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1.露朝首脳会談
9月13日、ロシアのプーチン大統領は、極東のボストーチヌイ宇宙基地で訪露した北朝鮮の金正恩総書記と会談しました。
会談は4年半ぶりで、朝鮮半島と欧州の軍事・政治情勢が主要議題になったようです。今回の会談で目を引いたのは、プーチン大統領が金正恩総書記を出迎え、自ら内部を案内するなど、破格の厚遇でもてなしたことです。
プーチン大統領は、金正恩総書記がロシア極東の訪問を継続し、ウラジオストクに向かうとし、現地でロシアの太平洋艦隊の能力を金氏に説明すると表明。二国間の軍事・技術協力の機会があるとも発言しました。更に、農業分野で北朝鮮に提供できるものがあるとも語しました。ただし、軍事・技術協力については、国際的な義務を順守するとも述べたようです。
対する金正恩総書記は「ロシアは覇権主義勢力に対して主権と安全を守るための神聖な戦いに立ち上がった……われわれはプーチン大統領とロシア指導部の決定を常に支持し、帝国主義との戦いで共に戦っていく」と語り、その後の公式昼食会の席でも乾杯の前に、ロシアの軍と人民がウクライナ戦争で西側の帝国主義という「覇権を主張し拡張主義的な幻想を膨らませている巨悪」に勝利することを確信していると語りました。
また、ロシア国営タス通信は、北朝鮮が長年にわたって国連の制裁下にあることについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官が「ロシアは国連安全保障理事会での立場を維持しているが、それがロ朝関係のさらなる発展を妨げることはできないし、妨げることもないだろう」と答えたと伝えています。
2.独裁者同士が協力するのは難しい
今回のロ朝首脳会談について、アメリカ・ワシントンのシンクタンク、新アメリカ安全保障センターのドゥヨン・キム氏は、両氏は会談によって、二国間の取引上の恩恵のみならず、地政学的恩恵も得ると指摘。プーチン大統領にしてみれば「核保有国が軍事的に協力しているという印象を与えることで、ウクライナを支援するアメリカの同盟国や同志国に、潜在的な影響について警告を送る」ことができ、金正恩総書記としては「ロシアが後ろ盾になっていることをアメリカ、韓国、日本に示すことになる」と述べました。
また、韓国の梨花女子大学のレイフエリック・イーズリー教授は、単に秘密裡の武器取引が目的なら、わざわざ首脳が直接会う必要はないとし「プーチン、金両氏の外交的誇示は、米国主導の国際秩序への挑戦、中国への過度の依存の回避、ウクライナや韓国に関するライバル国への圧力強化での成功を主張するためのもの」との見方を示しました。
更に、韓国・国民大学のアンドレイ・ランコフ教授は、今回の首脳会談は北朝鮮に関して言えば核・ミサイルを巡る国連安保理決議が、その他の制裁措置と同様、有名無実化したことを示唆するとし、「安保理決議が気に入らなければ、それを無視すればいいという重大な前例ができた。ロシアだけでなく、主要な国際的プレーヤーに利用されるだろう」と指摘。そして両国の防衛協力を前面に打ち出すことで、韓国に対し、ウクライナに直接軍事支援するなという強いメッセージを韓国に送ることができるとも述べる一方、ロシアが、制御不能になりかねない先端技術を北朝鮮に提供する可能性は低いだろうとしています。
ただ、韓国外国語大学のメイソン・リッチー教授は、ロシア、北朝鮮、中国の3ヶ国には過去にそうした関係をうまく機能させたことがあまりないと述べ、「プーチン、金、習近平の3氏が本当に長期的な同盟関係を築けるほど信頼し合えるとは考えにくい。独裁者同士が協力するのは難しい」と述べています。
3.北朝鮮がロシアに売却できる武器
金正恩総書記はこの会談で「帝国主義と闘う」なんて息巻いていますけれども、具体的に何をロシアに提供するのか。
これについて、朝鮮半島情勢に詳しい麗澤大学の西岡力特任教授は、北朝鮮に通じる韓国情報筋の話として、「プーチン氏が、北朝鮮に『特殊部隊10万人を出してくれ』とウクライナへの派遣を要請しているとの情報がある。北朝鮮が労働者派遣の名目で出す可能性もある。ただ、特殊部隊の隊員は20~30代が中心とされている。彼らは国家の配給で生活しておらず、朝鮮労働党への忠誠心が低い。戦場に出しても『逃げるのではないか』と懸念されており、正恩氏も派遣に躊躇しているようだ。派遣されても、砲弾による戦闘が中心のため、戦況に大きな影響はないのではないか」と分析しています。
これに対し、15日、プーチン大統領は、黒海沿岸の保養地ソチで、ベラルーシのルカシェンコ大統領との会談冒頭、ウクライナ侵攻が長期化する中で契約した志願兵が「今朝の段階で30万人」に上ると述べ、十分な兵員を確保できたという認識を示しました。そして、北朝鮮が軍事協力に絡み、義勇兵を派遣するのではないかと一部でささやかれていることについては「馬鹿げている」と否定しました。
では、義勇兵ではなければ何か。
高麗大学国家安全保障戦略研究所のナム・スン・ウック元所長は「ウクライナ戦争で費やした兵器・弾薬が底をつき始め、心配になってきたプーチン氏と、キャンプ・デービッド精神で関係を盤石にした韓米日3ヶ国同盟でプレッシャーを受けた金正恩氏とが、互いに必要としたロ朝同盟深化だ……両者にとっては、今を置いてはない『どっちに転んでも勝つ取引』だ」と、武器弾薬を提供するのではないかとの見方を示しています。
ロシアは、ウクライナ侵攻作戦で、1日平均して砲弾2万発を打ち、ウクライナ軍の攻撃で11万基の戦車をはじめとする軍事装備を失ったとされています。欧米各国による経済制裁で砲弾を製造する際に必要な部品が制限され、弾薬庫に保管してきた予備は底をつき始めたと見られています。
これまでイランやシリアから緊急支援を受けてきたのですけれども、北朝鮮は武器・弾薬だけは有り余っています。しかも1950年当時に旧ソ連が供与した旧式の武器・弾薬で、ウクライナ侵攻ではそのまま使用できるという利点もあります。
アメリカ・テキサス州のアンジェロ州立大学のブルース・ベクトル教授によると、北朝鮮がロシアに売却できる武器は次のとおりです。
・107ミリ「カチューシャ」ロケット北朝鮮はすでに民間軍事会社「ワグネル」に対し、これらの武器・弾薬を売却しているとされていますけれども、北朝鮮からなら、厳しい国際制裁監視下でも大陸経由でロシアに武器・弾薬を運べます。
・122ミリロケット発射筒
・155ミリ砲弾
・小火器・自動小銃弾薬
一方の北朝鮮は、中国に全面的に依存しているとはいえ、国連制裁で石油・石炭はじめ食糧の欠乏は慢性化しています。従って、ロシアからこれらを入手できるとなれば願ったり叶ったりです。
それだけでなく、プーチン大統領が「軍事・技術協力の機会がある」と述べたように、軍事技術の供与も期待できます。
朝鮮半島の安全保障問題研究の権威であるジョナソン・コラド博士は、「金正恩氏としては、石油・石炭、食糧も欲しいが、打ち上げに失敗している人工衛星や原子力潜水艦に関する先端テクノロジーの習得を求めるのは間違いない……もしロシアがこれに応じれば、朝鮮半島における核抑止力のダイナミクスは大きく変わる……北朝鮮の軍事衛星が飛び、原潜が徘徊する朝鮮半島情勢は、日米韓3ヶ国同盟にとっては新たな脅威になってくる」と指摘しています。
4.弱者同盟
一方、北朝鮮がロシアに提供する武器弾薬が使い物になるのか、という疑義を呈する見方もあります。
英国王立防衛安全保障研究所のパトリック・ヒントン英陸軍研究員は、北朝鮮の砲弾の品質について、「粗悪な弾薬は性能に一貫性がなく、飛行に悪影響を与え、精度を低下させるかもしれない……これらは全て高い仕様で作られる必要がある。そうでなければ想定していた場所に着弾できず、壊滅的な結果を招きかねない」と指摘しています。
かつて、北朝鮮は中東やアフリカの戦場に積極的に武器を供給し、それらは概ね、良好な性能を発揮していたとも言われているのですけれども、昨今の一連の経済制裁により、そうした兵器ビジネスは勿論のこと、長期にわたる経済的混乱で、砲弾類の生産管理が適切になされていない可能性は否定できません。
デイリーNKジャパン編集長の高英起氏は、北朝鮮が供与する武器弾薬について、本格的に使ってみるまでは、ロシア軍にとってどれだけ有用なものになるかはわからないとした上で、北朝鮮が渡せることのできる弾薬の量では、石油類を無制限に供給してもらえるほどにはならないだろうと指摘。畢竟、北朝鮮とロシアの協力は、単なる「弱者同盟」のレベルにとどまる可能性もあると述べています。
5.変わってきたロシアと中国の関係
ただ、ロシアへの武器弾薬の提供といえば、もともと中国がその任を担っていたのではなかったのか。
9月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演した戦略科学者の中川コージ氏は、中国とロシアの関係性について次のように解説しています。
飯田)中国とロシアの関係ですが、ロシアのウクライナ侵略に関して、常に報道などでは中国がどこまでコミットするかについて言われています。どうご覧になりますか?中川氏は、中国はロシアを公然と支援せず裏で支援する形で、中露両国は思ったほど寄ってはいないと述べています。そして更に、中央アジア、中東、アフリカなどロシアの影響力があったところに手を突っ込むなど、「ロシアと中国の関係が変わってきた」とも指摘しています。
中川)ウクライナ侵攻が始まって以来、最初のフェーズでは中立化戦略として、中国は「ロシア側には立たない」とアピールしていました。
飯田)そうですね。
中川)しかし、国際社会としてはそれを受け入れられないので、「中露連携」という言葉を使いましたが、両方がプロパガンダ戦を行ったわけです。中国側は「中立だ」と言い、外からは「いや、連携しているだろう」と言われていた。
飯田)お互いに。
中川)ただ、2国間をもう少し客観的に見ると、思ったよりもロシア側も中国側も寄っていません。武器の供与も公然と行うわけではなく、「裏からやる」という形です。
飯田)見えない形で。
中川)「公然と支援しない」ということは、ロシア側からすれば「もう少しやってくれ」と思うでしょうし、中国側からすれば「そんなこと、できるわけがないだろう」という話なわけです。そういった意味では、プーチンさんに対して「塩対応をしている」というところは大前提にあるのです。
飯田)ロシアに対して。
中川)なおかつ、ロシアの外交力が減ったため、より一層塩対応になっている。日本でG7広島サミットを開催した際、中国が「中国・中央アジアサミット」を仕掛けたように、ロシアの庭に手を突っ込んで、あからさまに「ロシアの外交力の低下」を宣言しているわけです。その辺りを見ると、「ロシアと中国の関係が変わってきたな」と思います。
飯田)がっちり組んでいるイメージもあるけれど、むしろ他人の庭に手を突っ込むくらいのことを平気でするのですね。
中川)相当にロシアの外交力、また中国に対する交渉力が弱まっているところはあると思います。
飯田)中国は中東に関しても、イランとサウジの仲介を行いましたが、あの地域も、もともとロシアのプレゼンスがあったところに手を突っ込んでいるのですか?
中川)そうですね。中央アジア、中東、アフリカなどでもロシアの影響力が多少あったところが減っているので、より一層中国が元気になっているのです。先日、BRICSの首脳会談が南アフリカで開催され、新しく6ヵ国が入りました。構成国であるエジプトやサウジ、イラン、アルゼンチンなどを見ていると、それぞれ主に息が掛かっているのは中国で、続いて息が掛かっているのはインドというような形です。BRICSは「どの6ヵ国を入れるか」というような内部資料については非公開なのです。
飯田)会議の内容など。
中川)20ヵ国くらいの申請があったと言われていますが、新加盟する6ヵ国がどういう影響力で決まっているかと言うと、中国・インドの影響です。そういう意味でも、ブラジルやロシア、南アも含めて、相対的にBRICSでの影響力は中国・インドに比べれば弱かったのでしょう。
飯田)ブラジルやロシアの影響力は。
中川)BRICSではガチンコの交渉をやっていると思うので、力関係が見えやすいのです。公開情報分析からすると、BRICSでの中印の影響力の強さが見えた一例だと思います。
飯田)グローバルサウスをどちらが味方につけるかで、中印のせめぎ合いがあると言われていますが、そこはまだ中国が強いですか?
中川)ロシアファクターはBRICSのなかでは落ちていくと思います。BRICSにおける5ヵ国のなかでは、外交的にはロシアよりもインドの方が影響力が強いのです。私も先日、1週間ほどインドへ行きましたが、G20前後で、インドの中国に対する反応が面白かったのです。
飯田)中国に対する反応が。
中川)テレビを観ていると、外交に関しても話題にするお茶の間の番組がありますよね。
飯田)ワイドショー的な番組ですね。
中川)以前、中国共産党大会で胡錦濤さんが強制退場させられるシーンがありました。それをプロ野球の「珍プレー好プレー」のように、『マンボNo.5』がバックで流れているような感じで、胡錦濤さんが早送りで「行ったり来たり」しているのですよ。「中国はこんな感じ!」というような画像が流れていて、反中感情が大衆レベルでも面白おかしく伝わっているのです。
飯田)ネタとして使われている。
中川)インドからすると中国は、政治的レベルでも大衆レベルでも、上から下まで含めて牽制している仲だということです。
飯田)なるほど。
このように、中国が本当にロシアを下に見始めているのだとすると、外から見えるほど中露連携は出来ていないことになります。裏を返せば、だからこそ、プーチン大統領は北朝鮮にアプローチを掛けたと見ることもできます。
ただ、ロシアにとって、「北朝鮮と組んでいるのは、とても屈辱的なこと」であり、「本当にロシアが大国ならば、北朝鮮に軍事支援を求めたりしない」という見方もあるようです。とすれば、プーチン大統領は、そんな屈辱に甘んじても北朝鮮に頼らなければならなくなっているということになります。
ウクライナ戦争を巡って、西側諸国とロシアは壮大な我慢比べをしているのかもしれませんね。
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