台湾を巡る米中グランドバーゲン

今日はこの話題です。
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1.習近平は台湾を攻撃するつもりはない


10月29日、アメリカのニューヨーク・タイムズ紙は「習近平は台湾を攻撃するつもりはない」とする、アジアや中国の外交・安全保障の専門家の寄稿を掲載しました。

寄稿したのは、米ジャーマン・マーシャル財団アジアプログラム部長で、中国の外交・安全保障政策専門家ボニー・グレーザー氏。グレーザー氏はこの中で、ロシアのウクライナ侵攻の失敗が習氏の台湾への武力統一を躊躇させ、中国人民解放軍内で起きている腐敗が影を落としていると分析しました。

件の寄稿の概要は次の通りです。
一部の観察者には、習近平が台湾を中国に統一したくてうずうずしているように見えるかもしれない。

習近平国家主席は、そうすることが国家の若返りという「チャイナ・ドリーム」を達成するために不可欠だと繰り返し主張している。習近平国家主席は2027年までに、必要であれば台湾を武力で奪取する準備を整えるよう中国軍に指示しており、中国はますます強大化する軍事力で台湾の人々を威嚇し、中国の支配に屈服させようとしている。中国は先月、台湾の東の海域で空母を含む大規模な海軍訓練を行い、その数日後には台湾に向けて103機の戦闘機を飛ばした。

しかし、このような威勢のいい発言は、中国指導部内では、ほとんど実績のない人民解放軍が許容できるコストで台湾を掌握し、支配できるのかという大きな不安を隠している。このように考えると、台湾の人民解放軍による掌握は必然的なものではなく、おそらく今後数年のうちに実現する可能性さえある。

【中略】

ウクライナにおけるロシアの大失敗は、習近平氏にとって教訓となる。戦争初期、戦闘に慣れたロシア軍は、陸路国境を越えてキエフを占領するという比較的簡単な任務に失敗した。陸軍が台湾海峡を横断するのはさらに困難である。大規模な水陸両用侵攻は、最も困難な軍事作戦のひとつであり、制空権と海上優勢、そして長期の作戦期間中に侵攻軍を維持する能力を必要とする。

習近平氏にとって、迅速かつ低コストで侵攻に成功しない場合の政治的リスクは非常に大きい。膠着状態が長引けば、中国が再び強く、強大になったという習近平の主張が損なわれ、国家の若返りと強力な軍事力という習近平の目標が危うくなる可能性がある。

【中略】

習近平氏にとって、今はそのような危険な時期にある。

中国経済は長期的な成長鈍化に直面している。このため、政府が経済的な幸福よりも安全保障や政治的統制を優先し続ければ、不満が高まり、社会が不安定になる恐れさえある。昨年末、習近平国家主席の統制への執着に抗議する数千人のデモ隊が街頭に繰り出し、厳しい共産化政策を非難した。一部のデモ参加者は、習氏の罷免を含む政治的変化を求める珍しい声を上げた。台湾をめぐる血なまぐさい戦争の可能性に対する国内の支持は、長くは続かないかもしれない。中国は一人っ子政策を撤廃したため、軍隊のほとんどが兄弟のいない息子で構成されている。彼らの両親は、老後もその兵士たちが自分たちを支えてくれることを期待しており、犠牲者が増えれば街頭に出るかもしれない。

習氏を抑制しそうなもう一つの要因は、米国が台湾を支援するという見通しである。米国議会では、台湾の安全保障に対する超党派の支持がかつてないほど高まっており、バイデン大統領は、中国が攻撃してきた場合、米国は台湾を軍事的に支援すると繰り返し述べている。中国の専門家との私の会話によれば、北京は米国が台湾を中国封じ込めの重要な戦略的防波堤として評価しており、中国による台湾占領を阻止するために介入すると固く信じているようだ。

それでも、習近平が軍事行動を取らざるを得ないと感じるシナリオはある。将来、台湾政府が国民投票や憲法改正による正式な独立を推し進めた場合、習近平氏は、習近平氏と共産党にとって不作為の政治的リスクが戦争のリスクを上回ると判断する可能性がある。アメリカの大統領や議会が台湾の外交承認を回復する動き、あるいは1979年にアメリカが共産中国に外交承認を切り替える前に台北と結んでいた防衛条約に戻す動きも、同様に習近平に戦場での成功を確信させるものではなくても、習近平の手を煩わせる可能性がある。

そのような明白なきっかけがなくても、来年1月に予定されている台湾の選挙によって、独立派の民進党による統治がさらに4年、あるいは8年続く可能性がある。習近平氏は、台湾が自分の手から遠ざかりつつあると感じ始めたら、特に米国が台湾の軍事力とこの地域の自国軍を強化し続けるなら、攻撃を決断するかもしれない。

しかし、背に腹は代えられぬという状況でなければ、習近平は軍事的冒険の失敗はリスクが高すぎると判断するだろう。これは、米国と台湾が賢く利用しなければならない好機である。

【後略】
このようにグレーザー氏は、ウクライナにおけるロシアの大失敗から、迅速かつ低コストで侵攻に成功しない場合の政治的リスクは非常に大きいこと、そして、アメリカが台湾を支援するという見通しの2点から、習近平主席は台湾を軍事侵攻しないという見通しを述べています。


2.王毅との会談


アメリカのバイデン大統領とブリンケン国務長官は、10月26~28日にかけてアメリカを訪問した中国外交トップの王毅・共産党中央政治局委員兼外交部長とそれぞれ会談を行いました。

ホワイトハウスが公表したバイデン大統領と王毅外相の会談要旨では、バイデン大統領は「米中両国は関係における競争を責任を持って管理し、オープンなコミュニケーションラインを維持する必要がある」と強調し、米中両国は協力して世界的な課題に対処していかなければならないと指摘したとしています。

また、26日から2日間にわたって会談を行ったブリンケン国務長官についても、会談要旨はホワイトハウスのそれとほぼ同様なものの、ブリンケン国務長官は、アメリカは自国や同盟・友好国の利益と価値観のためにあり続けると強調したとしています。

ロイターによると、バイデン大統領は、11月にサンフランシスコで開催するAPEC首脳会議の場で、習近平国家主席との対面会談を実現させたいとの意向があると見られ、その件も王毅外相との会談で議題にあがったとみられていますけれども、発表された会談要旨には言及されていません。


3.米中グランドバーゲン


米中対立が継続する中、王毅外相と会談を行ったブリンケン国務長官は会談冒頭で「これから2日間にわたって建設的な対話ができることをとても楽しみにしている」と語り、王毅外相も「中国と米国を健全で安定した関係に戻したい……中米関係には雑音が出るものだが気にしていない」と米国内の対中強硬派に影響されない姿勢を示すなど、なにやら友好ムードを醸し出しています。

これについて、地政学者の奥山真司氏は、ネット動画で、次のように解説しています。
・イスラエルですねガザの問題ですけどまあのアメリカが中東の紛争拡大阻止にするために中国の外相に協力をお願いしに行った
・会談はすでに終わったんですけど、戦う2人が何握手してんだと。
・今中東で色々あるから中国さん協力してよってことですね仲良くしてねとはいま仲良くしてこの辺のことはちょっと話し合いとして聞いてよという風にアメリカちょっと譲歩しに行った
・それはなぜかというと米軍拠点への攻撃に関わると見られるイランが念頭にあるって言ってんですよ。要するにイランが気になるから、すいません中国さん 協力してくれませんか中東の方でって言ってんですね
・僕はこの話聞いて、やっぱり来たかと、いわゆる グランドバーゲンの話だと思ったんですよ
・グランドバーゲンって何ですかと言うと、大国、覇権国が他の覇権国と取引する、色々事情があるから俺たち力持ってるものだけで小国とかのと関係なく でっかい取引しようぜていう話です
・アメリカと中国は中東のおかげで結ぶとはまではいかない思うが、なんかこういう取引みたいなものを今しようとしてるのかなっていうところは見えてきている
つまり、ウクライナとガザで二正面作戦を強いられているアメリカは、中東での戦線拡大を恐れ、中国に譲歩する「グランドバーゲン」をしようとしているのではないかというのですね。

果たして、そのグランドバーゲンの中味が何かは分かりませんけれども、今の情勢で中国がアメリカと取引するものといえば、台湾併合になる可能性は捨てきれません。つまり、武力侵攻なり他の方法で台湾を併合しても、アメリカは手を出さない、という取引です。ぶっちゃけていえば、台湾を見捨てる、あるいは日本に任せて知らんぷりする、ということです。

冒頭で取り上げたマーシャル財団のグレーザー氏の寄稿では、習近平主席は台湾攻撃しないとなっていますけれども、その2つの理由のうち1つは、アメリカの参戦です。

もし、米中間の「グランドバーゲン」で、アメリカは台湾を支援しない、なんてのがあったら、台湾攻撃しない理由の半分がいきなり消えることになります。

10月12日のエントリー「ハマスのイスラエル侵攻の黒幕」で、筆者は「ハマスのイスラエル侵攻の黒幕は習近平主席であり、その狙いは中東で紛争を起こすことで、中東の原油輸出を激減させ、アメリカの力を弱めた上で、台湾侵攻をしようと謀ったのだ」という見方を紹介しましたけれども、アメリカが台湾支援を放棄すれば、見事にその策略が当たることになります。

昨日のエントリーで、中国は台湾に対してハマスのテロ攻撃のやり方を検討しているとハマス自身が暴露したことを紹介しましたけれども、グランドバーゲンといい、ハマス型テロといい、中国は台湾侵攻するとしても馬鹿正直な単独軍事侵攻はせず、ありとあらゆる搦め手で攻めてくるものと思われます。

日本は諜報活動含め、いろんな形での有事対応を検討しておく必要があると思いますね。




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