一帯一路リブート

今日はこの話題です。
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1.岐路を迎えた一帯一路


中国の「一帯一路」構想が岐路を迎えています。

9月10日、インドでの20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席したイタリアのメローニ首相は、中国の「一帯一路」に関する投資協定から離脱する方針を、同じくG20に出席した中国の李強首相に非公式に伝えました。

イタリアが中国と一帯一路に関する覚書を交わしたのは、2019年のことです。当時、イタリアの政権を担っていた極左の「五つ星運動」(MSS)と極右の「同盟」(Lega)から成るジュゼッペ・コンテ連立内閣でした。欧州連合(EU)に対し懐疑的なコンテ政権が、中国との関係の深化を重視し、一帯一路への参加を決定した経緯があります。

この時、イタリアが中国に期待したことは、イタリアから中国への輸出が増加することと、中国からイタリアへの直接投資が増えることでした。けれども、実際は、2019年から2022年の間、イタリアから中国への輸出は名目GDP(国内総生産)で0.7%から0.9%と、わずか0.2%ポイントの増加にとどまりました。その一方、イタリアの中国からの輸入は、1.8%から3.0%と1.7%ポイント増加しました。

また中国からイタリアへの直接投資の累計額も、2019年から2021年の間に名目GDPの0.26%から0.27%と横這いにとどまりました。結局、イタリアは一帯一路に参加しても、期待した果実を中国から得ることができなかったのですね。そして、今後も得られそうにないと判断したことが、イタリアが一帯一路からの離脱を検討する理由となったとされています。


2.逃げ出すフィリピン


そして、11月になって、フィリピンも、一帯一路を離脱する意向を示しました。

11月6日、フィリピン運輸省(DOTr)のハイメ・バウティスタ大臣は、マニラのイントラムロスで開催されたフィリピン経済ジャーナリスト協会のフォーラムにおいて、「フィリピンの主要鉄道プロジェクト3件に対する中国からの融資を求める計画を棚上げし、多国間融資機関などの代替資金源を検討している。日本、韓国、インドなどが融資意向を表明している」と中国からの資金援助を白紙に戻す意向を公式発表しました。

資金援助の申し出があったのはスービックとクラークを結ぶ鉄道、フィリピン国鉄の南部長距離鉄道、南部ミンダナオ島で運行する鉄道のダバオとディゴスの区間の3件で、総額49億5000万ドルに及びます。

バウティスタ運輸相は3ヶ国による政府開発援助(ODA)や政府資金、民間部門の投資を模索する可能性があるが、詳細はまだ明らかにできないとメディアフォーラムで語っています。

日本は、フィリピン公共交通機関に対する主要な融資国の1つです。2029年に開業予定としている同国初のマニラ首都地下鉄計画にも、既に65億ドル以上の資金を提供しており、更に、マニラの高速鉄道網およびライトレール網の延伸事業にも融資を行なっています。

フィリピンが中国からの融資を棚上げにしたのは、領有権問題などで両国の関係が悪化していることが背景にあるとされていますけれども、既に日印韓が融資の意向を示しているのであれば、フィリピンを中国から西側に引き戻すチャンスになります。

早速、日本の岸田総理は、11月3日から2日間にわたってフィリピンを訪問し、両国間の防衛連携強化の下準備を行っています。

フィリピンは、日本が「同志国」向けに新たに立ち上げた、政府安全保障能力強化支援(OSA)プログラムに参加。岸田総理は、フィリピン海軍向けに6億円相当の沿岸監視レーダーシステムを供与するとの書簡に署名し、その後、フィリピン沿岸警備隊向けに巡視船5隻の追加供与も決定しています。


3.一帯一路リブート


11月6日、アメリカ南部バージニア州の公立大学、ウィリアム・アンド・メアリー校のエイドデータ研究所は「一帯一路再起動 ~北京のリスク回避策 グローバル・インフラ構想~」という報告書を公表しました。

この報告書は、北京が海外プロジェクト・ポートフォリオにおける3つの異なるタイプのリスク「(1)返済リスク、(2)環境・社会・ガバナンス(ESG)リスク、(3)風評リスク」を管理するために取っている具体的な対策を文書化したもので、主に次のような点が指摘されています。
・中国はポートフォリオのリスクを軽減し、G7の競争相手を出し抜くために、問題のあるプロジェクト、不良債権を抱える借り手、世論の反発を招く要因に時間と資金を集中させている。
・開発途上国が抱える債務残高のうち、元本を含み利息を除いた約55%が元本返済期間に入っており、2030年までにこの数字は75%まで増加する可能性がある
・北京は世界最大の公的債権回収業者として、不慣れで居心地の悪い役割を担っている
・中国は、2023年6月時点で150以上の国と30の国際機関にまたがる一帯一路参加国が負っている負債総額を明らかにしていない。これらの国々はインフラ・プロジェクトの恩恵を受けているが、モルディブやスリランカのように債務苦に陥っている国もある。
・北京は、一帯一路が債務の罠を作り出したという非難を否定し、代わりに世界的な発展の原動力として歓迎してきた。
・中国は将来の一帯一路プロジェクトは「小規模でありながらスマート」であると述べ、リスクを軽減するために「市場と事業運営を基礎とする」融資によって支援され、北京は接待防止、金融、税制などの分野で多国間協力を強化すると約束した。
・中国が融資するインフラプロジェクトで、環境・社会・ガバナンス上のリスクが大きいものは、2000年の17プロジェクト(4億2000万ドル相当)から、2021年には1693プロジェクト(4700億ドル相当)に膨れ上がっている。
・後発開発途上国の中での中国の支持率も、2年前の56%から2021年には40%に低下した。北京のメディアによる報道も好意的なものではなくなっている。しかし、(中国は)統治エリートの外交政策支持を獲得し、維持する能力が非常に高いことが証明されている
・困難な課題に直面している北京は、失敗から学び、"ますます巧みな国際危機管理者 "になりつつある。
・中国政府はまた、自国の銀行に頼る代わりに、より強力なデューデリジェンス基準を持つ外国の機関にリスク管理を委託している。国際金融公社(International Finance Corporation)、欧州復興開発銀行(European Bank for Reconstruction and Development)、スタンダード・チャータード銀行(Standard Chartered Bank)、BNPパリバ(BNP Paribas)などが、借り入れや提案された取引の審査に携わっている。
・北京が二国間融資の利用を減らす中、欧米の金融機関の一部は協調融資の取り決めに招かれた。
・中低所得国における中国の非緊急融資ポートフォリオの50%は現在、シンジケートローン契約によって提供されており、これらの契約の80%以上は欧米の商業銀行や多国間機関が関与している
・北京が実施したその他の予防措置には、二国間融資を保護するための現金担保の引き上げが含まれる。2000年には19%だった担保付き融資は、2021年には72%に達している。
・流動性の低い債務者や支払不能の債務者の返済が滞った場合、(中国の)政策銀行は債務者の取引保全(エスクロー)口座から一方的に外貨を掃き出すことで、延滞元本と利息を支払っている
・中国は返済が滞った国に対する罰則金利を設け、2017年までの4年間は上限が3%だったのに対して2021年までの4年間は8.7%と、3倍近くに引きあげていた
・このような現金の差し押さえは、ほとんどが秘密裏に行われており、国会の監査総長や公会計委員会といった国内の監視機関の手が届かないところで行われている。
・中国から途上国への融資残高は、元本だけで少なくとも1兆1000億ドル、日本円でおよそ165兆円に達し、世界最大の債権国になっている
・途上国の債務再編をめぐって融資する側の国々の平等性が失われ、国際協調が崩れるおそれがある
このように、中国は世界最大の債権国になっていて、そのリスク管理も外国の機関に管理を委託することで「ますます巧みな国際危機管理者」になりつつあるというのですね。


4.G7は北京の野心を過小評価している


エイドデータ研究所のエグゼクティブ・ディレクターで報告書をまとめたブラッド・パークス氏は「北京は、自国を代表する世界的なインフラ構想が墜落し、燃え尽きるのを黙って見ているつもりはない。北京は国際的な危機管理者としての足場を固めつつあり、問題を抱えたプロジェクトや不良債権を抱える借り手、そしてグローバル・サウスにおける国民の反発の原因に、時間と資金を集中させようとしている。私は、G7は北京の野心のレベルを過小評価していると思う。短期的には消火活動をしているが、融資返済やプロジェクト実施のガードレールをより強固なものにすることで、一帯一路の将来性を高めるために水面下で動いているのだ……融資の多くは2013年に始まった一帯一路構想の一環として実施されたもので、返済は5~7年の猶予期間が設けられていたが、その後の新型コロナウイルスによるパンデミックで返済猶予期間がさらに2年延長された……ただ、話は変わりつつある……過去10年ほど、中国は世界最大の公的債権者だったが、今は世界最大の債権回収国となり、われわれは重要な転換点にいる」と述べています。

そして、パークス氏は「債務危機に陥っている全ての国が、中国からの緊急救済融資を受けられるわけではない。一帯一路の最大の借り手にのみ、これらの資金を融資するということだ……表面的には中国は借り手を救済しているようだが、実際は自国の金融機関を救済している」とも指摘しています。

この報告書の通りだとすると、中国は、一帯一路を”エコノミック・ステイトクラフト”の一手段として利用するだけでなく、自国の金融機関も救済するという戦略構想を描いていることになります。

イタリアやフィリピンが一帯一路から抜け、中国自体が、今経済崩壊しているからといって、一帯一路が終わったなどと簡単に考えない方がよいかもしれませんね。


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この記事へのコメント

  • HY

     中国はまだ崩壊しないし、中国経済も崩壊しないです。高度経済成長期が終わっただけです。日本は意図して停滞を甘受しましたが、中国はそうしません。アメリカがやっているようにITや軍事に力点を置き、世界を支配することによって経済を成長させようとするでしょう。一帯一路は世界支配のための下地に過ぎず、日本のような善意のサービスではありません。将来「債権回収」を口実とした中国軍の世界展開が有りうるかもしれませんね。
    2023年11月13日 08:34
  • 日比野

    HYさん、こんばんは。
    中国崩壊説は何十年も前から言われ続けていましたね。倒産したくても、認めないから倒産もない、という中華なやり方はどうみても自由経済ではありません。それに加えて反スパイ法のお陰で外資が逃げ出していますしね。習近平の「文化大革命2.0」も初代と同じ末路を辿るような気がしますが。はてさて。
    2023年11月13日 21:31