

1.ロシアの明日を信じている
10月6日、日本維新の会の藤田文武幹事長は国会内で会見し、党に無許可で渡航中止勧告が発令されているロシアを訪問した鈴木宗男参院議員に対する処分を役員会、党紀委員会で検討し、「除名」を含む重い処分を下す意見が出ていることを明らかにしました。
藤田幹事長は党紀委員会に先立って開かれた役員会では、党への事前届け出がなかったことに加え、鈴木参院議員が訪露中、現地メディアの取材に、ロシアの勝利を期待する趣旨の発言を行ったことを問題視する意見が出たことを明かし、「非常に厳しい意見もあった。鈴木議員の主張の内容にも異議を申し立てる役員もいた。非常に厳しい結論になる可能性もある」と述べています。
鈴木参院議員は訪露中にロシア国営通信社「スプートニク」の取材に応じ、その動画が配信されているのですけれども、藤田幹事長は「約2分から3分ぐらい動画でロシアの勝利を100%確信する、といったようなもので、どうやら10分ぐらいメッセージのよう」とした上で「文脈等も含めて鈴木議員から切り取りの部分もあり、誤解を生んでいる」と反論があったと明かしています。
藤田幹事長は10日までに「映像の全文を取り寄せて精査する」とし、その事実確認を待って処分を決定すると発言。そして「今、ロシアを擁護する。または、そうとらえられる。またはロシア政府に利用される発言や行動は非難の対象になるし、望んでいない」と述べました。
件の2~3分版の動画はネット等に上がっているのですけれども、そこから鈴木参院議員の発言を書き起こすとおおよそ次の通りです。
・コロナが起きて4年なりましてですね。私も5年ぶりであのモスクワにきました。「ロシアがウクライナに屈することはない」との発言に続いて「ロシアの明日を信じてます」では、ロシアの勝利を信じていると取られてもおかしくないと思います。また、これらの発言の間がカットされたようにも見えませんし、誤解だと釈明するにも苦しいのではないかと思います。
・落ち着いた佇まい。何よりもですね。ゴミが落ちてない非常に綺麗なモスクが維持されてますね。
・やっぱりロシアモスクワは世界に誇れる都市であるし、またロシア国民の誠実さというものが伝わってきてほっとしております。
・今回短いモスクワ滞在ですけども、またゆっくりですね。早いうちに来たいなと思っております。
・今特別軍事作戦が継続されてますけども、ロシアの勝利、ロシアがあのウクライナに対してですね、屈することはない。
・ここは私は何の懸念もなくロシアの未来、ロシアの明日をですね、私は信じてますし、理解をしています。
・私自身、今から45年前になりますけども、初めてあのサケマス交渉でモスクワを訪問しました。
・当時は中川一郎という農林大臣の秘書官で来ました。
・91年私は外務政務時間としてモスクワに来てですね。当時ロガチョフ外務次官と平和条約作業部会の交渉さらに日程協議なんかもしたことを懐かしく思い出しながら。
・2000年にはプーチン大統領が3月26日大統領選挙に当選されて、その9日後にクレムリンで私は日本政府の特使として当選したばかりのプーチン大統領と会談したこともありましてですね。
・様々な今思い出が脳裏をよぎりながらもですね私はロシアの安定・発展が世界の安定発展につがるということを改めて今感じているところです。
2.ロシアに利用された鈴木宗男
維新の藤田幹事長は「ロシア政府に利用される発言や行動は望んでいない」とコメントしていますけれども、やはりというか、鈴木参院議員の訪露はロシアのスプートニク通信で次のように報じられています。
・10月3日、ロシア・モスクワを訪問中の鈴木宗男参議院議員が、モスクワ市内で単独インタビューに応じ、5年ぶりに訪問したロシアの印象や、ロシア要人との会談の内容、ウクライナ情勢を受けた、日本のあるべき姿などについて話した。また、誰よりも深くロシアと向き合ってきた政治家として、日露関係の重要性を強調した。鈴木氏は、4日までロシアに滞在し、帰国の途につく。スプートニク通信はロシア政府系メディア「ロシアの今日」の傘下にあり、ロシア語での24時間ラジオ放送以外に、外国読者向けに30カ国語のニュースサイトを有するなど、ロシア国外での展開を担っている通信社です。
・鈴木氏は、ロシア要人らと、ロシア経済や日露間の諸問題について、意見交換や建設的な話ができたと話す。2日には、アンドレイ・ルデンコ外務次官と、ロシア外務省で会談を行った。日露間に横たわる問題のひとつとして、日本の漁船が北方四島周辺で行う「安全操業」がある。このための日露間の協議が開始できておらず、ホッケ漁が現在も出漁できない異例の事態になっている。
「ルデンコ外務次官と面会の際には、まず何より、北方四島における墓参再開を依頼しました。元島民の平均年齢は88歳ですから。墓参の枠組みは残っているのですが、昨年来、日本がロシアに対して行っている経済制裁を受けて、今は停止状態になってしまっています。それを解除してほしい、と話をしました。ルデンコ氏には理解してもらえたと思っています。ルデンコ氏にはまた、漁業交渉を早く進めてほしいと。日本が経済制裁した結果、本来ならば9月中にまとまらなければいけないのに、交渉していないのです。早く再開して頂きたいという話をしました。ロシアは必ず、前向きに判断してくれると思っています」
・鈴木氏は、ロシアは日本に対して一定の配慮をしており、そのことを日本側も認識すべきであると指摘する。
「日本の国益を考えたとき、日露関係の重要性というのは、出てきます。日本はエネルギーをロシアから1割調達しています。この1割が、入らなくなったら大変なことになります。これだけでも、ロシアは日本に配慮しているのですから、このことをもっと日本は理解しなければなりません。ロシア産のカニやウニといった水産物も、日本に入ってきています。これもロシアの配慮です。日本は、ロシアに対してより正しい認識をすべきだと思いますし、そのことを日本国民にも伝えていきたいです」
・鈴木氏は、特別軍事作戦が始まった経緯についても、日本の世論が支持する「ロシア絶対悪」に与しない姿勢を鮮明にしている。
「ミンスク合意を守らなかったのはウクライナです。昨年2月19日、ゼレンスキー宇大統領はブタペスト覚書(編集注:ウクライナはこの覚書によって非核保有国となった)を再協議せよ、とまで言いました。これは過去に戻せという、してはならない発言でした。そこでプーチン大統領は特別軍事作戦を実行する、となりました。日本の世論でも、国際世論でも、ロシアが悪くてウクライナが正しいという議論がありますが、私はその考えには与しません。私は誰よりもロシアと向き合ってきました。日露関係の重要性を考えたとき、私は信念をもって、ロシアの考え方、ロシアの判断を理解している日本の政治家だと自負しています」
・昨年以来、「ロシア寄り」だとネットで叩かれ続ける鈴木氏だが、日本における考え方も少しずつ変わってきて、冷静な見方が増えてきたと話す。
「昨年、特別軍事作戦が始まった頃は、ウクライナに対する応援の気持ち、感情がとても強かったです。しかし、金をくれ、武器をくれと言われ続け、武器も横流し、お金も、どこにいっているかわからない、となり、だんだん日本も気がついてきました。日本の中でも、ゼレンスキー宇大統領が言っていることが本当に全部正しいのか、少し懐疑的に見る人が出てきました。日本もだんだん冷静になってきており、そのことは良いことだと思っています。日本の国益を考えたら、誰かひとり、私は、ロシアの理解者でなければいけない。ロシアが全て悪いのではない。ことの発端はウクライナだということ、そこの主張はしっかりしていきたいと思います」
・世界一のエネルギー大国ロシアと、世界一の応用技術をもっている日本が組めば、必ず世界のためになる、と日露関係の重要性を訴える鈴木氏。4日も引き続き、政府要人と会談を行う。
そこが「ロシアは日本に対して一定の配慮をしており、そのことを日本側も認識すべきだ」とか「日本の世論が支持する『ロシア絶対悪』に与しない姿勢を鮮明にしている」とか報じている訳ですから、思いっきり利用されたと見てよいかと思います。
3.窓の作り方は知っている
10月5日、ロシアの黒海リゾート地ソチで行われたバルダイ会議で、プーチン大統領は「ロシアは日本からの潜在的な対話の申し出を受け入れる用意がある」と発言したとメディアが報じていますけれども、これは、プーチン大統領が行った基調講演ではなく、その後の質疑応答の中でのことです。
質問したのは、笹川平和財団の畔蒜泰助主任研究員です。
その時の質疑は次の通りです。
畔蒜泰助:笹川財団です。前回、質問の機会をいただいたのは2018年、5年前でした。しかし、ウクライナ戦争勃発後、日本は対ロシア制裁に参加し、ロシアは両国間の平和条約交渉の中断を発表し、日露関係は膠着状態に陥りました。私個人としては、近い将来に改善の見込みがあるとは思えません。とはいえ、ロシアと日本は隣国です。常に対話の窓を開いておくことは必要だと思います。その意味で、少なくとも専門家レベルで両国間の対話を再開すべき時が来ていると思います。もし日本がそのようなイニシアチブをとったら、大統領、支持していただけますか? ありがとうございます。★こちらのサイトの訳のほうが更に臨場感があるかもしれません。
F.ルキヤノフ(司会):今日は”窓開け”が流行っていますが、お気づきですか?
プーチン大統領:私は4級大工(大統領の語源は棟梁から説あり)だから、窓の作り方は知っている、ご心配なく。
F・ルキヤノフ:(対話の窓を)広げることはできますか?
プーチン大統領:必要ならそうする。我々の国益に合致するのであれば、我々もそれに取り組む。日本についてだが、2018年に質問したというが、ウクライナで敵対行為が始まった後、すべてが変わった。ウクライナでの戦闘は2018年以降に始まったのではなく、2014年に始まったのだ。日本はただそれに気づかないことを選んだ。そして、より深刻な局面が始まったのは本当に2022年だが、敵対行為自体はドンバスへの爆撃や装甲車による攻撃で2014年に始まったのだ。私は冒頭の挨拶でそう述べた。
さて、我々の関係についてだ。日本に制裁を課したのは我々ではなく、アジアへの窓を閉めたのも我々ではない。日本がそうしたのだ。我々は何もしていない。もしあなたが、今こそ対話の時だと考え、日本側が何らかのイニシアチブを示すことが可能だと考えるのであれば、対話が行われることは常に良いことだ。我々はそれに応じる用意があるのかと聞かれたが? ドアや窓を閉ざしている側からのそのようなイニシアチブがあれば、我々はそれに応じる用意がある。もし、この "窓 "を開ける時が来たと考えるのなら......そうしてくれ。反対だと言ったことはない。やってみてくれ。
あるいは、畔蒜氏は直前の鈴木宗男参院議員の訪露とその発言を受けてのプーチン大統領への質問だったかもしれませんけれども、プーチン大統領の答えは、日本に話す気があるなら受けないでもない、と受け身ながらも、余裕を感じさせるものです。
今回の鈴木参院議員の言動が、維新の会の党としての考えと異なり、それを許容できないのであれば、除名も止むなしかと思います。ただ、現時点で単身ロシアに乗り込んだ国会議員という意味では、鈴木宗男議員は、対話の窓に手を掛けることの出来る一人ではあると思います。
それに、たとえ維新の会が鈴木参院議員を除名したとしても、鈴木参院議員はその主張を曲げることはないでしょうし、無所属の立場で今の活動を続けると思います。
松野官房長官は、鈴木参院議員のロシア訪問については「政府として答える立場にない」としていますけれども、政府としては、野党議員とロシアとの間にパイプがあるな、くらいで放置でよいのではないかと思いますね。
この記事へのコメント
kamo
あれ、ロシアを絶対悪とみない日本人がいることは、当然のことでしょう。
戦争は、常に、敵は常に絶対悪としての存在です。
ロシアが絶対悪だと認めることは、単に、いかなる議論も推敲もなく一方的に、ロシアと戦争をするという意味でしかありません。
もし、日本が、この戦争を仲介する意思があるなら、或いは可能性を残すとするなら、どちらか立法的に絶対悪だとするののでは、何も出来ません。戦争しかないからです。
ロシアを絶対悪ではないとする立場を日本人が持つことは、日本の可能性を維持する唯一の方法です。
ロシアが勝つかどうかではないのです。そんなことロシアに向かっているのは、単なるべんちゃらでしかないからです。
外交は、常に、可能性を残すことでなくてはなりません。
日本には、アメリカやNATOとは違う日本の立場があるし、あるべきです。其れが独立国の外交だからです。
その見識を持って外交をするべきです。
ウクライナの後ろで糸を引いているのはアメリカの民主党ですよ?
日本のメディアは、そのアメリカの左翼メディアの言い分をそのまま流してるだけです。呆れるほどプロパガンダばかりです。
本当は両方の言い分を聞き、中立の立場で検証しなくてはならないのに、日本政府はアメリカの言いなりで、全く情けない限りです。
もちろんロシアもひとすじなわではいかない国ですが、ウクライナが善の国だと思ってるなら、世界の評価を知らないだけです。
日本人は本当に自分の頭で考える力を無くしましたね。政府と官僚とメディアに騙されてコロナワクチンを8割も打ってしまったのも納得です。
HY
そもそもロシアのパイプにしろ、中国のパイプにしろ、その本質は閉鎖的な同国らに取り入り、気に入られた人材であり、ロシアや中国にとって都合のいいことしか言いません。都合の悪いことを言うとハブられるからです。
今までは中国もロシアも経済発展を優先してきたため、彼らはある程度は役に立っていました。しかしこれからはロシアは言うまでもなく、中国も安全保障が中心となり、純粋な欧米との勢力争いへ突き進んでいきます。
在日米軍を擁する日本はロシアとウクライナを仲介する能力もなければ、その資格もありません。今後中露からは「我々との経済関係を続けたければ米国との軍事同盟を離脱しろ」と打診が来ることでしょう。
くだらない陰謀論や逆張りに乗って満足していないで、自分の国の身の程というものをよく考えるべきですね。
金 国鎮