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1.危険水域の内閣支持率
11月3~5日に掛けて、共同通信が実施した全国電話世論調査で、内閣支持率が前回調査から4.0ポイント下落して28.3%となり、過去最低を更新しました。不支持率は56.7%で前回から4.2ポイント上がり過去最高です。
報道各社の世論調査で30%割れは6社目と、ほぼ、どの調査でも同じ傾向です。
先日の経済対策も評判は悪く、1人当たり4万円の所得税などの定額減税や低所得世帯への7万円給付について「評価しない」が62.5%に上ったのですけれども、その理由は「今後、増税が予定されているから」が40.4%と最多となっています。
自民支持層のうち岸田内閣を支持したのは52.9%と、2021年9月の菅義偉前総理の退陣表明直後の49.5の水準に迫っています。また自民の政党支持率は34.1%と低迷し、党重鎮は「危険水域だ」と漏らしています。
この結果について、政治評論家の有馬晴海氏は「防衛増税はじめ増税が既定路線であるにもかかわらず、減税を打ち出したことに、有権者は『選挙目当て』『首相は自分の立場を維持しようとしているだけ』と感じているのだろう。来年は増税論議も控えて状況がさらに厳しくなる中、被害が少ない年内解散を唱える声もあるが、岸田首相は決断できず、来年9月の総裁選をスルーして衆参ダブル選という選択肢をとるのではないか。支持率回復には一時的なバラマキ策ではなく、憲法改正や、北朝鮮問題など、大きな課題に取り組む姿勢も必要かもしれない」と指摘しています。
2.世論と政権のズレ
今のところ、岸田総理が打ち出した所得税減税による支持率回復は空振りに終わりそうな状況ですけれども、ここまで所得税減税に対する世論の評価が厳しいことについて、東京大先端科学技術研究センターの牧原出いづる教授は、東京新聞の取材に次のように述べています。
―なぜ、世論は所得税減税に厳しい評価なのか。牧原出教授は、選挙狙いのバラマキだと国民は見透かしていると指摘しています。先述の有馬晴海氏と同じ見方です。まぁ、一言でいえば「国民を舐めていた」ということなのだと思います。
「防衛や少子化対策を巡る増税や負担増は好まないにしても、ちゃんと説明すれば理解する国民は一定の範囲でいると思う。だが、減税をかなり前面に出した。『ばらまけば国民は言うことを聞くだろう』という一番やってはいけないやり方だ。有権者は賢いので見透かす。経済や財政の問題に関する国民のリテラシーを尊重しているとは言えない」
―岸田文雄首相の説明は届いていないのか。
「今回の減税は1年限り。長い目で日本を見て動いているように見えない。対症療法的な減税の打ち出しは、明らかに選挙狙いだ。『支持率が低いから大盤振る舞いしようとしている』という見方に対して、政権側が反論できていない。あまりにもあからさまで、筋目が悪い」
―内閣支持率は過去最低の水準だ。
「自民党支持層から『もう岸田ではダメだ』という声が出かねない状況。自民党と公明党の政党支持率より内閣支持率が低いのは危機的だ。自民党支持層から信頼を失うと、内閣支持率を回復するのは相当厳しい。今回の減税は潮目になっているように感じる」
―世論と政権のずれは深刻では。
「自公政権の行き詰まりは、政権交代が視野に入りつつあることを意味する。自民党が生き延びるには、非主流派が閣僚になったり、民間人を登用したり、党内で対立図式をつくったりするなど、実質的な政権交代をすることだが、それも簡単なことではない」
3.国民が求めるのは消費減税
では、国民は減税など求めていないのかというとそうではありません。
11月4、5日にJNNが行った世論調査で、「デフレに後戻りしないしないための一時的措置」として、何が一番良いか聞いたところ、「消費税の減税」が41%、「給与所得控除などの拡大」が18%、「社会保険料の引き下げ」が15%、「所得税や住民税の減税」が10%、「現金給付」が9%、となりました。
また、政府が所得税など減税するにあたり、所得制限を設けるべきか聞いたところ、「設けるべき」が51%「設けるべきではない」が38%となっています。
国民は、圧倒的に消費税減税を求めています。現金給付がわずか9%であるところをみると、バラマキが否定されていることが分かります。税金を取って配るのではなく、最初から取るなということです。
また、所得税減税には、所得制限を設けるべきだという回答が優勢であることをみると、金持ちにはバラマキは必要ない。本当に生活が苦しい庶民にこそ減税すべきだという意味だろうと思われます。
4.ステルス増税
また、JNNの世論調査では、消費税減税の次に「給与所得控除などの拡大」、「社会保険料の引き下げ」、「所得税や住民税の減税」が続きます。11月3日のエントリー「五公五民は庶民一揆を呼ぶか」でも述べましたけれども、要は、社会保障負担が大きいと言っている訳です。
そんな中、岸田総理と財務省はこの2年で、国民が気付かないように「所得税増税」を進めてきたという指摘があります。
第一生命経済研究所経済調査部の主任エコノミスト・星野卓也氏は、「所得税は、物価・賃金が上昇する時にはそれに合わせて課税最低限(各種控除など)や税率の段階が変わる基準となる所得額を引き上げないと実質的に増税になります。これをブラケット・クリープと呼びます。日本でもかつては控除を増やすかたちでインフレによる所得税負担増が過大にならないよう調整をしていましたが、1990年代半ばに本格的なデフレに入って以来、実施されていません。今、再びインフレ経済になって、この調整の必要性が高まっています」と指摘しています。要するに、インフレ下であえて「課税最低限引き上げ」をやらないことで、国民に「ステルス負担増」を強いてきたというのですね。
その結果、国民は実質手取りが減って生活が苦しくなり、国は賃金・物価上昇率以上に税収が増えたという訳です。
今回所得税減税で、1人4万円の「定額減税」を実施しても、一回こっきりの話。本来やるべき税負担の緩和がをしないと、インフレによるステルス増税は続くことになります。
これについて、経済ジャーナリストの荻原博子氏は、「インフレの時に課税最低限を上げないのは最も悪質な増税です。課税最低限とともに『106万円の壁』も引き上げないと、不公平になります。国が課税最低限を上げたくないのは、インフレを逆手に取ってパートの方には強制的に社会保険料を払わせ、非課税世帯からは所得税を取り立てるためではないかとさえ思えます……今、サラリーマンの間で外食チェーンの200円台の朝食セットが飛ぶように売れている。可処分所得が減って生活を切り詰めなければならないからです。必要なのは1年だけの定額減税ではなく、課税最低限を引き上げ、インフレ増税を止めるべきです」と指摘しています。
定額減税とやらで、ちょっと配ったところで、それ以上に他のところで税金を取れば意味がありません。当然国民はそれを分かっています。
となると、1人4万円なり7万円なりを配ったところで、そのまま貯金に回ることは目に見えています。
5.恒久対策は企業に丸投げ
11月6日、岸田総理は、総理官邸で行われた第14回経済財政諮問会議で「デフレから完全に脱却するため、今般の総合経済対策では、賃上げの原資となる企業の稼ぐ力を強化する供給力の強化を最も重要な柱としています……他方、デフレに後戻りしないための一時的な措置として、国民の可処分所得を下支えすることも重要です。来年の春闘に向けて経済界に対して、私が先頭に立って賃上げを働きかけてまいります。その上で、給付金の支給を先行させ、所得税・住民税の定額減税を実施いたします」と述べ、労働団体や経済界と賃上げについて話し合う「政労使会議」を月内に開催する方向で検討に入ったと報じられています。
これに対し、ネットでは「お、おう。てめえの給料真っ先に上げたよな」、「とりあえず自分の賃上げからはじめましたw」などと、先月、閣僚など特別職国家公務員の給与を上げる法案が提出されたことを挙げ、批判の声が上がっています。
それでも、まだ企業の賃上げができれば、よいのでしょうけれども、ジャーナリストの細川隆三氏は「減税は、政府がやるということなら実行されるのだろうが。賃上げというのは、あくまでもその企業に対して政府はお願いすることしかできない。果たして、本当に岸田総理がおっしゃったように、賃上げと減税の相乗効果を実感できるということが、本当にできるかは、今の時点ではまだ分からない」と指摘しています。
もし、これで、企業が賃上げできない、あるいはショボいもので終わるのなら、更に一層、自分達政治家だけ賃上げしたと批判されるパタンになります。
先述した世論調査でも明らかなように、国民は一時的なバラマキではなく、恒久減税を求めています。
けれども、岸田政権は政治で出来る恒久減税をやらず、そちらは「賃上げ」という形で企業・財界に丸投げしているようにさえ見えてしまいます。
本質的な経済対策に手を付けず、見えないところで増税するようでは、支持率回復は望めないのではないかと思いますね。
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