

1.税収増を還元
岸田総理が10月23日に行われる臨時国会の所信表明演説で、減税も念頭に、税収の増加分の一部を国民に還元する考えを訴えることがわかりました。
複数の政府・与党関係者によると、岸田総理は所信表明演説の中で急激な物価高に賃上げが追いついていない現状に触れたうえで、「成長による税収の増収分の一部を公正かつ適切に還元する」とし、あくまで一時的な措置としたうえで、所得税減税も含めた具体策の議論を行うよう、近く与党の税制調査会に指示するとのことです。
もっとも、現時点での経済対策について、自民・公明両党からの提言では、ガソリン価格の高騰を抑える補助金の継続などが盛り込まれた一方で、所得税減税については提言には盛り込まれていません。
提言を受けた岸田総理は「物価高に苦しんでいる国民を支援することとともに、新しい経済ステージへのチャンスをつかみ取る、大胆な取り組みに踏み込みたいと思っている」と述べていますけれども、毎日新聞の世論調査で、政府の経済対策について「期待しない」が6割を超えている結果が示しているとおり、「異次元の」とか「大胆な」とか、派手な形容詞を並べてみても、国民は少し醒めているような気がしないでもありません。
2.去年の所信表明
経済対策で派手な形容詞を使うという意味では、去年の所信表明でも使われていました。
昨年10月3日の所信表明演説から、経済政策と物価高の部分について抜き出すと次の通りです。
(経済政策)このように、電気料金について「前例のない、思い切った対策」を講じる、と述べていました。
日本経済の再生が最優先の課題です。
我が国は、コロナ禍を乗り越え、社会経済活動の正常化が進みつつあります。しかし、足下では、ロシアによるウクライナ侵略と円安によるエネルギー・食料価格の高騰、世界の景気後退懸念が、日本経済の大きなリスク要因となっています。
新しい資本主義の旗印の下で、「物価高・円安への対応」、「構造的な賃上げ」、「成長のための投資と改革」の三つを、重点分野として取り組んでいきます。
(物価高・円安対応)
まず、「物価高・円安への対応」です。
我々は、食料品とエネルギーを中心に、生活に身近な商品の値上がりが続く事態に対し、機動的な対応を行ってきました。
先月には、食料品やガソリンの値上がりを抑えるための追加策を取りまとめました。特に家計への影響が大きい低所得世帯向けに、緊急の支援策を講じました。
間を空けることなく、今月中に、総合経済対策を取りまとめ、何としても、この物価高から、国民生活と事業活動を守り抜きます。
食料品については、既に輸入小麦価格、配合飼料の負担を十月以降も据え置く措置を講じています。
これから来年春にかけての大きな課題は、急激な値上がりのリスクがある電力料金です。家計・企業の電力料金負担の増加を直接的に緩和する、前例のない、思い切った対策を講じます。
さらには、エネルギー安定供給の確保、再エネ・省エネの推進、農産物の国内生産を通じた食料安全保障の確保など、エネルギー・食料品について、危機に強い経済構造への転換に取り組みます。
円安に対しては、これらの対応と併せ、円安のメリットを最大限引き出して、国民に還元する政策対応を力強く進めます。
今月十一日から、ビザなし渡航、個人旅行再開など、インバウンド観光を復活させ、訪日外国人旅行消費額の年間五兆円超の達成を目指します。全国旅行支援やイベント支援も再開し、コロナ禍からの需要回復、地域活性化を図ります。
さらに、円安メリットを活かした経済構造の強靱(きょうじん)化を進めます。半導体や蓄電池の工場立地、企業の国内回帰や、農林水産物の輸出拡大などに取り組みます。
3.前例があるいつもの対策
では、前例のない、思い切った対策とは何だったのか。
2022年10月28日に閣議決定した「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」に盛り込まれたエネルギー価格高騰対策として、「電気・ガス価格激変緩和対策」が取られました。これは、毎月の請求書に直接反映する形で料金の値引きを行うもので、電気は低圧:7.0円/kWh、高圧:3.5円/kWhの値引きです。
当初の予定ではこの「激変緩和措置」は今年9月一杯で終了予定だったところ、2024年1月までの延長が決定。ただし値引額は10月から半減し、低圧:3.5円/kWh、高圧:1.8円/kWhとなりましたから、その分は値上げになるものと思われます。
次の図は家庭用電気料金(低圧(従量電灯))の推移グラフですけれども、2022年末に31.24円/kWhだったのが、激減緩和措置による支援で23年2月から25.6円/kWhと、見事に7円値下がりしています。

確かに激変は緩和できたかもしれませんけれども、電気代は依然として2021年のレベルであり、また緩和措置は支援という名の補助金です。その意味では、「前例のない、思い切った対策」というよりは「前例がある、いつもの対策」と言った方が合っているのではないかと思います。
4.修飾子付き対策の限界
10月16日、岸田総理は東京・江東区内のスーパーマーケットを視察に訪れ、野菜や肉のコーナーを視察し、その後の記者会見で、「確かに物価、肉ですとか、野菜ですとか、この価格は上がっている……特に野菜などは、今年の夏、大変気温が高かった、暑い夏が野菜には価格高騰に大きく影響しているなどという説明を伺いました。確かに、価格は上がっているわけですが、その理由、物によって、背景によって、随分様々な理由があるのだと、そんなお話も聞かせていただきました……今月にも取りまとめる経済対策は、まずは物価高から国民生活を守る、これを第1の柱にしたいと考えています」とコメントしました。
これに対し、SNS上では「岸田首相、今まで庶民が散々苦しいって訴えてたのに何を見てきたの?もっと早くに庶民の目線で現場を確認して庶民のために動いていればこんなにバッシングされることもなかっただろうに……」「遅過ぎるし白々しいし今更感がハンパない」「スーパーなんて久々に行ったんじゃない?絶対前の値段なんて知らんやろ。庶民の手取りとかも知らないくせに」と今更過ぎると反発を受けています。
岸田総理は、スーパー従業員などとの車座対話で「総理大臣になる前は議員宿舎で息子と過ごしていましたが、男世帯で鍋物を作るので、肉や野菜も近くのスーパーで買っていました。そのときと比べて高くなっています」と語ったそうですけれども、総理になる前ということは2年以上前の話です。電気代は激変緩和対策で2年前の水準に持って行けたかもしれませんけれども、食料品はそうなっていません。
もしも、食料品の値段が上がった理由について、今回の視察での説明で知ったというのなら、この2年、そこは放置していたということです。末端価格をいくら手当したところで、根本問題に手を付けなければ、いつまでたっても解決は覚束きません。
電気料金にしても、原発再稼働すれば、値上げなど不要なことは、原発を稼働させている関電や九電をみれば明らかです。
岸田総理は昨年の所信表明で、エネルギー確保について次の様に述べています。
GXの前提となる、エネルギー安定供給の確保については、ロシアの暴挙が引き起こしたエネルギー危機を踏まえ、原子力発電の問題に正面から取り組みます。
そのために、十数基の原発の再稼働、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設などについて、年末に向け、専門家による議論の加速を指示いたしました。
原発再稼働について議論を加速するように指示したと述べていますけれども、あれから1年経っても、状況は変わっていません。
これまで何度も言っていますけれども、どうも岸田総理は支持率が落ちるとか、なにか事が起こってからそれに反応する「リアクション」の政治をやっているように見えて仕方ありません。
世論の反発を受けてなのか、近頃しきりに「減税だ」と口にしていますけれども、それが補助金バラマキの「前例がある、いつもの対策」では、「偽減税」だと国民にバレてしまっています。
所得税減税や、消費税減税や、ガソリントリガー条項凍結解除などは法改正が必要だから出来ない、なんて言い訳も昔であれば通じたかもしれませんけれども、LGBT法案の強引なスピード成立を見せつけられた今となっては、やる気があるかないかの問題に過ぎないとみられてもおかしくありません。
果たして、秋の経済対策で何が出てくるか分かりませんけれども、「異次元の」とか「大胆な」とか「前例のない」とか派手な修飾子で飾ってみても、流石にそれが通じるのも限界な気がします。
言葉よりも行動で、やる気を見せないと、内閣支持率は中々回復しないのではないかと思いますね。
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