ハマス・イスラエル紛争でエネルギー危機は起こるか

今日はこの話題です。
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1.国際エネルギー機関の10月石油市場レポート


10月12日、国際エネルギー機関(IEA)は10月の石油市場レポートを公開しました。

当然ながらパレスチナのハマスとイスラエルの軍事衝突をリスク要因として挙げています。レポートで「増大するリスク」として報告されている部分を引用すると次の通りです。
世界の海上石油取引の3分の1以上を占める中東地域における地政学的リスクの急激な高まりが、市場を緊張させている。10月7日にハマスがイスラエルを奇襲攻撃したことで、取引開始時にトレーダーは1バレルあたり3~4ドルのリスクプレミアムを織り込んだ。その後、価格は安定し、本稿執筆時点ではブレント先物は約87ドル/バレルで取引されている。現物供給への直接的な影響はないものの、市場は危機の推移を注視している。

サウジアラビアとロシアが自主減産を年末まで延長し、原油在庫と留出油在庫が異例の低水準になったことで、原油価格は9月中旬にすでに98ドル/バレル近くまで急騰した。価格上昇は、「長期金利上昇」が経済と需要の成長を減速させるとの見通しに市場の関心を集中させた。

10月上旬には、ブレント先物は1バレル当たり12ドル以上急落し、84ドルとなった。これは、供給懸念がマクロ経済指標の悪化や、ガソリン出荷量が20年来の低水準に急落した米国の需要破壊の兆候に取って代わられたためである。新興市場では、為替の影響と補助金の廃止が燃料価格の上昇を増幅させたため、需要破壊がさらに深刻な打撃を与えた。

しかし、中国、インド、ブラジルの成長は続いており、今年の世界石油需要の伸びは約230万バレル/日と予想されている。2024年には、世界の石油需要の伸びは900kb/dまで鈍化すると予想される。これは、COVID後の反動減が一巡し、景気拡大が鈍化し、エネルギー効率の改善が石油使用の重荷となるためである。

今年と来年の世界供給の伸びは、それぞれ150万b/dと170万b/dで、非OPEC+生産者が大半を占める。OPEC+諸国については、イランが米国に次ぐ世界第2位の成長源となる予定ではあるものの、今年の供給は縮小傾向にある。自主的な減産により、石油市場は赤字基調を維持すると予想され、OPEC+は23年第4四半期に自国産原油の供給量を130万バレル/日下回る可能性がある。1月に追加減産が解除されれば、石油市場は黒字に転じる可能性があり、枯渇した在庫を補充するのに役立つだろう。8月の世界の石油観測在庫は6,390億b減少し、うち原油は1,023億bの大幅減となった。

中間留分市場は、北半球の冬に向けて逼迫している。欧州連合(EU)によるロシア産原油の禁輸措置が発効してから10ヵ月が経過したが、欧州の製油所は依然として処理量とディーゼル生産量の引き上げに苦戦している。高水準の軽油輸入を維持する必要があるが、厳しい冬期品質規格が供給プールを制約している。供給不足を回避するには、もう一冬暖冬が必要かもしれない。

中東紛争は不確実性に満ちており、事態は急速に進展している。IEAがしばらくの間予想していたように、石油市場は緊密に均衡しているが、国際社会は中東地域の石油フローに対するリスクに引き続き注目している。IEAは引き続き石油市場を注意深く監視し、市場が十分な供給を確保できるよう、これまで同様、必要であれば行動を起こす用意がある。
このように、ハマスとイスラエルの軍事衝突について「中東の石油供給リスクを高めた」と分析する一方、サウジアラビアが原油の自主減産を撤回すれば「世界の石油市場の需給バランスへの影響が大きい」と期待を寄せています。


2.ハマス・イスラエル紛争はオイルショックの再来になるか


ハマスとイスラエルの軍事衝突は石油危機を呼ぶのかについては、色んな見方がされているようですけれども、ストラテジック・エナジー・アンド・エコノミック・リサーチ社長で、石油・ガス市場を主とした国際エネルギー分析の専門家として著名なマイケル・リンチ氏は、フォーブス誌に「ハマス・イスラエル紛争が『石油危機』の再来にはならない理由」という論考を寄稿しています。

件の記事の概要は次の通りです。
・パレスチナのガザ地区を支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルへの越境攻撃は、イスラエルがハマス、そしておそらくその後ろ盾のイランに報復することで、長く、混沌とした、血なまぐさい紛争をもたらすだろう。ガザ側でもイスラエル側でも民間人の死者が急増する可能性が高く、双方の敵対心を高め、世界中に恐怖と不安を与えることになるだろう。地政学的な影響は大きくなりそうだが、それについてはその方面の専門家に委ね、ここでは筆者の専門である石油市場への影響について論じたい。

・今回の事態はたしかに1973年の第1次石油危機(オイルショック)時と重なる面があるので、石油価格が急騰するのではないかと連想する人も少なくないだろう。だが、読者の父親(や母親)が経験したような石油危機の時とは事情が違っている。ユダヤ教の神聖な日「ヨム・キプール(贖罪の日)」に合わせた奇襲攻撃だった点を除けば、実際のところ当時と現在で似た点はほとんど見当たらない。

・第1次石油危機(アラブ諸国による石油禁輸としては2回目)ではそれに先立って、石油輸出国機構(OPEC)諸国の大半の石油を生産する石油会社側と政府側が数年にわたり、税や統制、所有権をめぐり争っていた。また、1973年に一部の産油国が石油の禁輸や減産を発表した時点で、数年におよぶ需要急増のために市場はすでに非常に逼迫していた。そこに石油供給の喪失と、戦争が続く期間の見通しの不透明さが重なった結果、石油のパニック買いが起こり、価格は3倍に跳ね上がった。

・もちろん、現在の紛争も石油価格に影響を与えるだろう。中東のどこで暴力が起きても、たとえその場所が油田や産油国からかなり離れていても、石油市場の緊張は高まる傾向にある。イスラエルやガザでの荒々しい暴力の映像を目にした投資家たちは、事態が波及する可能性、たとえば直接的にはイスラエルによるイランへの攻撃、間接的には一部の産油国によるハマスへの同情的な減産などを懸念して、石油市場で買いを入れるに違いない。とはいえ、石油価格の上昇や大きな変動が長引く可能性は低いだろう。そこでは産油国やその他の政府とくに米政府の対応が鍵を握るはずだ。

・1973〜74年に石油価格の急騰を引き起こした要因は、今回はほとんど存在しない。それどころか、当時と比べてプラスの変化もいくつかあり、それによって大幅な値上がりは抑えられると考えられる。1つ目の違いは、パレスチナ人を政治的に支持する人や国は多いものの、ハマスを支持する者は少なく、今回の攻撃によって増えそうにもないことだ。イランは石油輸出国でハマス側についている唯一の国だが、連帯の証として石油輸出を減らすには経済的に不利な立場にある。なかでも不都合なのは、自国が石油の輸出を減らした場合、他国がそれを埋めるのがほぼ確実視されることだ。

・もっとも、イランにはそもそも選択肢が存在しないかもしれない。米国のジョー・バイデン政権はイランによる石油輸出の拡大に目をつぶっているようだと最近指摘されており、今年前半の輸出量は日量60万バレル増えている。だがこうした状況はおそらく続かず、イランは石油の一定量の輸出は続けられても、その量は少なくとも日量30〜40万バレル減ると見込まれる。

・これは石油相場にとって強気材料になるが、減産幅の点でも価格への影響という点でも1973年とは比較にならない。影響を左右するのはサウジの対応だろう。サウジとイランの緊張はこのところ緩和しているとはいえ、サウジが今回の事態でハマスやイランを援護しそうにはない。サウジはむしろ、イランの石油輸出減少分を補うことで石油相場を安定化させ、バイデン政権を政治的に側面支援する可能性が十分ある。そうなれば、サウジが石油生産量をわずか4カ月で日量150万バレル近くも増やした2003年の再演というかたちになる。

・第1次石油危機との2つ目の違いは、現在の世界経済は高インフレや労働争議の頻発、金利の上昇、新型コロナウイルスの新たな感染拡大、そして中東での新たな暴力によって、ますます脆弱になりかねない状態にあることだ。企業投資や個人消費は不安定な政治情勢によって簡単に減少し、つい1週間前には後退しているように見えたリセッション(景気後退)の引き金となりかねない。欧米でのテロ攻撃やその懸念も消費者心理を悪化させるおそれがある。要するに、現在の市況は1973年のような逼迫した状態と反対だということだ。

・3つ目の違いは、現在の石油市場は50年前にアラブ諸国による石油禁輸の影響を軽減した「セブン・シスターズ」(欧米の大手石油会社7社)の強い支配下にはない一方で、巨大なスポット(随時取引)市場が存在することだ。そのおかげで、1970年代の2回の石油危機で大きな問題になったようなパニック買いは抑えられるに違いない。民間の石油販売者(トレーダーや供給余剰のある企業)が買いだめに走る可能性はあるものの、供給面での脅威はパニック買いを引き起こすほど深刻ではないように見える。

・4つ目は、中東の石油輸出国は今では自国の石油産業を完全に掌握しており、大半の国は石油を政治的な武器として用いるのを控えていることだ。1970年代以降、石油輸入国は、不安定で敵対的と判断した地域の石油への依存度を引き下げる努力をした。中東産の石油を完全に代替するのは難しすぎるため多くの試みは挫折したが、それでも1980年代初めにOPEC産石油への需要は半減している。

・最後に、経済協力開発機構(OECD)諸国の政府によって管理されている石油在庫が、過去2年は米国の戦略備蓄3億バレル放出をはじめ大幅に減っているとはいえ、なお推定12億バレルほどあることだ。もし石油の供給が絞られてもその量は比較的少ないと想定されることを考慮すると、これらの在庫は石油価格の大幅な上昇に賭けたい人にとって不安材料になるだろう。今回の紛争による長期的な影響はまだ不透明な面があるものの、石油価格と世界経済への短期的な脅威はそれほど大きなものではないと考えられる。
マイケル・リンチ氏は「パレスチナ人を政治的に支持する人や国は多いものの、ハマスを支持する者は少なく、たとえハマスを支援するイランが石油減産に踏み切っても、サウジがその穴埋めをするであろうこと」、「現在の世界経済は、ますます脆弱になりかねない状態にあること」、「巨大なスポット(随時取引)市場が存在すること」、「中東の石油輸出国の大半は石油を政治的な武器として用いるのを控えていること」の4つの理由から、石油危機の再来は起こらないと予測しています。


3.西側諸国はオイルショックへの備えを欠いている


一方、ハマス・イスラエル紛争がエネルギー危機を引き起こすという見方もあります。

ロンドン・サウスバンク大学の予測・イノベーション客員教授のジェームズ・ウードハイセン氏は、イギリスのネットマガジン「Sp!ked」に「ガザ紛争が次のエネルギー危機を引き起こす可能性」という記事を寄稿しています。

その概要は次の通りです。
・中東におけるいかなる戦争も、世界のエネルギー市場を大混乱に陥れるに違いない。イスラエルにおけるハマスの残忍な大虐殺に続く紛争も、その例に漏れないだろう。1973年、イスラエルとエジプト、シリアを中心とするアラブ諸国との間で起きたヨム・キプール戦争は、石油輸出国機構(OPEC)が西側諸国への石油販売禁止を宣言したため、その後のエネルギー危機として別の場所で記憶される傾向にある。

・あのような規模の石油危機が起こる可能性は低いかもしれないが、ガザ紛争がどのような結末を迎えるにせよ、化石燃料価格のインフレはほぼ確実と思われる。世界経済にとって炭化水素がいかに重要か、そしていかに簡単に手放すことができないかを、多くの西側指導者たちが想像していたよりもはるかに早く、私たちは知ることになる。

・「フィナンシャル・タイムズ」紙などは、すでに戦争の影響を軽視している。同紙は、7月以降、米国のガソリン在庫は10年平均を大幅に上回っており、世界的な価格変動の影響を受けにくくなっていると指摘している。また、タカ派的な中央銀行は金利上昇を長期化させ、世界の商品市場のパニックを和らげるだろうとしている。原油価格は1バレル100ドルを突破するかもしれないが、それは「一時的な現象である可能性が高い」という。

・国際エネルギー機関(IEA)も同様にガス価格の見通しに満足しており、開戦からわずか数日後に、今日の市場は大規模な供給ショックに対して比較的強いと宣言している。さらに、液体天然ガスの液化のための新しいターミナルの建設と「供給ファンダメンタルズの改善」によって、2025年か2026年までにはガス価格に下落圧力がかかるだろうとさえ主張している。

・FTもIEAも的外れだ。もちろん、石油やガスの価格を予測するのは愚かなことだ。需要と供給は、ここで作用する要因の一部にすぎない。価格は、現在勃発中の軍事衝突の規模や長さ、探査、抽出、加工の技術、株式市場の投機、その他多くの要因によっても形成される。しかし、化石燃料価格の全体的な傾向として、価格は上昇するだろう。

・ここで見落としてはならないのが、現在の紛争の地政学だ。巨大産油国であるサウジアラビア、カタール、イラクは、それぞれハマスとの全面的な連帯を宣言している。イランは今週末の攻撃に直接関与したとさえ考えられている。OPECは、イスラエルの支援者である西側諸国が望めば、非常に困難な状況に追い込むことができる。その証拠に、1970年代の石油禁輸を振り返るまでもなく、OPECはここ数年、ロシアに寄り添う姿勢を見せている。カタールとロシアも同様に、世界の重要なガス供給国である。一方、経済成長を続けるアジアの飽くなき化石燃料の輸入需要も、世界的な供給不足と価格上昇に拍車をかけるだろう。

・環境保護に熱心な人々は、中東で起きている問題は、国内での自然エネルギーや電気自動車の必要性を裏付けるものだと言うだろう。しかし、それは空想にすぎない。

・地政学的な情勢が不安定になればなるほど、世界中の軍事組織は灯油や石油を欲しがるだろう。ウクライナの最前線や台湾の領空では、電動戦車や電動戦闘機はむしろ遠い存在だ。

・世界の農業も同じだ。電動トラクターは存在するが、1回の充電で4時間しか走行できない。電力供給に関しても、風が吹かないときや太陽が照らないときに天然ガスがバックアップしてくれない限り、自然エネルギーを拡大することはできない。ネット・ゼロへの移行は、エネルギー安全保障の改善には何の役にも立たない。

・ハマスによるイスラエル攻撃は、西側諸国にとって最悪のタイミングで起こった。今年第2四半期、アメリカの連邦政府債務はGDPの120%近くに達した。同様に英国でも、5月末時点で英国の公的部門の純債務は2.5兆ポンドを超え、英国のGDP全体に匹敵し、1961年以来最も高い比率となった。金利が上昇すれば、この負債を返済するのはさらに難しくなるだろう。さらに、米国議会の混乱、世界の主要都市の多くで起きているイスラム主義者の動揺、イランの反体制運動など、ウォール街やロンドン・シティの緊張はさらに高まるだろう。その結果、石油やガスの価格も上昇する傾向にある。

・国際通貨基金(IMF)は、最新の世界経済見通しで次のように指摘している: ユーロ圏と英国では、過去の相対的な価格変動からのパススルー、特に外部要因に関連したエネルギー価格ショックからのパススルーが、最近、コア・インフレの牽引役としてより大きな役割を果たしている」。言い換えれば、石油・ガス価格が上昇すれば、一般的な生活費も上昇するということだ。

・欧米の政治家の多くにとって、ハマスとイスラエルの戦争は、ネヴィル・チェンバレンが1938年にチェコスロバキアをめぐる危機を表現したように、ほとんど「遠い国の、何も知らない人たちの争い」であるかのようだ。しかし、来るべきエネルギー価格の高騰は、この危機を現実のものとするかもしれない。
ジェームズ・ウードハイセン客員教授は、ハマスとイスラエルの戦争によって、原油価格が大きく変動することはないとする「フィナンシャル・タイムズ」や「国際エネルギー機関(IEA)」の予測は的外れだとし、中長期のトレンドでみれば、原油・ガス価格の上昇は避けられないと主張しています。

もっとも、ウードハイセン客員教授は1973年の第1次石油危機(オイルショック)程のものが起こる可能性は低いとしていますから、この点では前述した国際エネルギー機関(IEA)の10月レポートと同じです。

あるいは直近でみるか、長期でみるかの視点の違いなのかもしれません。

ただ、どちらの主張も、ハマスとイスラエルの戦争がそれ以上拡大しないという前提での話であって、戦火が拡大すれば話が違ってくる可能性も考えられます。

ネットではカタールが、イスラエルのガザ爆撃が止まらなければ世界各国へのガス輸出も停止すると脅した、なんて噂もあるようです。まぁ、カタール一国のガス輸出停止云々で、世界が一気にガタガタっとなるとも思えませんけれども、もしカタールがそのような動きをしたとすれば、他国もそれに対応してくるでしょうし、それに伴って、世界のエネルギー供給構造にも影響が出てくるかもしれません。

たとえ、第1次石油危機(オイルショック)並みの危機が起きなかったとしても、ハマスとイスラエルが戦争になった段階で平時ではなくなっています。

やはり、日本は中東からの原油・ガス輸入が細ったときのことも考え、原発再稼働を急ぐなど、バックアップを早急に進めるべきではないかと思いますね。



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