アメリカの連邦政府閉鎖回避とマッカーシーの裏取引

今日はこの話題です。
画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。



2023-10-02 184200.jpg

1.アメリカ連邦政府閉鎖回避


9月30日、アメリカ連邦議会は10月1日から45日間の予算執行を可能にする「つなぎ予算」案を可決しました。

アメリカの連邦議会では、10月から新たな会計年度が始まるのですけれども、新しい会計年度の予算が成立しないと、政府職員の人件費などの手当ができず、政府機関の一部が閉鎖することになります。連邦政府の閉鎖は、上下両院が10月1日の会計年度開始前に承認しなくてはならない政府支出のうち、約30%について合意できない場合に起きることになっていました。

これまで、この新会計年度の予算案の協議が難航したのですけれども、時間稼ぎとなる45日間の「つなぎ予算」が成立したという訳です。

つなぎ予算案は予算案の成立期限のわずか数時間前のことで、下院で賛成335票(民主党議員209人、共和党議員126人)、反対91票で可決。上院でも賛成88票、反対9票で可決されました。

今回のつなぎ予算の可決に向けて、共和党のケビン・マッカーシー下院議長が主導。大幅な歳出削減を見送った一方、保守強硬派が反対するウクライナへの追加支援を除外した。また、バイデン政権が求める160億ドルの災害対策費は盛り込まれました。

それでも、やはり、今回のような危機はつなぎ予算の期限が切れる45日後に再び繰り返される可能性が指摘されています。

というのも、共和党と民主党、そして共和党内部で、政府支出の程度や政策をめぐる根本的な意見の相違が解消されていないからです。

今回の可決は、下院の多数党である共和党のマッカーシー下院議長が、共和党内の反対派を横目に、法案の可決のために民主党と握って、その票に頼ったからです。


2.マッカーシー議長の解任動議を提出する


元々、このつなぎ予算を巡っては、下院で共和党が9月29日に独自案をまとめていたのですけれども、ウクライナ支援の減額や大幅な歳出削減を主張する保守強硬派21人が造反し、232対198で否決されていたのですね。

そこで、マッカーシー下院議長ら共和党指導部がウクライナ支援を除外した案をまとめ、民主党票も集めて、可決に至ったという訳です。

この時、反対した共和党保守派は、マッカーシー議長が民主党の票を当てにし、自分たちの反対を回避してつなぎ予算を成立させるなら、議長の辞任を要求すると繰り返し警告していました。

その中で、今回の可決。マッカーシー下院議長は9月30日の記者会見で、自身に反発する議員に対し、「議会には大人がいるはずなので」、「私に対して動議を出したいなら、そうすればいい」と煽ってみせていましたけれども、果たして、10月1日、共和党反対派を率いる、マット・ゲーツ下院議員はCNNの番組「ステート・オブ・ザ・ユニオン」のインタビューで「私はマッカーシー議長の解任動議を今週提出するつもりだ……われわれは思い切って行動しなければならないと思う。信頼の置ける新たなリーダーと共に前進する必要がある」と発言しました。

ゲーツ議員は「これは個人的な問題ではない。歳出を巡る問題だ……ケビン・マッカーシー氏がまとめた取引に関することだ」と超党派のつなぎ予算案には共和党の保守強硬派が要求してきた大幅な歳出削減が盛り込まれていないと指摘。それが解任動議提出の方針につながったと説明しました。そして、マッカーシー氏を議長に選出する上で取り交わした一連の約束を破った最新の事例だと述べました。

マッカーシー氏は今年1月に下院議長に選出されましたけれども、強硬な反対派がいたこともあり、15回もの再投票を行っています。こうした例は、160年以上前までさかのぼらなければ見当たらない程のものでした。

このとき、マッカーシー氏は、彼の就任を拒否する21人の共和党強行派に白旗を上げました。強硬派は、バイデン政権の予算案や法案を厳しく精査する方針を示すマッカーシー氏の約束に実効性をもたせる狙いで、議会下院の規則変更で担保するよう要求。議長の解任動議を提出できる議員の賛同者数の条件を当初案の5人から1人に緩和させました。

議長に選出されるために、マッカーシー氏はバイデン政権の予算案や法案を厳しく精査すると宣言したのですけれどの、その担保に解任動議を誰でも出せるように迫られ、それを飲まされたということです。

今回のつなぎ法案可決によって、この担保が発動しようとしている訳です。

これに対し、マッカーシー議長はCBSの番組「フェース・ザ・ネーション」とのインタビューで、闘う準備はできていると発言。もしゲーツ議員が「政府閉鎖に追い込むつもりでいて、私がそれを阻止したから怒っているのなら、闘おうではないか」と発言しました。

マッカーシー議長が解任を回避するには下院議員の単純過半数票が必要になるのですけれども、共和党は僅差で多数派となっていることから、民主党が解任を支持した上で共和議員5人が造反すれば解任されることになります。

つなぎ予算案に反対した共和党のドナルズ下院議員はFOXの番組で、「率直に言って下院では今、信頼に関する多くの問題がある」と、マッカーシー氏が窮地に立たされているという見方を示しています。


3.ウクライナ支援を中断させるわけにいかない


一方、アメリカ政府側はどう反応しているのか。

つなぎ予算案が可決した30日、バイデン大統領はその日のうちに予算案に署名し、法案を成立させているのですけれども、署名に先立ち、「今晩、上下両院の超党派多数党は連邦政府の機能を維持するために投票した。それによって、何百万人もの勤勉なアメリカ国民に無用の苦しみを与えただろう、必要のない危機を阻止した。この予算案によって、現場で働く兵士たちは給料の支払いを受け続けるし、旅行者は空港で立ち往生しなくても済む。何百万人もの女性や子供たちは引き続き、不可欠な栄養支援を受けられる。ほかにも、継続できる事業は本当にたくさんある。これはアメリカ人にとって良い知らせだ」との声明を出しました。

バイデン大統領は更に「しかし、はっきりさせておきたい。そもそもこんな事態になったのがおかしいのだと。ほんの数カ月前、マッカーシー議長と私はまさにこうした人工的な危機を避けるため、予算について合意をまとめた。しかしもう何週間も、下院共和党の極端な勢力は、その合意から離脱し、何百万人ものアメリカ人にとって壊滅的な事態につながる大幅な予算削減を要求していた」と、共和党の強硬派を批判しています。

今回どうにか成立した、つなぎ予算法案ですけれども、大多数の議員が、連邦政府の閉鎖回避を優先させたため、共和党強硬派が強く反対していたウクライナへの追加援助は、盛り込まれませんでした。

アメリカ政府は8月にウクライナ支援へ240億ドル(およそ3兆6千億円)の予算案を連邦議会に要請しています。民主党と、ウクライナへの拠出増額を支持する共和党議員は今後も、追加援助を要求し続ける見通しとのことですけれども、短期的にはウクライナの戦争遂行に支障が出る恐れがあるともバイデン政権関係者らは警告しているそうです。

実際、バイデン大統領は「つなぎ予算」が成立したのを受けてホワイトハウスで演説し、つなぎ予算に含まれなかったウクライナ支援が枯渇するまで「それほど時間はない」と危機感を示し、反対する共和党の保守強硬派を念頭に「ゲームはやめるべきだ」と牽制しています。

更にバイデン大統領は「どんなことがあってもウクライナ支援を中断させるわけにいかない……支援を期待している同盟国、アメリカ国民、ウクライナの人々は安心してほしい。アメリカは逃げない」と、早期成立に自信を示し、「ウクライナが侵攻から自国を守るために必要な支援を確保するため、マッカーシー氏が約束を守ると期待している」と主張しています。


4.マッカーシーの裏取引


ウクライナ支援継続について「マッカーシー議長は約束を守る」と自信を見せているバイデン大統領ですけれども、そのマッカーシー氏は既に共和党院内総務のミッチー・マコーネル氏とバイデン大統領と裏取引を行っていたという噂が流れているようです。

9月30日、つなぎ予算案が可決された直後、マッカーシー下院議長は、民主党幹事のトム・エマー議員、共和党会議議長のエリス・ステファニック議員とともに報道陣と懇談。その後、民主党のハキーム・ジェフリーズ下院少数党院内総務、キャサリン・クラーク民主党院内幹、ピート・アギラー下院議長、テッド・リュー副議長が「下院に戻ったら、マッカーシー議長が、ウラジーミル・プーチンとロシア、そして権威主義を敗北させるという公約に沿って、ウクライナを支援する法案を議場に提出し、賛否を問う投票を行うことを期待する。勝利が勝ち取られるまで、我々はウクライナの人々とともに立ち上がらなければならない」との署名入りの声明が出されています。

なんとも手回しのよい声明ようにも聞こえなくもありません。これについて、共和党強硬派のマット・ゲーツ下院議員は、マッカーシー議長は民主党とウクライナに関する協定を結んだが、継続決議が可決されるまで下院共和党には伝えなかったと述べています。

これが本当であれば、マッカーシー議長に対する共和党内の風当たりは強くなるのではないかと思います。

もっとも、民主党と裏取引してがっちり手を握っているのであれば、たとえ、ゲーツ議員らが、マッカーシー議長の解任動議を出したとしても、民主党側の賛同が得られず否決される恐れもあります。

あるいはマッカーシー議長もその確信があるがゆえにゲーツ議員らの解任動議に対しても「闘おうではないか」と強気に出ているのかもしれません。

ウクライナ支援のあるなしが、ウクライナ戦争の終結に直結することはいうまでもありませんけれども、果たしてマッカーシー議長が解任されるのかどうか。それが、まず最初の試金石になるのではないかと思いますね。


  twitterのフリーアイコン素材 (1).jpeg  SNS人物アイコン 3.jpeg  カサのピクトアイコン5 (1).jpeg  津波の無料アイコン3.jpeg  ビルのアイコン素材 その2.jpeg  

この記事へのコメント