

1.マッカーシー下院議長解任
10月3日、アメリカ下院は共和党保守派のマット・ゲーツ議員が提出したマッカーシー下院議長の解任動議を216対210の賛成多数で可決しました。
この日の採決では民主党208議員に加え共和党8議員が解任を支持しました。下院議長の解任はアメリカ史上初めてのことです。
マッカーシー氏は議長選に再度立候補しない考えを表明。「私は自分の信念のために闘った。これからも闘い続けることができると信じているが、他の形になるだろう」と記者団に述べています。
マッカーシー氏の議長解任により下院の立法作業は停止。臨時議長には共和党のパトリック・マクヘンリー議員が指名されましたけれども、議会が新たな予算案を可決しなければ、11月17日には再び政府機関閉鎖の危機を迎えることになります。
ホワイトハウスのジャンピエール大統領報道官は3日、後任の下院議長の「早期選出」をバイデン大統領が期待しているとの声明を発表。共和党のバーチェット議員ら複数の共和党議員は10月10日に後任候補を協議し、翌11日に投票を行う計画だと述べています。
ゴールドマン・サックスは顧客向けの分析で、議長解任により来月の政府機関閉鎖のリスクが高まると指摘。マッカーシー氏の後任は、ウクライナ向け追加支援など予算問題で「さらなる圧力」にさらされるだろうとの見方を示しています。
2.合衆国法典第三編第19条
下院議長は大統領継承順位が副大統領に次ぐ2位の要職なのですけれども、現在、内部対立に満ちた下院共和党をまとめることができる明確な議長後任候補は見当たらないとされています。
一応、後任候補としては、下院共和党ナンバー2のスカリス院内総務の名前が挙げられているそうですけれども、血液癌で現在治療中であることから名乗りを上げたとしても現実味に乏しいことは否めません。また、その他の候補として共和党ナンバー3のエマー院内幹事やマクヘンリー氏、議事運営委員会のコール委員長らが取り沙汰されているようです。
アメリカ史上、継承権が副大統領を超えたことは一度もないのですけれども、大統領継承に関する専門家は、臨時議長に就任したマクヘンリー氏は、大統領代行はおろか、下院議長すら相応しくないと見ているようです。
ミシガン州立大学法学部のブライアン・カルト(Brian Kalt)教授は、「彼は議長ではない、議長代理にすぎない……議長を務めることの重要な点は、一時的に誰かによって任命されたのではなく、議長として選出されたということだ。したがって、合衆国法典の第3編第19条によれば、次の下院議長はパティ・マレー(Patty Murray)だ」と述べています。
合衆国法典の第3編第19条というのは、「大統領および副大統領の両方の職に空席がある場合。代行する資格のある者」を規定するもので、その内容は次の通りです。
(a)この規定に従うのであれば、上院臨時議長である民主党のパティ・マレー上院議員が下院臨時議長になることになり、もしバイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領が大統領を務めることができなくなれば、マレー氏がその職を引き継くことになります。そしてマレー氏に続くのはアントニー・ブリンケン国務長官、ということになります。
(1) 死亡、辞任、罷免、任務遂行不能、資格欠如の理由により、大統領職の権限と職務を果たすべき大統領も副大統領も存在しない場合、下院議長が議長職を辞任し、かつ議会代表を辞任したときは、下院議長が大統領を代行するものとする。
(2) 本項に基づき大統領を代行する個人が死亡、辞任、罷免された場合、 または大統領に就任できない場合も、同じ規定を適用する。
(b) 本節(a)項に基づき議長が大統領職の権限と職務の遂行を開始すべき時に、議長がいない場合、または議長が大統領代行としての資格を満たさない場合、上院の臨時議長が、臨時議長および上院議員を辞職した上で、大統領を代行するものとする。
(c) 本項第(a)節または第(b)節に基づき大統領を代行する者は、その時点 の大統領の任期が満了するまで引き続き大統領を代行するものとする。
(1) 大統領と副大統領両方が資格を喪失したことにより、大統領職の 権限と任務の一部または全部を遂行できなくなった場合、大統領または副大統領が 資格を取得するまで務めるものとする。
(2) その権限と任務の全部または一部が、会長または副会長の任務遂行不 能に起因する場合、会長または副会長のどちらか一方の任務遂行不能が解 除されるまで職務を行うものとする。
(d)
(1) 死亡、辞任、罷免、任務遂行不能、資格欠如などの理由で、本節(b)項に 基づき臨時大統領として大統領を代行する者がいない場合、次の名簿の最上位 にあり、大統領としての権限と職務を遂行するのに支障のない合衆国役員が大統領を代行するものとする: 国務長官、財務長官、国防長官、司法長官、内務長官、農務長官、商務長官、労働長官、保健福祉長官、住宅都市開発長官、運輸長官、エネルギー長官、教育長官、退役軍人長官。
(2) 本項に基づいて大統領を代行する個人は、その時点の大統領の任期が満了す るまで、引き続き大統領を務めるものとする。ただし、本項第(1)項に含まれるリ ストの上位にある個人の障害が取り除かれるか、または、かかるリストの上位に ある個人の資格を得ることができるようになっても、その職務は終了しない。
(3) 本項第(1)節の名簿に記載された人物が就任宣誓を行うことは、その人物が会長を務める資格を有することをもって、その役職を辞任したものとみなされるものとする。
(e) 本節第(a)項、第(b)項および第(d)項は、憲法の下で大統領になる資格を有する役員にのみ 適用されるものとする。本節(d)項は、臨時大統領の死亡、辞任、罷免、任務遂行不能、または資格不履行が起こる前に、上院の助言と同意の下に任命された役員にのみ適用されるものとし、また、大統領職の権限と任務がその役員に委ねられた時点で下院による弾劾を受けていない役員にのみ適用されるものとする。
(f) 本節の下に大統領を務める期間中、その報酬は、大統領の場合、その時点 で法律で規定されている率とする。
先述のカルト教授は、実際にはいかなる紛争も裁判所によって解決される可能性が高いものの、万が一にもマクヘンリー氏が大統領職を要求しないことは明らかだと強調しています。
3.復活のトランプ
そうした中、急遽、下院議長として名前が挙がってきた人物がいます。トランプ前大統領です。
10月4日、ガーディアン紙は「共和党議員、トランプ氏を下院議長に指名へ」という記事を掲載しました。
その概要は次のとおりです。
・テキサス州選出の共和党議員は、党が前代未聞のケビン・マッカーシー氏の解任を完了したことを受け、ドナルド・トランプ氏を次期下院議長に指名すると述べた。なんとも凄い話です。今のところ、トランプ前大統領が下院議長になる可能性は低いとは思いますけれども、なりゆきを見守っていきたいと思います。
・トロイ・ニールズ氏は、「今週、米下院が再開されたら、私の最初の仕事は、ドナルド・J・トランプ氏を下院議長に指名することだ」と述べた。
・「私の生涯で最も偉大な大統領であるトランプ大統領は、アメリカを第一に考えてきた実績があり、下院を再び偉大なものにしてくれるだろう」
・議長は国会議員である必要はないが、議席を持たずに議長に就任した例はない。
・トランプ氏の名前は以前にも浮上したことがあり、右派がマッカーシー氏の議長就任を認める前に、1月の15回のマラソンで押し切られたことがある。
・火曜日、マッカーシー氏の解任に票を投じた右派議員の中に、ニールズ氏の名前はなかった。同じくフロリダ州選出のグレッグ・スチューブ下院議員も、トランプ氏を下院議長に支持すると述べた。
・91件の刑事告発(選挙妨害、機密情報の保持、口止め料の支払い)と、ニューヨークでの詐欺裁判と同市での名誉毀損裁判を含む民事上の脅迫にもかかわらず、トランプ氏は共和党大統領予備選の明確なトップランナーである。判事はレイプ容疑について「実質的に真実」と述べた。
・トランプ氏を大統領選から除外するには何が必要なのか、憶測は続いている。火曜日に出版された本の中で、作家のマイケル・ルイスは、失脚した仮想通貨億万長者のサム・バンクマン・フリードが、トランプ大統領に50億ドルを提示して辞任することを検討していると報じた。
・火曜日のFOXニュースで、司会者でトランプ大統領と長年親しいショーン・ハニティは、「一部の下院共和党員」がトランプ大統領を議長に「指名しようと努力しており」、トランプ大統領と接触していると述べた。
・トランプ大統領は議長になりたくないと言っている。しかし、ハニティ氏は、前大統領がまだ大統領選に出馬している間は、「少なくとも短期的には、必要であれば共和党を支持する用意があるかもしれない」と述べた。
・オハイオ州のジム・ジョーダン下院議長候補は、ハニティ氏に次のように語った。しかし、彼が下院議長になりたいのなら、それは素晴らしいことだ。ペンシルベニア通り1600番地(ホワイトハウス)、我々が彼を必要としている場所だが、もし彼が下院議長になりたければ、それもいいだろう」
・モニターたちはすぐに彼に冷水を浴びせた。
・ジョージ・W・ブッシュ大統領の元側近デビッド・フラムは、下院倫理規則を指摘し、「なぜトランプ大統領はグーグル検索ひとつで議長の席を取ろうとしないのか」と述べた。
・イリノイ州選出の民主党議員ショーン・キャステンは、下院共和党独自の規則を指摘し、「共和党指導部のメンバーは、懲役2年以上の重罪に問われた場合、退席しなければならない」と述べた。
・パンチボール・ニュースの創始者ジェイク・シャーマンは、簡潔にこう書いている。「そんなことは起こらない。我々は先に進めるだろう」
Jack🇺🇸トランプ超特大速砲💥🚨キターーーーーーー!
— Jack🇺🇸LA在住 🇯🇵日本人 (@jack_hikuma) October 4, 2023
トランプ大統領自ら発言‼️
トランプ大統領はニューヨーク裁判所から、下院議長就任について尋ねられたことを確認し、就任するつもりだと述べた。🔥
「私に言えるのは、国と共和党のために最善を尽くすということだけだ」… pic.twitter.com/596aX1bAew
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