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1.団結は戦争を防ぐ
9月19日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、国連総会で演説を行いました。演説全文はこちらにありますけれども、筆者が気になった部分を引用すると次の通りです。
脅威は核だけではない。ロシアは核兵器をそのまま保有しており、大量破壊に向かう勢いは増しているが、他にも多くのものを兵器と化した。それらは我が国に対してだけでなく、あなた方に対しても使用されている。親愛なる指導者たちよ、兵器を制限する条約は多く存在するが、「兵器化」に対する真の制限はない。ゼレンスキー大統領は、この演説で、世界の脅威は核兵器だけではなく、「兵器化」されるものも脅威なのだと訴えました。ゼレンスキー大統領はその中の代表的なものとして「食糧」「エネルギー」「子供達」の3つを挙げています。
例えば食料の兵器化だ。本格的な戦争が始まって以来、黒海とアゾフ海のウクライナの港はロシアによって封鎖されてきた。ドナウ川沿いの港はミサイルやドローン攻撃の対象となっている。それは、占領地の一部の領土化を認めさせるため、世界市場での食料不足を兵器化しようとするロシアの明らかな試みだ。ロシアは食料の価格を武器に変えているのだ。アフリカの大西洋岸から東南アジアに至るまでの地域に影響を及ぼしている。
黒海における穀物協定を取り持ち、支援してくれた指導者たちに感謝したい。この支援により、武器となってしまったものを、再び食料へと戻すことができた。アルジェリアやスペイン、インドネシアから中国に至るまで、45カ国以上がウクライナ産の食べ物を市場に流通させることの大切さを知っていたのだ。
ロシアは穀物協定の合意から離脱した。私たちは食料の安定を確保するために努力しているし、これに皆が協力してくれることを期待している。
我々は、ウクライナの港から一時的な輸出回廊を立ち上げた。また、輸出のための陸路の確保に努めている。
欧州の一部で、政治的な舞台では我々との連帯を演じながら、実際にはモスクワの役者に舞台を用意する手助けをしている国がある。憂慮すべきことだ。
第2に、ロシアはエネルギーも兵器化している。ロシアがエネルギーを武器として使うのを、世界は何度も目撃してきた。クレムリンは、他国の指導者を弱体化させるために石油とガスを武器にした。
ロシアは原子力エネルギーを兵器化している。自国の当てにならない原子力発電所の建築技術をあちこちにばらまいているだけではなく、他国の原子力発電所を汚らしい爆弾に仕立て上げている。ロシアが我々の(ザポロジエ)原発にやったことをみてほしい。爆弾で攻撃し、占領したうえで、放射能漏れを各国に脅しをかける材料に使っている。
ロシアが原子力発電所を攻撃の道具としている今、核兵器を削減しようという理性的な試みはないのだろうか。そら恐ろしい質問だ。世界の安全保障を守る枠組みは、このような陰険な放射能を使った脅しに対し、なんの対応もなければ、保護も与えてくれない。これまでのところ、放射能による恐喝者に、どのような説明責任も問うていない。
3番目の例は子どもたちだ。不幸なことに、これまでもテロリスト集団が社会や家族に圧力を加えるために、子供を利用する例はあった。だが、一国が政策として子供を集団で誘拐して連れ込むような取り組みはいままでなかった。ロシア占領下にあるウクライナの地域から連れ去られた子供は、名前が分かっているだけで何万人もいる。連れ去られた証拠があるが、身元の確認がとれない子供は何十万人もいる。
国際刑事裁判所(ICC)はプーチンに対し、この戦争犯罪の容疑により逮捕状を出した。我々は連れ去られた子どもたちを取り戻そうと努力しているが、時間が過ぎていく。どのようなことが起こるか。連れ去れた子どもたちはロシアにウクライナを憎むように教えられ、家族の絆は引き裂かれる。これは明らかにジェノサイドだ。(*注 ジェノサイドの定義には子供を強制的に他の集団に移動させることも含む)
ゼレンスキ―大統領は「兵器を制限する条約は多く存在するが、兵器化に対する真の制限はない」と述べ、兵器化も制限するべきだ、と訴えたのですね。
食糧や、エネルギーを兵器、すなわち、相手国にいうことを聞かせるための手段として使う、これは以前に取り上げた「エコノミック・ステイトクラフト」だといってよいかと思います。
2.ウクライナに武器を供与しない
9月19日、ポーランド外務省はゼレンスキー大統領の国連総会での演説に対し、ウクライナの駐ポーランド大使を呼び出して抗議。予定されていた両国の首脳会談をキャンセルしました。
ゼレンスキー大統領は、件の演説の中で「欧州の一部で、政治的な舞台では我々との連帯を演じながら、実際にはモスクワの役者に舞台を用意する手助けをしている国がある。憂慮すべきことだ」と発言したのですけれども、ポーランドはこの発言を、「開戦当初からウクライナを支援してきたポーランドにとって不当なもの」と抗議した訳です。
ゼレンスキー大統領は、この「モスクワを手助けしているもの」は何かは明言していませんけれども、これは「穀物」だと見られています。
ロシアはウクライナへの侵攻で、黒海の主要航路をほぼ全面的に閉鎖しています。その影響で、ウクライナは穀物輸出を陸路に頼らざるを得なくなり、その結果、大量の穀物が中央ヨーロッパに流れ込んでいます。
ところが、欧州連合(EU)は穀物価格の下落を恐れる農家を保護するため、ブルガリア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロバキアの5ヶ国について。ウクライナ産穀物の輸入を一時的に禁止したのですね。
禁止は今月15日に解かれたのですけれども、ハンガリー、スロヴァキア、ポーランドは継続を決めました。
これに対し、ウクライナはこれらの国々の輸入禁止措置は国際義務違反だとして世界貿易機関(WTO)に提訴し、対立が深まっています。
ただ、一部報道では、スロバキアは「ライセンスの発行と管理に基づく穀物取引制度」を設けることでウクライナと合意したと発表。制度創設後にウクライナ産農産物の禁輸を解除すると報じられているようです。
それでも、20日、ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は、テレビ演説で自国軍を近代的な武器で充実させることに専心するとし、ウクライナへの武器供与をやめると表明。さらに翌21日にはミュラー報道官もウクライナとこれまで合意した弾薬と武器の供与のみを行うと追い打ちしています。
ポーランド政府の報道官は現地メディアの質問に対し、「ウクライナから受け入れがたい発言や外交的行為があった」とし、「すでに合意された弾薬と武器の納入のみ行う」と述べました。
もっとも、サシン国家資産相はモラヴィエツキ首相のコメントについて「現時点では首相が述べた通りだ。将来的にはどうなるか分からない」とし、穀物輸入を巡る問題は、ウクライナへの支援をポーランドが止めたことを意味するのではないと弁明していますし、ドゥダ大統領も「最悪の形で解釈された」とし、「最新鋭の武器の供与についての話だ」と弁解しています。
ポーランドは10月15日に総選挙を控えていて、与党「法と正義」はウクライナへの従属的姿勢を極右勢力から批判されていて、世論調査では、反ウクライナ感情を代弁してきた「コンフェデレーション」が支持率で3位に浮上しているとのことで、アナリストは与党のウクライナへの厳しい姿勢について、コンフェデレーションが支持を広げていることへの対応だと指摘しているようです。
ポーランドも国内事情を反映して、苦しい立場にあるのかもしれません。
ゼレンスキー大統領は国連演説冒頭で「私はここで共通の目標に向かって取り組む皆さんを歓迎する。そして、我々が本当の意味で団結することで、すべての国に平和をもたらすことができると約束する。 団結は、戦争を防ぐことができるのだ」と述べていますけれども、穀物輸入を巡っては「団結」できているとは言い難い。
これがウクライナを支援するNATO、西側諸国の団結を崩す蟻の一穴になるのか。注目したいと思います。
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