

1.料と率
10月30日、岸田総理と全閣僚は衆院予算委員会に出席し、基本的質疑を行いました。
その中で立憲の逢坂誠二議員は、岸田総理が発表した「減税」について、「多くの国民が喜ぶはずの減税が、ことのほか評判が悪い」と切り出し、防衛財源や少子化対策財源について「恒久的安定的な財源を確保」できていない状況で、「減税」を実施するのは「あやふやだ」と指摘しました。
これに対し岸田総理は、少子化対策財源について「徹底した歳出改革を行った上で国民に実質的な追加負担を生じさせないことを目指す方針に従って、年末に向けて考えていく」と答弁したのに対し、逢坂議員が「国民に1円も追加負担は発生しないか」と明言を求めました。
これに対し岸田総理は「社会保障改革についてはさまざまな議論があり、負担についても見通しが示されている。見通しの中で、実質的な追加負担は生じさせない」と説明しました。
続いて、立憲の早稲田夕季議員は、少子化対策の財源をめぐり「政府は、高齢化による社会保険料の伸びを社会保障の歳出削減で抑制するとともに、新たな支援金制度を加えると言っているが、社会保険料は上がるのか、下がるのか」と質しました。
これに対し、岸田総理は、「国民に実質的な負担を生じさせないことを目指すと申し上げているが、要は所得を増やす中にあって、その負担の率は決して増えることがないよう、制度を構築していきたい」と述べました。
ただ、保険料が上がるのか下がるのかという金額を質問しているのに、「負担率は増えない」と率で答えるのは厳密にはすり替えです。しかもその前段に「所得を増やす中にあって」と枕詞がついています。
たとえ負担率が変わらなくても、所得が増えれば、自動的に保険料も増えることになります。
更にいえば、負担率は増えないと断言している訳ではなく「増えることがないよう」と希望的観測でしか述べていません。つまり金額でみれば上がる可能性はあるということです。
2.社会保険一揆
社会保険料の負担率の高さについては、最近いろんなところで指摘されるようになってきています。
財務省によると、令和5年の租税負担率と社会保障負担率を合計した国民負担率は、46.8%になる見通しとのことです。収入のおよそ半分が社会保険料であることから、巷では江戸時代の重税に擬え「五公五民」だなどと批判されていたりします。
これについて、10月29日、国民民主党の玉木雄一郎代表は、自身のX(旧Twitter)で「社会保険料の不払い運動が起こるかもしれないし、起こしたほうがいいのかもしれません」と投稿して、物議を醸しています。
件の投稿は次の通りです。
1999年に「老健拠出金不払い運動」というのがあったのをご存知ですか?この玉木代表の投稿に対し、ネットでは「もう現役世代はこれ以上負担できないので拠出額を絞るしかありません」「出ていくものを減らさないと無限に膨らみます。延命治療、処方箋薬、無駄な検査、保険証の不正利用、切り口はいろいろあると思います」「現役世代の負担が増えるなら、高齢者や低所得者の負担も相応に増えるようにお願いします」など賛同の書き込みが寄せられています。
かつて存在した「老人保健制度」に対する拠出金を各保険組合に按分するルールを改正したことで健保組合の負担が増え、これに反発した健保連加入の97%の健保組合が1999年7月納付分について納付を差し止めた「事件」です。
こうした不満に対応する形で生まれたのが現在の後期高齢者医療制度ですが、今、再び拠出金の額が膨れ上がり、これ以上、現役世代の社会保険料負担を増やせないと不満が鬱積しつつあるのが現状です。
今のままでいくと、再び「拠出金不払い運動」を起こるかもしれませんし、起こしたほうがいいのかもしれません。いわば、現役世代の反乱です。
ただ、深刻だと思うのは、保険料率が10%を超えるような組合健保は自ら解散して、協会けんぽに移行しているところも出てきています。これは「静かなる不払い運動」と言えるかもしれません。
現役世代の社会保険料負担が限界にきていることは明らかです。改革の必要性については誰も異論がないと思います。問題は、この改革のやり方です。
入ってくるものを増やすことと、出ていくものを減らすしかありませんが、医療という命や健康に関係する支出がゆえに、政治的には困難でなかなか改革が進んできませんでした。
その中で、急いでやらなくてはならないのが、 後期高齢者のうち現役並みの所得がある者に対する公費投入や拠出金負担割合の上限設定など、現役世代の負担を軽減する政策です。
【以下略】
玉木代表は「拠出金不払い運動が起こるかもしれないし、起こしたほうがいいのかもしれない」と述べていますけれども、現役世代の反乱というよりはもはや「一揆」と言った方が分かり易いのかもしれません。
1999年に「老健拠出金不払い運動」というのがあったのをご存知ですか?
— 玉木雄一郎(国民民主党代表) (@tamakiyuichiro) October 29, 2023
かつて存在した「老人保健制度」に対する拠出金を各保険組合に按分するルールを改正したことで健保組合の負担が増え、これに反発した健保連加入の97%の健保組合が1999年7月納付分について納付を差し止めた「事件」です。… pic.twitter.com/KiYMM1HIBq
3.老健拠出金不払い運動
玉木代表は、1999年に「老健拠出金不払い運動」があったと述べていますけれども、これは現在の後期高齢者医療制度が始まる切っ掛けとなった事件です。
後期高齢者医療制度は2008年4月から施行されていますけれども、それまで、高齢者の医療費については、全国各地で「老人医療無料化」が実施されていました。
ところが、高度経済成長の終焉と少子高齢化の始まりから、老人医療費の急増し、無料化継続が難しくなっていきました。
そこで1983年に老人保健法が施行され、市町村が老人医療の運営主体となり、保険者からの拠出金と公費で運営、更に患者負担として外来1月 400円、入院1日300円という自己負担を求めるする形式に移行することとなりました。
けれども、高齢化の進展や高齢者医療費の増加により、当初平均13%だった健保組合の拠出金は、1999年には組合収入の40%にも及びました。これらを背景に、サンリオが1999~2000年、老人保健制度拠出金の不払い運動を展開。さらに、健保連加入の97%の健保組合が1999年7月5日納付分について、延滞利息が課されない期間(督促状発行から10日間)、納付を差し止めるという「老健拠出金不払い運動」に発展しました。
これを受け、2000年の参議院国民福祉委員会で「老人保健制度に代わる新たな高齢者医療制度等の創設について、2002年度に必ず実施すること」という附帯決議がなされ、2008年の後期高齢者医療制度に繋がっていくわけです。
4.国民民主は政権与党入りするか
玉木代表は、保険料率が10%を超えるような組合健保は自ら解散して、協会けんぽに移行しているところも出てきており、これは「静かなる不払い運動」と言えるかもしれないと指摘しています。
協会けんぽとは、国内最大規模の健康保険事業を運営する保険者で、正式名称は「全国健康保険協会」です。健康保険法を根拠法令に、2008年10月に設立された公法人で、対象となるのは中小企業の従業員とその家族です。
前身は、国の事業として厚生労働省の外局である社会保険庁が所管する政府管掌健康保険で、社会保険庁の廃止・解体により業務が引き継がれました。
保険料負担に耐えかねた組合健保が自身を解散して、健康保険業務を協会けんぽに投げた訳で、確かに玉木代表のいうように「静かなる不払い運動」かもしれません。
玉木代表は、これまでの国会審議でも「現役並み所得のある高齢者の窓口負担増と、高所得者の保険料アップの法案」に賛成しており、今回の件の投稿でも「後期高齢者のうち現役並みの所得がある者に対する公費投入や拠出金負担割合の上限設定など、現役世代の負担を軽減する政策」を訴えています。
ただ、玉木代表は、「ガソリントリガー条項の凍結解除」や、減税についても「還元すべきは消費税と所得税」と訴えていましたけれども、その殆どは結果として岸田政権にスルーされています。
まぁ、国民民主が政権与党入りすれば、少しは変わるかもしれませんけれども、議席を更に増やすことでそれなりの影響力を持てるのかどうか。国民民主の声を政権に届けられるかどうかは、次の解散総選挙に掛かっているといえるのではないかと思いますね。
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