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1.人質を返して降伏すれば戦争は終わる
イスラエルのガザ地区地上侵攻が秒読みとされてから足踏みが続いていますけれども、10月23日、イスラエル国防総省のジョナサン・コンリクス報道官は、オーストラリアのABCラジオに対し、ガザ地区へ地上侵攻する条件について語りました。
コンリクス報道官は、何日も憶測が飛び交っているにもかかわらず地上侵攻が遅れている理由には答えず、「もしハマスがイスラエルの市民の下に隠れている隠れ場所から出てくるなら、それが彼らが今やっていることであり、われわれの人質を返して、無条件降伏すれば、戦争は終わるだろう……もし彼らがそうしないのであれば、われわれはおそらく突入し、それを成し遂げなければならない」と述べました。
これまで、ハマスに対し、ネタニヤフ政権が「ハマスのテロリストは残らず亡き者とする」とか「われわれは彼らを地球上から抹殺する」とか言っていたのと比べると、大分、勿体付けた言い方です。
コンリクス報道官のこの発言は、要するに人質を解放して降伏すれば地上侵攻しない、ということですからね。多少なりとも譲歩した印象です。
2.イスラエル地上作戦はない
このイスラエルの態度について、10月23日、ロシアのプラウダ・オンラインは「ガザでのイスラエル地上作戦はない。次はどうなる?」という記事を掲載し、次のように述べています。
・アメリカ政府はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に圧力をかけており、ガザでの地上作戦は行われないようだ。何が起こるかはナゴルノ・カラバフの歴史で説明できる。このように、ネタニヤフ首相はガザ地区への地上侵攻を諦めたと評しています。
・イスラエルの報道機関は、X*ネットワークの軍事アナリスト、アヴィ・イサチャロフ氏の意見を引用し、イスラエル軍によるガザ地区での地上作戦の開始は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の主導で延期されているとの見方を示した。
・「地上作戦が延期されているのは、主に首相のせいだ。軍隊は準備ができている」と著者は書いている。彼の意見では、「国際社会はすぐに我々を止めるだろう」
・つまり、ハマス殲滅の用意があると5回も宣言した男が、あきらめたということだ。
【中略】
・アメリカだけがネタニヤフ首相に影響を与えることができる。アメリカはイスラエルの安全保障を保証し、武器や行政資源などの資源を供給しているのだから。
・どのような方法でイスラエル首相に圧力をかけたのかは不明だが、会話が厳しいものであった可能性は否定できない。おそらく首相には、地上作戦は多くの流血に終わる可能性があり、それに対する世界の反応は米国にとって不愉快なものであること、米国の資源には限りがあり、レバノンのヒズボラやその他のイランの代理勢力が紛争に巻き込まれた場合、ワシントンは助けることができないことなどが説明されたのだろう。50万人の軍隊を持つトルコも排除できない。
・アメリカのメディアは、会談はアメリカのロイド・オースティン国防長官が主導したと報じている。
【中略】
・今後の動きはハマス次第だが、すべてが合意され、パレスチナ側は人質を解放することになりそうだ。
・「解放の準備はできているが、そのためには有利な条件が整わなければならない。ガザ地区への侵略を止め、ガザへの援助を許可しなければならない」とハマスのスポークスマン、ガジ・ハマドはBBCに語った。
・「降伏」については、イスラエルの最初の要求が満たされれば、2番目の要求について長い交渉が行われるだろう。ナゴルノ・カラバフになぞらえれば、ハマスとガザが自国を降伏させれば、問題は前者の破壊と後者の併合で終わるだろう。自国民の中にはカタールとイランがいる。残りは「沼地」だ。今のところ、降伏の理由は見当たらない。
・ニューヨーク・タイムズ紙は、イスラエルが南と北(ヒズボラ)の2つの前線で戦争することは、アメリカとイランの両方を巻き込む可能性があると書いている。同紙がインタビューした専門家によれば、ワシントンが紛争に深く巻き込まれるにつれ、台湾への関心は "薄れるかもしれない "という。大雑把に言えば、選択を迫られているのだが、その選択はイスラエルに有利なものではなく、"中国封じ込め "に有利なものなのだ。
【後略】
3.ナゴルノ・カラバフ
件の記事では、イスラエルが地上侵攻を諦めたとして、これから何が起こるかについて述べているのですけれども、それはナゴルノ・カラバフのようになると述べています。
ナゴルノ・カラバフは、アゼルバイジャン共和国の西部にある地域なのですけれども、2023年9月19日、この地域を実効支配するナゴルノ・カラバフ共和国とアゼルバイジャン共和国が軍事衝突しました。
戦闘は24時間続き、翌20日に停戦合意が成立。ナゴルノ・カラバフ共和国が事実上降伏する形で終結しました。勝利したアゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフの主権回復を宣言し、9月28日にはナゴルノ・カラバフ共和国大統領サンベル・シャフラマニャンが2024年1月1日までに国家が消滅することを宣言することとなりました。
このあたりの経緯と背景について、NHKの石川一洋・専門解説委員は次のように解説しています。
Q そもそもこのナゴルノ=カラバフ紛争とはどのような経過を辿ったのでしょうかつまり、当初劣勢だったアゼルバイジャンは石油を梃子に米露を味方につけながら、軍事力を増強していったのに対し、アルメニアはアゼルバイジャンを過小評価していたというのですね。
A 地図をご覧ください。アルメニアとアゼルバイジャンはかつてはソビエトを構成する共和国でアゼルバイジャンの中にアルメニア人が多数住むナゴルノ=カラバフ自治州がありました。
アルメニア人は古いキリスト教のアルメニア正教信じる歴史のある民族です。アゼルバイジャン人は主にシーア派のイスラム教徒で言語的にトルコと近い民族です。
ソビエト時代末期アルメニア人が多数住むナゴルノ=カラバフ自治州がアゼルバイジャンからアルメニアに帰属替えを求める運動を起きたことが発端です。
91年のソビエト連邦崩壊後、両国の全面戦争となり、その時は今とは逆にアルメニアが軍事的にアゼルバイジャンを圧倒、ナゴルノ=カラバフのみならずその周辺の地域を含めアゼルバイジャンの領土の14%を占領、この状況が実は2020年秋まで続いたのです。
Q そのアルメニア側が今回、自称ナゴルノ=カラバフ共和国が消滅し、敗者となりました。
なぜこのようなことが起きたのでしょうか?
A まず90年代アルメニアが勝利した要因を説明しましょう。
この紛争には外部のプレーヤーが重要な役割をしています。ロシア、トルコそしてアメリカです。90年代初頭、トルコの力はまだ弱く、米露がともにアルメニア寄りの姿勢をとったからです。
ロシアにとって、同じキリスト教のアルメニアは歴史的に繋がりが深く、集団安全保障条約に加盟するコーカサスでは唯一のロシアの同盟国でした。
アメリカの立場には第一次大戦の時に今のトルコが生まれる過程でアルメニア人が大虐殺された事件が影響しています。アメリカに逃れたアルメニア人がカリフォルニアやマサチューセッツなどを中心に強力なアルメニアロビーを形成し、旧ソビエト諸国への支援を定めた法律にアゼルバイジャンへの支援を禁じる修正条項を加えたのです。
Q 当初は米露がアルメニアを支援したのですね。ではなぜこの3年間でアゼルバイジャン勝利に劇的に変化したのでしょうか
A 三つの要因があります。
カスピ海の石油、トルコのエルドアン体制の誕生、そしてアルメニアのパシニャン首相の誤算です。
まずカスピ海の石油です。90年代半ば、アゼルバイジャンはカスピ海の巨大石油開発で局面の打開を図りました。この巨大油田開発が、アルメニア寄りだったアメリカの態度を変えました。アメリカはロシアの影響力を低下させるために首都バクーからロシアを経由しないでトルコに至るパイプラインの実現を目指しました。いわゆるBTCパイプラインです。大統領権限でアゼルバイジャンへの支援を再開、アゼルバイジャンをジョージア、ウクライナとともに反ロシアの中核と位置付けたのです。アゼルバイジャンは原油収入で経済を回復させただけでなく、軍事力を増強していきました。
Q ではトルコでエルドアン政権の影響とは?
A トルコとロシアの関係が劇的に変化しました。親米政権が続いたトルコはイスラム色の強いエルドアン政権の誕生とともに中東やコーカサスで影響力の拡大を目指す独自外交を開始し、国力も増強しました。ロシアのプーチン政権との間で、国益が衝突しながらも地域覇権を両国で調整するかたちで野合する場面が目立ってきました。さらにアリエフ体制で権威主義的傾向を強めるアゼルバイジャンとロシアとの関係も安定しました。結果的にプーチン体制のロシアでアルメニアの比重が徐々に低下していったのです。
Q アルメニアのパシニャン首相の誤算とは?
A アルメニアのパシニャン首相は2018年民主化運動の結果として誕生していました。アメリカやヨーロッパとの関係を強化する外交を進め、報道の自由など国内の民主化も進めました。プーチン大統領との関係は冷却化していきました。一方民衆の支持を受けたポピュリストとしてのパシニャン首相はナゴルノ=カラバフ問題ではむしろ一歩の妥協もしないという強硬な姿勢を続けました。
しかしその頃アゼルバイジャンはトルコ製のドロンなどを導入して、軍事革命を行なっていて、首相は相手の軍事力を過小評価していました。2020年秋の大規模な軍事衝突では、トルコの全面支援を受けたアゼルバイジャン軍がドロンなどで旧式のアルメニア軍を圧倒し、ナゴルノカラバフを除く占領地をすべて奪還したのです。
欧米は言葉以上の支援には動こうとせず、また同盟国のロシアも、ナゴルノカラバフは法的にはアルメニアではないつまり集団安全保障条約に基づく防衛義務はないとして突き放した対応を取りました。
Q この30年間に国際社会は和平つまり平和的な解決の努力はしなかったのでしょうか?また今後の地政学への影響は?
A 実は米ロ関係が良好だった2000年代にかけて米欧露の協力で和平交渉が妥結寸前までいったことが何度かありました。いずれの和平案もナゴルノ=カラバフ以外の占領地をアゼルバイジャンに返還することとナゴルノ=カラバフに自治権を与えることを主軸とするものです。しかし双方の世論は強硬で政治的な妥協は結局できませんでした。アルメニアにとっては、有利な状況下で和平が結べなかったことが、全てを失うという最悪の結果を招いてしまいました。
今後ですが、アルメニアのロシア離れ、つまりロシアの影響力は低下するでしょう。
ポイントは、アルメニアとアゼルバイジャン、トルコとの関係が正常化するかどうかです。
アゼルバイジャン、アルメニア、トルコは、カスピ海から地中海に至る最短の回廊となっています。おそらくアメリカはロシア抜きで三カ国の関係を正常化させこの回廊の実現を狙ってくるでしょう。これに対して、ロシアはトルコ、そしてイランという地域大国の仕切りのもとで東西回廊とロシアからの南北回廊の確立を狙ってくるでしょう。
コーカサスを巡る地政学的な主導権争いは今後もますます激しくなるでしょう。
この30年間、アルメニア、アゼルバイジャン双方が占領地や自国から相手の民族を追放する民族浄化、さらに虐殺行為も行われました。民族主義、ナショナリズムの恐ろしさを示したのがこの紛争だったといえます。その帰結もまたナゴルノ=カラバフのアルメニア人の事実上の故郷の喪失という結果となり、非常に残念な思いが残ります。
4.バイデンと側近が戦争拡大回避をイスラエルに進言
前述のプラウダ・オンラインは、アメリカが、ネタニヤフ首相に対して「地上作戦は多くの流血に終わる可能性があり、それに対する世界の反応は米国にとって不愉快なものであること、米国の資源には限りがあり、レバノンのヒズボラやその他のイランの代理勢力が紛争に巻き込まれた場合、ワシントンは助けることができないことなどが説明されたのだろう」と推測し、ニューヨークタイムズ紙が、イスラエルが南のハマスと北のヒズボラで戦争することは、アメリカとイランの両方を巻き込む可能性があると警告していることを指摘しています。
その指摘されたニューヨークタイムズ紙の記事というのは。おそらく22日付の「バイデンと側近、ヒズボラ攻撃による戦争拡大回避をイスラエルに進言」のことだと思われます。
件の記事の概要は次の通りです。
・バイデン大統領とその最側近は、レバノンの強力な民兵組織であるヒズボラをイスラエルとハマスの戦争に巻き込む可能性があるため、ヒズボラに対する大規模な攻撃を行わないようイスラエルの指導者たちに強く求めていると、アメリカとイスラエルの当局者たちは語っている。このニューヨークタイムズの記事通りだとすると、イスラエルが地上戦に踏み切っていないのは、アメリカが止めているからだということになります。さらに筆者が注目したのは、2001年に起こった、9.11(アメリカ同時多発テロ事件)について、「怒りのあまり正義を求め、それを得たが同時に過ちも犯した」と述べている点です。
・アメリカ政府高官は、イスラエルが10月7日の同時多発テロの後、ハマスとの長い紛争を始めたにもかかわらず、イスラエルの戦争内閣の一部のタカ派メンバーがヒズボラを攻撃することを望んでいることを懸念している。アメリカはイスラエルに対し、南部のハマスと北部のはるかに強力なヒズボラの両方と戦うことの難しさを伝えている。
・アメリカ政府高官は、イスラエルは二正面作戦で苦戦を強いられるだろうし、そのような紛争はアメリカとヒズボラの主な支援者であるイランの両方を引き込む可能性があると考えている。
・ヒズボラに対するイスラエルの攻撃を阻止しようとするアメリカ政府高官の努力は、ここで初めて詳細に報告されたが、バイデン政権がネタニヤフ首相とその側近の戦争計画に不安を抱いていることを明らかにしている。
・アメリカ政府高官もヒズボラを牽制したいと考えている。中東各地での数多くの会合で、アメリカの外交官たちはアラブ諸国の外交官たちに、イランとの連絡を含め、民兵組織による行動であれイスラエル側による行動であれ、イスラエルとヒズボラの戦争が勃発しないよう、民兵組織にメッセージを伝える手助けをするよう促してきた。
・米政府高官は、1400人以上が死亡した10月7日のハマスによる攻撃の直後、ネタニヤフ首相がヒズボラへの先制攻撃を承認するのではないかと懸念していた。ネタニヤフ首相がこの考えに冷静になったため、こうした懸念は今のところ後退しているが、ヒズボラのロケット攻撃に対するイスラエルの過剰反応と、ガザで予想されるハマスへの地上攻撃におけるイスラエルの過酷な戦術によってヒズボラが参戦せざるを得なくなるという2つの可能性に対する不安はまだ続いている。
・アメリカ政府高官は今週の会合で、イスラエル側に対し、北部でのヒズボラに対する行動と南部でのガザに対する行動が、ヒズボラに戦争に突入する安易な口実を与えないよう注意するよう助言した。これらの微妙な協議は、水曜日にバイデン氏がテルアビブを訪問したときと、今週初めにアントニー・J・ブリンケン国務長官がイスラエルで長い交渉を行ったときに行われた。
・どちらの訪問でも、アメリカの高官たちはネタニヤフ首相とその戦争内閣と会談した。彼らは、10月7日の同時多発テロ事件後、イスラエル政府関係者が感じている脆弱性を理解していたため、挑発的な軍事行動を避けるようイスラエル側に警告する露骨な表現を避けた。しかし、バイデン氏もブリンケン氏も、戦時中の外交協議について率直に話すために匿名を条件に語った米国とイスラエルの関係者によれば、彼らの懸念は明らかだったという。
・ヒズボラに対する先制攻撃の最大の支持者の一人は、ヨアヴ・ギャラント国防相である。彼は、イスラエルの主要な軍事的努力は、ハマスよりも大きな脅威をもたらすヒズボラに集中すべきだと主張している。
・ギャラント国防相は、前週、ヒズボラへの先制攻撃を主張したが、他の高官に却下されたと、月曜の小さな会合でブリンケン氏に語ったと、この議論に詳しい人物は語った。
・バイデン氏は水曜日、ギャラント氏も同席したイスラエルの戦争内閣と会談し、ヒズボラとの全面衝突がイスラエルにもたらす多くの影響について厳しい質問を投げかけ、二正面戦争の危険性を強調した。バイデン氏はまた、イラクへの侵攻とアフガニスタンでの長期にわたる開戦という、アメリカ政府高官による悲惨な決断の危険性も提起した。
・ホワイトハウスの国家安全保障会議と国務省は、この記事に対するコメントを拒否した。イスラエル軍とギャラント氏もコメントを拒否した。
・ネタニヤフ首相の事務所は声明を発表し、「イスラエルはハマスとの戦いにおいて団結している。ネタニヤフ首相は、もしヒズボラが戦争に参加すれば、重大な間違いを犯すことになり、これまでにない壊滅的な代償を払うことになるだろうと述べた。
・10月12日から10月18日にかけて、ブリンケン氏のマラソン中東危機視察とバイデン氏のテルアビブ訪問の1週間、バイデン政権はイスラエルへの懸念の伝え方を進化させ、最終的には2001年9月11日の同時多発テロに対するアメリカの高価な過剰反応から学んだ教訓にそれを当てはめることにした。
・10月12日のテルアビブでの記者会見で、ブリンケン氏は、9月11日の対応からイスラエルに与える教訓はあるかというアメリカ人記者の質問に直接答えることを避けた。しかし10月18日には、ブリンケン氏とバイデン氏はイスラエル人に内緒でアメリカの過ちについて話し、バイデン氏はテルアビブでの演説で公然と過ちについて指摘していた。
・今のところ、ネタニヤフ首相は、ギャラント氏や軍の上級将官たちの励ましにもかかわらず、ヒズボラに対する大規模な攻撃を支持することを控えている、と米・イスラエル当局者は語った。そしてイスラエル軍は、ヒズボラからの低レベルのロケット弾発射が続いているにもかかわらず、今のところ圧倒的な武力では対応していない。しかし、戦争の目まぐるしい展開がそれを変えるかもしれない。
・アメリカとイスラエルの当局者によれば、ヒズボラやイランがハマスの攻撃計画に関与したという証拠はまだ見つかっていない。ヒズボラやイランの高官数名は、今回のテロに驚いているようだ、とアメリカやイスラエルの高官は語っている。また、ヒズボラの指導者たちはイスラエルとの全面戦争を避けようとしてきたと、米国と同盟国の高官たちは何年も前から評価してきたという。
・ヒズボラとハマスの両方との戦争では、イスラエルは大きな困難に直面するだろうと、CIAは長い間評価してきた、と情報に詳しい当局者は言う。最近の研究では、ネタニヤフ首相が提案した司法改革をめぐるイスラエル国内の深い分裂が、イスラエル軍を弱体化させているとの分析もあったという。
・ホワイトハウスの高官たちが戦争拡大の可能性を最初に懸念したのは、10月7日のハマス攻撃の直後、イスラエル政府高官たちの間でヒズボラを先制攻撃し、国の主要な戦闘力をヒズボラに集中させることについて議論が交わされているのを耳にしたときだった。ホワイトハウスの高官はイスラエル側に、それは悪い考えだと言った。
・イスラエル内部の議論では、ネタニヤフ首相は攻撃への支持を表明していたとイスラエル政府関係者は語った。イスラエル軍関係者の中には、ガザ侵攻という建前を隠れ蓑にして北部を攻撃し、ヒズボラを攻撃することに焦点を絞った計画を思いついた者もいたという。ネタニヤフ首相は、元海軍特殊部隊司令官のギャラント氏や他の計画支持者を失望させ、計画の実行を見送ったという。
・10月12日、ブリンケン氏が戦時下初の訪問のためにテルアビブに到着したとき、アメリカ政府高官たちはこのような攻撃に対する不安は薄れていたが、ヒズボラのロケット攻撃に対するイスラエルの過剰反応を懸念していた。
・ヒズボラはイスラエルとハマスの戦争が始まって以来、イスラエル北部にロケット弾を撃ち込んでおり、イスラエルの空爆やレバノン南部での砲撃を促している。イスラエルとヒズボラが最後に戦争をしたのが2006年であるため、ヒズボラはより強力になり、武装も強化されている。ヒズボラには、シリアでイスラム国と戦って腕を磨いた戦闘員も多い。
・バイデン政権は、ヒズボラがイスラエルに対して戦争を仕掛けるのを阻止しようと、外交的・軍事的抑止キャンペーンも並行して行っている。もしそうなれば、イランが参戦を決断し、紛争が地域的なものになる可能性がある。今のところイランはそのような戦争に巻き込まれることを望んでいないと米政府高官は評価しているが。
・ブリンケン氏らは、カタールや中国などを通じてイランやヒズボラにメッセージを送り、イスラエルと敵対するこれらの国々にハマスの戦争に関わらないよう伝えている。米国防総省は、抑止力として2隻の空母を地中海東部に派遣し、駐留兵力を増強している。
・ヒズボラを攻撃すべきかどうかというイスラエル政府関係者の議論は、9月11日の同時多発テロ後、テロを実行したアルカイダが拠点としていたアフガニスタンでまだ戦争を続けていたにもかかわらず、ブッシュ政権がイラク侵攻を推進したことと重なる。
・バイデン氏はテルアビブでの演説の中で、9月11日の同時多発テロ後の米国の「過ち」に言及した3つの注目すべき台詞があった。
・「私はこう警告する: その怒りを感じていても、それに飲み込まれてはいけない。9.11の後、米国は激怒した。我々は正義を求め、正義を得たが、同時に過ちも犯した」
・水曜日にバイデン氏がテルアビブを訪問する直前、国務省第3位のビクトリア・ヌーランド氏と他の上級外交官は、バイデン政権はイスラエルがヒズボラや他の武装グループを大規模に攻撃することによって戦争を拡大させる可能性を懸念している、と少人数の米議員団に語った、とブリーフィングを知る関係者は語った。外交官たちは、ネタニヤフ首相やギャラント氏を含むイスラエルの高官たちが、10月7日の攻撃でハマスの戦闘員たちによって行われた残虐行為から、怒りで目が見えなくなっていることを懸念していると述べたという。
・関係者によると、ギャラント氏は、イスラエルの主な軍事的努力は、ハマスよりもヒズボラの方が脅威であるため、ヒズボラに集中すべきだと主張している。
・ブリンケン氏とネタニヤフ首相、そしてイスラエルの戦争内閣との会談が月曜の夜から始まり、火曜の朝まで7時間半も長引いた理由のひとつはここにあると、外交官たちは議員たちに語った。
・10月7日の攻撃後、ギャラン氏は「ガザ完全包囲」を宣言し、水、電気、食料を遮断し、16年間続けてきた海上封鎖をはるかに超えた。「我々は人間の動物と戦っているのだ」と彼は言った。ハマスの攻撃に続くイスラエルの砲撃は、数千人のパレスチナ人の死と100万人以上の避難をもたらした。イスラエルは、予想される地上侵攻に先立ち、ガザ北部の全住民に南へ向かうよう命じた。しかし、イスラエルはその後、南部のカーン・ユーニスとラファを空爆した。
・月曜日にギャラント氏とブリンケン氏が会談した後、2人は壇上で無言のポーズをとり、ジャーナリストのために写真を撮ることになっていた。しかし、ギャラント氏は、イスラエルとヒズボラの本格的な紛争に巻き込まれる可能性のある地中海における米軍艦の存在を賞賛し、「これは長い戦争になるだろう」と語った。
つまり、怒りに任せて報復するのは間違いだというのですね。まぁ、これが本心からなのかイスラエルを説得するための口実なのかは分かりませんけれども、報復はNGというロジックを持ち出してきたのは大きな意味があります。
なぜなら、世界各国(日本以外?)でイスラエルの苛烈な報復に批判の声やデモが起こっているからです。それを無視して、地上戦に突入すれば、その批判はもっと大きくなるでしょう。もちろん、各国も政府レベルではイスラエルの自衛を認め、支持をしていますけれども、国民のイスラエルに対する反発が大きくなれば、いつまで抑え込んでおけるか分かりませんから。
果たしてイスラエルのネタニヤフ政権が我慢できずに地上戦を強行するのか、あるいは人質を解放し、ハマスの降伏に向けての長い交渉に踏み出すのか。これ以上戦火が広がらないことを祈ります。
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ルシファード