選挙から逃げるゼレンスキー

今日はこの話題です。
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1.トランプには24分で十分だ


11月5日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、アメリカNBCテレビの「ミート・ザ・プレス」の独占インタビューで来年のアメリカ大統領選で返り咲きを狙うトランプ前大統領にウクライナ訪問を呼び掛けました。

トランプ前大統領は9月に同じく「ミート・ザ・プレス」のインタビューで、再選されれば24時間以内にウクライナ戦争を解決すると主張。プーチン大統領にも、ゼレンスキー大統領にもいくつかのことを言い、「誰にとっても公正な取引をする」と述べていました。

もっとも、トランプ前大統領は、この任務をどのように達成するかについてほとんど詳細を示さず、「正確に話したら、交渉の材料をすべて失うことになる」と述べていました。

ゼレンスキー大統領はこの発言に対し、「トランプ前大統領は、約24時間以内に戦争を管理して戦争を終わらせることができると述べた。私にとって、何と言ったらいいのだろうか? 彼も大歓迎する。バイデン大統領はここにいた。ここにいるからこそいくつかのことを理解していたと思う……だから、トランプ大統領を招待する……もし彼がここに来られるなら、私には24分が必要だ――そう、24分だ。それ以上は要らない。トランプ大統領にこの戦争を管理することはできないと説明するには24分しか要らない……プーチン大統領のせいで平和をもたらすことはできない」」と語りました。

そして、トランプ前大統領が再選された場合、ウクライナを支持してくれるかどうか確信が持てないようで「本当に、分からない」とも漏らしています。

一応、トランプ前大統領以外の他の共和党大統領候補者らは、選挙活動中にも関わらずウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談しています。その中には元ニュージャージー州知事クリス・クリスティ氏や、マイク・ペンス元副大統領も含まれています。

けれども、ゼレンスキー大統領によると、トランプ前大統領は、2021年1月に退任して以来会っていないそうです。

更にゼレンスキー大統領は「組織的に大統領だけに依存しているわけではない。それはアメリカ人やあなたの社会の意見による。それが最も重要だと思う……アメリカやEUでは、ごく普通の人々の態度が重要だと思う。彼らのサポートだ。それは彼ら次第だ……彼らがウクライナを支持していることは知っているし、私たちを愛している。実際、彼らはロシアに対する我々の困難な戦争を理解している」と、ウクライナへの支援に関して重要なのはアメリカの指導者の意見だけではなく、アメリカ国民の意見も重要だと指摘しています。


2.今は適切な時期ではない


大統領がトランプ前大統領を招待したい、と発言したのは、無論、次の大統領選で政権交代となり、トランプ前大統領が再選される可能性が高いとみて、今のうちから支援の継続を取り付けておきたいという思惑あってのことでしょう。同時に、わざわざウクライナに呼ぶのは、現地を見せながらでないと説得できないかもしれないという焦りがあるのかもしれません。

一方、ウクライナはどうなのか。民主主義を標榜しているウクライナにも、当然選挙はあります。

ゼレンスキー大統領は2019年の大統領選で初当選し、来年5月に1期5年の任期切れを迎えます。実際、米欧諸国などから実施を求める声が出ているのですけれども、大統領選の実施については、国内外の避難者や前線の兵士の投票方法などに関わる多くの課題が指摘されていることもあり、ゼレンスキー大統領は現状で大統領選挙はしたくないようです。

11月6日、ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、来春に予定される大統領選について、「今は誰もが国を守ることを考えるべきだ。分断を避ける必要がある……戦時下に選挙の話題を軽々しく社会に投げかけるのは無責任だ……今は適切な時期ではない」と明言しました。

現在、ウクライナ政府はロシアによる侵略開始と同時に全土に戒厳令を敷いており、戒厳令下では国政選挙の実施が禁じられています。ゼレンスキー大統領が大統領選の延期を示唆したことから、戒厳令は今後も議会の承認を得て更新されると見られています。


3.ザルジニー総司令を恐れるゼレンスキー


では、ウクライナ政府は一枚岩かというと、そうとも限りません。現在、ゼレンスキー大統領と軍の不協和音が囁かれています。

11月3日、ゼレンスキー大統領は「ヴィクトル・ホレンコ少将をウクライナ特殊作戦軍の司令官から解任し、新たにセルヒイ・ルパンチュク大佐を司令官に任命する」と発表しました。

ホレンコ少将が指揮する特殊作戦軍は特にアウディーイウカ方面で多くの作戦に従事しており、ホレンコ少将自身もメディアの取材に「理由は不明だが自身の解任をメディアの報道で知った。ザルジニー総司令官とも話をしたが彼も状況を説明することができない。現時点で軍から私の状況に関する連絡は一切ない」と述べています。

これについて、ウクライナ人ジャーナリストのブトゥソフ氏は「ゼレンスキー大統領はホレンコ少将が知らないうちに、彼の直属の上官であるザルジニー総司令官の同意なしに特殊作戦軍の司令官から解任した。ウクライナ軍上層部はホレンコ少将の解任やルパンチュク大佐の任命はザルジニー総司令官との協議が行われないまま発表されたと認めている。特殊作戦軍の司令官解任は軍事的な必要性によるものではない。これは大統領府がウクライナ軍におけるザルジニー総司令官の影響力を弱めるための決定だろう。ゼレンスキーは大統領選の競合候補としてのザルジニーを恐れている」とコメントしています。

ウクライナ大統領府は翌4日、「ホレンコ司令官の解任はウメロフ国防相の要請によるもので、現行法によればウクライナ軍の司令官人事は国防相の提案に基づいて大統領が決定を下す……ホレンコ司令官の解任と後任の任命は合法だ」と説明しました。

ウメロフ国防相も「ホレンコ少将は『ある方面』で必要とされているため国防省内で引き続き勤務する。戦時中に上級指揮官を交代させる理由を明かすのは敵に利するだけなので明かさない」と述べています。

けれども、仮に法的に問題ないとしても、特殊作戦軍の司令官交代をザルジニー総司令官やウクライナ軍に知らせないまま発表するのは普通ではありません。このことから、大統領府と軍の意志疎通に何らかの問題が生じているのではないかとも囁かれているようです。

前述したジャーナリストのブトゥソフ氏は、ゼレンスキー大統領は大統領選の競合候補としてのザルジニー総司令を恐れているとして、大統領府が、ザルジニー総司令のウクライナ軍への影響力を弱めるための決定だろう」と述べていますけれども、だとすれば、ゼレンスキー大統領は、今選挙すれば負けるかもしれないと考えているということです。


4.今こそ改革を、可能であれば選挙を


11月2日、アメリカ平和研究所(USIP)は、「ウクライナ民主主義のために:今こそ改革を、可能であれば選挙を」という論説を発表しました。

件の論考の概要は次の通りです。
ウクライナは今年、繰り返し発生する問題の新たなバージョンに直面している。それは、戦争や動乱の最中に各国がどのようにして民主主義を維持し、強化できるのかというものだ。ウクライナは今年の議会選挙を延期しているが、選挙専門家らは、ロシアの継続的な軍事攻撃下で実施するのは危険だと主張している。このような苦境の中で、民主主義国は、既成か新興かを問わず、どのようにして政府の説明責任と代表性を新たにすることができるだろうか?  ウクライナ当局者や市民指導者らは、同国には完璧な選択肢はないが、すでに進行中の改革と公約を組み合わせることでそれを実現できると述べている。

何十年にもわたって、内戦や新型コロナウイルス感染症、その他の混乱に直面している数十の国は、選挙が危険であるか、あるいは実施が不可能であると宣言し、選挙を延期してきた。このような危機のさなか、USIPや他の専門家らは、公共の安全、政府の説明責任、民主主義の強化や刷新という目標を噛み合わせるのに包括的な公式を適用することはできないと述べた。

元USIPの選挙専門家ジョナス・クラエス氏は、混乱のさなか選挙に直面する国では投票を「延期する正当な理由がある場合が多い」と書き、暴力的紛争に直面して行われる世界の選挙の割合が増加していることを示す近年の研究を指摘した。延期は必ずしも政府が権力を維持するための言い訳になるわけではない。「すべてのケースは個別に判断される必要がある」とクラエス氏は主張し、正当な理由があれば遅延が正当化される可能性がある。同様に、各国がクーデターからの立ち直りに苦戦しているところでは、民主主義擁護派は通常、できるだけ早く選挙を求めるが、移行とその結果としての民主主義の質を確保するという重要な必要性を時折見落としている、とUSIPのジョセフ・サニー氏は指摘する。

ウクライナの選挙カレンダーでは、今週国会議員の投票が行われ、来年3月に大統領選挙が行われるはずだった――だが、ウクライナ憲法は、18か月前のロシア侵攻を受けて政府が宣言した戒厳令下では選挙を延期している。ウクライナ当局者や市民社会の指導者らは、現在ウクライナ領土の約18%を占拠し、少なくとも1100万人のウクライナ人を故郷から追放したロシアの侵攻が続く中、効果的な選挙を実施することは不可能だと主張している。ロシアのミサイル攻撃は国内のあらゆる地域を攻撃し続けており、日常的に民間目標を攻撃し、基本的なインフラを破壊している。

「この状況で選挙ができるのか?」駐ワシントンのウクライナ大使、オクサナ・マルカロワ氏は先週のUSIPでの討論でこう尋ねた。「まあ、自由で公正な選挙を信じているなら、絶対にそうではない。」彼女はウクライナの状況を第二次世界大戦中の英国の状況と比較した。英国議会は毎年、期限を過ぎた1940年の選挙を終戦後まで延期することを決議した。

ウクライナ当局者や市民社会の指導者らは、ロシアの侵攻の中で行われる選挙は、危険なほど不完全な選挙になることは避けられないと述べている。選挙活動は戦争とロシアの空襲の絶え間ない脅威によって制限されるだろう。何百万人ものウクライナ人が、ロシア占領下にあるか、ウクライナ国内外で避難しているため、投票できなくなるだろう。およそ100万人が軍務に就いており、その多くは有意義な政治運動や投票を行う機会がない。たとえそのような途方もない安全性と物流上のハードルを克服できたとしても、いかなる選挙もロシアの攻撃的な偽情報と干渉に対して脆弱になるだろう。

長年の民主活動家で、ウクライナ人の英国定住を支援する慈善団体「OPORA」のキエフ理事長を務めるオルガ・アイヴァゾフスカ氏によると、そのような妥協的な選挙は、大統領と議会に明確な国家的使命を与えるどころか、結果として得られる政府を「非合法化」する危険があるという。政府の説明責任を促進し、選挙を監視する超党派の市民団体。OPORA は、「選挙と全面戦争は両立しない」と宣言する書簡を市民社会団体に回覧した。ロシアの侵攻の中で国政選挙を実施しようとする試みは「極めて危険であり、選挙プロセスと選出された機関の両方の正当性の喪失につながり、国家の重大な不安定化を招く可能性が高い。」OPORAは、署名した数十のウクライナの民主主義推進団体や反汚職団体、大学センター、地方団体、人権団体をリストアップしている。

ワシントンに本拠を置く国際共和党協会(IRI)は先週発表した世論調査で、ウクライナ人の62%が戦後まで選挙を無期限延期することを支持し、合計71%が少なくとも今から1年以上先までの延期を支持していることが判明した。。キエフ国際社会学研究所が今週発表した同様の世論調査では、ウクライナ人の81%が「戦争終了後」まで選挙を延期することを支持していることが判明した。国際選挙制度財団(IFES)のウクライナ事業を統括するピーター・エルベン氏によると、最近計9件の世論調査で、ウクライナ人の大半(65~80%と測定される過半数)が選挙の延期を支持していることが一貫して判明しているという。エルベン氏とアイヴァゾフスカ氏は先週、IFESと全米民主基金が共催したUSIPディスカッションでマルカロワ氏とともに講演した。

野党の政治家ですら、ロシアの攻撃下で選挙を行おうとするあらゆる試みを思いとどまらせている。政治アナリストらは、来年3月に予定されている大統領投票が行われれば、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は戦時中の人気上昇(最新のIRI世論調査では82%の支持率)を利用して新たな5年の任期を確定させることができると指摘している。野党の国会議員であり、アナリストの間で大統領候補として議論されているドミトロ・ラズムコフ氏は9月にポリティコに対し、「広大な領土が占領下にあるか、そこのインフラが破壊されている」ことが一因だと語った。戦争中は「現地で選挙プロセスを組織する可能性はなかった」。

ゼレンスキー政権とウクライナの市民社会コミュニティはいずれも、今改革課題に焦点を当てることで民主主義と政府の説明責任を強化することを主張している。OPORA市民社会グループは、IFESの選挙専門家と協力して、長い変更リストを促す改革の「ロードマップ」を作成した。その中には、国の憲法裁判所をより「独立性と効果的」なものにし、議会に比例代表制の選挙区を設け、政治運動の資金調達に関する透明性を強化するための法律が含まれている。

この改革の課題は、欧州評議会および欧州安全保障協力機構の民主化推進機関からの勧告と一致している。そしてそれは、欧州連合への加盟条件を満たそうとするウクライナの断固たる意欲によって動かされている。

選挙専門家のエルベン氏にとって、ウクライナにとって今急務なのは、民主主義と生存競争を危険にさらす可能性のある選挙を行わず、むしろ戦争が終わる前に選挙改革を可決することだという。同氏や他の専門家らは、より公平で透明な選挙に必要な変更と並行して、国内の有権者登録簿、強制避難させられたウクライナ人の投票の取り決め、その他の選挙管理の見直しも必要になるだろうと述べている。マルカロワ氏は、「汚職防止、規制緩和、その他の経済部門の改革」だけでなく、「司法制度」においても重要な民主主義推進の変革を継続する必要性を繰り返した。ウクライナ国民は、欧州や米国のウクライナ支持者らから、ロシアの侵略と生き残りを賭けて戦いながら選挙を実施することで民主主義へのコミットメントを示すよう求めていることに注目している 。マルカロワ氏のような当局者も、アイヴァゾフスカ氏のような活動家も、クレムリンによる権威主義的支配や影響力の再賦課に反対する戦争自体が、40年目を迎えた民主化闘争においてこれまでのところウクライナ人の最も本能的で犠牲的な行為であると強調している。

1990年のソ連統治下で、学生の多くを含むウクライナの反体制派は、より大きな自由とより代表的な政府を要求するため、テントを張ったキャンプを建設し、石畳の公共広場で大規模なハンガーストライキを行った。ウクライナ人は「花崗岩の革命」と呼ぶこの蜂起は、翌年のソ連崩壊に貢献した。2004年のオレンジ革命では、ウクライナ最高裁判所によって無効とされた大統領選挙の結果に反対して、ウクライナ人は再び平和的に街頭に集結した。10年後、ウクライナ人が民主主義の進化に不可欠とみなした欧州連合との長年計画された連合協定を破棄することを選択した後、ユーロマイダンの反乱は2014年のヴィクトル・ヤヌコビッチ大統領政権の崩壊につながった。

これらの草の根の運動は、「私たちの政治文化に深く根付いている…民主主義への渇望」を反映し、強化したとマルカロワ氏は語った。マルカロワ氏は、民主主義にとって「他のすべてのことと同様、最優先事項はロシアのウラジーミル・プーチン大統領が昨年開始した侵略に対する戦争に勝つことだ」と述べた。したがって、世界の民主主義諸国に対するウクライナ人の中心的な要求は、武器や対ロシア制裁の強化を含む支援である。

市民社会活動家らも同意した。過去何年にもわたって民主主義を求めて平和的にデモを行った若いウクライナ人の多くが、今では泥だらけの塹壕や前線の野原で「民主主義のために命を落としている」制服兵士となっている、と長年民主化活動家で現在はウクライナの上級軍曹であるアンドリアナ・スサク=アレフタ氏は語った。2022年にヘルソンでの戦闘中に負傷したスサク=アレフタ氏は先週ワシントンを訪れ、米国の政策立案者らと会談していた。兵士を含む多くのウクライナ人が戦争のさなか有意義に参加できなくなるような欠陥のある投票行動を求めるのではなく、ウクライナ人ができるだけ早く平和的に民主主義に投票できるように「今すぐ民主主義のために戦う私たちを支援して欲しい」と彼女は述べた。
このように、ウクライナ国民や専門家は、戦争によって損なわれた選挙は民主主義を損なう危険があるとし、大統領選の延期を容認していると述べています。

アメリカ平和研究所(USIP)は、連邦議会によって設立された、独立した無党派の団体です。アメリカ政府の対外政策の制定に大きな影響力を持つとされるシンクタンクです。そこがこのようなレポートを出したということは、アメリカ議会はウクライナでの大統領選挙の可能性を探っていると思われます。なんとなれば選挙によって、ゼレンスキー大統領を引きずり降ろし、停戦に持っていける大統領に挿げ替えることを願っている可能性も考えられます。

ただ、今のウクライナは、選挙延期を支持していることを考えると、直ぐの政権交代は難しいのではないかと思います。この問題はアメリカ大統領選と絡んで、少なくとも来年秋までは方向性が見えないのではないかと思いますね。


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この記事へのコメント

  • HY

     ウクライナには可能な限り民主主義の矜持を貫いてほしいですね。ただ当選する次期大統領がアメリカの期待するような「停戦派」になる保証はありませんが。
    2023年11月09日 09:06