備費の活用を閣議決定する見込みです。
支援策は「『水産業を守る』政策パッケージ」と題し、現在の風評対策などのための約800億円の基金とは別に、新たに207億円程度を充て、総額で1007億円の支援に拡充するとしています。
政策パッケージは次の5本柱からなっています。
1)国内消費拡大・生産持続対策大きくいえば、国内消費を増やすと同時に新たな輸出先を開拓ならびに加工体制を強化するという水産業の構造転換を図る政策のようです。
・国内消費拡大に向けた国民運動の展開(ふるさと納税の活用等)
・産地段階における一時買取・保管や漁業者団体・加工/流通業者等による販路拡大等への支援(300億円基金の活用)
・国内生産持続対策(相談窓口の設置、漁業者・加工/流通業者等への資金繰り支援、出荷できない養殖水産物の出荷調整への支援、新たな魚種開拓等支援、燃油コスト削減取組支援)(300億円基金、500億円基金の活用等) 等
2)風評影響に対する内外での対応
・一部の国・地域の科学的根拠に基づかない措置の即時撤廃の働きかけ
・国内外に向けた科学的根拠に基づく透明性の高い情報発信、誤情報・偽情報への対応強化
・販売促進・消費拡大に向けた働きかけやイベント実施、観光需要創出、小売業界の取引継続に向けた環境整備等
3)輸出先の転換対策
・輸出減が顕著な品目(ほたて等)の一時買取・保管支援や海外も含めた新規の販路開拓を支援【予備費】
・ビジネスマッチングや、飲食店フェアによる海外市場開拓、ブランディング支援 【予備費】 等
4)国内加工体制の強化対策
・既存の加工場のフル活用に向けた人材活用等の支援【予備費】
・国内の加工能力強化に向けた、加工/流通業者が行う機器の導入等の支援【予備費】
・輸出先国等が定めるHACCP等の要件に適合する施設や機器の整備や認定手続を支援(既存予算の活用)
5)迅速かつ丁寧な賠償
・一部の国・地域の措置を受け輸出に係る被害が生じた国内事業者には、東京電力が丁寧に賠償を実行
(注)今回の予備費による措置は、単年度事業として対応。
2.食べるぜニッポン!
これら支援策のうち1)については、政府が輸出できなくなった水産品を300億円の基金を使って一時的に買い上げ、国内で例えば社員食堂や給食で使ってもらおうとしています。
更に、9月4日、岸田総理が 「食卓の工夫やふるさと納税の活用などで支援をお願いしたい」と、国内消費拡大へ国民の協力を呼びかけ、また、9月7日には、農林水産省が国産水産物の消費を促進するキャンペーンを始めました。公式X(Twitter)で「#食べるぜニッポン!」というワードの画像素材を配布。料理の写真に合成し、ハッシュタグ「#食べるぜニッポン」を添えてSNSに投稿するよう呼び掛けています。
中国の日本産水産物輸入禁止となってから巷で話題になっているのがホタテです。
農林水産省によると、2022年のホタテ輸出額911億円のうち、中国向けが半分以上の467億円を占めています。これが輸出できなくなったことから、在庫が山積になっているそうです。
そこで、殻を取る加工施設を日本で作り、その加工品を中国以外に輸出してみてはどうか、ということも考えられているそうで、これは4)の支援に当たります。もっとも、加工施設を増やしても生産増を図るのは難しいようで、政府高官も「人員確保の問題がある」と認めています。官邸関係者は「新たな販路確保は時間がかかる」とも明かしており、当面は一時的な買い取り・冷凍保管などで対応する考えのようです。
3.水産品等食品輸出支援にかかる緊急対策本部の設置と今後の取り組み
3)の支援となる販路拡大について、9月8日、JETROが「水産品等食品輸出支援にかかる緊急対策本部の設置と今後の取り組み」として、次の声明を発表しています。
ジェトロでは、政府からの要請に応え、日本からの水産品等食品の輸出に大きな影響を与えるような急激な事業環境の変化に可及的速やか且つ組織的に対応するため、水産品等食品輸出支援にかかる緊急対策本部(以下、「水産対策本部」という。)を設置し、海外における代替市場の販路開拓、水産物をはじめとした日本産食品のさらなるイメージアップへの取り組みを重点的に展開します。このようにJETROが代替市場の販路開拓を後押しする発表。政府も「特に欧州は販路拡大できておらず、チャンスにもなる」と見ているようです。
1.水産対策本部について
副理事長を本部長とし、関係役員を始め、農林水産食品部・日本食品海外プロモーションセンターを中心とした事業部の部長等によるメンバーで構成。関係事業に関する機動的な推進役となる。
2.今後の取り組み
水産物を中心に、海外の代替市場の販路開拓や海外での日本産食品のさらなるイメージアップのため、有力展示会出展やバイヤー招へい等による商談機会の組成、越境ECも含めた販路開拓、海外の要人が参加する国際会議等での水産品のプロモーションイベント、海外の飲食・小売店等と連携した水産品フェアなど、様々な取り組みを計画中。直近のものは次の通り。
直近の主な取り組み事例
(1)ラグビーワールドカップでの食品プロモーションイベント(2023年9月8~9日)
フランス・トゥールーズ市で開催されるラグビーのワールドカップに合わせ、世界から来訪する観戦者等に向け、ホタテやブリといった水産物のほか、牛肉、コメ、メロンなどの日本産食品のプロモーションイベントを開催する。
(2)米国輸出支援プラットフォーム水産分科会の設置(9月中)
輸出有望市場の1つである米国に水産関係卸など関係者で構成する水産分科会を設置し、現状把握やプロモーションの要望等を聴取し、今後の事業戦略に反映する。
(3)ANUGA2023(2023年10月7~11日、ドイツ・ケルン)での食品プロモーションイベント
日本からの食品輸入規制を解除したEU市場への売込みのため、EUにおける有力な総合食品展示会であるANUGA2023にて商談機会を提供するとともに、会期中に現地バイヤーやメディア等をお招きし、水産品等の日本食を提供して、その魅力をPRする。
(4)世界主要水産品展示会での売り込み
世界で主要な水産品展示会であるSeafood Expo North America2023(2024年3月10~12日、米国・ボストン)、Seafood Expo Global(2024年4月23~25日、スペイン・バルセロナ)に出展し、水産品の大型需要が期待できる欧米市場の販路を開拓する。
また、欧州向けではないですけれども、早くも9月6日、ジェトロと在ロサンゼルス日本総領事館は、アメリカ輸出支援プラットフォーム協議会の「水産部会」設置に向け、情報交換会を初開催しています。
情報交換会には、ジェトロと日本食普及の覚書を締結したアメリカ日系レストラン協会、日本食文化振興協会、日系食品メーカーの親睦団体の七味会に加え、料理学校Sushi Chef Instituteや日系水産商社など9社が出席しました。
情報交換会では、曽根健孝・駐ロサンゼルス総領事が冒頭に挨拶し、日本総領事館がALPS処理水海洋放出の安全性や日本政府の対応について資料を用いて説明しました。出席した水産商社などからは、現時点でのビジネスへの影響や問い合わせの有無について情報交換が行われ、出席者からは、総論としては今のところビジネスへの大きな影響は見られないものの、中華系住人の多い一部大都市でALPS処理水海洋放出の安全性について問い合わせがあるほか、売れ行きが下がっている地域もあるとの発言があったようです。
ジェトロは、日本産農林水産物・食品の代替販路開拓の早急な対応が必要なことや、米国が日本産農林水産物・食品の輸出先として第3位の巨大市場であることなどを踏まえ、特に影響の大きいホタテなどの米国向け輸出を促進するため、関係者と連携してプロモーションなどの事業を展開していくとしています。
どうやらここでもホタテ対策が急務のようです。
4.政府は先手の支援を
筆者は、日本人がホタテをバカスカ食うイメージは持っていないのですけれども、水産物全体でみれば、国内消費でかなりの部分はカバーできるのではないかと思います。
9月6日、ジャーナリストの佐々木俊尚氏がニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演し、中国向けの水産物について次のように解説しています。
飯田)7月の中国向け水産物の輸出額が減少しました。福島第一原発の処理水の海洋放出をめぐってということですが。佐々木氏は、これまでマグロやホタテが中国に買い負けていたのだから、日本が買えばカバーできると述べていますけれども、日本の水産物市場規模が約1兆5000億円あり、輸出を抜いても約1兆2000億円あることを考えるとと、中国向け輸出分800億をカバーするのは可能ではないかと思います。
佐々木)「だから処理水放出なんかダメだ」と騒いでいる人が左派を中心にたくさんいます。中国政府に言われたから処理水の放出をやめるなど、「中国政府に屈してどうするのだ」と思うのですが。少しおかしいですよね。もともと「リベラル」と名乗っていた人たちが、気がついたら処理水放出で中国の味方、独裁国家を味方しているという謎の構図になってしまっている。これは何なのだろうという。
佐々木)中国への輸出が800億円ぐらいだったのが、前年同月比で23.2%減だった。確かに800億円は問題なのだけれど、そもそも日本の水産物の市場規模は大きく、約1兆5000億円あるのです。
飯田)1兆5000億円。
佐々木)そのうち、中国・香港合わせて800億円ぐらいあり、輸出額の4割ぐらいを占めているので間違いなく大きい。ただ、輸出額全体は3000億円くらいしかありません。1兆5000億円のうちの3000億円、さらにそのなかの800億円ですから、パーセンテージとしてはすごく少ない。要するに日本はほとんど国内消費しているのです。
佐々木)なおかつ、マグロが典型的なのだけれど、中国が経済大国になって日本が縮小しているものだから、マグロを買おうと思っても中国の業者に買い負けてしまっていました。
飯田)ホタテなどもそうですよね。
佐々木)日本人がマグロやホタテを買えない状態になったのです。でも、買い負けていたのだから日本人が買えばいい。そうすれば、800億円ぐらいは十分カバーできるのではないかと思います。
岸田総理は、中国の嫌がらせにあって始めて、水産業支援策を纏めたように見えますけれども、同じく、農産物、畜産物についても、中国が嫌がらせを始める前に支援策を検討しておいてもよいのではないかと思いますね。
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