英国議会をスパイする中国

今日はこの話題です。
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1.中国のスパイ容疑で逮捕された英国議会研究員


9月10日、イギリスの「サンデー・タイムズ」は、イギリス国籍の男2人が中国のスパイとして活動していた疑いで、今年3月、ロンドン警視庁のテロ対策部門に逮捕されたと報じました。2人の男のうち1人は20代のイギリス人・クリス・キャッシュ。


彼は、議会の調査担当職員で、中国問題を調査し、対中政策に関与する与党・保守党議員への情報提供や提言を行う安全保障相が設立した政策グループ「China Research Group」のディレクターでした。議会通行証を与えられていたのですけれども、幸いにも機密情報に触れられる権限は与えられていませんでした。

「China Research Group」は、中国の台頭に対してイギリスがどのように対応すべきかについての議論と新たな考え方を促進するために、イギリスの保守党議員のグループによって設立されたそうです。

彼は、カーンズ下院外交委員長に研究員として雇われ、対中強硬派のトゥゲンハート安全保障担当閣外相といった機密情報を扱う政治家との関係があったと報じられています。

彼は過去に中国・杭州のインターナショナルスクールで2年間、教鞭をとっており、捜査当局は中国に批判的な議員などに影響を及ぼそうとしていた可能性があるとみているということです。

イギリスの諜報機関であるMI5は昨年、クリスティン・リーと呼ばれる女性中国政府職員の活動に関して、異例の警告を出しています。MI5は、彼女は中国共産党を代表して政治的干渉活動に従事し、国会議員の活動を支援するために資金を寄付するなど、政治干渉活動を行っていたとしているのですけれども、これが本当であれば安全保障上の問題になります。

BBC Oneの『Sunday with Laura Kuenssberg』でこの報道について質問されたアレックス・チョーク法務長官は、具体的なケースについてはコメントできないとした上で、イギリスが中国と "関わる "ことは正しいが、スナク首相は "慎重に進める "必要性を強調したと述べています。

いずれにしても、今回の逮捕は、ロンドンと北京の関係をめぐる議論を再燃させることは間違いありません。


2.立候補を取り消された保守党議員


そして、このスパイ疑惑に関連して、イギリス議会で質問が行われる中、MI5が中国のスパイの可能性があると警告したため、保守党は議員候補者2人を降ろしたと報じられています。

なんでも、治安当局が2021年と2022年に保守党に対し、議員候補2人を候補者の中央リストに含めるべきではないと勧告。ある関係者は「その後、彼らは候補者リストからブロックされました。彼らにはその理由は告げられなかった」と明かしたそうです。

保守党の報道官は「候補者候補に対する安全上の懸念に関する信頼できる情報を受け取った場合、それに基づいて行動する」と述べていますけれども、この疑惑を受けて、保守党議席の対中「タカ派」は、リシ・スナク首相に対し、中国に対する姿勢を強めるよう圧力を高めているようです。


3.間違いなく許容できない


これについてイギリスのスナク首相は、G20サミットの首脳会議で行った中国の李強首相との会談で、非常に強い懸念を伝えたことを明らかにしています。

スナク首相は、捜査中の事件について言えることは制限されると断った上で、李強首相に対し「間違いなく許容できない、慎重の議会民主主義への介入を自らに非常に強い懸念」を引き上げたと伝えました。

さらにスナク首相は、李強首相との幾つかの意見が異なる問題を示す一方、イギリスとして中国に関与していく戦略に価値があることも分かったと強調しました。

これに李強首相がどう応じたのか分かりませんけれども、中国側の発表では、会談の結論は、このスパイ問題に触れず、イギリスが中国との現実的な協力を拡大することを歓迎し、李強首相が「両国は立場や意見」 「の違いを正しく対処すべきだ」と発言したとしています。


4.全くのでっち上げで断固反対する


ただ、中国外務省は猛反発。9月11日、イギリス国籍の男2人がスパイ容疑で逮捕されたことについて、中国外務省の毛寧報道官は記者会見で「全くのでっち上げで断固反対する……イギリス側が嘘の情報をまき散らし、反中国の政治的な工作や悪意ある中傷をするのをやめるよう求める」と、イギリスを牽制しました。

また、同じ11日、在英大使館も「在英大使館報道官、英政府高官による中国関連の誤った発言について記者の質問に回答」という声明を発表しています。

その内容は次の通りです。
記者:9月11日に英国議会でいわゆる「中国のスパイ」事件について発言した際、ある英国政府高官は、中国が新疆ウイグル自治区と香港で人権侵害を行い、南シナ海で強制と脅迫を行っていると批判し、中国は英国と英国の価値観に対して「体系的な挑戦」を行っていると主張した。 これについてのコメントは?

大使館報道官:英国側は事実を無視し、白黒を逆転させ、中国の内政に残忍に干渉したが、中国はこれに断固反対し、強く非難する。

中国は常に世界平和の建設者であり、世界発展の貢献者であり、国際秩序の擁護者である。 われわれは相互尊重、平等待遇、内政不干渉の原則を実践し、人類運命共同体の構築を推進している。 中国が英国や英国の価値観に挑戦しているというのはまったくナンセンスだ。

新疆ウイグル自治区と香港に関する問題は、純粋に中国の内政問題であり、外部のいかなる勢力も干渉する権利はない。 南シナ海問題については、中国の国家主権と海洋権益を守るための行動は合法的かつ合法的なものであり、英国は治外法権国家として、悪意を持って問題を煽るのではなく、南シナ海の平和と安定を維持するための中国とASEAN諸国の努力を尊重すべきである。

われわれは英国側に対し、この問題を中国の内政干渉の口実とするのをやめ、反中国的な政治工作をやめ、自国の問題解決にもっと集中するよう強く求める。
当然ながら、中国外務省と同じ見解です。


5.スパイ天国日本


中国の政治介入を試みるスパイ活動は、イギリスをはじめ、アメリカ、オーストラリアやカナダ、台湾で報告されていますけれども、ではスパイ天国と呼ばれる日本はどうなのか。

表向き、中国のスパイが日本の政治中枢に入り込んだ事件はあまり聞かないのですけれども、日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村悠氏は「認知できていない・立件に至らない、といった表現が適切だ」と述べています。

その例として、稲村氏は次のように述べています。

有名な事件としては、2012年、中国人民解放軍の情報機関「中国人民解放軍総参謀部第二部」出身である中華人民共和国駐日大使館の一等書記官(当時45歳)が虚偽の身分で銀行口座を開設したり、ウィーン条約で禁ずる商業活動をしていた疑いや公正証書原本不実記載の疑いで警視庁に出頭要請されたが、外交官特権により帰国した事件(李春光事件)がある。

この事件では、当該一等書記官が松下政経塾に在籍していたこともあるほか、鹿野農水大臣(当時)や筒井農水副大臣(当時)らが進めていた日本の農産物の対中輸出事業に深く関与していた疑惑も浮上。当時の報道によれば、元書記官は鹿野氏らとしばしば接触し、副大臣室にも出入りしていたとほか、防衛省関係者とも接触していたといい、現代の日本における中国スパイ事件では最も政治に近い場所で起きた事件だろう。

イギリスの案件は、中国人によるスパイ活動ではなく、イギリス人によるものだ。中国のスパイ活動に加担する自国民(エージェント)の場合、中国のスパイ=工作機関員自体を見抜くのではなく、エージェントと中国工作機関員との接触を把握しなければならず、捜査機関でさえ見抜くのは至難の業だ。

そして、日本で公になっていない“疑惑”の事案(立件できていないので事件ではない)が多くあるのが実情だ。現に、防衛省関係者によれば、現在も中国による影響力工作が政治に近い箇所に及んでいるのを確認していると言い、その認識は筆者も同様である。

米国のシンクタンクCSISや豪州戦略政策研究所は、中国について、仲介者を通じた政府関係者への接触や資金提供などを通じた政治への影響力行使といった工作に力を入れていると指摘する。

日本で同様の事案が想定されない理由がない。

稲村氏は、スパイ捜査では、証拠の収集が極めて困難である上に、実務的に秘匿捜査で収集した情報をどう証拠化するかという問題もあるとした上で、「イギリスは本事件で公務秘密法を適用しており、日本にも同法に類似した特定秘密保護法がある」と指摘。「両法とも行為の定義や量刑に相違はあるが、秘密情報の漏洩・取得に対し罰則を設けており、一概にスパイ防止法が日本にないから、という話だけではないのだ」と指摘しています。

稲村氏は「いくら法整備を行ったところで、機密情報に触れうる者の“意識”が変わらなければ、いたちごっこになるだけだ」と、意識改革を求めていますけれども、日本はその意識を変えるための「セキュリティ・クリアランス」法制を準備している段階であり、意識を変える以前の段階にあると思われます。

その意味では、将来、「セキュリティ・クリアランス」が法制化されたとしても、その意義と内容は、広く国民に伝えるべきではないかと思いますね。


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