増税メガネは外せない

今日はこの話題です。
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1.衆参補欠選挙は一勝一敗


10月22日、長崎4区で衆院補選、徳島高知で参院補選が行われました。

与野党が対決する構図となったこれら補欠選挙は、衆院長崎4区で自民党が議席を維持した一方、参院徳島高知選挙区では野党側が議席を獲得し、与野党の1勝1敗となりました。

衆議院長崎4区の補欠選挙の投票率は42.19%と、過去最低だった平成26年の衆議院選挙と比べて10.25ポイント低くなり、過去最低を更新しました。開票結果は、自民の金子容三候補が5万3915票、立民の末次精一候補が4万6899票と接戦の末、金子候補が当選しました。

また、参議院徳島高知選挙区の補欠選挙の投票率は、去年の選挙と比べて14.37ポイント低い32.16%でこちらも過去最低となりました。一方開票結果は、野党系無所属の広田一候補が23万3250票、自民の西内健候補が14万2036票と大差がつきました。

今回の2つの補欠選挙では自民党や立憲民主党などの幹部が相次いで応援に入るなど、激しい選挙戦が展開されたのですけれども、自民は2議席あった議席を一つ失いました。


2.年内解散の行方


この結果に、マスコミは解散を模索する岸田政権にとって大きく2つの見方をしています。

ブルームバーグや朝日は、年内の衆院解散・総選挙は困難と見ているようです。

ブルームバーグは、元自民党職員で政治評論家の田村重信氏が補選の結果は野党が候補者を一本化したことのほか、岸田内閣の支持率低迷も要因と指摘していることを紹介。衆院解散・総選挙は「遠のいた。年内はとてもできないし、中東情勢次第で年明けもできなくなる」とのコメントを掲載しています。

また、朝日は、「自民は選挙前の2議席のうち一つを守れず、”必勝”を掲げた岸田文雄首相にとって手痛い1敗となった」と評価。2議席を維持できず、長崎でも野党に接戦に持ち込まれたことで、「選挙の顔」としての力に疑問符がつくとし、衆院解散の時期を含め、政権戦略の見直しを迫られる可能性があると論じています。

一方、産経や日経は、ギリギリで踏みとどまったと見ているようです。

産経は「与野党対決を1勝1敗としたことで、首相が模索する衆院解散・総選挙に道を残した」として、自民幹部の「2敗と1勝1敗では圧倒的に違う。首相もほっとしていた」とのコメントを紹介。首相が解散せずに来年秋の総裁選を迎えた場合、党内でその後に控える衆院選を意識し、勝てる候補を求める動きが強まりかねないと評論しました。

日経は「首相は衆院解散の時期を探る上で補選の結果を重視していた。投開票日2日前の20日に所得税減税の検討を与党幹部に指示したのも、終盤にかけて厳しさを増す情勢にテコ入れするためだった」と補選の背景を述べ、臨時国会で減税の是非などがテーマとなることや、11月後半にも政府が23年度補正予算案を提出すること、年末は24年度予算案と税制改正大綱の決定が控えることなどを挙げ、年内の衆院解散・総選挙の日程は窮屈だと指摘。解散のタイミングを逃せば来年9月の自民党総裁選への戦略にも影響を及ぼしかねないと述べています。


3.所得税減税でブレブレの自民党


今回の補選結果について、嘉悦大学教授の高橋洋一教授は、10月23日付の現代ビジネスの記事で次のように述べています。
【前略】

そうした中、10月22日、衆参補選が行われた。参院補選の徳島高知選挙区では野党候補が勝利し、衆院補選の長崎4区では与党候補が勝利し、1勝1敗だった。

これで、今国会の解散はやや遠のいただろう。内閣支持率が芳しくない中、参院補選はボロ負け、衆院補選は辛勝だからだ。

客観的に見れば、6月のサミット後解散、20日の臨時国会冒頭での減税解散が、与党勝利のためには最善手だった。しかし、岸田政権は解散風は吹かすが、結果として決断できていない。おそらく麻生政権のように解散チャンスを逃して、来年以降の「追い込まれ」状況になるのだろう。

いずれにしても、今国会では、経済対策が焦点になるだろう。

【中略】

政府の経済対策について自民党の提言案では、低所得世帯向けの支援や、賃上げに取り組む企業への減税措置の強化などを盛り込んだ一方、党内外から求められていた所得税の減税への言及はなかった。しかし、結局、岸田首相は、所得税減税をいうようになった。

これは、森山裕総務会長の発言の変化を見ていると興味深い。

10月1日、森山総務会長、減税なら「国民の審判仰ぐ必要」と、減税解散を示唆した。世耕参院会長や自民党内の若手・中堅の積極財政を求めるグループの減税を求める声に呼応した形だ。

しかし、その後財務省からの巻き返し強くマスコミを通じた反論が多くなり解散風が止むとともに、公明党の山口那津男代表は12日、所得税減税について税制改正を伴うものは年末の税調の議論を経て法改正した上で実行するとした。

15日になると、森山総務会長は所得税減税について慎重対応とし、財政規律を重視する立場からけん制した。

しかし、22日の衆参補選を睨み、これでは分が悪いとみるや、19日、岸田首相が所得税減税自民・公明両党に検討指示した。

これだけみても、所得税減税で自民党がブレているのがよくわかる。

この間、財務省は、自分のところの「応援団」をマスコミに登場させ、徹底的に所得税減税阻止に動いていた。一方、自民党内の積極財政を押す若手・中堅議員らは減税を目指して、水面下のバトルを展開していた。結局、かろうじて、後者がやや勝利した形だ。

ただし、筆者としては、この間の減税論争には不満がある。政策作りの常識として、まず今の財源精査がある。2021,22年度の補正後税収見通しと税収実績の差、23年度の税収見通しとそこからの上振れ見通しを全て合算すると15兆円程度。それに安倍・菅政権の経済対策の使い残し、外為特会などの円安による含み益などをすべて合算すると50兆円程度と筆者は見ている。

さらに、今のGDPギャップがどうなるか。政府や日銀はギャップがほとんどないという見方だが、両者は過去にも過小推計をしてきた「前科」があるので、筆者は3%程度と見ている。

となると、真水15~20兆円の経済対策が必要となる。各党の議論では、この規模感の議論が少ないように見受けられる。

規模が決まれば、その内訳は有効需要の原理からいえばどうでもいいので、実施のスピード感などから、政治的に決めればいいと筆者は思っている。

【中略】

消費減税すると、商品の買い控えなどで社会が混乱するという話もあるが、他の先進国ではそうした話が深刻であるとは聞いたことがない。

いずれも、減税させないための方便にしか聞こえない。

さらに、広く国民が利益を享受できる方法として、社会保険料の減免をいうこともある。もちろん、社会財源がなくなるので、一般会計から社会保障特会へ一般財源の繰入が必要になってくる。

岸田首相のいう成長の果実を国民に還元するためには、社会保険料の減免はすべての国民に恵みの雨となる。しかも、とるべき社会保険料を取らないのであるから、実務も簡単である。ただし、手続き的には減税と同じで関係法令の改正が必要である。

税法改正案などが臨時国会にでてくるか、それとも12月の来年度税制改正大綱の中なのか。どうも後者のような気がするが、それだと税法改正が来年3月、実施は来年10月以降だろう。夏のボーナスにも間に合わないような気がする。

消費税対応でレジ電子化やマイナンバーで個人銀行口座とのリンクが容易になった以上、政策コストを考えても、減税実施が遅れるとしても、消費減税や給付金は、今国会で補正予算や税法改正を手当すれば、かなり迅速に処理できるだろう。
高橋教授は、岸田総理は秋、年内解散の決断が出来ず、来年以降の追い込まれ解散になると予想した上で、岸田政権のブレブレな経済政策と減税したくない財務省の暗躍について指摘しています。


4.増税メガネは外せない


また、高橋教授は、同じく22日付の夕刊フジの記事で、「減税解散」こそ切り札になるが、手遅れになるだろうと述べています。

件の記事の概要は次のとおりです。
・世論調査で岸田文雄内閣の支持率が低下傾向だ。回復させるには何が必要なのか。

・NHK調査では、岸田政権の2年間の取り組みをどの程度評価するか尋ねたところ、「大いに評価する」が2%、「ある程度評価する」が38%、「あまり評価しない」が39%、「まったく評価しない」が15%だった。

・岸田内閣が最優先で取り組むべきだと思うことを6つの選択肢を挙げて尋ねたところ、「物価高対策を含む経済政策」が50%、「少子化対策」が13%、「社会保障」が11%、「外交・安全保障」が9%、「環境・エネルギー政策」が5%、「憲法改正」が4%だった。

・岸田政権の2年間で、広島サミット、原発処理水放出、防衛力強化などはまずまず評価されているのだろうが、経済対策への不満もあって、支持率が低迷しているとみられる。

・何より、岸田首相が「増税メガネ」とあだ名されている。実際の政策では、目立った増税はしていないが、ステルス増税といわれる細かい税措置が不評だ。安倍晋三・菅義偉政権当時のようなコロナ禍でもないし、消費増税のような前政権からの負の遺産もないので、経済状況はいい。その反動で財政状況もよく、税収の上振れも大きい。であれば、素直に税収の上振れを「減税」すればいいのだが、「国民に還元」と言いながら、スッキリ所得税や消費税の減税と言わないのが、国民にはもどかしい。

・所得税、消費税、ガソリン税など国民生活に直結しているもので減税することが物価高対策、少子化対策などになるはずだが、これらの諸税の所管は財務省(国税庁)なので、岸田首相は財務省を説得できず、減税措置を言い出せないとみられている。

・安倍元首相ですら、その『回顧録』に書かれているように財務省にはてこずらされた。消費増税を予定通りに行わせないために衆院解散、総選挙に勝利して国民の信を得たことで、財務省を黙らせることができたくらいだ。

・このため筆者は、減税措置を打ちだし、「減税解散」するのが、支持率回復の切り札と思っている。問題は岸田首相にその勇気があるかどうかだ。

・他の施策で支持率を回復させてから解散・総選挙と思っていたら、手遅れになるのではないだろうか。
高橋教授は、岸田総理がすっきりと減税措置言い出せないのは、財務省を説得できないからだと指摘し、思い切って「減税解散」できなければ、手遅れになると述べています。

10月20日、鈴木財務相は閣議後の記者会見で、「防衛関係費のような恒常的に必要な経費は税制措置によって安定的な財源を確保することが大切。物価高騰等に対する対策、国民の生活を守る対策、これとは矛盾しない」と物価対策としての所得税の減税を検討することと、防衛力強化のための増税の議論は「矛盾しない」という認識を示していますけれども、まるで、朝三暮四かなにかのようです。

減税して増税するのなら、やっぱり増税するんじゃないかと思われても仕方ありませんし、また、鈴木財務相は、別のところで、消費税率引き下げ「極めて慎重な検討が必要」 などと発言し、意地でも減税しない姿勢を見せています。

鈴木財務相の一連の発言について、10月9日の文化放送「おはよう寺ちゃん」に出演した経済評論家の上念司氏は、「あまりにも減税で国民が盛り上がるもんだから、鈴木財務大臣が財務省から「火消ししてこい」と言われて、でこういう火消をやってるわけなんです。」と述べています。

仮に、岸田総理が、こういう鈴木財務相を更迭でもしてみせれば、少しは減税に本気であることを見せることも出来るかと思いますけれども、”いとこ”だからか何なのか分かりませんけれども、鈴木財務相になにも出来ていません。

傍からは、支持率がヤバくなったから、減税を言ってみたものの、財務省の巻き返しをくらってアワアワしているように見えてしまいます。

腰が入っていない。これでは、国民に「増税メガネ」を外して貰えるとも思えません。

こんな姿を見せられているからか、減税に対する国民の期待は(もとから無かったかもしれませんが)、急激に萎んでいっているようにも感じます。

高橋教授が指摘した「他の施策で支持率を回復させてから解散・総選挙と思っていたら、手遅れになる」というのは相当程度当たっているのではないかと思いますね。




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この記事へのコメント

  • yoshi

    現政権では増税は避けて通れないと思います。
    2023年10月24日 13:51