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1.林外相のウクライナ訪問
9月9日、林芳正外相はウクライナを訪問し、ウクライナのドミトロ・クレーバ外務大臣と日宇外相会談を行いました。
外務省によると、その概要は次の通りです。
冒頭、クレーバ外相から、林大臣とは様々な場所で会談してきたが、ウクライナにお迎えできることを歓迎する旨述べ、これに対し、林大臣から、クレーバ外相の招待を頂き是非ともウクライナを訪問したいと考えていた、ウクライナ側の協力を得てついに訪問を実現できたことに感謝する、ブチャを訪問し、惨劇に直接触れ、日本はウクライナと共に歩んでいくとの決意を新たにした旨述べました。クレーバ外相からは、ロシアによるウクライナ侵略に関し、グローバル・サウスを含む国際社会との連携を始めとするウクライナ政府の取組について説明があり、両外相は、今回の訪問を契機に両国政府間の連携を更に強化すべく、引き続き緊密に協力していくことで一致しました。ロシアのウクライナ侵攻以来、日本の外相がウクライナを訪れるのは初めてのことですけれども、今回の訪問には、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長や遠隔医療による支援を提供する株式会社アルムの坂野哲平社長など、企業関係者も同行しています。
クレーバ外相から、林大臣が日本企業を同行してウクライナを訪問したことを大いに歓迎したい、各参加企業の関心事項をフォローアップして具体的な成果に繋げたい旨発言がありました。これに対し、林大臣から今回同行した日本企業はウクライナに関心を有する日本企業の一部に過ぎない、協力して成果につなげたい旨述べ、両外相は来年の日・ウクライナ経済復興推進会議に向け連携を強化していくことで一致しました。また、林大臣から、今般、日本政府としてキーウにおけるJICAウクライナ事務所を近く再開することを決定した旨述べたところ、クレーバ外相から大いに歓迎したい旨発言がありました。
両大臣は、東アジアを含めた国際情勢及び国際場裡での協力について意見交換を行い、林大臣からは、今般開始したALPS処理水の海洋放出に関し、IAEAの包括報告書における評価にも言及しつつ日本の立場を説明しました。これを受けて、クレーバ外相から、ALPS処理水について、国際機関と連携して進めている日本の立場を支持する旨述べました。
外務省は、これら企業関係者が、ウクライナ側の復旧・復興ニーズを直接聴取し、やり取りすることで、今後のウクライナ復興支援への日本企業の関与の深化の端緒としたいとしています。
2.日宇官民ラウンドテーブル
なぜ、戦争中のウクライナに日本企業のトップが同行するのか。
今年3月に岸田総理がウクライナを訪問しましたけれども、この時、ウクライナ側は、これまでの日本の支援に対する感謝の意とともに、日本企業による投資への期待を強く示したのですね。
これを受け、5月に木原誠二内閣官房副長官を議長とする「ウクライナ経済復興推進準備会議」が設置。この会議で邦人の安全確保やウクライナのビジネス環境の整備を大前提に、わが国の知見や経験を活かした「日本ならでは」の復興支援策を検討していくことになりました。
翌6月21~22日に、イギリス・ロンドンで開かれたウクライナ復興会議(URC23)では、400社以上の企業が参加し、民間投資の促進が主要テーマとなりました。日本からは林芳正外相が出席し、23年末から24年初めの適切なタイミングで「日ウクライナ経済復興推進会議」を東京で開催する方針を表明しています。
このURC23にあわせ、外務省、経産省、日本貿易振興機構(ジェトロ)の共催のもと、日ウクライナ官民ラウンドテーブルを開催し、二国間の協力のあり方について意見交換しています。
その概要は次の通りです。
・ラウンドテーブルには、ウクライナ政府から、スヴィリデンコ第1副首相、シュルマ大統領府副長官が参加し、インフラ、電力、重要鉱物資源開発などの分野への投資を呼びかけた。ただ、いくら潜在力があるといっても、戦時下に投資は慎重になるのが普通です。折角投資して、何かを作ったとしても、翌日にはミサイルで吹っ飛ばされるかもしれないからです。
・戦時下ではあるものの、ウクライナの経済的な潜在力は高く、日本企業にはビジネス進出先として認識してほしいと強調。
・また、ウクライナ企業からも、エネルギー分野、農業・食料分野に加え、投資・金融分野、ITテクノロジー分野での日本との連携を期待する旨が述べられた。
・日本側は、政府機関(国際協力銀行、日本貿易保険、国際協力機構、エネルギー・金属鉱物資源機構)の支援スキームを説明したほか、スタートアップ企業の現地における取り組みを紹介した。
・経団連からは、ウクライナ経済復興特別部会の立ち上げ等について報告があった。「日本ならでは」の支援を実施し、一緒にできることをプロジェクトとして落とし込んでいくために、企業の皆さまには、同部会において、Project orientedな認識を持って、積極的に議論されることを期待している。スタートアップ企業との連携も含めて、経済界から広く参加してほしい。
・日本政府としては、官邸のリーダーシップのもと関係省庁が一体となってウクライナ復興に取り組む。経団連とも引き続き連携していく。
あるいは、各国の間で戦争は遠からず終わるという暗黙の了解があるのかもしれません。
3.我々は第1防衛線と第2防衛線の間にいる
ウクライナは、6月上旬からロシアへの反転攻勢を始めましたけれども、ウクライナ軍は南部ザポロジエ州でロシア軍の1番目の防衛線を複数地点で突破したとし、戦況は徐々に動きつつあるとされています。
ウクライナ側は8月末に第1防衛線の一端がある同州の集落ロボティネを奪還したと発表。9月1日にはマリャル国防次官が第1防衛線を複数地点で突破したと明らかにしています。
ウクライナ軍で南部作戦を指揮するタルナフスキー司令官はマスコミに「我々は今、第1防衛線と第2防衛線の間にいる」と語っていますけれども、ウクライナ軍は南下を続け、次の第2防衛線の攻撃に入ったと見られています。タルナフスキー司令官は「露軍は時間と資源の6割を第1防衛線の構築に割いた」と推定しているようです。
ウクライナの次の目標はザポロジエ州のトクマク。トクマクは、奪還したロボティネの南約25キロに位置する要衝で、ウクライナ軍は、帯状に広がるロシア占領地域を東西に分断するための足掛かりとするようです。
一方、ロシア軍は、東部ルガンスク州に配置していた部隊を南部戦線へと移動させる動きが出ているようで、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は1日付の報告書で、再配置の動きについて「ウクライナ側の前進を踏まえ、防衛の安定性に対するロシアの懸念が高まっていることを示唆する」と分析しています。
4.ウクライナは装備を失い過ぎた
これだけみると、ウクライナもようやく反攻に本腰を入れたか、と見えなくもないのですけれども、その代償に相当な被害も出しているようです。
9月4日、イギリスの英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、9月4日に発表した報告書で、「反転攻勢を急いだあまりの装備損失は、持続不可能なレベルに達している」と述べています。
この報告書は、ウクライナの反攻について、ウクライナが直面する課題に焦点を当てたもので、それによれば、ウクライナ軍が前進すればするほど、領土解放にはさらなる攻勢が必要になり、戦争が引くなかで、ロシアの侵略に対抗しウクライナを支援し続ける西側諸国のコミットメントが必要だとしています。
報告書によれば、ウクライナ軍の装備の損失率は甚大で、「外国から供与された装甲戦闘車両がなければ、人的損失ももっと大きなものになっていただろう……ウクライナ軍は、装甲車両隊を常に回収、修理、維持し続けることが重要だ」としながらも、「このやり方での進軍には時間がかかる」とも指摘しています。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、ロシアの軍隊も火力や戦車の損失率は高いが、彼らはウクライナの反攻初期に十分に相手の装備に損失を与え、ウクライナの機動力を低下させることに成功したとしています。
一方、ウクライナ軍の反攻は大隊と旅団レベルの人材不足に制約されており、「NATOの方法を教えるのでは役に立たない」と指摘しています。
キーウ・インディペンデント紙はによると、ハルキウの北部戦線で戦う第32独立機械化旅団の一兵士は、NATOの将校は現地の実情を理解していないと述べ、軍事分析センター「ディフェンス・エクスプレス」の責任者セルギー・ズグレツ氏は、NATOの訓練が市街戦に焦点を当てているため、敵を塹壕から排除する方法、突撃部隊の組成、それを砲兵やドローンと連携させる方法など、必要なスキルに対する関心が足りないとの見解を伝えています。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、ウクライナの反攻には相手を火力で制圧することが必要であり、弾薬生産と予備品の適切な供給が優位性の確保に不可欠だと指摘した上で「2024年の優勢を確実なものとするためには、ウクライナを支援する西側諸国が、冬季およびその後の本格戦闘シーズンの準備を支援する必要がある」と述べています。
こんな状況で、ウクライナに投資とは、危ない予感しかしません。西側諸国は、投資云々より、ウクライナの戦争の出口をどうしていくか、それをまず考え、動かしていくべきではないかと思いますね。
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