始動する南鳥島レアアース試掘

今日はこの話題です。
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1.南鳥島レアアース試掘


10月21日、日本政府は日本最東端の南鳥島沖の海底で確認されているレアアース(希土類)について、令和6年度中に試掘を始める方向で調整に入ったと報じられています。

経済対策を反映する5年度補正予算案に関連経費を盛り込むとのことで、ネット等の一部で取り上げられ盛り上がっているようです。

7月11日のエントリー「中国のレアメタルの輸出規制について」で取り上げたことがありますけれども、中国は8月1日から、半導体の材料となるレアメタル(希少金属)であるガリウム(8種類)と樹脂や電化製品などに使われるゲルマニウム(6種類)の関連製品、さらに次世代半導体の基板などに使われる窒化ガリウムの輸出規制を始めています。

中国政府は、製造業などの産業技術の輸出規制に関するリスト「中国輸出禁止・輸出制限技術目録」の改定作業を進めており、昨年12月に改定案を公表。その中の禁輸部分の第十一項目に次の様に示されています。

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このようにレアアースの抽出・加工・利用技術を禁止項目に挙げています。


2.水深5600メートルの探査



南鳥島沖では、水深約6000メートルの海底でレアアースを含む泥が大量に確認されています。

2023年7月25日から8月11日にかけて、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、海底広域研究船「かいめい」による南鳥島周辺海域でのレアアース泥調査航海を実施しています。

この調査では、自律型無人探査機(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)を初めて南鳥島周辺海域に投入し、自律型無人探査機に搭載したマルチビーム音響測深機(MBES:Multi Beam Echo Sounder)による海底地形データや、サブボトムプロファイラー(SBP:Sub-Bottom Profiler)による海底下浅部地層構造データ、そして、サイドスキャンソナー(SSS:Side-Scan Sonar)を使った海底面音響画像データを同時取得しました。

自律型無人探査機は、水深5600mの海底面から20mの高度で、安定した潜航調査を行い、各種の観測センサーで、従来の船上からの観測例と比べて数十倍の解像度を有するデータを取得することに成功しました。

この水深の海域でこれほどまでに高解像度・高精度の海底下地質構造のデータが取得された例は過去にないとのことで、これにより、レアアース泥を含む堆積層の空間分布を把握するために必要不可欠な情報を得ることが出来ました。

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3.閉鎖系二重管揚泥方式


日本政府は2015年1~3月の試掘開始を想定していて、調査期間は約1ヶ月を見込んでいるそうですけれども、試掘には昨年、茨城県沖の水深約2470メートルの海底から回収した技術を応用するとのことです。

これについては、昨年11月のエントリー「南鳥島沖のレアアース泥開発について」で取り上げたことがありますけれども、この時使われたのは「閉鎖系二重管揚泥方式」という技術です。

閉鎖系二重管揚泥方式とは、海底面から解泥機を差し込み装置内の堆積物に海水を注入して流動性のある状態にしてから揚泥管(ライザー)を通じて洋上に引き揚げる方式で、具体的には、採鉱装置(解泥機)を海底に差し込むことで海底のレアアース泥を採鉱装置に閉じ込めた後、固く締まったレアアース泥を採鉱装置内の攪拌装置で攪拌。海水と混ぜて懸濁液にしてから揚泥管へ移送します。そして、ライザー掘削システムが持っている揚泥管循環機能を使って、揚泥菅内を垂直に循環する循環流を発生させ、この流れに沿う形で、レアアース泥を採鉱装置内から船上まで引き上げるというものです。

ただ、水深約2470メートルからのレアアース泥の回収に成功したといっても、水深6000メートルとなると、また別の問題が出てきます。

例えば、揚泥管(ライザー)ひとつとっても、6000メートルは、3000メートルの倍の長さがあります。当然揚泥管はその分重くなり、それを支える素材も強くしなければなりません。ところが従来の揚泥管や支持素材では3600メートルくらいが限界なのだそうです。

こうした強度・重量の問題を解決するため、先が細くなるような異なる3種類の揚泥管(ライザー)を採用して重量を最適化、強度も耐えられる設計にするとか、異なる揚泥管(ライザー)を使うことに伴って、揚泥管の固定や持ち上げたりする機器を変更するなどするようです。

また、実際の海では水中に降ろした揚泥管も垂直に下りてくれるとは限らず、潮の流れで傾いたり、管を下ろしている船も海上で動きます。そんな中で安定的にレアアース泥を回収しなければなりません。


4.南鳥島レアアース開発は三十年かけても難しい



南鳥島での試掘が成功すれば、レアアースの国内調達に一歩踏み出すことになるのですけれども、そもそも、それが妥当な手段なのかという見方もあります。

もう10年も前になるのですけれども、2013年3月、当時アドバンストマテリアルジャパン社長で、現特別顧問の中村繁夫氏は「南鳥島レアアース開発は30年かけても難しい」という記事を東洋経済ONLINEに寄稿しています。

件の記事からポイントを拾うと次の通りです。
・最近、南鳥島のレアアース資源の報道がかまびすしい。……私の知る限り、成果が出るのは30年以上かかると考えている。

・水深5000メートルの海底に探しに行かなくてもオーストラリアやカナダには、ゼノタイム鉱石中のディスプロシウムはいくらでもある。

・日本近海には、海底から噴出する熱水の金属成分が沈殿してできた海底熱水鉱床の存在はずっと昔からわかっていることで、何も最近になって発見されたことではない。問題は採取コストが高く実現性が少ないことなのだ。

・日本はレアアースの代替技術やリサイクルで、日本の技術を総動員した対策をスタートさせた。だが、中国の資源関係者も馬鹿ではない。この程度のニュースに踊って「しまった、日本からレアアース資源が出てくるのか」などと考える「極楽とんぼ」は、私の知る限り見たことも聞いたこともない。

・私はレアアースビジネスを始めて、すでに35年になる。1995年までに、ほぼ可能性のある世界のレアアース鉱山を調査してきた。

・われわれの結論として、最も可能性のあると目される鉱山はオーストラリアのマウントウェルド鉱山であった。それ以外のレアアース資源は、開発コストが過大であり、経済合理性がないとの結論を出した。

・いずれ中国がレアアース資源を外交カードに使い資源制約が起こることも予見したが、レアアース市場の市場規模があまりに小さいことを考えると、技術革新が進み用途開発が飛躍的に進まない限り、大したことにはならないと読んでいた。

・2010年の9月の尖閣諸島事件から発展した中国レアアース輸出の禁止がレアアース市況を15倍以上にまで暴騰させた経験は、これまで何度も同様の投機の実態を見てきた筆者にとっても信じられないものだった。

・いったんは国際相場の上昇で、アメリカのモリコープのマウンテンパス鉱山やライナスのマウントウェルド鉱山が稼働し始めたが、中国の行き過ぎた価格操作の影響が裏目に出て密輸が横行し、とうとうレアアース市場の需給が完全に崩れて、市場の秩序そのものを崩壊させてしまった。

・結局、利益を手にしたのは投機筋(スペキュレーター)だけだった。中国では真面目にやってきたレアアース鉱山や精錬工場も、一時的な浮利を手にしたが結局は大損したのだ。

・一過性のレアアースブームをとらえ、世界中のレアアース鉱山は市況を見て気色だった結果、レアアースのような小さな市場(年間12万トン市場)に、世界中の資源関係者(ヤマ師)が群がった。

・資源ブームが去ったにもかかわらず、……世界中のレアアース資源の開発話が日本の需要家に持ち込まれ、経済合理性のない鉱山開発話に踊らされているのが実態である。レアアースの開発案件の数は多いが、何れもリスクが高く具体化出来ない案件ばかりだった。

・日本の資源開発は大手商社を中心に、過去5年間は一種のブームと言ってよいほど活発だった。日本政府は国家の資源政策を厚めに策定したのでその恩恵に浴したのは大手商社であった。各社の年間利益の半分以上は資源投資関連で占められたようだ。

・レアメタルやレアアースの投融資に興味を持ったのは双日や豊田通商などで三井物産や三菱商事、住友商事といった大手は、メジャーメタルにしか注力してこなかったのである。

・従ってMETI(経済産業省)もJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)も、資源確保戦略のための補助金制度をせっかく策定しても、生き金にできるアイデアが出てこない。資源メーカーは体力不足で、リスクを負うことができないため、総合商社が挑戦しているのがこれまでの流れである。

・総合商社はJBICなどの制度金融を利用しながら、銅を中心にLMEヘッジを利用して資源確保を進めて来たがレアメタルやレアアースは市場規模の壁もあってうまく行っているとは言えないのが実態だ。

・地球上の資源の中で単体の銅や亜鉛や鉛よりもレアアースの方が資源量はずっと多いのである。信じられないかもしれないが、地球に存在する単一元素の資源量(クラーク係数)ではレアアースが希少金属だと考える地質学者は何処にもいない。

・ただし、レアアース資源が遍在しているので、開発にリスクがあるだけだ。レアアースは「産業のビタミン」である。だから世界市場は12万トンしかない。銅の140分の1でアルミの340分の1、貴金属に近いニッケルと比べても10分の1の市場に過ぎない。

・レアアースは元々ガラスの添加剤か、ライターの火打石くらいしか用途がなかったが日本などの用途開発で、その新たな機能を発見して自動車産業や電子産業に利用されるようになったのだ。かりにレアアースの需要が増加して現在の2倍になったところで、資源が不足する可能性はないと予想する。

・逆に今回の一連の事件の影響からレアアース市場への原料供給が増えすぎ、2度とレアアース市場の国際価格が上昇することはないという見方も出てきている。

・中国も尖閣事件で頭に血が上って、レアアース市場の世界支配をするなどという非合理的なことを考えないほうがよい。それより、日本の用途開発技術を味方にしながらレアアース産業の発展に寄与した方がよほど、中国の経済発展に役立つと思う。
中村氏は海底からのレアアース採掘は、採掘コストと市場規模から経済合理性がないと述べていました。

また、中村氏は、中国がレアアース市場の世界支配をするなどという非合理的なことを考えないほうがよい、と述べていますけれども、レアメタルの輸出規制や中国輸出禁止・輸出制限技術目録の改定作業などを考えると楽観はできないと思います。

事実先日の福島第一原発の処理水問題にしても、まったく科学的根拠のないイチャモンを政治的理由だけでつけてくるのが中国です。政治的利益のためなら、非合理的なことも平気でやってくるのがかの国です。

この中村氏の記事から10年経ちましたけれども、あと20年かけても開発を進め、すくなくとも技術確立はしておくべきではないかと思いますね。



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