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1.秋解散という最後のチャンス
9月16~17日、朝日新聞は全国電話世論調査を実施しました。内閣支持率は37%(前回8月調査は33%)、不支持は53%と若干支持は伸びたものの、内閣改造人事について「評価しない」が57%と「評価する」25%を大きく上回りました。また、改造人事を評価しない人の内閣支持率は18%とかなり低くなっています。
各社の世論調査結果がほぼ出揃った感じですけれども、内閣支持率は概ね横這いで、内閣改造効果は余りなかったとみてよいかと思います。
こんな状況で、永田町で囁かれているとされる秋解散が打てるのか。
ところは岸田総理は、内閣改造直前の9月8~10日に行ったNHKの世論調査結果に自信を深めたと伝えられています。何でも、岸田総理側近によると「注目したのはNHK調査で福島第一原発の処理水放出後の総理の対応を『評価する』という意見が75%に達していたこと。総理は喜んで意を強くしている」とのことです。
今回の内閣改造は、総選挙を見据えてのものだという指摘がされています。
今回岸田総理は、選対委員長として小渕優子氏を充てましたけれども、小渕氏は2014年に関連政治団体の政治資金収支報告書の虚偽記載などが発覚して経済産業相を辞任した経緯があり、今も「説明責任を果たしていない」との批判があります。巷では今でも「ドリル優子」と揶揄されています。
政治ジャーナリストの野上忠興氏は「小渕氏は経産相時代のドリル事件と呼ばれる政治資金規正法違反事件について説明責任を果たしていない。大臣にすれば野党から国会で追及されるのは間違いないでしょう。そうなればせっかくの目玉人事が逆効果だが、選対委員長なら国会答弁も定例会見もないから追及をかわせる。自民党はすでに衆院の区割り変更に伴う公認候補の調整をすべて終えており、選対委員長の仕事は選挙戦で全国を回ること。そのポストに小渕氏を据えたというのは、全国を応援行脚させて女性票を獲得するのが狙い。解散・総選挙をにらんだ起用なのは間違いない」と述べています。
そして、野上氏は「岸田首相はこの機会を逃したら来年の自民党総裁選前後まで総選挙を打つタイミングがなくなる。今後の政治日程には増税やマイナンバーカード問題、消費税のインボイス導入など国民の批判が高まる課題が目白押しだけに、解散を先送りすれば支持率もジリ貧になって総裁選で引きずり下ろされてしまう可能性がある。進むも地獄、退くも地獄なら、反主流派が倒閣に動く前に一か八かの解散ということでしょう」と指摘しています。
また、ある自民党ベテラン議員は「岸田首相の立場で考えれば、チャンスがあれば打ちたいだろう。年内いつあってもおかしくないよう準備は進める……折からのジャニーズ事務所の社長交代やスポンサー降板など、いまや国民の関心はジャニーズ問題一色。政権を襲った木原スキャンダルや秋本真利・議員が逮捕された洋上風力発電汚職への批判は薄らいでいる。総理にとっては諦めかけていた解散に踏み切る願ってもない好機だろう」と述べています。
このように、秋解散しかタイミングがないという事情があると指摘されています。
2.解散命令という切り札
ただ、政権浮揚を期待した内閣改造が不発に終わった今、解散に打って出れるのか。確かに前述の自民党ベテラン議員が指摘するように、ジャニーズ問題で政権スキャンダルは覆い隠されていますけれども、それは単にマイナス要因が目立たなくされているだけで、政権浮揚させてくれる訳でもありません。
そんな中、岸定総理が練っている「切り札」に、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)への解散命令請求があるという観測が出ています。
9月6日、永岡桂子文科相(当時)は、この日行われた宗教法人審議会で、過料を科すことを求めて地裁に通知する予定であることを説明。「旧統一教会から全体のおよそ2割の100項目以上が報告されておらず、違反の程度も軽微でない」と述べました。
質問権による調査は、昨年7月に安倍元総理が暗殺された銃撃事件を機に、教団をめぐる高額献金問題が注目されたことで始まりました。岸田総理が10月に質問権行使の方針を表明。文科省が11月から今年7月まで7回にわたって行使し、活動実態を把握するため500項目以上を質問しています。
この法律では質問権を使った調査に答えなかった、もしくは虚偽の回答をしたなどの場合、宗教法人の代表役員に10万円以下の過料を科すと定めています。刑事罰とは異なり、法人が必要な手続きをしなかったときなどに科す行政罰です。
文科省による通知を受け、裁判所が過料を科すべきかどうかを判断するのですけれども、ある自民党幹部は「総理は内閣改造で行政経験がなかった麻生派の永岡桂子・文科大臣を交代させ、後任に岸田派で官僚出身の盛山正仁氏を起用した。これは解散命令請求をさせるための人事だ。文科省が裁判所に教団への行政罰を求めたのは、宗教法人法の質問権に基づく調査の手続きを急いで終わらせたということ。総理は10月中旬に盛山文科大臣から教団への正式な解散命令を裁判所に申し立てさせる方針だ」と述べています。
仮に10月22日に総選挙の場合、文科相が10月中旬に解散命令請求を行なえば、選挙戦の終盤のタイミングになります。新聞・テレビが、「政府、旧統一教会の解散命令を請求」と大きく報じるのは確実で、格好の選挙対策にするという計算が見え隠れします。
要するに、選挙日に合わせて、解散命令の請求をするのではないか、ということです。
先述したように、岸田総理が、原発の処理水放出後の対応を、世間が評価していることに喜んでいるのなら、世間受けすることなら何でもやってくることは十分考えられます。
3.真水の経済対策
ただ、旧統一教会へ解散命令を出せば勝てるのかというと、それは分かりません。なぜなら、国民全てが旧統一教会の被害を受けたという訳ではないからです。
今回の内閣改造でも支持率はほぼ横這い。組閣は適材適所ではなく、派閥に配慮して決めたという意見が大半を占めています。つまり、国民は政権が国民を見て政治をしているのか冷静に見ているということです。
世論調査の中でほぼ唯一の6ポイントの支持率上昇を報じた共同通信でさえも、岸田総理が最優先で取り組むべき課題は「物価高対策を含む経済政策」が53.5%で最も多く、次に「子育て・少子化」で18.8%です。
岸田総理は新たな経済対策をするとしていますけれども、これについて、嘉悦大の高橋洋一教授は次のように述べています。
【前略】
岸田首相は内閣改造後に打ち出す新たな経済対策について、「物価高から国民を守り、賃上げと投資の拡大の流れをより強いものとする総合経済対策にしたい」と発言した。
物価高などに対応する経済対策を来月中をメドにとりまとめる。「必要な予算に裏打ちされた思い切った対策とする」として、その裏付けとなる補正予算案の編成を指示する考えを明らかにした。いま必要とされる経済対策の規模や内容はどうか。改造内閣の顔ぶれから、実際にはどのような規模、内容の政策が出てくるのか。
まず、賃上げしたいなら雇用を作らなければいけない。なので、「物価高から国民を守り、雇用と投資の拡大」という表現が正しい。
マクロ経済学の言葉でいえば、物価と失業率の逆相関関係を示すフィリップス曲線上で、最低の失業率とその上で最低のインフレ率を示すNAIRU(インフレを加速させない失業率)を目指すということになる。
その失業率とインフレ率のなかで、インフレ率に対応するのがインフレ目標だ。この状態になれば、「インフレ率プラス1、2パーセント程度」の継続的な賃上げが実現しやすい。
ここでポイントなるのが、需給ギャップ(供給能力を示す潜在GDPと需要の現実GDPの差)だ。
内閣府は1日、4-6月期の需給ギャップの推計は、前期比1.3ポイント上昇のプラス0.4%だったと発表した。需要不足は2019年7-9月期以来、15四半期(3年9カ月)ぶりに需要が供給力を上回ったとした。
コロナ前のピーク2019年7-9月期557.4兆円であるが、今4-6月期560.7兆円。それぞれの需給ギャップは1.2%、0.4%。それぞれの潜在GDPを算出すると、550.8兆円、558.4兆円。ただし、2019年7-9月期当時は需給ギャップは0.3%と公表されていた。
それから潜在GDPを算出すると、555.7兆円と今より5兆円大きかった。種明かしをすると、内閣府は今年1-3月期に潜在GDPの計算方法を直して潜在GDPを低くしたのだ。
筆者も独自にGDPギャップを算出しているが、筆者は失業率がほぼ下限とされる2%半ばを達成する時にGDPギャップがないとして算出しているので、潜在GDPはかつての内閣府試算より2%程度高めになっている。
内閣府で潜在GDPをさらに1%程度低めたので、筆者のGDPギャップとは3%程度の差があることになる。潜在GDPは技術進歩分は一定程度時ともに上昇するので、これらを考慮すると、需給ギャップはマイナス3%(15兆円)程度あると筆者はみており、とても需要不足は解消したとは言いがたい。
この点を雇用関係のデータから検証してみよう。雇用は景気に対して遅行指数、つまりGDP動向の後を追って動く経済指標である。
有効求人倍率(季節調整値)でみると、7月は1.29倍、3ヶ月連続で減少だ。もし4-6月期で需要不足が解消されているなら、有効求人倍率が3ヶ月連続で減少するはずない。しかも、コロナ前の1.6倍よりかなり低い水準なので、明らかに需要不足は解消されていないことを示している。
失業率(季節調整値)でみても、7月は2.7%と4-6月より上昇している。これも、需要不足が解消されていないという筆者の説明と整合性が取れている。
要するに、内閣府は、潜在GDPの一定の伸びをカウントせずに、さらに計算方法の見直しで水準そのものを引き下げ、需要不足が解消されたかのような需要ギャップの数字を作ったといえる。
つまり、真の需給ギャップはマイナス3%(15兆円)程度ある。この見方からいえば、マクロ経済的に必要な経済対策は、需給ギャップを埋める真水15兆円対策だ。
そうすれば、民間需要がでてくるので、公的需要ですべてを埋める必要はない。もっとも、民間需要をどれだけ誘発できるかは不確定な要素が大きいので、安全サイドにたてば需給ギャップを景気対策規模の目途にした方がいい。
その内容については、マクロ経済から見れば何でもいい。ミクロ経済からみて、時の政権が重視するところに財政を充てればいい。
岸田首相は、今回の改造を「変化を力にする内閣だ」とも語った。具体的な分野としては、ガソリン対策、災害対策、150兆円規模のGX投資、異次元少子化対策などを上げた。
今回の改造では、財務相、経産相、国交相、官房長官が留任した。具体的な分野のほとんどで留任閣僚なので、改造の顔ぶれの変化はあまりないだろう。
あとは、岸田首相が15兆円規模の対策を指示できるかどうかだ。対策全体の規模はまさに首相の判断が大きい。木原氏の後任で新たに副長官となった同じ財務省出身の村井氏がどのようにアドバイスするかも注目だ。緊縮路線なのか、積極路線なのか、財務省色がどの程度なのかもわかるだろう。
高橋洋一教授は、現在、需要不足が解消されたかのようにされているのは、内閣府が数字を操作して、そう見せかけているだけで、本当はマイナス3%(15兆円)程度あるとし、それを埋める対策をする必要があると指摘しています。
4.可処分所得は増えるのか
経済対策について、岸田総理は13日の記者会見で次の様に述べています。
【前略】岸田総理は、物価高に負けない構造的な賃上げと投資拡大の流れを強化するとして、ガソリン補助金の継続や、年収の壁を打ち壊すため、支援強化策を早急に取りまとめるとしています。
政府の大黒柱として、松野官房長官には留任いただきます。また、政権の最重要課題である拉致問題についても、引き続き担当してもらいます。
まず、第1の柱は経済です。成長と分配の好循環を実現するため、バブル崩壊以降30年間続いてきた減量経済、コストカット経済を脱却し、賃上げ、人への投資の促進、研究開発投資、これらを強化するといった攻めの経済への転換が少しずつ動き始めています。この動きを着実なものとするため、まずは足元の物価高に対応しなければなりません。
ガソリン補助金の継続を含め、国民生活を応援する大胆な経済政策を実行してまいります。若い世代の所得向上のため、年収の壁を打ち壊していきます。そのための支援強化策を早急に取りまとめ、時給1,000円超えの最低賃金が動き出す来月から早速実行いたします。
その上で、新しい資本主義に向けた取組を加速し、物価上昇率プラス数パーセントの賃上げを継続的に実現するための政策や、官民連携により150兆円規模の投資を誘引するための取組、さらにはAIやスタートアップなど、将来の成長基盤の整備を進め、デフレからの脱却を確実なものとしてまいります。これまでのデフレ下で税収が伸び悩む中での財政から、経済運営においてより中長期をにらむ、ダイナミックで積極的な役割を果たせる財政へと転換してまいります。
スタートダッシュが求められる経済対策をにらみ、鈴木俊一財務大臣と西村康稔経済産業大臣には引き続き重責を担っていただくこととしました。経済対策全体の取りまとめは、ベテランで調整能力に定評のある新藤義孝大臣にお願いしました。経済安全保障や科学技術など、明日の日本の将来を決する重要分野は、高市早苗大臣に引き続き担当いただきます。
【中略】
(記者)
共同通信の中久木です。よろしくお願いします。
総理は冒頭で、第1の柱として経済について挙げられましたけれども、先日、インドで開いた記者会見で、新体制で経済対策の策定に取り組むお考えを示されましたが、これをどのくらいの時期に策定するお考えなのでしょうか。また、裏付けとなる補正予算を編成するお考えがあるのかどうか、あるいは臨時国会を開くお考えがあるのかどうか、時期も含めてよろしくお願いします。
あわせて、衆議院議員の任期が間もなく折り返しを迎えますが、衆議院解散の是非について、お考えを併せてお願いします。
(岸田総理)
まず、御質問の経済対策については、新しい体制で必要な予算に裏打ちされた思い切った内容の経済対策をつくり、早急に実行していくこと、これを最優先にしていきたいと思います。
具体的には、月内には閣僚に対して経済対策の柱立ての指示を行います。そして、与党とも連携し、物価高から国民生活を守るための対策、また、物価高に負けない構造的な賃上げと投資拡大の流れを強化する取組、また、人口減少を乗り越えるための社会変革を起動する。それには災害対策を含めて国民の安全・安心を確保する。こうした考え方に立って、来月中をめどに取りまとめを目指してまいります。
そして、御質問の補正予算についてですが、補正予算の編成については、今、申し上げた経済対策の取りまとめを行った後、その内容を踏まえて、しかるべき時期に指示を行いたいと思っています。
そして、それ以外の政治スケジュールについても御質問がありましたが、それらについては、今はまず思い切った経済対策をつくり、早急に実行していくことを最優先に日程を検討してまいります。現時点では、これ以上申し上げることはございません。
以上です。
ガソリンも年収の壁も減税で対策するのではなく補助金や支援金でやるとしている。要するにバラマキです。
企業にしてみれば人件費が上がれば、その分投資できなくなりますし、国民にしても可処分所得が増えなければ投資などできません。
先述の高橋洋一教授は、経済対策について「緊縮路線なのか、積極路線なのか、財務省色がどの程度なのかもわかるだろう」と指摘していますけれども、筆者が16日のエントリー「内閣改造と解散風」で述べたように、緊縮路線であるなら、支持は伸びないだろうと思います。
先述した政治ジャーナリストの野上忠興氏は、岸田総理の選挙対策について、「岸田首相らしい底の浅い選挙対策です。今回の内閣改造も人事刷新にはほど遠い。スキャンダルが報じられた木原官房副長官だけは更迭したが、旧統一教会との関係が深い萩生田氏を相変わらず重用しているし、総務省文書問題を追及された高市氏、マイナ問題を解決できない河野氏を揃って留任させ、ドリル事件の小渕優子氏(選対委員長)が目玉というのだから、綱紀粛正は上辺だけ。マイナ問題などやるべきことをやらずに、これで国民の批判をかわして選挙に勝てると考えているのであれば、竹やりで特攻するようなもの。有権者の厳しい判断が下るでしょう」と述べていますけれども、岸田総理が打ち出す経済対策は、かなり重要になるのではないかと思いますね。
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yoshi