

1.中国海警局船に体当たりされたフィリピン軍輸送船
10月22日、フィリピンの国家安全保障会議は南シナ海の南沙諸島、英語名スプラトリー諸島の海域で22日朝、フィリピン軍の輸送船が中国海警局の船から危険な接近を繰り返された末に衝突されたと発表しました。
フィリピン軍が公開した映像には、中国海警局の船の船首が軍の輸送船の後部にぶつかる様子がうつり、現場海域では、軍の輸送船を警備していたフィリピン沿岸警備隊の巡視船にも中国の海上民兵の船が接触したということです。
フィリピン側の船はいずれも軍の拠点に補給に向かっていたところで、フィリピン外務省のダザ報道官は会見で「こうした出来事は全て、フィリピンではなく相手側である中国が侵略者であるということを強調している」と指摘。フィリピンは、中国側を「危険で無責任な違法行為だ」として強く非難しました。
これに対し、中国海警局は衝突時に撮影したとみられる映像などを公開したうえで、「フィリピン側の船は中国側の警告を無視し、危険な方法で中国側の船に接近し、衝突した。責任はすべてフィリピン側にある」などと反論しています。
フィリピン側は、今月4日にも中国海警局の船がフィリピンの巡視船に1メートルの距離にまで接近したと発表し、中国側がこれに反論するなど、南シナ海をめぐって両国が非難の応酬を続けています。
2.アメリカのフィリピンとの防衛協定は鉄壁だ
10月22日の中比衝突受けて、翌23日、アメリカのホワイトハウスは23日、声明を発表し、安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官がフィリピン側と電話で協議したことを明らかにしました。
声明では今回の中国船の行動について「危険で違法だ……フィリピンの公船、航空機、軍が南シナ海を含む太平洋で攻撃を受けた場合にはアメリカとフィリピンの相互防衛条約が適用される」と非難するとともに、アメリカはフィリピンを支持する立場であると強調。そして、フィリピン船などが攻撃を受ければアメリカに防衛義務が生じるとして中国を牽制しました。
更に10月25日、バイデン大統領は「はっきりさせておきたいのは、フィリピンの防衛へのアメリカのコミットメントは鉄壁だということだ。アメリカのフィリピンとの防衛協定は鉄壁だ」
と述べ、南シナ海でフィリピン側に何らかの攻撃があった場合、アメリカはフィリピンを防衛すると中国に警告しました。
アメリカとフィリピンの防衛協定とは、1951年に締結された相互防衛条約で、アメリカとその植民地だったフィリピンが互いに、武力攻撃を受けた際に防衛し合うというものです。これを発動させると釘を刺した訳です。
3.中国はハマスを眩いばかりの例として見た
ただ、アメリカがフィリピンとの防衛協定は鉄壁だといっても、今は、ウクライナとイスラエルのガザで戦争が行われ、そのどちらにも関与しているアメリカは二正面作戦を行っています。この上、フィリピンで有事、更に台湾有事もとなると三正面、四正面作戦を余儀なくされる訳です。
実際、ハマスはアメリカの力が分散されていることを自覚しています。
10月26日、ハマスの海外指導者ハレド・マシャール氏は、エジプトのサダ・エルバラードTVの番組に出演し、10月7日の攻撃の国際的影響について語っています。
ハレド氏は、「西側諸国のアラブ人コミュニティが活発であることを望み、中国やロシアのような超大国との協力を望んでいる。ちなみに、ロシアはわれわれの【攻撃】から利益を得ている。なぜなら、われわれは米国を彼らやウクライナから逸らせたからだ。中国は、まばゆいばかりの例として見た。ロシアは我々に、10月7日に起きたことは軍事大学で教えられるだろうと言った。中国は台湾で、10月7日にアル・カッサム旅団が行ったような計画を実行しようと考えている。アラブ人は世界にマスタークラスを与えているのだ」と述べ、中国は台湾に対してハマスのテロ攻撃を検討していると暴露しました。
更にハレド氏は、番組の別の部分で、「ヒズボラが参戦すれば、本当の違いが生まれることは間違いない。我々はそうなることを望んでいるが、決定権は彼らにある。シオニストの侵略とこの大量虐殺戦争が始まって以来、彼らはパレスチナ北部戦線で敵を忙しくさせてきた。彼らは敵と衝突し、戦闘は絶えずエスカレートしているが、敵を分裂させ、2つ以上の戦線で戦わせるような完全な交戦や全面戦争にはまだ発展していない。われわれは、ヒズボラに対しても、友好国や国民に対しても、依然として要求している」と語りました。
1月19日のエントリー「台湾をめぐる次の大戦の最初の戦い」で、アメリカのCSIS(戦略国際問題研究所)が行った台湾有事のシミュレーションについての報告を取り上げたことがありますけれども、このシミュレーションは実に24回行われ、内22回は日米側の勝利となっています。
けれども、たとえ2回とはいえ、負けるケースも発生した訳で、その一つは「日本が中国の脅しに屈してしまい、米軍が日本にある米軍基地を使えなかったケース」であり、もう一つは「米軍が参戦しなかったケース」です。
更に、報告書は、台湾防衛の成功には「台湾は抵抗し、降伏してはならない」という大きな前提があると強調しています。
既に、二正面作戦を強いられているアメリカは、もし台湾有事が発生して三正面作戦になった場合でも、台湾に参戦するのか。しなければ、CSISのシミュレーションが示した「負けるケース」になってしまいます。
また、中国がハマスのようなテロ攻撃を台湾に行い、人質を取って人間の盾にした場合、それでもイスラエルのように攻撃できるのか。
その時になって慌てることのないように、今からでも、台湾テロ攻撃を想定したシミュレーションと国民の合意形成を図るべきではないかと思いますね。
この記事へのコメント
yoshi
全く同感です。